のんびり、やさしく。

ヒーリングと物語とものつくり。

Entries

【銀月物語 40】 天使の子 -残照-

その依頼を、彼は最初辞退しようとしていた。
闇の勢力が拡大するに従い、天使の数が激減している。より強い天使を、より戦える天使を創ろう、という流れになるのは、ある意味必然でもあった。

魔術と霊的医療の専門家である彼に話が持ち込まれたのも必然なら、実験体の人選も・・・・・・おそらく必然の流れであったのだろう。


ある日、強い意思を宿した瞳が印象的な天使の子が、ミカエルの訓練から帰るなり彼に言った。

「ねえ! 聞いてよ。私新しいプロジェクトに任命されたんだ」

幼さの残る白い頬を紅潮させ、誇りに満ちた緑色の瞳はきらきらと輝いている。天界のやわらかな陽の光に、白に近い淡い金髪がけぶるようだった。

「・・・・・・それで、受けるのかい?」

そのプロジェクトが何なのか、すぐに気がついた長身の彼は、相手の顔を覗きこんで確かめるように聞いた。もちろん、と若い天使はうなずく。当然だろ、そのために生まれてきたんだから。

「そうか・・・・・・」

相手に感づかれないように、彼はそっと嘆息した。
最愛のツインソウル、文字通り魂の片翼。
その彼女が――実際は天使に性別はないのだが、仮にそう呼ぶことにする――今回の被験者に選ばれたのだ。

辛くなるよ、と彼は言った。彼女の未来に何が待っているのか、彼には見えてしまっていたから。その誇りも必要性も、すべて理解してはいたけれど、できれば辞退してほしいとさえ思った。
しかし彼女はまっすぐに彼の眼を見て言い切る。

「わかってる。リスキーだってことは。でも私がそうしたいんだ。
・・・・・・あのさ、こないだお前が悩んでたの、この仕事なんだろう?
話を聞いたとき、おまえならいいと思ったんだ。知らない人にいじられるよりは」

「そうか・・・・・・そうだね、私もそう思うよ」

一瞬の間をおいて、彼は限りない愛と哀しみを秘めた瞳でうなずき返した。
……神は私になんという罪を犯させるおつもりか。

手を伸ばし、彼は愛する片翼を抱きしめた。その幸せな感覚を腕に刻むかのように、そっと目を閉じる。二人の背に純白の翼が透けて見えた。

翌朝、彼はその仕事を受けた。


手術はラファエルの管理のもとに行われた。
実際のオペは彼と黒カイルが交代しつつ行い、もう一人がデータをとってラファエルに報告、という形をとっている。
白く漂白されてたくさんの医療機器が置かれた実験棟は、もはや天界とは呼べない雰囲気だった。

求められている特質は、恐怖感を持たずに少々やられてもさらに相手に突っ込んでいく勇気。死を恐れないこと。
次元が高すぎて戦いに向かない天使の波動を落とし、戦いに特化した天使として、死の恐怖や痛みを快感として誤認するよう、洗脳すること。

それがどんなに残酷で危険なことか、彼にはわかっていた。
死や痛みや残虐さへの恐怖というものを取り去るかわりに、最終的な局面での生存意欲がどうしても少なくなる。
危機的な状況になるほど高揚してしまうために、闇や死をなんとも思わず、少々のことでわざわざそちらを選び取るような性質が生まれてしまう・・・・・・それは逆に、闇に引き込まれやすくなるということではないだろうか?

しかし彼の思いとは別に、実験は着々と進んでいた。
手術台の上の彼女は、もう全身内部がぼろぼろと言っていい。

吐き気とふるえと涙をこらえ、表面的には冷静な無表情を続けて、彼はチューブを操作して彼女のチャクラの奥に当てた。
ごぼ、と音がして彼女が血を吐いたのがわかる。
苦しげにゆがむ顔を拭き、すぐさま抱き上げてやりたかった。もうやめようと言いたかった。けれどもそれは許されぬ。
奥歯を噛み締め、チューブをきつくきつく握って彼は操作を続けた。

彼の仕事のひとつは、ツインソウルの記憶の消去だった。
大事な特定のひとりがいては、戦闘員には向かない。まずそこを消さねばならなかった。
思いとはうらはらに冷徹なメスがツインソウルの太いコードを切断し、新たな回路を構築してゆく。
それは彼とのつながりが、積み重ねてきた時間が失われてゆくということだった。

