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【銀月外伝】 中華幻想 - 紅鳳飛翔

噂は耳にしたことがあった。

真紅の羽毛に純白の斑模様の翼の鳳(おおとり)。
天変地異の前兆であるとか、年経た紅天狗茸が化けたとか、さまざまな憶測が里では乱れ飛んでいた。

しかし目の前に悠然と舞い降りたその鳳は、崖縁で大虎と対峙していた彼の目を奪って惹きつけるに足る美しさだった。

鳳は優雅に長身の人へと姿を変えると、牙を剥いていた白虎になにごとか話した。
小さく唸りながら、虎が首をめぐらせて帰ってゆく。
ほっと息をつき、碧炎は構えていた剣を収めて鳳の人に頭を下げ、礼をのべた。

「怪我を負われましたか。いったいなんの無茶を?」

鳳の人が柳眉をひそめて武人の左腕を見やる。白虎の牙が掠ったそこからは、だらだらと出血が続いていた。
自身も腕をちらりと見てから、武人は苦笑した。

「いえ、私の仕業では無いのです。あれは麓の者でしょうか? 先に逃がしましたが。彼の虎の領域を侵したようで襲われておりました。それでやむなく」

ここ一年ほど時折通っている老師の洞を辞して、緑深い山道を下っているときだった。
追い詰められたような人の悲鳴と、敵意に満ちた大虎の唸りを聞いたのは。

白い毛並みの美しいその大虎が、とても賢く老師の気に入りであることを知ってはいたが、今にも噛み裂かれそうな者を見捨てるわけにもゆかぬ。

腰の剣を抜いて飛び出し、ともあれその人間の前に割り込んで逃がすと、悲鳴をあげて駆けて行った。

目の隅に認めたその後姿に安心したものの、白虎に斬りつける気にはとてもなれず、かといって明らかに気の立っている獣の前で、剣を収めるのも無謀だった。
飛び掛られたときは咄嗟に身を返して腕を掠るにおさめたが、その後良策のないまま、じわじわと崖に追い詰められていた。

そして後わずかで踵が空を踏もうとしたとき。
かの鳳がふわりと降り立ってきたのだ。

「その傷、手当致しましょう」

若き風貌の麗人はいずれどこかの洞の仙人であろうか、こちらへ、と固辞する間もなく傷のある手をとり、血の流れる部位を両手で挟んだ。薬草のようないい香りが鼻をくすぐる。

「他の師のようにすぐさま跡形もなく、という訳には参りませぬが、止血は直ぐに。あとは2日もあればおそらく、すっかり傷も治るでしょう」

言葉通りにぴたりと血を止め、懐から霊草を出して貼り、袖を裂いて巻いた。

「かたじけない。いずれどこかの名のある洞の仙人殿とお見受けいたしますが、助けていただいた上に傷の手当までしていただいては、お礼の申しようもござりませぬ」

丁寧な手当てに恐縮し、礼を尽くして炎は頭を下げた。筋を傷つけてはいなかったようだから、この程度戦場ではよくあることと、自身ではさほど気にしていなかったのだ。
しかし若き仙人は、眉を顰めたまま言った。

「この傷では痛みましょうに。帰られる都の館までお送り致しましょう」
「とんでもない。これ以上のご迷惑をおかけするわけには参りませぬ」
「しかし、狩人でもなく虎と渡りあったのです。お疲れでしょう、それに彼女は霊山に住まう者。いわば身内の掛けた迷惑でございます故」

どうか。

そう請われては、これ以上固辞するのも返って忍びない。
艶やかな翼をひるがえした鳳の背に遠慮がちに乗せてもらうと、あっという間に地面が遠くなった。

雲の流れる深山幽谷がはるかに眼下となり、渓流のさざめきが木の間隠れにきらきらと陽に光る。
風のように風とともに悠々と紅の鳳は尾をたなびいて空を渡り、そう時も経ずして都の白塀が視界に映った。

「仙人殿。その……この鳳の姿で都まで行かれますか?」

それはさぞ目立つだろうと碧炎がおずおず口にすると、どこで喋っているものか笑い声が聞こえた。

「なに人家が増えてきましたら、隠形の術を使いますよ。ご心配なく、ゆったり飛びます。武人殿は風景でも楽しんでおいでなさい」

言葉通り、ゆるりと旋回してみせる。

武人の碧炎はけして小柄ではなく、軽くもないはずであったから、それを乗せて余裕のある鳳の力は推して余りある。
老師のもとでは見かけたことはなかったが、仙人殿の能力も相当のものであろうと推測した。

少ない白髪を髷に結い、長い白髭をしごいて莞爾とする老師とはずいぶんと印象が違うが、仙界に住まう人であれば外見などひとつの記号にすぎぬのだろう。

このお方は弟子をとっておられるのだろうか?

