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【陽の雫109】 Trumps 2

「…ってわけで、南部のメソラ湖の近くの坊主らしいんだけど。おふくろがえらい心配してっから、俺も遊びに連れ出すくらいはしてやろうかと思ってさ。あー、名前何てったかな」

年末進行の書類を書きあげて上司に届けつつ、セラフィトは首をひねった。人の名前を覚えるのは昔から苦手だ。
アルディアスは銀髪をかきあげて旧友を見上げた。

「訓練所に入ったのはいつ?」
「おふくろが聞いた時点で二日後とかだって言ってたからな。多分、昨日とか一昨日とかなんじゃねえか……すまん、電話で聞いてくるからちょっと待ってくれ」
「いや、大丈夫。ここ半月で南部のメソラ湖近くからの子は一人しかいないはずだからね。多分あの子だと思う……今日は公休日で訓練も休みのはずだし、帰りに寄ってみたら? ルカに話を通しておくから」

自分も仕事が終わったら寄るから、という笑顔に見送られて、セラフィトは中央大神殿の南門に来ていた。冬祭りの警備に立ったから出入り口の細部も知り尽くしているが、サイキックの訓練は地方神殿で受けた程度であるから、客として神殿区域に入るのは物珍しく、柄にもなく少し緊張する。

だいたい、「亡くなった叔父の奥さんの再婚相手の妹の子供」なんてこちらは母親の雄大な身内感覚のおかげで「叔母の甥っ子」くらいに思っているが、先方が本当に頼りにしてくれるかはわからない。
アルディアスやルカと知り合いだし中佐の肩書きも持っているから、身元を疑われることだけはなさそうなのが救いだった。

そういえば軍服のままで来てしまったが良かったのだろうか、と気がついた時にはすでに応接室で、目の前のソファにはライキという少年とその母親がちんまりと座り、横にはルカが立っている。

「あの… 義姉からお話は伺っていたのですが、本当に来てくださったのですか」

簡単な自己紹介のあと、口火を切ったのは母親だった。息子に良く似た目元を丸くしているところを見ると、かなり驚いているようだ。

「血縁はないとはいっても、俺の母親は親戚の子供という認識をしてますし、何かお役に立てればと思って。男の子ですし、時々遊びに行ったり、しないか? そういうのは許されてるんだろう?」
「いく!」
「ええ、問題ありません。一応、行き先を担当巫女に伝えてくださいね」

台詞の半ばはさっきから眼を輝かせていたライキに笑顔で、終盤はルカに向けたものだ。ひそかに心配していた怪しい人扱いは、ルカからの連絡が行き届いていたことと彼本人が顔を出してくれたことで杞憂となった。

「すみません、ありがとうございます。この子の事を頼めるような知り合いがセントラルには居なくて……。私も家のことがありますので、ずっとついているわけにはいきませんし」

母親が恐縮の態で頭を下げると、元気な声が横を向いた。

「おかーさんおうちにかえっても、ぼくへーきだよ! ししょーも、おともだちもいるもん!」
「弟妹やら従兄弟やらのやたらと多い家にいましたから、セントラルでは少々寂しかったくらいです。どうぞお気になさらず。……よしよし、ライキは強い子だな。母さん困らせなくて偉いぞ」

にかっと人好きのする笑顔を母親に見せてから、少年の頭を大きくて厚みのある手でがしがしと撫でてやる。ししょーとも知り合いの豪快な青年をライキは信用したらしく、やわらかい茶色の髪をくしゃくしゃにされながら嬉しそうに笑った。

そこへノックの音がして、現れたのは上着を神官服に着替えたアルディアスだ。
ライキの遠耳そのものは神殿内でコントロールされているが、冬祭りに見たものの悪夢はいまだ見ることもあり、その内容を誘導催眠で聞きだした後、子供を恐れさせるだけのものならば忘れさせるというセッションの予定があるらしい。
南部から神殿に向かう列車の中からそれは母親と話し合われ、子供のためにはなるべく早くがいいと思われたが、ライキが少しでも神殿に慣れてからが良いだろうと、今日まで日を待っていたということだ。

