のんびり、やさしく。

ヒーリングと物語とものつくり。

Entries

【陽の雫 81】 空爆

戦場は混乱していた。
敵方有利となってしまった場所から離脱したいが退却のタイミングが掴めず、右翼が消耗戦になってしまっている。
中央を任されている指揮官の命令が遅い。

左翼に配置されたフェロウ隊は単独で距離をとることに成功しているものの、そのまま中央のフォローに回っている状況であり、右翼を応援するほどの余力はまだなかった。

空戦隊の単機がいくつも、晴れた空に白い軌跡を描いている。
空にも地上にも、さまざまな金属音に爆撃音、怒号や叫びが乱れ飛んでいた。

そんな中ひときわ重い衝撃が腹に響き、オーディンが咄嗟に探すと最前線の味方すれすれに何発もが着弾したところだった。
もうもうと土と黒煙が吹き上がる中を、ものすごい速度で弧を描いて飛び去る戦闘機。遅れて耳に届く爆音。
戦闘機の軌跡は他の味方とは別のルートを描き、敵味方の判別がつかない。

「馬ッ鹿野郎! 危ねえだろうが!」
「どっちだあれは」

目にしたすべての兵達が、オーディンやエル・フィンと同じ疑問を胸に抱えた。
空戦隊への応援要請とその返答時間、そこから導き出される到着予想時間、それらはみな把握している。
だからあれは味方のはずだとわかっているのだが、寝返りかと思うような至近距離への着弾を見ては自信が持てない。

案の定、もともと膠着状態に陥っていた右翼は混乱をきたして逃げ惑う気配を見せ始めた。
猛スピードでもう一度やってきた機体の識別マークを見た通信士官が絶叫する。

「あ、紅い翼…! やはり味方! 味方の機体です!」
「やっぱりか。じゃあなんでこっちに攻撃してくるんだ」
「わ、わ、わかりませんっ。また来た!」

哀れな通信士官にそんな答えがわかるわけがない。一気に浮足立ちかけた部隊に、銀髪の隊長の声が響き渡る。テレパシーと同時に届けられるその声は、混乱のさなかでも落ち着きを失っておらず、はっきりと聞きやすく部隊員の心を安定させた。

「落ち着いて、総員退避準備。まだ動かないように、しかしすぐに速やかに動けるように」

言いながらアルディアスは、目を細めて中空の機体を見やった。
太陽を背に負ってカーブを描き一撃離脱を繰り返しているその胴体には、白地に翼と猫のマークが鮮やかな紅で描かれている。

(ルビィキャット…?)

その通り名を彼は聞いたことがあった。西の辺境出身の若き天才パイロット。精密機器との間で接触テレパスを保つような素質を持っているらしい。
どんな乗り物でも自分の体のように易々と動かし、その動きは破天荒にして大胆。しかし狙いは恐ろしいほど精密という噂だった。

視線を転じてよく地上を見やれば、紅い翼が撃っている弾幕は毎回味方のぎりぎりをかすめ、劣勢の味方が逃げやすいように敵味方を遮断している。
上がる煙、届く爆音、鋭い弧を描いて繰り返されるそのリズム。
確信をもってアルディアスは叫んだ。

「大丈夫。あれはルビィキャット、我々の味方だ。彼の弾幕を無駄にしないように援護する。射撃準備。右翼のホールディ隊から逃がすよ」

片手をあげ、空と地上とを睨みつつタイミングを計る。紅い翼が旋回し、もう一度やってきた、そのとき。

「撃て!」

アルディアスの右手も振り下ろされ、同時に地上からの弾幕が白く敵の視界を遮った。

「あ、気づいたな」

小柄な身体を操縦席におさめたルヴ・イース・ドロテェア少尉は、ヘルメットの中で我が意を得たりとにやっと笑った。

「さっすがアイドル部隊のたいちょーさん。俺の技に気づいてくれないと、やりがいないもんね」

左右に並んだ戦闘機のエース二人と親指を立てて見せ合い、細い滝が自在に流れるようにそれぞれの軌跡を空に描き出してゆく。
空戦隊でも紅い翼はエースを多く抱えるがその分無茶が多く、新人が配属されても胃痛で辞めてしまうという噂がある。
それは事実なのだが、他人はともかく自分が無茶をしているという自覚は半分以下なルビィであった。

