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【陽の雫 6】 再会

アルディアスとふたたび会ったのは、あの満月の日から一年近くも経ってからのことだった。

少佐に昇進した彼は地方赴任になり、遠い場所にいた。
リフィアは変わらずに生活支援担当をしていたが、中央の単身寮にいてさえ何も要望がなく連絡をしてこなかった彼のことだから、わざわざ地方から何か言ってくるようなこともない。

中央でしか買えない物・こだわりの店で売っている物のリクエストを受けて買出しをしたり、親類縁者たちからの宅配物を一度受け取って赴任先に送ったりも支援担当の仕事であったが、アルディアスに関してはそれもなかった。

賄賂を避けるため、地方赴任中は出納記録をつけるのが義務になっているから、彼の財務状態は仕事として把握している。
支払いが仕事に関するものは階級とサインのみ。私費はいわゆる小遣いだが、これも明細を提出することになっていた。
この記録に載らないものが裏金となり、賄賂を受けている者は、だんだん出費に堅実さが欠けてくるようで、うすうす見当がつく。

アルディアスの場合は、赴任出費の明細を見たかぎりでは書籍代が突出していた。専門書なので支給対象となる。
私費はおもに飲食代であったが、普通に友人と会食したのだろうな、という店と金額のものばかりだ。交際費で落としてもよさそうな内容でも、勤務外だと律儀に私費で払っていた。

被服出費はほぼなし。どうやら支給品だけで足らしているらしい。そのほかの出費は、私費のうちでも専門書ばかりであった。

寮にいたときも要望のない人であったし、欲しいものってないのかしら?とリフィアは不思議に思った。
けれども担当するほかの軍人達の「欲しいもの」に振り回されていると、どうしても要求の少ない人のことまで考える暇がない。


それに、リフィア自身はその年念願の一人暮らしを始めたところで、私生活が楽しくてたまらなかった。
親所有の古びたテラスハウスの一戸が空いたため、家賃格安で住み始めた、というのが実情だったが、実家にいても生活費は入れる決まりだったから嬉しかった。

管理人の夫婦は小さい頃から可愛がってくれた親戚で親も安心していたし、リフィアは一人の自由を満喫していた。とはいえ、毎週末は必ず友達が来ているという感じだったが。

軍主催のパーティにも、女子は自由参加なのをいいことに欠席ばかりしていた。後になって同僚に「アルディアスさま、いらしてたわよ」と聞いて、あら行けば良かったわ、と思ったことが二回ほどある。

男性士官は、しっかりした理由がない限りは参加を義務づけられているが、アルディアスのほうもパーティは苦手らしい。地方赴任を理由に、出席するのは直に軍部中央に出向く用事があるなど、別件と抱き合わせになったときだけだった。


そんなこんなで、季節がひとめぐりした早春のころ。

久しぶりに出席したパーティにアルディアスもいたのは、ほとんど偶然といっていい。
リフィアは階級にあまり興味がなかったが、そのころ彼は中佐になっていた。

お久しぶりです、と先に声をかけたのは、リフィアの隣にいた同僚のアンナだった。彼の出世が早いとかなり興奮している彼女は、ふわふわの金髪にブルーアイ、しっとりとした艶の赤紫の生地で、胸元に控えめなシャーリングが入ったミニのドレスが目に鮮やかだ。背の高いスツールに腰を預けると、ちょうどきれいな膝下のラインが目に入る。

リフィアのほうは、ややおとなしめのミドル丈の黒いドレスを着ていた。前身頃の胸元から上が白の切替になっていて、首の後ろで大きいリボン結びをするようになっている。

「こんばんは。お久しぶりです」

礼服姿のアルディアスは変わらぬ微笑でこたえた。
少し困った顔で、アンナの興奮気味の話につきあっている。彼女はあの武勲がすごかった、このときの戦果が、と普通の青年士官が喜びそうな話をしているのだったが、アルディアスはあまり興味がないらしかった。

「あの、いつもご要望ないんですね」

彼女の話が一段落したころを見計らって、リフィアは声をかけてみた。

「ないですねえ」

藍色の瞳がにっこり微笑む。その嫌みのなさに、ほんとにこの人はこれで満足しているのだな、と見て取れた。

その夜のパーティは翌日が公休日だったため、各所で次の日も会おうかと話が盛り上がっていたが、彼は用事があるからと断っていた。

「お仕事ですか?」
「いいえ、ちょっと本屋巡りをしようかと。明後日には任地に戻らなければなりませんから」

彼の言葉に、なんだ欲しいものあるんじゃないの、と思ったリフィアは思わず「ご一緒していいですか?」と聞いていた。
アルディアスが目をしばたたく。抜け駆けとでも言いたいのか、アンナが横目で彼女を睨んだが、リフィアはまったく仕事のつもりだった。

