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【陽の雫107】 白のぬくもり 3

一行が中央大神殿についたのは、昼をすこし過ぎた頃だった。
ライキにとってここは、年に一度農閑期に地域の子供会でバスをしたててきて、冬祭りの飴を貰い、出店を楽しむためにやってくる場所だ。今年はさらに夏の大祭にも、アルディアスの幼馴染である大人たちと一緒に礼拝堂に入れてもらっていた。それなりに遠い場所であるから、まさかもう一度今度は訓練所の生徒となって門をくぐろうとは思ってもみない。

物珍しそうにしているライキを訓練所ロビーの椅子に座らせ、入所手続の用紙を母親に渡すと、宿泊所の確認と微妙な時間で食べ損ねた昼食の手配をするからとルカが席を外した。
しばらくきょろきょろしていたライキは、受付嬢に説明をきいている母親の背中をちらりと見てから、ルカが姿を消した方向を目で追う。
それは訓練所の入り口とは反対方向の廊下の端にあるドアで、宿泊棟や神殿の方向に開くのだが、もちろん少年は知らない。

ただ自分の『ししょー』が行った先が気になり、追いかけてみたかった。どうせ今日からはこの敷地内に住むのだし、たぶん、泊まりはあのドアの先のどこかに案内されるのだ。皆忙しそうだし、待ってる間ちょっと探検してみよう!

脳内で理屈が走り始めると胸がうずうずし、いてもたってもいられずに立ち上がる。母親は資料を見ながら受付嬢に質問をしているところで、二人とも少年のことなど視界に入っていなさそうだ。
受付カウンターはライキの背よりも高かったが、気分的に少し背をかがめて前を走り抜けると、一直線に廊下を走った。

飾り気のない内部の連絡通路用のドアは、この時間鍵もかかっていない。わくわくして押し開けた先には、両側に畑や花壇がひろがり、屋根付きの渡り廊下が誘うように少年の前にのびていた。
師匠はどこだろうかとあたりを見回し、渡り廊下を走って途中から芝生に降りて奥を目指す。遠くに白い袖がひらめいたように見えたのだ。

しかし、渡り廊下の敷石から降りて二、三歩のところで、ライキはうずくまってしまった。
彼は知らないことだったが、冬至から新年にむけて、すでに中央大神殿では大神官による神事が段階的に行われている。訓練生の通る渡り廊下に関してはあらかじめシールドが張られているのだが、そこを外れると濃厚な神事の気が周囲を満たしていた。

神殿に充満する気は、いままでのどこのものとも大きく違っていた。
悪口が聴こえる等ではないのだが、鋭敏になりすぎているライキの感覚器官に、それはずっしりと重く濃密な気配と、高らかな超高音を同時に脳内に響かせられているような錯覚を起こさせる。

また当然そのハプニングは、神事を行っていたアルディアスの感覚にも捉えられていた。昨日今日と、ルカが南のほうに子供を迎えにゆくという報告は受けている。震えるちいさな小リスの感覚を受け取った時、ふとかすかに懐かしい郷里の匂いがしたのは、神事で広がった心ゆえであろうか。

(……)

言葉にならない心話、あえて文章に訳すならば、(奥庭の近くに迷い子がいるよ、連れてきた子だろう?)というようなニュアンスの波が、ほんの一瞬ルカの心に届けられる。

その数瞬後、まったく予想しない混乱に押しつぶされるように上げた少年のかぼそい悲鳴も、ルカはしっかりと心で聞き取った。
顔色を変えて駆け戻った長身に抱き上げられ、渡り廊下に戻って宥められながら、わけもわからずライキは泣き叫ぶ。

「おんなのひとがぁ!!」

うわあああん、と言う嗚咽に混ざった言葉にルカは少し首をかしげ、それからすぐにまじまじと腕の中の少年を見つめた。

(星の女神……? アクセスしたのか? 神事の最中で奥宮に近いとはいえ、これは……)

神事のとき、神や女神の存在は近く、濃くなりまさる。
神官修行をしている者ならばそれはすぐに感じ取れるが、なんの鍛錬もしていない者が受け取るには、その波動は高すぎて触れられないか、触れても特徴の判別までは至らなかったりする。