愛機のカメラが捉える映像を自分の目で見ているかのように知覚しつつ、彼は敵味方を分断できそうなポイントに的確に爆弾を落としていった。途中で逃げ惑いかけた味方を発見し、

「おっと、そっちからこっちは来ちゃダメだよー」

緊張感のない声でふっと高度を下げると、狙い済ました機銃掃射。もちろん当人は、帰る方向はあっちだよと親切に味方に教えているつもりだ。
人死も出していないのだし、これで気づいてくれないとこまるではないか。


「おい、機銃掃射しやがったぞ…」

半ば呆然としてオーディンが呟いた。

「うまいものだねえ」

ルビィと聞き比べる者がいたらいい勝負だと言われそうなのんびりした声で、アルディアスが目を細めた。
すぐ隣で双眼鏡を覗くニールスが、「本当だ、たしかに援護だ」とあきれた声を出す。
もはや職人芸としか言いようのない紙一重のライン。

寝返りかと一度は腰を浮かしかけたオーディンだが、なんだか無性におかしくなってくつくつと笑い始めた。

「おもしれえ、おもしれえ奴だ、・・・だけどとんでもねえ奴だ」

笑いながら一人ごちると、周囲からも笑顔が漏れる。クラウドが日に焼けた額の汗をぬぐった。

「あれは、うちの部隊向きかもしれんぜ」
「なにしろユニークな人材ぞろいだからな」
「てめえもだろ。だがもちろん、中でも隊長が一番だがな」
「何か言ったかい?」
「いえいえ、隊長が一番とんでもないなんて、小官は口が裂けても言いませんであります」

おどけた敬礼。軽口のたたき合いに隊長が気軽に混ざってくるのも、この部隊ならではだった。
しかし口を動かしながらも、手は的確に仕事を続けている。
一撃離脱を繰り返すルビィのリズムに合わせて援護射撃をしながら、フェロウ隊の面々は最後まで戦場に踏みとどまっていた。
殿軍をつとめながらもどこかで笑いを忘れないのは、ピクニック隊の面目躍如というところだ。

「笑ってるからといって、真剣じゃねえわけじゃねえ。遊ぶときは真剣に遊ぶもんだ」

まだ頼りなげな笑顔をひくつかせている新兵に、オーディンは片眉をあげてにやりと笑ってみせる。
鍛えられたその腕がライフルに弾薬を装填し、無駄のない動作で援護射撃するのを、若い新兵は感心しきって眺めていた。
「おい、弾!」と叫ばれて飛び上がり、慌てて新しいパックを手渡す。

「……そろそろ退くな」
「総員、退避準備。我々も退くぞ!」

照準器から目をあげたオーディンの呟きと、アルディアスの命令はほとんど同時だった。
さらに部隊の歴戦の戦士たちもまた同じタイミングを読んでいる。空でも同じく読んだのだろう、今度は彼らを護るために落とされる爆弾の数々。

「敵はこっから進入禁止ー」

中空からそんな声が聞こえそうな、精密かつ絶妙な機銃掃射。
舞い上がる煙幕を利用し、命令から数秒の素早さでフェロウ隊は整然と後退を始めた。

空では赤い翼を生やした猫が、楽しげにくるくると円を描いている。僚友のエースらを待って翼を振り、三機そろって帰途につく姿は、意志を疎通した楽しさに踊っているようにも見えた。

