のんびり、やさしく。

ヒーリングと物語とものつくり。

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【陽の雫 89】 pierce a hole in …

「あ、ここです」

階段を下って濃い色のドアを押しあけると、カウンターの奥の端に座っていた濃い色の金髪が振り返った。
広すぎない店内はよく手入れされた飴色を基調にまとめられ、しっとりしたBGMが流れていた。白ひげをたくわえたマスターがひとり、静かにグラスを磨いている。

「すみません、お忙しいところにお呼び出しして」
「どういたしまして、なかなか会えないしね。先日は訪ねてくれてありがとう。リンが喜んでいたよ」

微笑んでからカウンターのむこうを振り返り、ショットグラスを注文した。西南地域の都市はセントラルよりもいくぶん気温が高めだが、時移りの神事を終えると寒い日が増えてくる。

「こちらこそ。実家に顔出すついでですから」

隣に腰かける前に握手をすれば、掌の中にちいさな固い感触。

(こちらの報告書です。ネットワークには繋がらない端末で俺が作成しました)
(わかった。ありがとう)

受けとったチップをさりげなくポケットに入れて、これで出張の本当の目的は果たした。
表向きの理由、誘拐事件処理後の視察も昼間に終えている。
乾杯後、声をわずかにひそめたのはどこまで演技だろうか。デオンはバーに誘った表向きの理由を切り出した。

「その…。准将はリフィアとパーティーで出会われたんですよね。上司にパーティーに出ろと執拗に誘われていて、困っているんですよ」
「ははあ……」

眉を下げ肩をすくめる様子からすると、あながち嘘でもないようだった。呼び出すのに都合のいい相談事がちょうどあったということらしい。

「どうも俺、周りからお持ち帰りイメージで見られているらしくて」
「は。君が?」
「そうですよ。エル・フィンあたりもそう思ってるみたいです」

グラスを干し、こちらを見やったマスターに指を上げてお代わりを頼む。新しく置かれた琥珀色の液体を前に、ふうっとため息をついた。

「決まった相手もいませんし、食事に誘われれば付き合いますけどね。レディファーストというか… まあそんな感じで。だからそれだけですよ。お分かりいただけます?」
「うん、わかるよ」

自分も独身の頃には同じようなことがあったから、アルディアスはうなずいた。
もっとも彼の場合には忙しすぎて、予定が立てられないうちに自然消滅することのほうが多かったのだが。

まあ食事だけをだいたい二、三度続けてそれまでだと、相手の女性のほうが脈なしと判断してくれるものだ。
しかし自分に脈がなかったなどと女性たちが吹聴するはずもなく。どうやらデオン自身もあえて身近の同僚には訂正していないらしい。

女性が駄目というわけではないが、実は化粧品や香水の匂いが苦手なのだそうだ。
自覚してナチュラルメイクの人と食事に行ったこともあるが、やはりその気になれなかったということだった。

「と、いうわけで。上司からは早く身持ちを固めろとせっつかれてるんですけどね。……妥協して結婚したくはないんです。お二人のように、響き合う相手と結婚したい。そうでなかったら未婚のままでもいいかなって」
「そうだねえ……」
「学生時代に、いわゆるおめでた婚をした奴も見たんですけどね。それが駄目ってわけじゃないし、彼らもそれなりに好きあってるみたいでしたけど、なんていうか……」
「ちゃんと恋愛からゆっくりステップを踏みたい?」
「そうなんです。うちの両親もえらい仲良いんで、俺の眼鏡かもしれませんが」

