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【銀月物語 47】 天使の子 -来訪-

どれほどの時が経ち、いくつの夢を樹に見せたころであろうか。
世界樹のもとにミカエルとラファエルがやってきた。大樹の根方に座るトールを見て、大天使はしばし絶句した。

「お前・・・・・・ここにいたのか。ルシオラの魂が減衰しないから、生きているのは知っていたが。守人になっていたとはな」

(死ぬわけにはいきませんでしたからね)

世界樹の視界に見える、白と青、白と緑の鮮やかな天使たちのエネルギーに向かい、目を閉じたままトールは微笑んだ。
もし今彼が死ねば、種からのエネルギーの供給がなくなり、ルシオラの魂は持たなくなってしまうだろう。けれどあの重傷であの状態で、死なずにいるにはこの方法しか思いつかなかった。

「ちょっと起きろ。そろそろ、世界樹に渡せそうだ」

その言葉に、久しぶりにトールは肉体の目を開けた。きらめく青灰色の瞳に、小さな魂の輝きが映る。
彼は身体につもった落ち葉をはらって立ち上がり、じっとその小さな光を見つめた。
ミカエルの色合いを映した光、元々の輝き、そしてトールの光。三者が混ざった状態で、やわらかに落ち着いてはいたが、まだひどく脆弱だった。

「ようやくかけらになった、というところですね」

ラファエルがため息をつく。大天使の元にあってさえこれほどとは、元がいかに消滅寸前のひどい状態であったことか。

「これからは私の光も注ぎましょう・・・・・・世界樹ではあなたが護ってくれるのでしょう、トール」

「ええ」

大天使たちの瞳をしっかりと見据えて、トールは答えた。
ミカエルがうなずき、掌のうえの小さな光を黒い羽の天使に渡す。彼はそれを一度胸におしいただくようにして、それからゆっくり振り向くと樹にむかってさしだした。
小さな光は生まれたての雛のごとく、ふわふわと危なっかしく宙を飛んで、吸い込まれるように樹の中へ消える。

トールは目を閉じた。すると世界樹を流れるエネルギーの奔流の中に、小さなエメラルドの光が・・・・・彼女の瞳の輝きが、たしかにあることが感じられる。
ここにいる三人の光がその宝石をしっかり護っており、魂のかけらとしてはまだ小さいものの、流れに飲み込まれて消えてしまうことはなさそうだった。
ほっと息をつき、彼は二人にうなずいてみせた。
ミカエルもラファエルも、少し安心したような微笑を浮かべる。

頼んだぞ、と言い置いて二人は帰っていった。



トールはまた大樹の根方に座りなおした。
守人になって短い期間ではなかったはずだが、思ったよりもエネルギーが回復していない。やはり種の存在というのは大きいのか・・・・・・もしくは、ルースの消耗がそれだけひどかったということか。
かすかな眩暈をおぼえながら、彼はまた不動の体勢にもどった。

世界樹のエネルギーにゆっくりと浸って、彼女の魂は少しずつエネルギーを吸収してゆくはずだ。
ロストして砕けた魂はそうして、回復するまで世界樹に預けられる。あまりに損傷がひどいためにいつまでかかるか見当もつかないが、いつかは彼女として回復できるはずだった。


トールは世界樹として彼女の魂を抱いていた。
根の国から子守唄が聞こえる。大樹の地下、太い根の伸びる場所はまさに根の国だった。
死者と暗き生き物たちの棲む、黄泉の国。すべての世界は闇の子宮を通って生まれるがゆえに、光と闇の両方を等価に知る者しか守人になることはできない。
そしてここは、光の天使も闇の力も、ともに手出しのできぬ完全な中立地帯であった。

子守唄は毎日のように続いた。歌っているのは色褪せたドレスを来て青白い顔をした、亡者のような女性だった。
魂の眠る根の国に毎夜やってきては、自動人形のように子守唄を歌う。その顔は無表情であったが、彼女がルシオラのために歌っていることをトールは知っていた。
彼女もまた、ルシオラの魂の輝きに魅せられたひとりなのだ。

子守唄は幾晩続いただろう。
いくつの夢を、世界樹に見せただろう。

ルシオラの魂の回復が遅いことに、トールは気づかざるをえなかった。
自分自身のエネルギーさえ、長の間に回復するどころか、じりじりと減っているような気さえする。

思い当たる理由はひとつしかなかった。
二人でひとつの命の種では、供給が追いつかないのだ。
せめてトールが万全の状態であるならばともかく、死んでもおかしくない重傷だったのだから。
二人ともに死の淵から蘇らせるには、彼はすでに消耗しすぎていた。


ふたたび二人の大天使がやってきたのは、そのころだった。
気の重いしばらくの沈黙が流れる。
やがて、秀麗な顔を痛みに堪えてしかめながら、ミカエルが口を開いた。

「アエルが……ロストした。アトランティスで」

「なんですって?」

トールは肉体の目を見開いた。
アエルは知っている。以前長く同僚であったカイルのツインソウルだ。彼女がロストしてしまったとは……片割れのカイルの苦しみ悲しみはいかばかりだろう。
自らの辛さゆえによくわかり、トールはカイルのために悼んだ。

「アエルは回復できるのですか」

ただのロストであればいいが、とトールは問うた。守人としてエネルギーを捜せばわかるはずだが、なぜか口が先に動いた。
すると、今度はラファエルが首を横に振り、苦渋に満ちた声を出した。

