のんびり、やさしく。

ヒーリングと物語とものつくり。

Entries

【陽の雫 10】 双極

二人を森から帰して神殿に戻ったアルディアスは、神事のための潔斎を続けていた。

力を使うことにも、大きなエネルギーを降ろすことにも、もう昔ほどの恐怖や違和感はない。慣れとはたいしたもので、身体に影響が出ることもなかった。
ただ十三歳のあの高熱の後から、食べる量は極端に減った。それまでは育ち盛りの男の子として相応によく食べていたのだが、その後は一人前なくてもいいくらいだ。

空腹感がそもそもなくなり、一食や二食抜いてもどうということはない。食べられないわけではないが、誰かに言われなければ忘れていることもある。
といって背が伸びるのが止まるわけでもなかったし、肩幅もそれなりに広くなった。成長が止まらなかったから余計に、量が減った後しばらくは、自分がだんだん人でなくなる気がして怖かったものだ。

ひとり瞑想を始めた彼の意識は広がり、ちらちらと飛び始める。それをただ眺めていると、場面は過去に戻っていった。


十五の誕生日を迎えてすぐ。
次代の大神官と決まって二年後、とある深夜に彼は人知れず神殿を飛び出した。

神を降ろすのが嫌になったわけではない。
むしろその逆だった。他の人に聞いてもわからないと言われる、確かな手応えと不思議な高揚感。
それは快感とすら言えそうな感覚で、そこに浸りきってしまうことが怖かった。

神殿にいるとどんどんと食べなくなり、どんどんと自分が透明になってゆくのがわかる。
それは神に近づいてゆくことであり、同時に人間から離れてゆくことでもあった。
神殿の者たちはその境地を目指しているともいえるのだが、そのたびに喪ったものが頭をよぎり、たかまる高揚感に身を任せるのを止める。

彼はたぶん、人が好きだったのだろう。
人でいたいと思っていた。

そして少年は神殿を抜け出し、その足で軍部へと身を投じた。
なぜいきなり軍隊だったのか、彼自身にもよくわからない。
長らく神殿で暮らしていた世間知らずの少年が、簡単に間違いなく食べてゆける場所だったということもある。
一番下っ端の二等兵ならば、軍律さえ守って目立たなければ、出自を詳しく詮議されることはほとんどなかった。

しかし、初めて戦場で人を殺めた晩は、吐いて眠ることができなかった。
浴びた返り血が洗っても洗っても消えない気がして、断末魔の声と最期に彼を見返した虚ろな瞳も忘れられない。吐くものがなくなっても一晩中狭いベッドの上で輾転反側して、目の下に大きな隈をつくって翌朝の訓練に出た。

「初めは誰もがそうなるのさ、フェロウ。それに、そうでなきゃ人間じゃない。お前は人間だったってことだよ」

先輩兵士が言った。悲しいことだがいずれ慣れる、それが戦争ってもんだ、と。

人間、なのか。自分は。
そうなのか、とアルディアスは思った。

「苦しみを与えるその相手にも、愛する人がいて、父がいて母がいる……」

神殿でいつも唱えている言葉を持ったままでは、戦場で生き抜くことはできなかった。血なまぐさい剣をふるって相手を倒さなければ、自分がやられる。

しかし彼は最期まで、それに完全に慣れるということがなかった。
自らが殺めた人の魂が、恨めしげに自分の回りをまわっているのがわかる。折々に慰霊の祈りを唱えながらも、責任を転嫁して自分が犯した罪から逃げる気は、彼にはなかった。
どんよりした澱のような罪が、つねに彼を苦しめる。けれども皮肉なことに、その苦しみそのものが彼の魂の重石となり、神殿から離れて人でいつづける手段となった。

そして二年が経ち、そこそこの軍功もあげて曹長に昇進していた彼を、ついに神殿が探し出した。
愛を説く神殿といわば対極にある軍部に身を投じた彼は、当然放逐されると思っていた。
けれども予想に反して、わざわざ彼のいる基地までやってきた大神官は、アルディアスに帰ってくるようにと諭した。