彼女の眼は開いている。まぶたも動かせるし、見えてはいるはずだった。
だがもう彼のことはわかるまい。
なんとなくよく知っている人だ、くらいには認識しても、彼が誰であるか、彼女にとっての誰であるかは、もうわかるまい。

彼女の記憶とともに、自分の存在の半分が消えていくような感覚を彼は味わった。
この次目覚めたとき、彼女はもう、彼の隣にいた彼女ではない。

(愛しているよ。愛しているよ。愛してる・・・・・・)

心話というには低すぎるささやきを、彼は続けずにはおれなかった。
もう聞こえていないことは知っていた。
もしも聞こえていたならば、これ以上残酷なことはないということも知っていた。
それでも彼の魂は、失われようとする片翼に向かって、たったひとつの真実をささやかずにはいられなかった。

秘されるべき彼女の内部に進入し、辛い施術をする長い指の先から、罪が彼の心に這い登る。
そうだ、確かに他人に触らせるよりは、わが手を汚したほうがいい。この身に罪を背負ったほうがいい。
最愛の人をずたずたに傷つけるとわかっていて、あえて自分で選んだことなのだ。
血に染まった手に残るこの大罪とひきかえに、ほんのひとひらのかすかな愛でも、彼女のどこかに残ってくれればいいと願った。

手術の痛みに彼女の身体が逃げようと反応するのを見るたびに、彼の心に太い楔が打ち込まれてゆく。
施術が進んで痛みが快感に変換され、彼女の表情が徐々に変わってくることは、打ち込まれた楔に無数の棘が生えてくるかのようだった。


大方の施術がすべて終了し、彼女はうつぶせのまま手術台の上に乗せられていた。
包帯が少し巻かれているほかは全裸でひどい状態だが、観察のために毛布をかけることも許されなかった。
カイル、それと記録係の天使が、少し離れた壁際に立って彼女を見ている。

そこへラファエルがやってきた。記録係が現在の進行状況を報告する。
ラファエルはうなずき、指示を出して左の眉の上、右のまぶたと眼球ぎりぎりのところに麻酔の注射器のようなものを刺した。
彼女は恐怖の中で(それなに?)とラファエルに聞いたようだ。天使がなにごとか答えたらしい気配がつたわる。

ぼろぼろになった彼女は無気力で自暴自棄になっており、放置されていても逃げようという気もなくなってしまったのだろう。もはやラファエルに助けを求めることもないらしかった。


その様子を、彼はただひとり中二階の観察室から見ていた。
とてもカイル達と並んで見ていることはできなかったのだ。しかし、眼をそらすこともまたできなかった。

彼の愛を。彼の罪を。

しっかりと瞼に焼きつけなければならない。
吐き気がこみあげてきたが、彼はそれを無理やり押さえ込んだ。
両の目に、いままでこらえていた涙があふれようとする。
薄く開けた唇から大きく息をつき、その涙をもぐっと押さえ込んで彼は思った。

彼女は泣けない。
彼女は感じられない。

そうしたのは自分なのだ。


未来永劫、もはや自分に泣くことは許すまい。
彼女が癒されて本来の自分自身を取り戻す、そのときが来るまでは。

窓枠に両の手をつき、彼の長身は小刻みにふるえていた。
涙の涸れ果てた青灰色の瞳が、まばたきもせずに愛する人の姿を見つめる。
死ぬことも狂うことも泣くことも、彼は自分に許さなかった。
そんな権利は自分にはない。

ただ生きよ・・・・・・来るべき罰のすべてを負うために。



彼女がこれ以上苦しむ必要はない。

もう充分だ。



痛みが必要ならば我に与えよ。

苦しみが必要ならば我に与えよ。

すべての責は我が背に課したまえ・・・・・・





愛していた

愛している


永遠に





 神 よ

























----------

◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第一部 目次




拍手がわりに→ブログランキング

☆ゲリラ開催☆ 5/7~5/10 満ちるウエサク一斉ヒーリング

5/12 一斉ヒーリング~地球へも感謝をこめて~



関連記事

Comment_form

Comment

Re:【銀月物語 40】 天使の子 -残照-(05/09) 

おはようございます

・・・切ないですね・・・
読ませて頂いて、あまりにも切なくて涙が出てきました
そんな出来事を抱えてこられたのですね。。。
トールさんの苦しみ、哀しみ そして大いなる愛を感じます。
勇気ある彼女だからこそ、その役目に選ばれたのだと思いますが
あまりに・・・切なすぎます・・・><
  • posted by クローバー水 
  • URL 
  • 2009.05/09 10:40分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月物語 40】 天使の子 -残照- 

