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【銀月外伝】 花園にて

ルカは玄関を出て、とある浮島に行こうと思ったところで足をとめた。細い眼鏡の奥で思わず目をしばたたく。
柔らかな光がさして、白銀と黒の大きな竜を二頭従えたマリアが微笑んでいた。

「お互いこの姿ではおひさしぶり、ね? こんばんは、ルカ」
「こんばんは、マリアさん」

細身の青年が微笑むと、マリアは言った。

「今日はね、二人があなたと遊びたいのですって。もしよかったら、花園に遊びにきていただけるかしら?」

ゆったりと裾の長い彼女のスカートの両側から、三歳くらいの幼子がぴょこんと顔を覗かせる。一人は長い黒い髪のサラ、もう一人は薄い茶色の短い髪をしたシエル。
二人はひょんなきっかけから、今はマリアの花園で世話になっている。

同じ焦げ茶色のきらきらした瞳が四つ、大好きなお兄さんを見上げていた。その期待に満ちた眼差しに、ルカも少し長めの緑色の髪をかきあげて笑い返す。

「もちろんです。僕も伺ってよろしいものなら」
「ありがとう。ご案内するわ」

振り返った彼女の視線に応えるように、黒い竜が大きく首をのばす。(乗れ)と伝えてきた太古の竜に、ルカは思わず躊躇した。

「いや…その…、僕も乗っていいんですか?」
(花園に直接行くのは、まだお前の竜には少し荷が重いだろう。今日は道を教える。お前は子供を一人抱いて乗れ)
「……失礼します」

ルカは緊張した面持ちで黒竜のユアンにまたがり、腕にしっかりとシエルを抱いた。横を見ると、白い竜の背にサラを抱いたマリアがふわりと横座りしている。
落ちないのか、と思わず心配した彼の心を読んだように、マリアが長い銀髪をゆらして微笑んだ。

「大丈夫よ」

その言葉の通り、すこしの衝撃もなくドラゴン達が離陸する。
あっという間に花園に到着すると、大きなごつごつした背から滑り降りた二人の子供達は、ルカの両手をひっぱって走り出した。

「わっ、待って待って」

勢いに青年は慌てたが、足元を見ればどこまでも続く花園。これなら転んでも痛くはない。
けして目を射ることのない、やわらかな光にあふれるこの場所は、はるか昔にマリアが管理し、永い時を経てまた戻ってきた場所だった。

幼子たちはきゃあきゃあとはしゃぎながら走り回り、清らかな小川を覗き込んでは笑う。
花輪作りに挑戦したものの輪にならない部分を、隣に座り込んだルカがにこにこと手伝ってやっていた。彼も二人が可愛くてならないのだ。

三人とも無事に花輪を首にかけたところで、子供達の興味は光の玉作りに移行した。小さな両手を合わせて、そっと開くとそれぞれの色の光が球体になっている。
シエルは黄色、サラはピンク、ルカは緑。

両手で弾力を確かめたり、大きくしたり小さくしたりして遊ぶのを、マリアがにこやかに眺めて言った。

「そろそろ食事にしましょうか?」

しなやかな指がさした先、森のほとりの小屋には、温かいスープとそれぞれ好きなものを挟んで食べるバゲットサンドの用意が整っている。
手に持った玉をどうしようかと悩む三人に微笑むと、彼女はそれを受け取り、踊るような仕草で空へ持ち上げた。
光の玉は風船のように空に上がってゆき、高いところでふわりと解け、きらきらとした霧になって降りそそぐ。

「今度、魂の生まれるところを見せてあげましょうね。とても綺麗よ」

その美しさに目を奪われている子供達にマリアは笑った。

食事はいつのまにか、「どちらがルカに美味しいサンドイッチを作れるか」の競争になったようだった。
皿になんともいえないサイズのサンドイッチを二つ盛られた青年が絶句しているのを、ハーブティを前にしたマリアがくすくすと笑って見ている。

「大丈夫、問題ない。かじりますともっ」

誰にともなく宣言して、緑色の髪の青年が大型のサンドイッチにかぶりつく。子供達には失礼ながら、意外なほど美味しかったそれに思わず驚いた顔になった。

「ねえおいしい? おいしい?」
「うん、とっても美味しいよ。ありがとう」

期待にはちきれそうだったシエルとサラが、ジャムとパンくずをつけた顔を見合わせ、とても嬉しそうに笑う。

食事が終わると幼子はおねむの時間。
ルカはそれにつきあって柔らかな草地に転がり、二人が眠るまで一緒に空を眺めていた。
囁くように聞こえるハープの音色は、マリアの奏でる子守唄だ。