「だめでした。あまりに損傷してしまっていて……
彼女を失ったことでカイルは半狂乱になり、現在記憶操作を行われています」

「……それで、トール。俺達がここに来たわけなんだが」

「聞きたくありません」

鋭いが力のない声で、黒い羽の男はさえぎった。
大天使達が何を言うためにやってきたのか、わかってしまったのだった。

彼は弱々しく首を振った。いやいやをする幼い子供のように。
青灰色の瞳には涙こそ浮かんでいなかったが、ひびの入った脆いガラスのごとくに、大天使達には思われた。
いまだかつて、これほど傷ついた彼を見た記憶はない。一連の事件の前までは、いつも穏やかに微笑んでいるような男だった。

ミカエルもラファエルも、友人の辛さがわかるだけにしばらくかける言葉をもたなかった。

しかし、やがて思いきったようにミカエルが口を開いた。

「……ルシオラの魂を、アエルと合わせたい。アエルのほうがかけらが大きいから、しばらく休ませれば、一個の魂としてやっていけるエネルギー量になるはずだ」

一気に言う。たとえ上が決定したことでも、けしてそのせいにせず自己の責任として言葉にするミカエルだった。
ラファエルも悲しげにうなずく。

トールは耳を塞ぎたい気持ちだった。

施術でコードを切って一度。
死んで闇にのまれて二度。

いまここで三たび、それも永遠にルースを失えと言うのか……?


魂をアエルと合わせるということは、アエルの部分とルシオラの部分を持つ、まったく新しい魂が生まれるということだ。
そしてアエルのかけらの方が大きいのならば、ツインソウルの位置はカイルが引き継ぐことになる。

隣に立ち、一番近い位置で彼女を護るのは、カイルの役割となるのだ。
トールではない。
トールの立つ場所は、彼女の隣にはなくなる。
彼女がアエルと融合している限り永遠に・・・・・・。


ルシオラの部分が完全に消えてしまうわけではない。

わかっていた。

愛するルースの魂を生かすには、もうこれしかないということも。

このままエネルギーが枯渇して共倒れになるか、彼女の魂を手放すか。
二者択一なのだ。

最終的に自分がどちらを選ぶのか、トールにはそれもわかっていた。


彼女がこのまま消えてしまうのを許すことが、彼女の存在そのものを失うなどということが、どうしてできよう?

存在していてほしいのだ。
生きていてほしいのだ。

たとえ彼女が彼のルースではなくなったとしても。
幸せな幸せな、魂の片翼という位置を手放したとしても。

なにものにも代えがたく、ただ生きて笑っていてほしい。

・・・・・・それだけでいい。




「・・・・・・わかりました」

しばらくきつく閉じていた目をあけて、トールは言った。
立ち上がるその姿は若い外見を保っていたが、まるで一気に年をとったかのようだ。

世界樹にあてた手を通して、ルシオラの魂が取り出される。
やわらかに輝く小さなエメラルド。

(……愛しているよ、ルース。いつも、いつまでもずっと……)

そっと掌につつみ、名残をおしむように優しくキスをして、彼はその輝きを大天使たちに手渡した。
納得していてさえ、心がふたつに張り裂ける。
手術の時以上に手が嫌がるのを、理性でとどめねばならなかった。


大天使たちの後姿を、トールは身動きもせず見送った。

彼女さえ生きていてくれるなら、自分はどのようにでも生きてゆける。

けして自ら死は選ぶまい。
小さな種でつながる彼女を、できうるかぎり護るために。

































----------

◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第一部 目次

ま・・・まずい・・・
あと一話でmixiに追いついちゃう(爆
緑ちゃん入院話とかは別に書き溜めてあるんですけど^^;
過去シリーズが進まなくて・・・・・・ orz


コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!
おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。
どれも大切に嬉しく拝見しております♪
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5/19 一斉ヒーリング~地球へも感謝をこめて~









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Comment

なるほどと… 

じぇいど♪さんの魂にとって、アエルとカイルの立場がいまひとつ分からなかったのですが…、なるほどそういうことかとようやく納得できました!
辛いトールさんの選択も、ルシオラさんへの愛があってこそですね…。

ブログの方しか見られないので、続きをとても楽しみにしています♪
執筆、無理をせず頑張ってくださいね。
  • posted by ゆうあ 
  • URL 
  • 2009.05/18 18:00分 
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  • [Res]

切ない… 

めちゃめちゃ切ないです。
ツインの立場を失うよりも、
ただ生きて笑っていてほしい。。。
トールさんの深い愛に涙です。

最近すんごいトールさん萌え~なんですけど。
不謹慎ですみません…ファンです。
物陰から「しあわせになって」と見つめる感じ(汗)
  • posted by フランチェスカ 
  • URL 
  • 2009.05/18 21:31分 
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  • [Res]

無償の愛 

これほど深い愛が他にあるでしょうか。
トールさんのメールを思い出しながら
泣きそうになりながら読みました。
  • posted by 小 鳥 
  • URL 
  • 2009.05/19 10:10分 
  • [編集]
  • [Res]

う~~っ 

切ないですね。。

>彼女がこのまま消えてしまうのを許すことが、彼女の存在そのものを失うなどということが、どうしてできよう?

ってところが

妙に納得して目に涙が浮かびました;

存在を失うことなどけしてできません〃

悲しいほどの経験を通して今の幸せがあるんですね*

全てのことに感謝です♪
  • posted by ラジエル 
  • URL 
  • 2009.05/23 19:10分 
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  • [Res]

Re:【銀月物語 47】 天使の子 -来訪-(05/18) 

もくもくと読ませていただいております♪

フランチェスカさんに
「人によって、響くポイントが違うのよ。トラウマが。」

って聞いていましたが、
いままで淡々と読んでいたのに、
ここで衝撃が走っています。

大切な存在を自分から引き離す、身が裂かれる思いに囚われています…うっきー!!

  • posted by 一鱗ママ 
  • URL 
  • 2009.12/03 19:15分 
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Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
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