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【銀月外伝】 宵闇の祈り ~ マーガレット、愛しいメグ 3

 そうして、あたしは銀髪のおじさまのお屋敷へ来たの。

 誰も捕まえたり退治したりしないって言われたとおり、お屋敷の中はとても穏やかだった。
 たくさんの存在がいて、人じゃないものも多かったけど、誰も誰かを責めたり、自分と違うからって追い出そうとしたりもしなかった。

 おじさまは、君の家に似ているほうがいいだろうと言って、たくさんの薔薇に囲まれた小さいほうのお屋敷にあたしを連れてきた。
 もとのおうちにそっくりな階段がちょうどあって、そこの踊り場の小さな飾り台に、あたしのフィドルと人形のかけらを大事に置いてくれた。
 だからここがあたしの居場所。

 誰かが階段を通るたび、あたしは立ち上がってぴしっと背筋を伸ばすの。
 もうどこに出しても恥ずかしくないね、一緒に旅行にも行けるねって、とうさまとかあさまに褒めてほしいから。

 ほかのことはあんまり覚えてない。
 自分にもう身体がないんだって、ようやく気づいたのもずいぶん経ってからだった。

 おじさまが拾ってきた他の子、その子は身体があったみたいで、あたしのことを気味悪そうな顔で見たの。
 いつもみたいにぴしっと立ちながら、最初はどうしてそんな顔するんだろうって思ったのよ。顔やドレスに何かついているのかしら、そうしたらお行儀が悪いと思って探したけど何もなくて、それで気がついたの。

 だけどお屋敷の中にはそんな存在がいっぱいいて、ちっとも寂しくなかったわ。
 いきなり壁から現れるやつもいたし、あたしみたいに、どこか決まった場所にずっといる幽霊もいるみたいだった。(ようやく気づいたのか)って、待っていたみたいに話しかけてくる存在もいた。
 あたしは「ちゃんとする」ことに大忙しで、あんまり暇はなかったけれど、それでもたまに話をしたわ。


 時々おじさまが、大きな手で頭をなでてくれた。
 おじさまは人間みたいに普通に身体があるのに、手はあたしを通り過ぎないでちゃんと撫でられるの。
 あったかくて、とても大きな手。
 あたしはその手に撫でてもらうのが大好き。

 おじさまはあたしを撫でた後、その長い足を折って顔を覗き込んでくることがあった。
 そして優しい蒼い目で言うの。

「マーガレット、可愛いメグ」

 あたしはそう呼んでもらうのも好きだった。とうさまとかあさまに、大事に呼ばれたことを思い出すから。
 だけど、とうさまみたいに愛しいメグとそのまま呼ばれるのはなんだかなんとなく嫌というか、おじさまのことは大好きなのだけれど触ってほしくないというか、そんなぐちゃぐちゃした気持ちになっていた。
 おじさまはそれを言わなくてもちゃんとわかってくれていたみたいで、必ず「可愛い」と言い換えて呼んでくれた。それもあたしは嬉しかったの。

 おじさまは、あたしが「ちゃんとする」ことにばかり気をとられていると、フィドルで子守唄を弾いてくれた。もちろん歌もつけて。
 その歌の中でだけは、愛しいメグって言われることが嬉しい。とうさまが歌ってくれたときみたいに聞こえるから。
 おじさまはあたしの頭を撫でて、いつもこう言うの。

「マーガレット、可愛いメグ。頑張らなくていいんだよ。『ちゃんとしなきゃ』以外の君の本当の望みがわかったら、行きたい場所に送ってあげるからね」

 望み? 望みってなんだろう。
 ちゃんとしてぴしっとして、とうさまとかあさまに褒めてもらうことじゃないのかな。そう思うんだけど、おじさまは微笑むだけでそれ以上は教えてくれない。
 そうして急かされることもなくて。
 あたしは時の止まったようなお屋敷で、毎日前を通る人にぴしっと背筋を伸ばして、ちゃんとしなきゃと思って、……思い出したようにときどき、おじさまの言葉について考えた。