赤い髪のルヴ・イース・ドロテェア少尉が自他ともに「フェロウ隊の運転手」と言われるようになるのは、もう少し後の話である。












kuubaku.jpg
Thanks for (c) Ciel photography 2011










-------

◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第二部【陽の雫】目次




ルビィさん登場! これから色々とご活躍の予定です~♪
なんと本物戦闘機の写真つきでお送りします。シエルさんありがとうございます♪




応援ぽちしてくださると幸せ♪→ ◆人気Blog Ranking◆

webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→


★200万HIT記念スペシャル★ 9/13 満ちる月と大地のうた ~

★すぺさるヒーリングPart.2★ 9/12~9/19 REFフルバージョン
関連記事

Comment_form

Comment

【陽の雫 81】 空爆 

ルビィさんが牧羊犬のようだ…
  • posted by teru 
  • URL 
  • 2011.09/13 10:34分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【陽の雫 81】 空爆(09/13) 

天才飛行機乗りのお話、個人的にすごく食いついちゃいます。猫のマークもw

そして、自分の意図が通じるって、ほんとに楽しい、愉快なことですよね。
  • posted by あおいそら 
  • URL 
  • 2011.09/13 20:05分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【陽の雫 81】 空爆(09/13)  

ルビィさん、ステキです!
本体さんはいらっしゃるのでしょうか~?!
何だかとっても気になっています...なにかが反応を(笑
これからの活躍がとても楽しみです~。
いつも素晴らしいお話をありがとうございます。
  • posted by ユウ 
  • URL 
  • 2011.09/14 12:07分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【陽の雫 81】 空爆(09/13) 

紅い翼、という言葉についFF4を思い浮かべてしまいました(汗)
ルビィさん、かっこいい~!
空中戦て、なんかすげー『エリート同士の対決』って感じがしますよね♪
トップガン思い出しちゃいました♪
一見、無軌道にしか見えないことも、わかる人間にはわかる。
なんというか、畑が違っても、実力者同士は言葉がなくても通じるものですよね。
アルディアスさんが、ルビィさんの意図を察して、さらには相乗効果のように、最大限に互いのちからを発揮する状況を作り出す、というのは、なんというか、読み手であるこちらにもすごく爽快感がありました。
これからド派手な空中戦、ちょー期待してますっっ♪♪

それにしても、本当に『少数精鋭』という言葉がこれほどぴったりな隊はないでしょうね。
なんかしみじみ思いましたです。
  • posted by 月の娘 
  • URL 
  • 2011.09/18 18:04分 
  • [編集]
  • [Res]

おへんじ 

>teruさん
牧羊犬wwww たしかに・・・w


>あおいそらさん
あら、食いついた方がww カコイイですよね~♪


>ユウさん
ルビィさん本体さんがいらっしゃいます~♪
ラウシェンさん(ラウ姐さん)と同じ方ですw
こちらこそありがとうございます♪


>月の娘さん
空中戦…? ←
…あ、いや、どうなるかわかりませんがどうぞよろしくお願いいたしますw ←
ほんと、意図が通じるのは気持ちがいいですよね~♪

  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2011.09/23 15:10分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【陽の雫 81】 空爆(09/13) 

>空中戦

失礼しました、『空爆』ですもんね(汗)
空から地上への攻撃のみ、でしたね、すみませんー(>_<)
  • posted by 月の娘 
  • URL 
  • 2011.09/25 23:02分 
  • [編集]
  • [Res]

ご案内

Moonlight

Counter

Calendar & Archives

07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

MONTHLY

Profile

さつきのひかり

Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

エンジェルリンクファシリテーター、
レインボー・エナジー・フレイム(REF)
ルシフェルの翼Calling You 開発者。
プロフィール詳細

コメントレスはできたりできなかったりで、のんびりですみません^^;
お手紙はこちらのフォームから。
土日はPCに触れないことが多いので、メールのお返事は平日になります。

携帯(ガラケー)版スマホ版

New entry

ブログ内検索

Instagram

Twitter



Ranking

右サイドメニュー

QRコード

QR