銀髪の男と挨拶を交わした母親は、昔を思い出したのかちょっと眩しげに眼を細め、アルディアスはうっすらとした記憶のおもかげをルカからの報告書でおぎなって、ライキ君は任せてください、と微笑んだ。


誘導は医師資格のあるアルディアスが行う。
来客スペースからサイキック暴発にも対応できる遮蔽室へと移動し、母親は手前の廊下の椅子へと腰をおろした。ライキが耳にした内容が軍事機密と思われるためだが、母親と離れることになっても、ルカに手を握られた少年は怖がる素振りを見せず、大人たちを安心させた。

当初はアルディアスが兼ねる予定にしていた軍からの代表を、ちょうど軍服を着たままのセラフィトが務めることにする。
壁にオフホワイトのクッションパッドの張られた何もない部屋には小さな音でハープのBGMが流され、丸いフォルムの大きな白い肘掛椅子が隣の物置から運ばれて中央に据えられた。
大きな椅子に埋もれるように座ったライキの膝にはふわふわの毛布がかけられ、手元には小テーブルとジュース。

ライキの横、湾曲している椅子の背に隠れて少年には見えない場所に机と椅子を出して記録係が座り、反対側の顔の見える壁際の位置にセラフィトが陣取る。ルカは斜め後ろから背中を守るように立ち、アルディアスは斜めに少年に寄り添うような位置に座った。ちょうどセラフィトから、銀髪の背中越しに少年が見える感じだ。

少し照明を落とし、椅子を倒すと、小柄なライキはもぞもぞ動いて位置を調整し、座り心地のよさにほっと息をついた。

「準備は良いかい? ……じゃあ、ゆっくり目を閉じて。そう、上手だね。そうしたら今度はゆっくり息をしてみようか。ゆっくり吸って……美味しくてキラキラした空気がライキの中に入っていくよ。はい。吐いて……今度は吐くと体がどんどん重たくなる。寝る時に布団に身体が沈む時みたいにね。吸って……吐いて……。そう、とても気持ちがいい。だんだんふわぁっとしてきて、ライキは目を閉じたまま何でも見えるようになるよ。そうだなぁ……お祭りの日にしようか」

ゆっくり、穏やかな声によってライキの意識が過去に誘導されてゆく。セラフィトは興味津々の態で友人と少年を見やった。

「ライキ、君は今どこにいる?」
「おまつり。みんなとならんでる」
「何に並んでるのかな」
「アメ! おまつりの時にしか食べれない、おいしいアメがあるの」
「そう。隣に誰かいるかな」
「おかあさん」
「お祭りはどうだい?」
「おみせがいっぱい出ててね。どれも見たことないの。おもしろいのがたくさんあるんだよ。
とおくにね。キラキラした石のあるおみせがあってね。きれいだな〜って見にいったの。赤とか青とか、おほしさまみたいなもようの入ったのとかあってね、キラキラきれいなんだよ。おみせのおじいさんもね。見てっていいよーって。でもね。おかあさんにみせようと思ったら、おかあさんがいないの」

祭の様子を聞かれて楽しげに説明しだしたライキの顔がくもる。アルディアスの落ち着いた声が続いた。

「そう、お母さんがいなかったんだ。隣にいたのにね」
「おかしいな〜と思ってまわりを見たんだけど、人がいっぱいいるからわからないの。とおくでね、ぼくのこと、よんでる気がしたんだ。だから、おみみをすましたの。ライキーライキーってよんでないかなって。そしたらね。バチンってすごい音がしたの」
「うん、バチンって凄い音がしたんだね。びっくりしたねえ。それから何か聞こえた?」

ルカに目配せして、柔らかなトーンの声のまま尋ねる。ライキはかすかに眉を寄せた。

「んっと……おまつりにきて、たのしいなとか、きてよかったねとか、きれいだねって高いおと」
「きれいな音だね。それから?」
「そういうのにまじって低いおと……ちょっと暗いいろなの。ちかちかって声がするばしょがいくつかあって、三人くらい、ぼくのちかくから声がするの」
「そう。なんて言っていたかわかるかな」
「『ゆるさない』って。こわくなって目をつぶったら、こどもがいっぱいいたの。でもみんな、おめめがへんなの。ばらばらなお人形みたいなの。『かえりたい』って泣くの。だいじょうぶだよ、ぼくもまいごなんだ、みんなさがしてくれるよ。っていうんだけど、聞こえないみたいなの。ちょっとこのへんがきもちわるくなっちゃって」