ここから動きだせません。。コトバには表現できません。。思い出せてよかったですか??うえからのプレゼント。。?
いろいろなことがつながってはきてる気もするのですが、、まだまだデス。。(>_<)
  • posted by 睡蓮 
  • URL 
  • 2009.05/09 11:21分 
  • [編集]
  • [Res]

もう… 

涙がぼろぼろ、ぼろぼろ、です。。。

  • posted by mai 
  • URL 
  • 2009.05/09 11:55分 
  • [編集]
  • [Res]

胸が痛いです。 

いつも読ませていただいています。
このお話が、物語であればよかったのに...。
さつきのひかりさんが、なぜ一斉ヒーリングをされているのかというところにもつながるのでしょうか。
さつきのひかりさんが、どんなに物語を書くのがすきだといわれても、多分身を削って書いておられるのだと思います。
こうやって更新してくださること、感謝いたします。
さつきのひかりさんのヒーリングなしでは読めない物語ですね。
いつもはちがうHNですが、うけさせていただいてます。ありがとうございます。
  • posted by hotcake11 
  • URL 
  • 2009.05/09 11:56分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月物語 40】 天使の子 -残照-(05/09) 

ああ~、そうなんですね。そうだったのか。。。と、
一人パソコンの前でうめいてました。

トールと緑じぇいど♪さんの抱擁は、じぇいど♪さんが書かれていたように、
本当に化学反応のようなものだったんですね。
物語を拝見して、腑におちました。
気が遠くなるほど長い間、離れていた魂同士の邂逅ですもんね…。

最近、今ここに生きていることを幸せだと感じることが多くなりました。
この場所で、この自分で、この時代にいろんな方に会えることを。
さつきのひかりさんとの出会いに感謝☆です。。
  • posted by ふゆ 
  • URL 
  • 2009.05/09 12:09分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月物語 40】 天使の子 -残照-(05/09) 

いつもヒーリングでお世話になっております。

一番最初に緑じぇいどさんやトールさんが、ブログに登場した時には、ここまで悠久の物語が紡がれていたなんて全く想像してませんでしたので、この邂逅の瞬間に一読者として自分も立ち会えたのは、すごいことだなあと思いました。

こうやって緑じぇいどさんが記憶を取り戻したということは、もう戦いの天使である役割からは解放されるべき時代が来たということなんでしょうね。

じぇいど♪さんもブログ書かれている通り、自分の死の危険を身近に感じることなく、衣食住に満たされ、真冬でもアイスクリームが楽しめる♪現在というのは、人類が何万年も夢見てきた天国の具現なんですよね。本当に感謝しないといけませんね(汗)
  • posted by みっつあん 
  • URL 
  • 2009.05/09 13:08分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月物語 40】 天使の子 -残照- 

ずっと涙ボロボロで読んでいました…トールさんが何故恐怖や痛みもなく戦う為だけのグラディウスの人生を選んだ理由が良く解りました(/_;)…緑じぇいど♪さんの改造された苦しみと全く同じ苦しみを味わっていたんですね…今世、2人がツインだった事を思いだせて本当によかったと思いました♪思い出すのには大きな痛みが伴いますが…でも結果的によかったと思います
  • posted by マッキー 
  • URL 
  • 2009.05/09 13:12分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月物語 40】 天使の子 -残照- 

何か伝えたい、と思ったのに…頭の中が真っ白です…ごめんなさい。
ただただ、やっと今、二人が結ばれてくれて、嬉しいです。
ありがとう。
  • posted by 舞姫 
  • URL 
  • 2009.05/09 15:00分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月物語 40】 天使の子 -残照-(05/09) 

大変な、お辛い経験をされましたね。
読みながら胸が締め付けられ、涙があふれ、
何故こんな計画をと怒りも込み上げ、複雑な心境です。

これが上に通ってしまうくらい劣勢だったのでしょうが、戦いにどう影響を与えたのでしょうか。
結果必要な計画であったと言えるのでしょうか…。

今は「光も闇もない」世界へと向かっているそちらの次元も、辛い悲しい時を刻んできているのですね。
  • posted by JUNO 
  • URL 
  • 2009.05/09 17:21分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月物語 40】 天使の子 -残照-(05/09) 