これほどの強度であれば、冬至の人混みの中で、誘拐や囮捜査の片鱗を聞き取ったというのもうなずける。信じていなかったわけではないが、あらためてその強さとコントロールの必要性を見せられた気分だった。
冬でも深い緑陰の奥、普段のトーンとはわずかに違う声が、ルカの心に話しかけてくる。

(強い光だ。その子は、いつかそなたを照らすだろう。その能力によらず、一途な心によって)
(ア…、いや、神よ……)
(慈しめよ。世界を照らすやわらかき心たちを)

言葉の終わりとともに、錫杖が床を打つ澄んだ音がルカの脳裏に鳴り響く。
ルカは思わず、泣いている少年を腕に抱え直した。この子たちは、世界を……未来を照らし、担ってゆく次世代だ。彼らのために、どれほど今が理不尽であっても、今の大人たちが戦いのない日々への道をつけてゆかねばならない。

ルカが心に想いを新たにしたとき、神事を終えて奥宮から現れた銀髪の大神官が、渡り廊下にいる二人を見つけて微笑んだ。



あれから半月。
ライキはだいぶ神殿にも慣れ、年末に母親が帰っても平気な顔をして、むしろルカや友達と一緒にいることを喜んでいるようだ。

「あの時はいろいろあったねえ…、車の中では、抱っこしてたらそのまま寝てたし。今も寝てもいいよ?」
「ね、ねないですっ」

くすくすと笑いながらホットミルクを手渡すと、少年はちいさな手のひらで適温のマグを包みこみ、栗色の頭を照れた顔を隠すようにルカの胸に押しつけた。

自分勝手な行動によるパニックも二度目になると、恥ずかしさで顔があげられない。こんな状態で師匠に抱っこされて寝てしまうなんてと子供心にも思いつつ、今だってぬるめのホットミルクが美味しくて、膝抱っこでゆらゆらされていると暖かくて気持ちよすぎて目蓋がくっついてしまいそうだった。

神官服に頬をすりつけていると、ユーカリのようないい香りがする。たまたま目が覚めてトイレに行ったところでお茶を運ぶ巫女を目ざとく見つけて「ぼくやる!」と言い張っただけで、元々は寝ている時間帯なのだから、眠りの妖精がくいくいと袖をひっぱっても仕方ないのだ。

ふわぁぁ、とあくびして舟を漕ぎはじめた子供の手からそっとマグを抜いて机に置き、ルカは微笑んで柔らかな茶色の髪を撫でた。

青年は子供が好きだ。
ちいさくて丸っこくて元気いっぱいの、未来の可能性のかたまりたち。

白い神官服に顔を埋めるようにして眠ってしまった子供の、ぬくもりは真白な希望の色をしている。
彼らが笑顔で生きてゆければいいと願う。


  月のまもり
  月のみちびき
  愛情のこもった幸福
  今日の恵み
  夢は叶う …


青年が好んで書く御守りの文言は、まさにその通り彼の願い。

ちいさな笑顔が、理不尽な力で散らされることがないように。
人を殺して生きてゆかなくても済むように。

戦闘のプロたる傭兵として生きてゆく人々がいるのも知っている、彼らには戦争こそが稼ぐ場所であり、そうして生きていたり家族を養っているのだと知っている。
けれど、それでもなお。

誰かの命奪うことなく、生きていってほしい。
命は奪うものではなく、抱きしめるものであってほしい。

甘い、と言われることは承知している。今は戦時下なのだ。人を殺した経験のあるものは多く、軍隊に所属して幇助しているものはさらに多い。
人々はそのことに、半分眼をつぶるようにして生活している。

家族や知人が失われるたびに涙し、しかし同じ国民であっても、遠いものの死には徐々に痛みが麻痺してくる。戦死者何人、と新聞やニュースで目にする数字に、今日は多い少ないと感じるくらいだ。

それは薄情なのではなく、そうしなければ壊れてしまうための防衛反応なのだとルカは知っていた。
ひとりひとりの死を、ひとつひとつ数え上げ見直し哀しみ祈っていたら、戦死者の大群に埋もれてしまう。
夜ごとに暗き大地にあふれる死者の、骨の見えるような血まみれの手に足首を掴まれひきずり倒されそうになる、あるいは腐り落ちた顎がおおきく開いて絶えず自分を呼んでいる……神官になりたての若い者たちは、だいたいそんな夢にうなされる。