 とうさまとかあさまに関係することだっていうのはわかるの。
 だけどまだ、どうしたらいいのか、どうしたいのかはわからない。
 あたしは身体がなくてゆらゆらと薄くて、何かを考えているのはとても難しいの。

 でも、たまに……そう、たまに、ヒースの丘に立ちこめた霧の向こうに、きらっと何かが光ったような、そんな気がすることがある。
 見つけたと思った次のときには、もうどこに行ってしまったかわからないんだけれど。

 あるときそれをおじさまに言ったら、大丈夫、そのうちちゃんとわかるよ、って笑ってくれた。
 そして、そうやって探そうとしているだけで偉いんだよ、って褒めてくれた。

「望みを見つけるということは、その人自身の魂の軌跡と輝きを見つけるということなのだよ」

 おじさまの言葉は難しくてよくわからなかったけれど、あのきらっと光る何かは、あたしの心の中にあるんだって。
 光っているのは、外にあるんじゃなくてあたしの心が光っているんだって。
 霧の向こうにかすめた光はまだ小さかったけど、とても綺麗だったからあたしはすごく嬉しかった。

(おじさま。あれはとても綺麗だったから、いつかとうさまやかあさまにも見せたいの。あたしが色んな景色を見せてもらったみたいに。できるかしら?)

 思いついてあたしは聞いてみた。
 するとおじさまは、いっそう優しい瞳になって言ったわ。

「できるとも。君は優しい子だね。マーガレット、可愛いメグ、君のご両親は、きっとそれをとても喜んでくださると思うよ」

 あたしはにっこり笑った。
 今度はあたしが、とうさまとかあさまに綺麗なお土産をもってゆくのよ。なんて素敵なんでしょう。


 人は、身体が最後に握りしめていた気持ちに引きずられてしまうことがあるんだって。
 だからあたしは、「ちゃんとしなきゃ」ってぴしっとすることに、いつも心のほとんど全部を占められてしまうの。

 だけどこのお屋敷に来てからは、そうじゃないものも時々積み重ねてゆけるようになった。
 壊れた時計みたいに同じ時間にいるんじゃなくて、ほんの少しずつだけど、ちょっとずつ変わっているの。

 おじさまはそれでも待っていてくれる。
 とうさまとかあさまに持ってゆくお土産のことを、時々しかあたしが思い出せなくても怒ったりはしない。
 そうやって、たくさんの存在を拾ってはその人の時が動くのをおじさまは待っているんだって、ずいぶん季節が過ぎてから気づいたの。

 行き場のない存在を拾っては、ただ世話して送り出す。
 おじさまはそういうことをずっとやっているんだって、お屋敷のガーゴイルが言っていたわ。
 酔狂だよな、って。

 スイキョウってなあに、と聞いたら、ガーゴイルは眉をしかめて黙ってしまった。
 へんなの。

 でも、誰もおじさまのやり方を非難しようとはしない。
 お屋敷の中はとても居心地よくて、皆おじさまのことが好きだから、お小言みたいな文句は言っても諍いが起こることはなかった。


 薔薇の香りに包まれた、そんな穏やかなお屋敷で、あたしはどこか安心してゆっくり毎日を積み重ねていったの。
 いつかの、あたしのことを気味悪そうな顔で見た子は、いつのまにかすごく大きくなって背が伸びて、そのうちに髭をはやして、おじさまの歳を追い抜いていったようだったわ。
 人ってとてもめまぐるしいのね。

 ほかにも「生きている」人がお館にいることもあって、女の人も見たことがある。話をしたこともないけれど、ちょっとかあさまに似ている気がしたの。顔も髪の色も違うんだけれど。
 銀髪のおじさまがその人にだけ向けるやさしい瞳があって、それがとうさまがかあさまに向ける瞳みたいだったわ。
 だからかあさまを思い出して……だから、ふたりが並んで階段を通るときには、あたしはいっとう気合を入れてぴしっとしたの。だって今度こそとうさまとかあさまに一緒に連れて行ってもらえるかもしれないじゃない?