胸が痛いです~><
わたしの中もなんだかざわざわしています;;
最初から物語ゆっくり読ませていただきますね☆
たくさん足跡ついちゃったらごめんなさい。
  • posted by *花音色* 
  • URL 
  • 2009.05/09 21:45分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月物語 40】 天使の子 -残照-(05/09) 

ひーん
私は多分、その断片を・・・
火曜日の一斉ヒーリングの中で
映像を見ています・・・意味が分からず・・・それだったんだ。だから3期生なのかもしれないけど(ToT)
  • posted by 紫ふぁんとむ 
  • URL 
  • 2009.05/09 22:21分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月物語 40】 天使の子 -残照- 

…妙なハナシですが。
今回のGackt氏のTOURの予習コンテンツに有るストーリーの内容が、
根底に流れる部分で、非常に…近しい印象を承ける、筋立てに生って居るので、
LIVEにも行って来た…ひとりとしては、
『重要な意味を宿すメッセージ』として、考えさせられるモノが有ります。
然も、上が用意した“最大のギフト”として、紐解かれ、明かされた『記憶』で、
手繰り寄せられたモノで在るだけに。
◇そして、私(ユディア)自身も、
徐に…以前より考え続けて居た[設定]の『思い描かれても無かった場面』が、
突然に、鮮やかに、詳細に浮かび挙がって来たり…をして居て(个_个ι)
其の久方振りの[物語]の展開振りに、少なからず、驚いて居たりをしつつ…も、
半ば、識って居たハズの[過去]を思い返して居る様な…そんな気分を味わい乍ら、
複雑な心境に借られて居ります(亞x亞。)
  • posted by ‡You_Dear_Light‡ 
  • URL 
  • 2009.05/10 04:43分 
  • [編集]
  • [Res]

天使の子 

1回読ませていただいて、
もう一度時間を置いてから読もうと思ったけれど、
もうつらすぎて読むことができませんでした。。。
これだけのつらい思いを文章に落とし込むのは、
そして自分が過去に経験したことだとリアルに分かってしまうことは、
どれだけ身を削るような、
つらいという言葉ですら言い表せないような思いをなさったか…

胸が痛いです。

そして、これを文章にして読ませてくださって、
ありがとうございます。
  • posted by フランチェスカ 
  • URL 
  • 2009.05/10 04:49分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月物語 40】 天使の子 -残照- 

初めまして、じぇいど♪さんのところから来ました。
頑張って物語に追いついたのは良いのですが、
これから長編に入るっぽい雰囲気に、
未だ目玉がギンギンしてます・・・(笑)。

ところで既視感について、
実は私も~とちょっと自己主張をば。。
銀巫女様あたりが、
長年温めていた小説ネタ(←行動力皆無)と
若干設定が被って大興奮です。
記念にイラストでも!とか思ったのですが、
私の銀巫女様(?)は公序良俗にひっかるので
やめておきます(恥)。

という訳で、
スピ系経験値ゼロな私ですが、
この物語にはとても興味津々です。
過去生回帰の記、楽しみにしてますね。
頑張って下さい。
  • posted by ミズチ 
  • URL 
  • 2009.05/10 09:16分 
  • [編集]
  • [Res]

私は… 

天使方に対抗する魔方に堕ちた元天使です。恐らく、トールさんやルシオラさんと剣を交わり合わせた事があるのかもしれません。今は、光りの天使に戻っていますが、当時の記憶はほとんどありません。つらすぎる記憶から逃れて、魔時代に産んだ愛する子どもを見捨ててしまうような行動をとることもしていました。
和解したいと思います。当時の天使方として戦った皆様へ。何度もこれを読んで涙が溢れてきます…ごめんなさい。ありがとうございます。
  • posted by ユイ 
  • URL 
  • 2010.10/25 20:57分 
  • [編集]
  • [Res]

ご案内

Moonlight

Counter

ブログ内検索

Calendar & Archives

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

MONTHLY

Profile

さつきのひかり

Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

エンジェルリンクファシリテーター、
レインボー・エナジー・フレイム(REF)
ルシフェルの翼Calling You 開発者。
プロフィール詳細

コメントレスはできたりできなかったりで、のんびりですみません^^;
お手紙はこちらのフォームから。
土日はPCに触れないことが多いので、メールのお返事は平日になります。

携帯(ガラケー)版スマホ版



Twitter
Instagram

New entry

Twitter



Ranking

右サイドメニュー

QRコード

QR