何度通っても世間話で終わる老師への訪問を思って、碧炎は考えた。

世間話が嫌なのではない。
むしろ霊山の雲のごとくにゆるやかに流れる時の中で、糸竹を語ったり碁を打ったり、俗界の垢から離れる瞬間は貴重だった。

仙人に憧れてというよりは、時に俗界のすべてを放り出したいと思う自分に気がついている。


幼い頃遠く離れた故国には、ほとんど記憶すらもない。
けれどもその名はきつく自分を縛り、故国のために在ることを幾度となく再確認させられた。

属国の立場であれば、都に至った手駒は何であれ有効に使わねばならぬ。
人質同然に連れられた係累がひとかどの武将として勲をなせば、いきおい故国の期待が肩にかかってくるのは致し方なかった。

肩書きが上がれば上がるほど、一挙手一投足に故郷の運命がかかる。
主国の王に睨まれぬ程度に、故国の力を蓄えておかねばならなかったし、形としては主国の臣であるから、宮仕えを怠るわけにもいかなかった。

息苦しい九重と戦場の往復に、心も体もひどく疲れてきた頃、老師と出逢ったのだ。
しかし切り立った山々の奥地にはそうそう訪れるわけにもゆかず、まとまった休暇が許されるときのみ。

背負うものは多くとも故郷は遠く、妻もいない。
孤独で気楽で重たい肩にわずかばかりの荷を負って、彼は山道を歩くのだった。
かつて同じく重みを背負っていたであろう、軽やかな仙人たちに会うために。

大空をゆく鳳の背から遠く夕日を眺めて目を細めれば、金色に染まった西の果てに故国が見えるような気がする。
森を越え山を越え砂漠を越えた、はるかな地。

彼の瞳の色にのみ、わずかにその記憶を残すふるさと。













<Fantasy Chinois - Tigre Blanc ->
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碧炎(へき えん)の物語。
ご登場の鳳の方はあの御方(http://satukilight.blog.fc2.com/blog-entry-1066.html)で、炎は … 瑠璃の次の転生です。



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Re: 【銀月外伝】 中華幻想 - 紅鳳飛翔 

久々の物語、うれしいです♪
一緒に空を飛んでいるような気持ちになって、ちょっとリフレッシュしました(^^)

最後の「ご登場の鳳の方はあの御方…」の部分を読んで、思わずもう一度はじめから読み返してしまいました(笑)
  • posted by ももんが 
  • URL 
  • 2012.10/07 18:40分 
  • [編集]
  • [Res]

Re: 【銀月外伝】 中華幻想 - 紅鳳飛翔 

鳳さん、かっこいいです~♪

“年経た紅天狗茸が化けた…”に、某お弟子さんのお顔が浮かんでしまいましたww
まさか、よもや←違

炎さんも、いろいろと背負われていらっしゃるようで…(涙)
どんな物語になるのでしょう。
楽しみです♪
  • posted by 月の娘 
  • URL 
  • 2012.10/08 19:15分 
  • [編集]
  • [Res]

Re: Re: 【銀月外伝】 中華幻想 - 紅鳳飛翔 

>ももんがさん
ありがとうございます~♪
物語書くの大好きなんですが、進まないときはぴたっと進まないのでねえ…(遠い目
鳳の背で感じた風を表現できていたらいいなあと思います♪


>月の娘さん
紅天狗茸って書いたらギャグだろうと思いつつ、どうしても書いてしまいました←
お弟子様の呪い …もとい悪戯かもしれませんwww
炎もなんだか背中が重そうですね。そういう生き癖というか、見捨てられないタイプなのかもですね 苦笑



  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2012.10/09 14:37分 
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  • [Res]

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