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【陽の雫 70】 爆破

夢のように過ぎた結婚式の日から、もうすぐひと月が経とうとするころ。
ヴェールの中央大陸は急ぎ足に秋模様へと衣を変えていた。
セントラルのあたりは比較的冷涼な気候で、真夏の大祭の後に立秋を過ぎると、もう名実共に秋がやってくる。
豊饒の季節はゆったりと長く、過ごしやすい日々が続くのが特徴だった。

基地内を歩いていたリフィアは、向こうから見知った顔が歩いてくるのに気がついた。
ちょうど相手も気がついたらしい。オーディンが気さくに片手をあげるのへ、リフィアは軽く頭をさげて会釈した。
二次会やいただき物のお礼を言っておこうと思ったのだ。

「その節はありがとうございました。あと数日で丁度ひと月になります」
「もうそんなに経つのか。早いな……早いもんだなあ」

ブルースピネルの瞳を瞠り、びっくりした顔でがしがしと頭を掻いている。それから言いにくそうに彼は続けた。

「で……、あ。えーと…、准将殿との生活は、その……」
「世話のかからない人ですから。ありがとうございます」

聞くほうが真っ赤になっているのはどうしてだろう。くすりと笑ってリフィアは答える。
その笑顔が言葉以上に幸せそうで、オーディンはほっと安心した顔になった。
潔斎前にこの笑顔を見たことを思い出し、それがずっと続いていることに安堵する。

幸せでいてほしい。それが彼の望みだった。


そしてちょうど大祭から一ヶ月め。
この日はセントラルでは衣替えで、軍服も一様に冬服に変わる。日中ならばまだ暑さの残る日もあるが、朝晩は冷えて上着が必要だった。

オーディンは銀髪の上司と一緒に軍用車に乗り込み、もう一人が到着するのを待った。
今日はエネルギー炉の視察に行く予定だ。先方の案内人の都合で予定が午前中に繰り上がったと、早めに車が回されてきた。

「では出発いたします」

運転手の声とともに車が動き出す。燃料電池で動く車は音も静かなものだが、それだけではない妙な静けさが歴戦のオーディンの神経を逆撫でた。

「おい、待て。もう一人来るはずだぞ」
「いえ私はお二人様と伺っておりますが……」

言いながら運転手は車を停めない。なめらかに基地前の車廻しをまわって、一般道に出てゆこうとする。

「お前、いつもの運転手じゃないな」
「先方の急な変更で予定がつかず、代わりを申し付けられました。エネルギー炉の視察でございますよね」
「それはそうだが……」

運転手の変更自体はそれほど珍しいことではない。将官クラスになると軍用車も半分お抱えのようになってくるが、アルディアスはそれにこだわらなかった。
しかし、何かがおかしい。

すると、それまで黙っていた銀髪の上司が急にオーディンと運転手の肩をつかんだ。

「脱出するぞ!」

叫んだ声と急ブレーキとギアチェンジがほとんど同時。がくんと揺れた身体がふっと軽くなり、そして重くなったのをオーディンは感じた。

何が何やらわからないままに目を開くと、車から離れた植え込み脇の芝生に運転手と一緒に座っているところだった。目の前に流れたと思った銀髪がひらめいて、次の瞬間にはもういない。

