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【銀月物語 70】 モルト・バーにて

ルキアを出てしばらくのデセルが飲みに誘ってくれたのは、とんでもなく忙しいなりにリズムができてきて、なんとか休憩くらいならとれそうな頃合だった。
息抜きもままならない数日を過ごしていたので、申し出はとても魅力的だ。

頼みたいこともあったし、ありがたくその誘いを受けた。
待ち合わせには遅れてしまうかもしれないから、よかったら天使エリアの中まで来てくれてもかまわない、と伝えておく。
デセルの背にも羽が生えていたし、エネルギーが合わなくて具合が悪くなるようなことはないだろう。

待ち合わせ場所にしていた、天使エリア入り口付近のエネルギー緩衝帯に着くと、デセルはソファに座って観葉植物の精霊たちと楽しげに会話しているところだった。
デュークとグラディウスの出会いの話らしい。

片手をあげて近づきながら、トールは笑った。

「懐かしいな。あのとき私は記憶がなくて、なんで君が笑ったのか、まったくわからなかった」

「俺も朦朧としてたし。……というか、あの体格の変化は詐欺ですよ。あれじゃ、後で会ったって気がつくはずない」

「私のせいではないよ」

トールはうそぶいた。互いににやりと笑う。
当時は二人とも、過去に魂のつながりがあるとは気づいていなかった。どれほどの時を経ての今の再会になるのか、見当もつかない。

デセルが案内してくれたのは、タワー棟の中層階にあるアイリッシュパブだった。
わりと広めの店内で、外壁側は一面のガラス窓になっている。窓越しにじむネオンサインのような柔らかな光が、とても綺麗だった。

「同じのでいい?」

カウンターに座り、デセルは最初の一杯を奢ってくれた。
おめでとう、と言われ乾杯する。

とりとめもなく話しながら、ゆるゆると飲んだそのグラスが空になっても、二人はまだ帰りがたかった。
河岸を変えようということになり、今度は地下にある小さな店に移る。
客が他にいないのは、ボトルキープのように時間枠を持っているからだとデセルは言った。

「トールと来たら飲もうと思ってたんだ」

そう笑って開けてくれたボトルは、ILEACH。蒸留所の名を秘されたシングルモルト。

仕事の現状、打診していた件、ずっと昔のラボの話。

「……あれも、君かもしれないな」

手の中で暖めていた杯に口をつけて、トールは隣に座る親友の目を見つめた。舌の上を強い香りとあっさりとした後口がすぎさってゆく。
記憶に残る瞳の色は、ペリドットではなかった。しかし諦めずに生を見つめていたその光は、同じように闇の中で輝いて見えた。

「そうかな。……『制御安全弁』?」

「ああ、そう呼んでいたよ」

「そうか……」

デセルはグラスを干した。見るともなしに、バーテンダーの背後に並ぶモルトの瓶を追いかける。蒸留所をかかえる六つの島。

名の秘された蒸留所、名前のなかった自分。

(……名などなくとも、その存在が強烈であることには変わりがないさ)

トールもぐっとグラスをあけた。職人の手間と誇りのつまった深い味わいが、舌を転がってゆく。どこの産であろうとも、旨いものは旨い、それだけだ。
新しい一杯を注がれながら、二人は無言でちらりと視線をかわした。たしかにそれだけでよかった。


自然に話題は変わり、ステーションの仕事の話に戻った。打診していた件以外にももうひとつ、頼みたいことがあるという。

こんなシステムを組みたいと思ってるんだ、というトールの構想を聞くデセルの頭に、ドリームキャッチャーと万華鏡がうかんだ。
この二つの機能を組み合わせて、こういうふうに作っていけばいいはずだ――作ってくれと言わんばかりに、脳裏に段取りが浮かんでくる。

「いいね。良いプランは青図段階でもいい顔しているものです」

デセルの表情が技術者のそれになる。
彼の心を動かせたことが嬉しく、トールは軽く指を鳴らして資料の図面を取り出した。
ペリドットの瞳がじっとそれに見入り、しばらくして満足そうに嘆息する。

「無駄なく構築されたシステムは、その図面だけでも美しいものですよ」

「装置ができても、技術主任のことがあるから、まだ本格的にシステムに組み入れるわけにはいかないよ。しばらくはネットワークなしの単発で使うことになる」

トールは残念そうに言ったが、それでもわくわくしたのは確かだった。

「いいよ。やりましょう」

金茶の髪の友人が受け取った資料について承諾すると、トールはほっとした顔で微笑んだ。よかった、これで少しは寝られる、と呟く。

別れ際、もうひとつの件を受けてくれると大変ありがたい、と彼は頭を下げた。
技術面でのどうこう以前に、デセルと一緒に働くのが好きなのだ。

親友に見送られてステーションの自室に戻ると、トールは就任後初めてベッドを使って眠った。



















<天使の分け前 2>
http://blog.goo.ne.jp/hadaly2501/e/fd901f8574e5cf27e4b8a2c03f25d000







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◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第一部 目次

いつか、もう一度出会うことがあったら一緒に酒でも飲んでみないか――

そう言っていたグラディウス。
彼の望みは叶ったようです。
この二人見ていると、男同士の友情っていいなあ、とか思いますねw


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Re:【銀月物語 70】 モルト・バーにて 

深い友情に支えられた絆
いいですね
羨ましいかぎりです
トールさんがやっと寝れてよかった(^O^)
主任さんも怖がらずに新しいものが受け入れられるようになったらいいですね!
  • posted by みかん 
  • URL 
  • 2009.07/20 11:05分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月物語 70】 モルト・バーにて(07/20) 

ものすごく長い時を隔てて、グラディウスさんのささやかな願いが
ようやく叶ったんですね~。
本当によかったです(もちろんトールさんがやっと寝られたことも)

関係ない話ですが、先日
「グラジオラスとグラディウスって、なんか似てるよな」
などと思いながら、グラジオラスの育て方(ベランダに植えてるのです)を調べてたら、
こんな豆知識が……。

http://www.yasashi.info/ku_00015g.htm" target="_blank">http://www.yasashi.info/ku_00015g.htm

どうりで似てるはずですねw
どの上の人が教えてくださったのかは分かりませんが、
おかげでベランダに出るたびにグラちゃんを連想するように
なってしまいましたwww


  • posted by たまねぎ 
  • URL 
  • 2009.07/20 17:26分 
  • [編集]
  • [Res]

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