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【銀月物語 66】 就任

トールは難しい顔でじっと書類を見ていた。
ステーションの天使エリアにある、オフィスのような部屋。
机にはすでに書類が山積みで、大きいものと小さいもの、二つの山を形成している。
銀髪の錬金術師は机に対して斜めに向いた状態で、端にはわけのわからない顔をした緑の少女が腰掛けていた。
周りには数人の天使たちがいて、色々と説明をしている。

一通り説明を受けて、トールは軽くため息をついた。
少女を振り返り、肩をすくめて苦笑をうかべる。

「どうやらね、二人で新しいポジションにつくことになったようだよ。どうもこの天使エリアのセキュリティと、場の管理関係のようだね」

先にアシュタールから、それとなく打診を受けてはいた。しかしその内容は、緑の少女の御用聞きと、その手伝い、という程度のものだったから、今改めて示された仕事の内容は、正直いって晴天の霹靂のようなものだ。

あの老練な政治家殿は、最初から肩書きを提示しても二人とも嫌がるだけだ、というのを見抜いていたのだろう。
天使エリア全体の統括責任者という、けして低くはない、いや人によっては羨望するかもしれない地位だが、トールには興味もなにもない。だからこそあえて、先に少女を仕事につかせて逃げ道をふさいだのだと思われる。
少女が見つけた破損箇所の報告を受け、直す責任者となれば、逃げるわけにはいかないではないか。

まったくあの人は、と内心トールは呟いた。
最近の流れはひどく速い。
ふっと息をついて、彼は片手を胸にあてた。そこには目に見えない金色の太いコードがあり、緑の少女と繋がっている。少女の手術の後、自分も麻酔をかけられて、気づいたときにはすでにラファエルによって構築しなおされていたものだ。

それを知ったとき、トールはしばしベッドの上で呆然としていた。
けして悪いようにはしないことを知っているし、信頼もしている。
嬉しくない、と言えば嘘になる。しかし一度切ったツインのコードをふたたび構築する気はなかったし、もししたとしたら、それは少女の本体にとって、同時に二本のコードを持つという実験となってしまう。
何事であれ、彼女に対してもう「実験」をしたくはなかった。

だがそれも、流れの中で決まっていたことだったのか。
そもそも、必要がなければ姿すら現さないと決めていた彼が、今生表に出てきた時点で、すべての方向は決まってきていたのかもしれない。
今回この仕事すら、セラフィムの種族でかつ「対」でなければつけないという種類なのだそうだから。


「では、こちらにサインをいただけますか」

トールの思考を破って、説明係の天使達が低いほうの山から何枚もの書類を抜き出した。
おそらく引き継ぎの書類なのだろう、たくさんの書類のあちこちにサインをさせられる。

緑の少女が困っているのを見て、(該当箇所に自分の気を入れればいいんだよ)と伝える。すると彼女は、なんだそうか、とろくに書類も読まずにさらさらとサインをした。

その後、トールの机とL字型になるように向かって左に置いてある、少し小さめの机が少女用となった。
部屋は個人用の執務室にあたるのか、オフィスといっても少し落ちついた書斎に近いつくりになっていて、まだトールと少女しかいない。
奥にはドアがあり、応接間や他の部屋にも繋がっているようだった。

天使たちは二人に向かい、破損報告があったときはこういう書類がくるからどういう手順でどうする、自分が破損箇所を見つけたらどうするのか、などを説明して帰っていった。

「やれやれ、これはしばらく帰れないな」

天使たちが帰った後に、トールは机の上の山を見てうんざりした声を出した。
そうこうしているうちにも、じわじわと山が高くなっていくのだからどうしようもない。

「帰れないの?」
「あなたは大丈夫。これは私の仕事だからね、あまり気にしなくていいよ」

ちなみに前任者がいないのはどういうわけだ、と思って探してみると、なんと過労で倒れて入院中であった。この仕事量ではさもありなん、という気がする。

とりあえず帰るという少女を見送った足で、トールは前任者の見舞いに行った。挨拶ついでに引継ぎをしてもらおうと思ったのだが、個室のベッドに横たわる前任者は、これ以上ないほど幸せそうな顔で爆睡している。
付き添っていたツインの女性が、すまさなそうに代わって引継ぎをしてくれた。仕事全体のイメージや担当者の顔、こまごまとした事柄を伝えてもらう。

部屋に帰ってできることから仕事に手をつけていく中で、どうやら過労の種のひとつらしきものを見つけた。
壮年の白髪混じりの髪と髭をもつ、技術主任。いかつい面構えに負けず劣らずの頑固な職人気質であるらしい。

全体のシステムをざっと洗ったトールは、非効率な部分をみつけてそこの改善案を出したのだが、さっそくその技術主任に反対されてしまった。

「統括どの、ご意見はわかりましたが、あいにく私はそのやり方に慣れておりません。それでは長年培ってきた勘と経験が生かせませんので」

とにべもない。彼の下についている技術部員たちは、仕事が減るからと喜んでいるのだが、トップが頭から反対するのではいかんともしがたかった。

しかしこれでは仕事の減りようがない。
その上くだんの主任は、自分がいなくては仕事が進まないことを承知の上で強硬手段に出てきた。彼が前任者にとっても頭痛の種だったというのは、よく理解できる話だ。

技術主任を他へ異動させるという手もある。彼が喜びそうなポストはすでにみつけてあった。しかし見たところ、技術部員達は人はいいし仕事も確実だが、能力となると主任をまかせられるような者はいそうになかった。

統括エリア全体をフォローできる高い技術力と才能、組織の中で動ける人格。それらを兼ね備えている人間は、トールの知る限りでは一人しかいない。

彼に打診してみて、それでも駄目ならしばらく空席にしよう。技術部分のいくらかはトールが肩代わりするようだろうが、仕方がない。
減らない書類の山を横目に見ながら、彼はひとつ大きな伸びをした。















----------

◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第一部 目次


トール氏、こうして仕事が増えてゆくの巻(爆
エル・フィンさんに、なんでそんな仕事増やすんですか、って上でよく怒られてるんですけど 笑
好きで増やしてるんじゃないんだよ、勝手に増えるんだって、とか言ってた真相がこれです。
かくいうエル・フィンさんだって、トールとよく似てるんですけどねww

アシュタールさん、さすがにコツをこころえてます・・・危険人物^^;


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7/14 蒼のヒーリング 
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Re:【銀月物語 66】 就任 

主任の後任は誰になるのかなぁ?!
トールさんの仕事ぶりが垣間見れるのは
なんだか嬉しいです
続きを楽しみにしています
o(^-^)o
  • posted by みかん 
  • URL 
  • 2009.07/14 10:34分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月物語 66】 就任(07/14) 

トールさん、また忙しくなっちゃったんですね……。
それも、それだけの才能や能力があるからなのでしょうが、
前任者さんみたいに過労でブッ倒れませんように……。
  • posted by たまねぎ 
  • URL 
  • 2009.07/14 12:42分 
  • [編集]
  • [Res]

たまにはこちらにカキコ♪ 

トールさん、また仕事増えたんですね~
上の方々に仕組まれていること(?笑)とはいえ
前任者さんのように過労で倒れちゃったりしたらやだな~~
主任さんの後任は、やっぱりあの方でしょうか・・・(-公-*)ムムム
今までの話の流れでいくと、当然就任されるんでしょうね~~~? 笑
  • posted by 雪夜 
  • URL 
  • 2009.07/14 13:16分 
  • [編集]
  • [Res]

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