帰れば人でいられません、私はそれが恐ろしいのです。

優しい老人の目を見て、銀髪の青年は言った。軍隊で過ごした二年間が、穏やかな風貌の彼に鍛えられた精悍さを加えている。
白髪の大神官はしばらくじっと彼を見て、それからゆっくりとうなずいた。

「アルディアス、お前には巫覡としての才能がありすぎる。それは辛いことでもあるだろうの。
大神官とは、神と人との橋渡しをする者じゃ。つねに自らを律しようとするその姿勢は、やはり役目に適っておるよ。
よろしい、苦しいことじゃろうが、普段は軍籍にありなさい」

アルディアスは目を瞠った。
彼が強いサイキックであることはその頃には知れていたから、軍部も手放すのを渋ったのだ、とは後で聞いた話だ。神殿としても、次代の大神官として二年の間探し続けていたものを、いまさら放る気はなかったらしい。

そんな水面下のやりとりをも経て、彼の軍籍は神殿公認となり、アルディアスは一度士官学校へ入学することになった。

普段は軍人でありながら、ときに神官として神殿に戻る。
双極を抱え込んだ生活の始まりだった。

いや、双極は元々彼の内部にあるのだ。燃えさかる焔と凍てついた氷、それらは最初から彼の中にあり、神殿と軍部という両極端の形をとって生活に現れてきたにすぎない。

……なんという罪深さだろう。

人の死の上になりたつそれを、そしてさらに神官という立場に立つ自分を、アルディアスはひどく嫌悪した。
それでも双極を抱いて生まれた彼は、そうでなければ、どちらかに偏っては人でいることができなかった。

つねに分離してゆく自分。
自分がひとりなのかどうかさえ、時にわからなくなることがある。

彼はたまにすべてを投げ捨てたい衝動に駆られることがあった。
肩にのしかかる重い責任も、自分の命さえどこかに振り捨ててしまいたくなる。
それが叶わぬのは、備わっている責任感のゆえでもあった。


思考の迷路にはまりこんだことに気づいて、アルディアスはふうっと息をついた。

心を切り替えると、今度は今日のできごとが浮かんでくる。

リフィア・ルーテウス……
直訳すると黄金色の生命という意味になるな、と彼は思った。

たしかに透き通って、きらきらした印象的な明るい黄緑の瞳。
まるで陽の雫のような。

手をとったあの一瞬に、よぎった思いはなんだったのだろう。
なにか聞こえたような気もしたけれど、かすかなさざなみはもう追うことができなかった。
双極、統合、灯台?

わからない。
軽く頭を振って、アルディアスはもう一度心を切り替えた。




















-------

◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第二部【陽の雫】目次



年の瀬って皆さんお忙しいでしょうから、更新しないほうがいいのか
お正月に楽しんでいただけるようアップしておいたほうがいいのか悩むところなんですが 笑

とりあえず、じれじれしてる方がいらっしゃるようなのでアップします…
ってこの話ではぜんぜんまったく進展してませんけど(爆

や、付き合いだす?のもプロポーズしたとこも、もう書いてはあるんですけどね~
更新のタイミングの問題なのです^^;


ご感想大募集中です~!!
お返事なかなかできなくてごめんなさいですが…
書く原動力はご感想なのです~


拍手がわりに→ブログランキング
webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→



☆ゲリラ開催☆12/18~12/27 世界の祝福♪

12/29 ご先祖様一斉ヒーリング

関連記事

Comment_form

Comment

Re:【陽の雫 10】 双極 

うわぉ♪ゆくゆくはプロポーズって流れになって行くんですね~ドキドキ(笑)
  • posted by マッキー 
  • URL 
  • 2009.12/25 19:37分 
  • [編集]
  • [Res]

すごーい! 