「いやでも、一日中かなり歩きますし、女性の方をお連れするようなものではありませんよ。専門書ばかりですから、面白くもないでしょうし」
「歩きやすい格好で行きます。お望みの物のチェックをしておくのも仕事ですから」

リフィアのまっすぐな瞳に、アルディアスは困ったような微笑を浮かべたが、最後は折れてくれたようだ。
歩きやすい靴を履いてきてくださいね、と念をおして待ち合わせ場所を指定した。


「リフィア、あんた仕事のつもりなの?」

アルディアスと別れた後、クロークルームの鍵をもらってから目をすがめてアンナが言った。ロッカーから替えの靴や私服を出しながら、あたりまえじゃないの、とリフィアは返す。
昼間は普通に仕事だから、着替えを用意してきているのだ。

「だってあの方、本当に他に要望がないのよ。信じられないくらい。仙人なんじゃないのかって思うわよ」
「あ、その噂なら聞いたことあるわ。前の彼氏に聞いたんだけど、アルディアスさまって軍隊でも私生活がほとんど謎らしいの」

そうでしょうね、と答えつつリフィアは別のことも考えていた。アンナはどうやら彼氏と別れたらしい。なるほど今夜アルディアス・フェロウ中佐にモーションをかけていたのはそのためか。

そうと知らぬアンナはハイヒールを履き替え、勝負服らしい赤紫のドレスの上からコートを羽織った。

「その彼が、今のアルディアスさまの任地にいて、同じ寮に入ってるのよ。普通、佐官ともなったら結婚してなくても単身寮を出るとか、寮でも特別待遇を要求するとかするじゃない。そんなことも全然なく、平気で下士官や一般兵とも混ざってらっしゃるんですって」

「そうね。向こうの寮の管理課からも何も言ってこないもの」

「それがまた無理にやってるんじゃなくて、ものすごく自然にそうしてらっしゃるから、下士官達の人気は絶大らしいわ。たまに皆を飲みに連れて行ってくださることもあるんだぜ、って彼も心酔してたもの」

「ふうん」

パーティ用のアクセサリを外し、ドレスのリボンを結びなおしてリフィアはうなずいた。専門書以外で、たまに私費に計上されていたちょっと金額の大きい飲食費はそれか。下士官達を息抜きに連れて行くなら交際費で落とすこともできるのに、律儀な人だ。
飲みに行った先で、彼がにこにこしながら部下達の話を聞いているさままで、リフィアには見えるような気がした。
財布役にはなっても、自分の話を滔々と聞かせよう、なんてことはしないに違いない。

「さて、わたしは帰るわ。明日はたくさん歩かなきゃならないから。じゃあね、アンナ」

自分もコートに袖を通し、まだ他の子と話している同僚にさっと手を振って、リフィアは帰途についた。コートの襟を立て、明日は雨が降らないといいな、と思いながら。




















-------

◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第二部【陽の雫】目次



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読みましたo(^-^)o 


再会したんですね
本が好きだなんて親近感だわ~♪
続きが楽しみです
  • posted by にこにこ◎^∇^◎みかん♪ 
  • URL 
  • 2009.12/15 11:14分 
  • [編集]
  • [Res]

ステキですね~♪ 

一年後の再会なんですね…
二人の空気がなんだか自然でいいですね~♪
続きが楽しみです♪
  • posted by 撫~風~羽~♪ 
  • URL 
  • 2009.12/15 15:51分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【陽の雫 6】 再会(12/15) 

いつもながら本っ当~に物欲のないアルディアスさん、
すごく尊敬してしまいます。
二人の初デート(?)楽しみにしてます♪
  • posted by たまねぎ 
  • URL 
  • 2009.12/15 17:01分 
  • [編集]
  • [Res]

いい感じ(≧□≦) 

仕事にまっすぐなリフィアが女子心にもグッドです♪好印象~~☆いいなっ、本屋巡りで初デート♪しかも二人ともその気がないのが素敵~♪
こんな感想ですいません(笑)是非是非二人にはゆっくり進展してほしいなぁと思っちゃいます。
  • posted by あいちん 
  • URL 
  • 2009.12/15 17:47分 
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  • [Res]

おへんじ 

>にこにこ◎^∇^◎みかん♪さん
本好きですねえ。本体も神田に一日中いられますw


>撫~風~羽~♪さん
言われて見ればそうかも?<自然
自覚がないのでなんとも^^;


>たまねぎさん
この人の欲のなさは、本体から見てもすごいっす。。
無理。爆


>あいちんさん
ほんとにゆっくり進展だったんですよ 笑
春は長いです 笑

  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2009.12/20 12:30分 
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Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

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ルシフェルの翼Calling You 開発者。
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