「お昼寝から起きるまで帰らない」と子供達に約束した彼は、二人が満足した顔で眠るのを見届けるとそっと起き上がった。小屋でマリアがお茶のポットを持って手招いている。

ルカが立つのと入れ替わりに、今まで少し離れた場所から見守っていたルシフェルが、そっと近づいてきて自分の暖かなマントを外して眠る幼子にかけてやっていた。
このマリアの花園は、元々ルシフェルの神殿に属していたのだ。子供達は今、ルシフェルをとーさまと呼んでなついている。

「今日はありがとう。二人とも大喜びだわ」
「いえ、僕も楽しいですから。あの子たちはここの生まれなんですか?」

ルシフェルの長身に守られながら黒いマントに埋もれている、ふっくらと幸せそうな二つの寝顔。どこか懐かしいようなその景色を遠目にいい香りのする湯気を吸い込むと、向こう側ですみれ色の瞳が意味ありげに微笑んだ。

「そうよ……ルカ、あなたにもわかるわ。もうすぐね」
「な、何がわかるんですか?」
「それは内緒。時満ちれば自然にわかることよ」

白い指を唇の前に立ててマリアは笑う。何を聞いても無駄だと悟ったルカは、おとなしく茶を味わうことにした。巫女が自然にわかると言うなら、きっとその時期が来るのだろう。

うすく緑がかった黄金色の茶がゆっくりと二杯ほど消費された頃、子供達が目をこすりながら起き出した。
約束どおりにまだ居てくれた青年を見つけて抱きついてくる。一人ずつをぎゅっと抱きしめ、また来るからねと念押しの指きりをして、彼は帰途についた。



青年がもう一度花園を訪れたのは、翌日の夜だった。
道を覚えた自分のドラゴンに乗ってやってくると、夜のとばりがおりた花畑の中に、白い丸い花が道しるべのように淡く発光して並んでいる。

光の標をたどると、そこは大きな樹の根元だった。半月に照らされて手前にたたずむマリアのほの白い姿は、花の香りもしてまるで夜の闇に咲く一輪の水仙のようだ。
このひとはいつもほんのり光を放っているように見えるなと、わずかに目を細めてまぶしく彼は思った。

「いらっしゃい、ルカ。そろそろ来る頃だと思っていたわ」
「相変わらず何でもお見通しなんですね……レディ」
「ママでもよくてよ? 昔のように」

ふふっと笑う姿に苦笑を返して、ルカは青みがかったマントをはねあげ、マリアの前にひざまづいた。その白い手をとり、甲に恭しく唇を落とす。

「礼儀が先ですよ。わが敬愛する巫女姫さまに帰還のご報告を」

にっこり笑って立ち上がると、銀髪にふちどられた頬にも軽くキスをする。

「それから……ただいま帰りました、ママ」
「おかえりなさい。また会えて嬉しいわ」

ルカ自身も花園で生まれ、他の子と一緒にマリアに育てられたのはもうずいぶんと昔の話だ。若々しい彼女の外見は当時からずっと変わらないから、ルカが成長した今ではあまり年の差がないようにも見える。

マリアに挨拶をすませた青年は、大樹に近づき二人の幼子に添い寝しているルシフェルの足元に膝を折った。

大きな大きな世界樹の根元は、寝転べば木の葉ずれにたくさんの星々が見える特等席だ。この花園で寒いということはないから、ルカも知っているずっと昔から、そこは子供達のお気に入りの場所だった。

「遅くなりました」

律儀に礼をとる青年に、ルシフェルは笑って手を振った。無言なのはシエルが胸にひっついて眠っているからだろうが、その隣に寝ていたサラがもぞもぞと起き上がった。

「サラ、目が覚めたのか?」

抑えた深い声とともに伸ばされた大きな手が、優しく彼女の頭を撫でる。両手で目をこすったサラは、ふあぁと大きなあくびをした。

「ルカにーたん、マリアママにちゅーしてた。いいなぁ…」

甘えた声に、ルシフェルの黒い瞳とルカの青緑の瞳とがくすりと笑いあう。

「僕はサラのことも大好きだよ。さあまだ夜だからね、ゆっくりおやすみ」

ルカは一度立ち上がってサラの傍に行くと、サラの髪を撫で頬にキスをして、その小さな身体を元通り暖かなマントに包んでやった。
満足した顔の幼子が、すぐにすやすやと寝息を立て始める。