わしわしと掻き毟った金髪の間、バーの間接照明を反射して耳たぶに何かが小さく光った。

「あれ、ピアス?」

わずかに首を傾げて覗きこめば、小さな金色の目立たないピアスをつけている。先日セントラルで会った時には何もしていなかったと思ったが。

「ああこれ。ついこないだ開けたんです」
「誰かにもらったのかい?」
「ええ、もとは俺の瞳に似ているっていう朱色の石で」

それが大きな揺れるタイプだったものだから、医局で開けてもらったのに血が出て苦労しました、とデオンが笑う。ファーストピアス向きではなかったと。

「……その相手は恋人ではないの?」

藍色の目をしばたたいたアルディアスは、確認するようにゆっくりと尋ねてみた。が、半分予想通りの回答が返ってくる。

「全然。目ざとい奴には『恋人でもできたのか?』って聞かれるんで、そういう時には『ちょっとな』って答えてますけどね。お見合い話とか、粉かけられるのが減って面倒な虫よけにちょうどいいんです」
「ふうん……ただの友達?」
「そうです、ルークァンスっていうただの男友達で。そうそう、ほら、例の事件のあった地区の評議委員に、エル・フィンの幼馴染がいたでしょう。その双子の弟ですよ。寝起き悪いし、本の虫で普段はぼーっとしてるし、食わないし、なんかほっとけないですけど。ありえないですよ」

問題外だと言い切るサンストーンの瞳は、しかし愛しげに細められている。
普通はただの友達からもらったピアスのために、わざわざ穴を開けたりはしないだろう。だが今のところ本人に自覚はまったくないようで、さてそれを指摘するべきか否か。

「今まで開けなかったピアスを開けるくらい、好きなんだね」

リフィアを思い浮かべ、天然度はもしかして家系だろうかと考えつつ、やんわりした表現を選んで微笑んでみる。

「だから、そんなことないですって」

案の定返ってきた否定の言葉に、銀髪の男はくすくすと笑いながら手の中の杯を傾けた。
デオンの瞳に似た石を選んでプレゼントしたのなら、むこうだって脈なしではないのだろうに。こうまで気づけていないとは、相手もかわいそうになってくる。

「それをくれるときに、相手からは何か言われなかったのかい」
「特に何も。そもそもが部屋の引出に放置されてて、鍵を出すときに俺のほうが見つけて聞いたらそういえばってことだったんで。何かのついででしょう」

デオンはあっけらかんと言う。意図的に何かを隠しているわけではなく、当然そうだと思っている顔だ。
驚いた単語をききつけて、アルディアスはまたぱちぱちと瞬きした。

「鍵?」
「ええ。施錠するって概念がふっとんでるんだと思いますね。まあ内鍵と認証コードでいけるからでしょうが」

だとしてもしまってある場所を忘れてしまうのはねえ。
困ったように腕を組む金髪を、ついまじまじと眺めてしまう。

鍵のありかを知っている間柄だというのに、もしかして相手もまた自覚がないのだろうか……だとしたらこの二人、重症というか筋金入りだ。

 pierce a hole in …

ピアスが風穴をあけようとしているのは、耳たぶか、それともお互いの気づかない心にか。

いつの風が吹きすぎたとき、彼らはお互いの存在に気づくのだろう。
まともな出会いが欲しいと嘆く従兄殿へ、幸運を祈るよとアルディアスは笑った。



後日。
出張から帰ったアルディアスがこの話をしたとき、リフィアは非常に微妙な反応をしめした。

夕食後、リビングのソファに場所を変えてお茶を飲みながらの雑談だったのだが、隣に座っている彼女が急に黙りこんでしまったのだ。
(兄さんたら鈍いんだから)というような軽い反応を予想していたアルディアスは、少し驚いてそっと妻の横顔をうかがってみた。

きゅっと寄せられた眉根と唇。カップの持ち手を握る、なんだかすこし力の入った指先。嬉しそうにデオンと話していた彼女の姿を思い出し、アルディアスは音を立てずに微笑んだ。
紅茶のカップをテーブルに置き、彼女のもそうして、おもむろに華奢な身体を膝の上に横抱きにする。