上司の黒革の手袋が、ばんと車のボンネットを押さえた。一瞬の間を置いてドオォン!という重い音が腹に響き、黒炎が真上に噴きあがる。

風になびく銀髪、長身を包む白い光。
上司が自身の周りにシールドを張りながら、爆炎と衝撃を真上に逃がしたのだと気づいたのは数秒経ってからだ。

大きな爆発音に、何人もがこちらに駆けつけてくる。

「マスター、大丈夫ですかっ!」

駆けつけたエル・フィンが息せききって尋ねる。基地内からすでに異変に気づいて、車の動向を追っていたのだろうと思える速さだ。

「ああ、私も、運転手も大丈夫だよ。オーリィ、君は平気か?」
「あ、ああ、お陰さまでな」

オーディンは半分呆然としながら答えた。爆発直後、腰の携帯機器が呼び出し音を鳴らしていたのを知ってはいたが、出ることができなかった。

「まったく、これは許せないな。一歩間違えれば民間人も巻き込むところだった」

そう言う上司の目は冷たく光っている。軍の敷地を出たばかりで、一般車道と合流する手前だった。本当に一歩間違えれば、民間人を巻き込んだ大惨事になるところだったのだ。

「今、救急車などを呼びました。代わりの車がすぐに来ますので、准将はそちらに乗ってひとまず病院に向ってください。オーリィ、君もだよ」

後から追いついたニールスが言う。さすが、副官として素早く手配をしたらしかった。

「え? 俺も? 何の怪我もないのに?」
「一応ね、検査をしないとダメだろう?」
「あと敵方へのカモフラージュもだね。それに、そちらで続きの話をしようか」

炎上する車を見たままアルディアスは言い、先に来た軍用車に乗って病院へと向かった。

慌しくエントランスに着いて車を降り、そういえばリフィアはどうしているだろうと思ったときだった。
昨日同僚の代理で休日出勤をしたから、彼女は今日休みのはずだ。出かけると言っていなかったか? 時間は聞いていなかったか?
心話でそれを尋ねようと思った瞬間、聞きなれた声が頭に響いた。

(アルディ、大丈夫? どんななの?)
(リフィアン。何かあったと、どうして知っているんだい?)

少し驚いた口調でアルディアスが返す。合図として片耳に手をあて、急に立ち止まった上司を見て、オーディンとニールスが顔を見合わせた。誰かと、おそらくは結婚したばかりの奥方と心話をしていることに気づいたのだ。
軍病院から官舎までは十キロ以上あるが、この上司にとっては何でもない距離なのだろう。

(え? 病院から連絡が入ったのよ。だからビックリして)

夫の到達域がもっとはるかに広いことを知っているリフィアは、すぐ隣の彼に話すように答えた。
もともと午後早くに出かけるつもりだったからその仕度は済ませてあり、急ぐならば今からでも出られる。

リフィアの声を聞いたアルディアスは、顔色を変えて踵を返した。
怪我人がいないのだから、このタイミングで病院からリフィアに連絡が入ること自体がおかしい。

「准将?!」
「悪いが説明している暇がない。これを借りるよ」

わずかに遅れて救急車で到着した運転手の制帽をとって目深に被り、大股で歩きながら手で銀髪をまとめ、上着の右前を開けてたくしこむ。元通りに前を閉じると、目立つ銀髪は一応見えなくなった。

「それからキーもだ。すまないね」

ふと開いた手のひらに、ちゃらっと音を立てて車のイグニッションキーが現れる。運転手が慌ててポケットを探ったところを見ると、そこから失敬したもののようだった。
カモフラージュで救急車に乗せられて来たものの怪我はないからと、帰りのためにキーを預かっていたのだ。

(リフィアを迎えにいく)

オーディンやニールスが口も挟む暇がないまま、心話で二人に言い置くとアルディアスは車に乗り込み素早く発進させた。

(アルディ、大丈夫なの? そっちに行ってもいいの?)

慌しい気配を察したのか、リフィアの声が少し不安げに揺れる。
落ち着かせるようにゆっくりとアルディアスは言った。

(大丈夫。今向かっているからね。家を出ないで待っていて)

結婚してから、官舎に施した結界はかなり強化している。
自分が狙われることを知っていたし、何より彼が長く作戦で不在の間、少しでもリフィアが安心して過ごせるようにしたかった。
だから家から出さえしなければ、リフィアは安全なのだ。

(私が直接行くまで、玄関を開けてはいけないよ)

なるべく穏やかに、自らのピリピリした焦りを隠して彼は続けた。

もしも自分が敵方なら、軍用車の爆破と同時にリフィアの身柄を押さえる。彼女がアルディアスの唯一といっていい家族であり弱点であることは、周知の事実なのだから。





















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◆第二部【陽の雫】目次




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Comment

Re:【陽の雫 70】 爆破 

爆発の被害を最小限に抑えたアルディアス様 超カッコイイです。でもリフィアさんが心配‥ 早く続きを読みたい!
  • posted by りらぱんだ 
  • URL 
  • 2011.02/10 19:36分 
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Re:【陽の雫 70】 爆破(02/10) 