いつのまにかマリアの手で、そっと響き始めたハープの音色。

  ゆっくりおやすみ 愛しい子
  朝が来るまで 安らかに
  夜もすがら あなたの夢を守りましょう
  夜もすがら…

それは、とてもとても懐かしいメロディで。
聴きながら幸せそうな寝顔を眺めていると、青年の胸にも何かが温かくひろがってゆくようだった。

(ルカ、望むならお前もしばらくここで暮らすがいい)

子供を起こさないよう、心話で伝えられたルシフェルの言葉。月影を映す穏やかな闇色の瞳は、きっとすべてを知り、すべてを大切に愛しんでいる。
遠くはるかな昔から、ずっとそうであったように。

(ありがとう、ございます)

青年は答え、サラの隣に自分のマントをかけて身を横たえた。
ざあっと風が吹き抜け、さしかける枝々を一瞬退かせる。わずかな間、満天の星々がルカの視界を埋めた。

たくさんの星。たくさんの人。
たくさんの、きらきらとした宝物のような記憶。

辛い記憶も、中にはあるけれど。
それでも、いつかすべては宝石に変わるのだろうとおぼろげに思う。
限られた時の中で一生懸命に生きた、それは比べえぬ輝きには違いないのだから。

明日、目覚めた子供達は自分の姿を認めて喜んでくれるだろうか。
優しい子守唄と花の香りになつかしい安息を覚えながら、彼は眠りの海に落ちていった。




















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◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆【外伝 目次】


今の「上」でのお話です。
ちょうどルシフェルとーさんwが出てくるので、今日のヒーリングの前にアップ♪

【陽の雫】も爆破騒ぎが一段落したところですしね。
グラディウスの話もここのところで4~5話溜まってきたので、こっちも出していこうかなあ?


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3/1 ルシフェル・ヒーリング


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Re:【銀月外伝】 花園にて(03/01) 

ルシフェルさまキターーーーー!!

私はこの外伝が一番好きなんです^^
ぜひぜひこっちも頼みます!!!!

ルシフェル大好きなんです。。。
私=巫女さまで妄想してます。(お許しくださいーorz)
同人誌作っていいですか。
  • posted by みずえ 
  • URL 
  • 2011.03/01 19:58分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月外伝】 花園にて(03/01) 

物語に感想を書き込ませていただくのは初めてで、無茶苦茶ですが……と前置きをして(笑)
マリアさんの子守唄が、じーん……と染み渡りました。
もし自分に子供が産まれたら、歌ってあげたいような……。
でも素敵なメロディが作れるような音感がないので残念です(笑)
また続きを楽しみにしております♪
  • posted by ちなみ 
  • URL 
  • 2011.03/01 23:53分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月外伝】 花園にて 

最初から一気に読みたいと思いつつ、まとまった時間がとれてなくてまだ読めてないので、感想を書くのは恐縮なのですが(pД;`)
おとーさんのマント!!今日のヒーリングはこんな感じのイメージを抱きながら受けとると更に良さそうですね(*^∀^*)
大きな樹の下で、マントにくるまれながら眠れるとはとても贅沢ですね(`ω´*)
でも実は、小説読みながら結構癒されてました~^^
  • posted by よっきぃ 
  • URL 
  • 2011.03/02 01:14分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月外伝】 花園にて 

お話がとっても温かくてじんわりしてきました。
小さい子達の様子が可愛らしくて嬉しくなります。
子供が安心して笑顔でいられる所は大人にとっても 居心地がいいですね~。
素敵なお話をありがとうございます。
  • posted by りらぱんだ 
  • URL 
  • 2011.03/03 10:44分 
  • [編集]
  • [Res]

興味深いです。 

さつきのひかりさん

こんにちはatomと申します。

記事を読んで興味をそそられました。

また、次の記事を楽しみにしています。

では。
  • posted by デジボーイ 
  • URL 
  • 2011.03/03 16:09分 
  • [編集]
  • [Res]

おへんじ 

>みずえさん
おお、ありがとうございます~♪
外伝本編、根底で世界が繋がっていますので、あわせてお楽しみいただけると幸いです♪


>ちなみさん
子守唄にはリアルの元ねたがあるのですよー。
そのうち記事にしますね♪


>よっきぃさん
物語で癒されてくださるとは嬉しいです!!
ありがとうございます~♪


>りらぱんださん
ほんと、無邪気な子供には癒されますよね。
現実ではきーっとなることもありますがwww、こういう部分も忘れずにいられたらいいなあと思いますw


>atomさん
読んでくださってありがとうございます。
またぜひ読みにいらしてくださいね~^^
  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2011.03/04 15:00分 
  • [編集]
  • [Res]

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Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

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ルシフェルの翼Calling You 開発者。
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