「アルディ…」

なあに、と続けようとする頭を大きな手で自分の肩口にやさしく押しつけ、ぽんぽんと撫でる。

「…さみしい?」

琥珀色の髪を撫でながら静かにたずねると、しばらく間があってからこくん、と小さくうなずいた。

「いや?」

また少し間があって、さっきよりもかすかに、こくん。

「そうだね…。君の大好きな兄さんだものね」

大きく、こくん。
アルディアスにはきょうだいがいないが、幼いころから大好きな兄さんをとられるような気がするというのは、きっと言葉にならない寂しいものなのだろう。
膝に乗せた身体を抱きしめ、うなずく頭に自らの頬を寄せて、よしよしと撫でる。

彼女の寂しさそのものに触れることはできない。
けれどこうしていると、リフィアがきょうだいを大事に愛おしむ感覚は、なんとなく彼にもわかってくるような気がする。
もしも妹が今も生きていたなら、そして彼氏を連れてきたなら。きっと彼も値踏みするような目で見てしまうだろうと思う。
反対したいわけではないのだ。祝福したくないわけでもなく、ただちょっと、もうすこしだけ自分の近くでハグしていたかったような、そんな気持ち。

あの街の評議委員には、アルディアスは事後に会ったことがあった。
ルーシェンス・カイツェン。委員会側の証拠提出に協力してくれた相手は、耳にかかるくらいの銀髪に善良そうな青い瞳、朗らかな笑顔が印象的な人物だった。
エル・フィンの幼馴染だと言っていたから、彼の弟がデオンの「友人以上恋人未満」ということになるのだろう。デオンの表現そのままならば、双子の兄とはまた雰囲気の違った人物ということになるだろうか。

輝く獅子の髪と瞳を持つデオン。
誠実でやり手の彼が、恋愛にあれほど鈍いとは意外だった。しかし相手も同様なのであれば、傍から見ているとやきもきしても、当人同士はけっこういい組み合わせなのかもしれない。

そしてデオンの結婚相手は、銀髪の男にとっても新しい親戚となる。
リフィアの寂しさも彼にとっては愛おしいが、たくさんの親戚連にもみくちゃにされた時を思い出して、広がるかもしれない輪にアルディアスはほのぼのと心を馳せた。


















<魔女の家頁(ルークさん&デオンさん本体さんのブログ) : ピアスの物語更新>
http://witchouse.blog19.fc2.com/blog-entry-643.html

<4年後の物語 : go unrecognized>
http://steps00.com/genso/veil/s_goun.html

ブログに裏話もw
http://witchouse.blog19.fc2.com/blog-entry-646.html



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◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第二部【陽の雫】目次

デオンさんのらぶらぶ話。
獅子座と思われるデオンさんから、獅子座の満月にアップしろという指示が入りましたので
せっかく予約投稿できるから満月の時間ぴったりにw←

ルークさんHP&ブログで4年後の物語もアップされましたので、リンクさせていただきましたけれども
4 年 後 ? …だよね? 数え間違ってないよね?←
これで片方だけだったら ホロリ(T-T) ってなるところですが、両方だからまあいいのか… いいのか?←←


さてそもそものきっかけは、去年の銀月フェアだったかな? (話題変えたw
katzeの森さん(http://katzelab.cart.fc2.com/)に出たサンストーンの作品を本体さんが狙われたのですが、あえなく撃沈され。
でもオーダーで指定がデオンさんから入って、katzeさんが新しくブローチを作られたのです。
それがまあ、関係者の間では「らぶらぶろーち」って呼ばれるようなすっごいらぶらぶなお品でww
物語でもらぶらぶを、って思って考えてたら出てきたのでした←

ちなみにとっても素敵ならぶらぶろーち、お写真がkatzeさんのブログ(http://ameblo.jp/black-brown/entry-11147014076.html)に出ています♪

katzeの森さん、ティアラクラウンさんと一緒に19日の東京スピマに出られるそうですから、
作品を実際にご覧になりたい方はぜひどうぞ~♪




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Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

エンジェルリンクファシリテーター、
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ルシフェルの翼Calling You 開発者。
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