昏き冥府に落ちて惑い迷うものたちに、光はこちらだと道を知らせ祈ること。
崇高な仕事に神官たちはみな誇りを持っているが、いつまでも終わりがないのではないかという死者の列にはエネルギーを奪われ、疲弊してしまう。
そうして神官の職を辞すものもいる。自分は向いていないのだ、と。

当代大神官のアルディアスも先代も、そうした辞意を聞いても咎めることはなかった。
他者に心から寄り添おうとする、やさしすぎる者にこの職は辛いことを、誰よりも承知していたに違いない。
ただ静かにうなずいてあたたかく労わり、次の職の世話をした。

(私は冷たいからね)

親友の言葉を、ルカは思い出す。唇に苦笑をひらめかせ、大神官は銀髪を風になぶらせていた。

(私は冷たいから、この職が続けられる。軍人と兼務なんて最たるものだろうね。……神官には確かに、ある種の冷たさ……相手に呑み込まれない距離感やいつでも冷静な判断力が必須だと思う。
だけど……冷えすぎてはいけない。熱すぎてもいけない。難しいね)

最後の言葉は、自分自身に向けたものであったろうか。
茶色く埃っぽい、荒れ果てた西方の大地にその長身を立てて、吹き抜ける風の彼方に視線を投げる友の姿。

(……西のグリッド修復を、もっと本格的にしよう)

腕の中のぬくもりに彼自身が癒されながら、ルカは心に決めた。
かつて戦争によって荒れ、いまだに命宿さぬ死した大地。
グリッドを整え祈りを届けて、新しいいのちが芽生えるように、母なる大地に戻そう。
戦いが無辜の命を刈り取るならば、神殿は命が生まれ出づることを援け、ひとつでも多く笑顔の種を蒔こう。

今までも神殿として取り組んできた難題ではあったが、さらなる力を入れることを、ルカはその胸にあらためて固く誓ったのだった。






-----

◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第二部【陽の雫】目次


お待たせいたしました!!
ずーーっと気になりつつも文章が書けずにいました、「白のぬくもり」。
ようやくルカさんの熱い想いを描き出すことができまして、終幕となりました。
こうしてみると、「旅の御守」からちゃんとお話が続いていたんですねぇ (と、書いてから思う←

次回、舞台は軍部に変わり、物語時間も少し戻って年末となります。
襲撃や囮捜査の顛末はどうなったのか?
楽しみにお待ちくださいませ♪

ご感想頂けるととっても嬉しいです! ありがとうございます♪♪
小躍りします~~~くるくる~~~:*.;".*・;・^;・:\(*^▽^*)/:・;^・;・*.";.*:


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 10/14 一斉ヒーリング ~ 半径5mの幸せ ~


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温かいお話ですね 

「白のぬくもり」の1〜3をまとめて読ませて頂きました。
今回のお話は本当に温かくて温かくて。
「白」という色が全編に渡って物語のベースにあるのに、ともすればその色に感じがちな冷酷なまでの「冷たさ」を感じないのは、ルカ様の人柄ゆえでしょうか。
冬の冷たい空気もむしろ心地良く、冷たいのに温かい、不思議な空気感のお話でした。
ライキ君がどんな成長をするかも楽しみです。
  • posted by Apple-T 
  • URL 
  • 2014.10/14 21:33分 
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Re: 【陽の雫107】 白のぬくもり 3 

あ^^おはなしの続きだ💛
前回のお話 しんとした空気の冷たさを感じながら、時々思い出していました。なぜか、見えない雪がずっとふっている気がします。空いっぱいにしんしんと、包み込むように、ひかりみたいに。あぁ、きれいだな。ここで呼吸がしたいな・・
ときどき さつきのさんのイメージと重なります。
ほっとミルク のみたい^^  


  • posted by unknown 
  • URL 
  • 2014.10/15 13:57分 
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Re: 【陽の雫107】 白のぬくもり 3 