ちいさな手が胸のあたりをさする。大きく温かな手でその手をくるんで、アルディアスが先を促した。その背後ではセラフィトが内容に顔をしかめている。
ライキはほっと息をつき、温かく大きな手を感じながらひとつ深呼吸した。

「んー…よくわかんないけど、びこうとか、ついせきとか、こうわんとか、いろいろ……ずううんって、おもたいの。つかまえて、暗いとこでばらばらにしてやるって、ぼく、こわくて」
「怖かったね……怖かったこと、全部吐き出してしまおうか。ライキ、目の前にお家の暖炉を思い浮かべてごらん。要らないものをじゅわっと燃やしてくれる、大きな暖炉だよ。怖いものは君から出して暖炉にくべて、全部きれいに燃やしてしまおう」

暖かな家の暖炉を思い出したのか、ライキは目を閉じたまま笑った。しばらく他にも見えたり聞こえたりしたものはないかと探ってみたが、これで全部のようだ。不要な記憶を暖炉で処理してしまってから、アルディアスは誘導を今ここへむかう帰還へと切り替えた。

「さあ、これで怖いものはライキの心から消えてしまったよ。まずお母さんのところへ戻って、それからここに帰ってこよう。お母さんには会えたかな?」
「んっとね…… きゅうにからだがガクガクゆれて、ビックリして目をあけたら、おかあさんと石のおじいさんがぼくをのぞきこんでたの。おまつりって、こんなにおとが大きかったっけって思ったんだけど、うるさいからかえりたいって言ったんだ。でも、ずっとずっとおとがおいかけてくるんだ」
「そう…大丈夫。要らないものを綺麗にして、ライキはとてもいい気分でここへ戻ってこられるよ」

「……みんな、かえれたのかな?」

つぶらな瞳をぱっちりと開けた瞬間の発言に、事情を知る大人たちは一瞬息をのんだ。安心させるように、アルディアスが微笑みを浮かべる。

「そうだね…、迷子はみんな、お母さんやお父さんのところに帰れるように私達が案内するからね。きっと大丈夫だと思うよ」
「そうだよね。よかった」

ライキはにっこり笑ってストローをくわえ、勢いよくオレンジジュースを吸い上げた。










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Re: 【陽の雫109】 Trumps 2 

物語の更新ありがとうございました。
1日のうちに読み終わってましたが、その後自宅外だったので、
感想遅くなりました。

セラフィトさんがめっちゃいい人で一人置いていかざるをえない、ライキ君もなついているので、ライキ君のお母さんは少しは安心してお家に帰ることができて、生活できたのかなぁ、と思いました。

そして、こちらの子供の日の前に、ライキ君の心の負担が取り除かれたのでほっとしました。
暖炉のところは『こんな風にイメージすればいいのかと』思ったり…。(いつももっとキツイ火をイメージしてたので。)そして、ずっと『オレンジジュース』が頭の中をかけめぐってます。
  • posted by ぽちょる 
  • URL 
  • 2015.05/06 20:59分 
  • [編集]
  • [Res]

Re: 【陽の雫109】 Trumps 2 

ものがたりの更新をありがとうございます。
もしかして。。。と思っていたら、やっぱりライキ君でした!
怖いものを手放せてよかったなぁ、となんだか私までホッとしました(^^)
  • posted by あんず 
  • URL 
  • 2015.05/07 22:18分 
  • [編集]
  • [Res]

Re: 【陽の雫109】 Trumps 2 

遅ればせながらですが・・・・ライキ君だぁ!!^^
(ししょーが好き。ししょーって💛)
でもどうなるんだろう・・・・?
こどもを使われるのが いちばんこわい。。
みんなおうちにかえれますように!!
続きを楽しみに ゆっくりとお待ちしてますので。
  • posted by うめたろう 
  • URL 
  • 2015.05/12 09:05分 
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  • [Res]

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物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
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