ご結婚からひと月でもうこんな事件が起こるのですね。
リフィアさんに何事もなければ良いのだけど…。
  • posted by あおいそら 
  • URL 
  • 2011.02/10 20:05分 
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Re:【陽の雫 70】 爆破 

アルディアスかっこよすぎです~。お願いだから、リフィアさんも誰も傷つけないで~。
  • posted by ぐりおぐら 
  • URL 
  • 2011.02/10 20:25分 
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Re:【陽の雫 70】 爆破 

准将かっこいい!いつもながら光景が目に浮かぶような文章…素敵デス(*^o^*)
お互いにお互いを心配してる二人、いいなぁ。続きをどきどきしながら待ってます!
  • posted by あいちん☆ 
  • URL 
  • 2011.02/10 20:47分 
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Re:【陽の雫 70】 爆破 

ああ、ドキドキです。
リフィアさんがご無事でありますように。。。
  • posted by あんず 
  • URL 
  • 2011.02/10 22:25分 
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Re:【陽の雫 70】 爆破(02/10) 

初めてコメントさせていただきます!
情景がありありと目の前に浮かぶので、読み応えがあり、本当に楽しみにしています^^
それにこの話の流れ…やばいです。かっこよすぎます☆
  • posted by おいも 
  • URL 
  • 2011.02/11 00:17分 
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Re:【陽の雫 70】 爆破(02/10) 

アルディアスさん、かっこいい~(〃▽〃)
リフィアさん、玄関を開けずに待っていてください(ドキドキ)

早く続きを!
  • posted by ももんが 
  • URL 
  • 2011.02/11 00:23分 
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Re:【陽の雫 70】 爆破 

ハラハラ
ドキドキ
o(><)o
!(^^)!
  • posted by にこにこ◎^∇^◎みかん♪ 
  • URL 
  • 2011.02/11 02:16分 
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Re:【陽の雫 70】 爆破 

リフィ!!!
そのままでいてね!!
思わず叫んでしまいました
次回早く読みたいです☆
  • posted by つぐみ 
  • URL 
  • 2011.02/11 05:37分 
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Re:【陽の雫 70】 爆破(02/10) 

 おおおお、そこで終わりですか?っておもわず叫びましたよ。レディ・リフィア!心配です!でもアルディアスと心話ができて本当に良かったですよね、心配のあまり焦って行動しちゃいますから…。

 続き楽しみにしています♪
  • posted by 如月さら 
  • URL 
  • 2011.02/11 10:08分 
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Re:【陽の雫 70】 爆破(02/10) 

う~(>_<)
リフィアさんなら、アルディアスさんの言葉を信じてじっと待っていらっしゃると思いますが…ドキドキです!
なにがって敵方の人の命をなんとも思わない卑劣なやり口が気に入らない!!
戦争が日常の世界だから、人の思考も歪んでしまいやすいのかもしれないですけど…
今回は誰の差し金なんでしょうね。
また『身内』でしょうか…?
軍内部の犯行なら、なおさら平気で自国の民間人を巻き込もうとし、さらには、いくら軍所属で奥方とはいえ、軍人ではないか弱いレディを狙うとは(激怒)
ゆるせ~~ん!!むき~~~!!!
と、怒髪天を衝いております。(←まだ誰かわからんのに 汗)
奥様らぶ♪な准将様には死ぬほど辛い瞬間だと思います(涙)
リフィアさんのお顔を見るまでは、生きた心地がしませんね…
ご無事でいらっしゃいますように!!
そして、つ…続きをできれば早く~~~!!(笑)
  • posted by 月の娘 
  • URL 
  • 2011.02/11 13:58分 
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Re:【陽の雫 70】 爆破 

うわわわわドキドキです~!(><。)(。><)。。
改めましてこちらでも。前々回の副官さん話みたいなほのぼのも大好きです♪
  • posted by 香織 
  • URL 
  • 2011.02/12 12:05分 
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  • [Res]

おへんじ 

>みなさま

うふふふ~♪
皆様ありがとうございます!!

あんなんなりました。 笑
  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2011.02/13 14:55分 
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