先は、結婚するのかな?
こんなにわくわくどきどきと小説を読んだのは久しぶりです!
無理のないように、更新してください。楽しみにしていますね!
  • posted by hotcake11 
  • URL 
  • 2009.12/25 21:46分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【陽の雫 10】 双極(12/25) 

能力のある者にしか分からないがゆえに、
他人にはなかなか理解してもらえないような苦しみですね……。
それでも光と闇、美と醜、生と死のような一見対極にあるものも、
その全てを深く大きな愛で包んでしまうというのは、
今のさつきのひかりさんにも通じるものがあるな~と思いました。

それにしても、色恋沙汰だけは慣れてなさそうなアルディアスさんが
いったいどんなプロポーズをするのか、私も今から興味津々です^^
  • posted by たまねぎ 
  • URL 
  • 2009.12/25 22:51分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【陽の雫 10】 双極 

はいはい!じれじれしてましたっ(≧□≦)ノ
そしてっ!プロポーズしちゃうんですね…!(°д°;)(みんな同じとこに反応してますね 笑)
アルディアスさん、苛酷な運命にあるのにほんとに周りに優しいですよね。そんな彼にはぜひぜひたっくさん!幸せが降り注いで欲しいです!!!
物語が読めるの、すーごく嬉しいのですが、無理はしないでくださいねっ(≧□≦)
あと…グラディウスさんと間違えてごめんなさい(T-T)
  • posted by あいちん 
  • URL 
  • 2009.12/25 23:39分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【陽の雫 10】 双極(12/25) 

アルディアスさんはまじめだわ~
私の場合は飛んじゃうのが気持ちよくて一時期は「無」になるのがうれしくて仕方なくって・・・
かろうじて地面にへばりついた理由が、同じ「人が好きだから」でしたよ。何かうんうんってうなずけるなぁ・・・
人間が好き。飛びすぎそうになると、自分がここに居たかったから今を生きてるんだって思い出して戻ってきます・・・でもどうして地球に生きようって決めた理由が思い出そうとすると、わき腹で止まってる(笑)

アルディアスさん、双極のバランスをとりながら、でも幸せな時間を送れそうでうれしいな~♪
次が待ち遠しい~!
  • posted by 撫風羽 
  • URL 
  • 2009.12/26 05:36分 
  • [編集]
  • [Res]

おへんじ 

>マッキーさん
あ、そうか。
私にとっては過去だから、先が最後までわかってるんですが皆さんはそうじゃないんでしたよね 爆


>hotcake11さん
ありがとうございます~♪
先は・・・どうなるのでしょうかね? 笑
じわじわと更新しますw


>たまねぎさん
似てますか~。そうですか。
本体的には、この人すごすぎて自分って気がさっぱりしないんですが^^;
リアルはできないことだらけですから… orz


>あいちんさん
じれじれされてましたかw ご期待にこたえて、次もアップしましたよ~♪
そしてやっぱりプロポーズに反応 笑
名前は似てますからお気になさらずwww


>撫風羽さん
おお~同じ悩みをお持ちの方が!
アルディアスの場合は、軍部に飛び込んじゃうところがどーしよーもないって感じですが 爆
でも私にもその傾向はありました orz

  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2009.12/26 15:00分 
  • [編集]
  • [Res]

ご案内

Moonlight

Counter

ブログ内検索

Calendar & Archives

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

MONTHLY

Profile

さつきのひかり

Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

エンジェルリンクファシリテーター、
レインボー・エナジー・フレイム(REF)
ルシフェルの翼Calling You 開発者。
プロフィール詳細

コメントレスはできたりできなかったりで、のんびりですみません^^;
お手紙はこちらのフォームから。
土日はPCに触れないことが多いので、メールのお返事は平日になります。

携帯(ガラケー)版スマホ版



Twitter
Instagram

New entry

Twitter



Ranking

右サイドメニュー

QRコード

QR