ものがたりをありがとうございます!
ライキくんがとってもかわいくて。
ルカさんの優しさやあたたかさも伝わってきました。

こどもたちが笑顔でいられますように。
次回も楽しみにしています!
  • posted by あんず 
  • URL 
  • 2014.10/15 14:02分 
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Re: 【陽の雫107】 白のぬくもり 3 

ふと「白のぬくもり」って、ふるさとのあたたかい光なんだって思ったら、泣けてきて
自分はもうそこにはいないのに、戻れないのに、こころのなかにやわらかく光を放ち続けているところ
ひかりが降ってくるように、愛しい思いだけがそこに還ってゆき、慈しみ、そこにあるように、ただ包んでいる
ふるさとのいろなんだなぁって

雪とホットミルクの白がこころに残ります

あ~お弁当作りながら泣いちゃったよ・・・;;
  • posted by うめたろう 
  • URL 
  • 2014.10/17 08:57分 
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私も電車の中で読みながら泣けてきました。平和を求める志にぐっときました。なんだか今の世界ともリンクしていますね。他の方が仰るとおり、白でもあたたかい白ですね。
  • posted by ゆに 
  • URL 
  • 2014.10/17 09:39分 
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Re: 【陽の雫107】 白のぬくもり 3 

ライキ君に感情移入しながら読みました。想うだけで胸がグイグイしてきますし、私も泣けてきます。

白のぬくもりって真綿だったり羽毛だったり、ふわっと暖かいイメージです。
ボタン雪も冷たいんだけど降ってるのをマジマジみると天使の羽みたいにフワッフワッで暖かそうに見えるんですよね。
見えてる所じゃなくて、その奥というか。。

物語の続きが早く読みたいです。
  • posted by れおぱんち 
  • URL 
  • 2014.10/17 11:15分 
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Re: 【陽の雫107】 白のぬくもり 3 

お久しぶりです^^
いつもお世話になってます。
なかなか来れずに済みません。

アルディアス様も、ルカ様もかっこいいw
ライキさんもすごいですw

本当に、登場人物が全員、魅力的ですよね。
それぞれの生き方がひしひしと伝わってきます。

自分は癒されたい時、物語読むんですよねー
これからも楽しみにしています^^
  • posted by うずまき 
  • URL 
  • 2014.10/28 16:53分 
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Re: Re: 【陽の雫107】 白のぬくもり 3 

>Apple-Tさん
ありがとうございます!
白い色の温かさやまっさらな希望の光を表現できたらと思っていたので、嬉しいです^^



>匿名さん
ありがとうございます。
寒い冬のお話なのですが、やわらかで温かい世界を感じていただけたら幸いです♪
私のイメージとか…! きゃあ(照れ



>あんずさん
ライキ君可愛いですよねぇwww
ほんと癒しキャラです…♪ ありがとうございます♪



>うめたろうさん
そうなんです、白って不思議な色ですよね^^
はじまりの色であり、冷たいときも温かいときもある…
ホットミルクどうぞ♪



>ゆにさん
ありがとうございます♪
電車の中で大丈夫でしたでしょうか… つ ハンカチ



>れおぱんちさん
泣いてくださってありがとうございます。
ライキ君のなかで、白という色がいつまでも暖かいものであってほしいなあと思います^^



>うずまきさん
ありがとうございます!
皆様素敵な方ばかりなので、漏らさず丁寧に、しっかりと描写してゆきたいと思います^^
できることなら全員のお話をちゃんと書きたいくらいです←
  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2014.11/03 13:09分 
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Re: 【陽の雫107】 白のぬくもり 3 

年の瀬に一気に3話読みました〜
ルカさんに力は遠く及びませんが
志しは同じでありたいと気を引き締める事が出来ました
ホットミルク飲みたくなりました
うち牛乳ないのに…豆乳でも行けるかな
というかライキ君の飲むホットミルクは牛さんとも限らないのですね
それぞれ全員のお話楽しみにしてます( ̄▽ ̄)ニヤリ
他のお話の続きも楽しみでーす!!
魔法で羽ペンを自動で動かせちゃうさつきのひかりさん!
待ってます( ̄▽ ̄)ニヤリ
  • posted by ゆえつん 
  • URL 
  • 2014.12/24 05:57分 
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物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
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