 あたしの記憶はいつもそこで止まる。
 とうさまとかあさまに認めてほしい、その大きな想いが出てきたら、ほかのことは何もわからなくなってしまうから。
 
 だから銀髪のおじさまとあの女の人がどうなったのか、あたしは知らないままお空へ行った。
 でもとうさまとかあさまがずっと仲良しだったように、いまでも仲良しだったらいいなあと思うわ。
 そうしたら、きっとおじさまはもう寂しくないから。









(おわり)



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◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆【外伝 目次】


「マーガレット・愛しいメグ」三部作はこれにておしまいです。
吸血鬼だけどやってることはいつもと変わry…
まぁ同じ魂の人ですからね←

この吸血鬼氏、じつは昔に一度だけイベントに出たことがあります。

【銀月外伝】 月の森のティールーム ~準備編~
【銀月外伝】 月の森のティールーム ~本番編~

ブリッジのリチャードさんを補佐していたので、お客様の前には出ていなそうですけれどもね。
記事の日付見たら10年前ですって… まじか。。






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NoTitle 

おじさまかっこいいなぁ。

マーガレットちゃんもお空には行けたんですね。
  • posted by ぽちょる。 
  • URL 
  • 2021.12/02 11:56分 
  • [編集]
  • [Res]

NoTitle 

メグちゃんのゆらゆらと浮いたような視点がとてもリアルというか、本当にこんな感じなんだろうなと、ゴーストさんの内面を体験したような気がしました。メグちゃんはこの館で長い時をゆっくりゆっくり慈しんでもらって最後にはお空に還っていけたんだなと優しい気持ちになりました。おじさまにも素敵な方がいたようで良かったです。
ティールームの舞台裏の物語も、背景を知ると更に美味しくなっていました。ごちそうさまでした。
  • posted by あおいそら 
  • URL 
  • 2021.12/04 23:25分 
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  • [Res]

 

銀のお方はアンデッドになられてもやっぱり銀の方で、あぁ良かったねメグちゃん。良い方に出逢えたね。そこでゆっくりと自分自身に還って行けるんだね、、とほっとしました。銀のお方の大切な人との物語もあるのでしょうか。その人だけに向けられるという優しい瞳の物語もまた語って下さると嬉しいです。
  • posted by unknown 
  • URL 
  • 2021.12/05 21:17分 
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上記匿名は前回匿名と同じくうめたろうでございます。
失礼致しました(_ _)

追伸 ガ━ゴイルちゃん好きwww✨
  • posted by unknown 
  • URL 
  • 2021.12/06 12:14分 
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あかん・・・(¯―¯٥)
  • posted by うめたろう 
  • URL 
  • 2021.12/06 12:16分 
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素敵です 

マーガレットちゃん、
ひとりぼっちでなくてよかったです

月の森のティールームのお話も素敵です
宵闇の祈りってヴェスパタインさんのことでしたか〜
ふ、深い〜!!気づいてなかったのは私だけ?
素敵な物語をありがとうございました❣️
次の物語も楽しみにしています✨
  • posted by 青いリボンの猫 
  • URL 
  • 2021.12/06 16:38分 
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  • [Res]

Re: 素敵です 

>ぽちょる。さん
かっこいいと言っていただきありがとうございます✨
永遠に近い時間を、彼はけっこう有意義に使えていたのかもしれません。笑



>あおいそらさん
ティールームの時点ではこっちの話はまだだったので、意味不明なままに押し切ってましたもんね… ←
美味しく召し上がっていただけて何よりですw
いつかリチャードさんの話も出せると良いのですが。



>匿名うめたろうさん
女の人との物語、じつは一話書きさしがあるんですけど、とーとつにブチっと切れてるのでどうにかしないと出せなくて(爆
そこをどうにかしても話がはじまった段階で終わってしまうのであと何話か書けないと、、、
…書けるといいな~~。。



>青いリボンの猫さん
そうです、ヴェスパタインのことでしたw
この人はさすが吸血鬼というか、ほかのアルディアスやトール達とはちがう、ほの暗さを纏っているんですよね。
またいつかお目にかかれますように🌈

  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2021.12/12 18:28分 
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