のんびり、やさしく。

ヒーリングと物語とものつくり。

Entries

【銀月外伝】 月の森のティールーム ~準備編~

リチャードは片眼鏡の奥の瞳をやわらげ、にこにことして周囲を見回した。
夜にティールームが開催される月の森。今回は手伝いも多いこととて、わいわいした賑わしい人の流れも心を高揚させる。

かつて吸血鬼ヴェスパタインの元で半世紀の長きにわたって仕えた彼は、一流の執事たる矜持を持っている。
今回手伝いに来るシエルやレイヴンといった若者たちに、服の着こなしや立ち居振る舞いなどまで細かく教え込んでゆくのも楽しいことだった。

(リチャードはどこに出しても恥ずかしくない、一流の執事だからね。私は果報者だと思うよ)

子供の頃の自分を拾ってくれ、そう微笑んでくれる主人の言葉に彼は思う。
自分は頑固だから、納得した人のところでなくては働かない。一流になろうと研鑽するほど打ち込める主人に出会えたことは、とても幸運だったのだと。

老執事はゆっくりと歩きながら、カトラリーや花かごと鉢植えの位置、木陰の席だと上の枝に枯葉がついていないかどうかなどを細かくチェックしていた。

「リチャード、今日はありがと。頼むね」

声をかけてきたのは、彼にとっては「うちのぼっちゃま」という感覚の銀髪の少年だった。
長い銀髪に紅い瞳、グラディウスという名を持っているが、物語よりもずっと若くて、ずっと表情も豊かで気軽によく喋る。
リチャードがアイレイという名であったときとは別人のようなその姿に、しかし違和感はない。

本人も十代までは職務上の必要からも口が上手かった、でも戦闘員に転籍して二十歳前くらいから(つまりデュークと知り合った頃にはすでに)は、それまでの自分に嫌気がさして極端に無口になっていたと言っているし、実際にそうでもあったのだろう。
しかし同時に、若い時代の彼が今、癒されてきていることの証左であるかもしれなかった。

「こちらこそ、このような場を任せていただきましてありがとうございます。打ち上げの準備もぬかりはございませんぞ」

サンドイッチも作っておいたし、リフィアと相談して軽いものを作ってもらうことにもなっている。
背筋を正しタキシードの襟を揃えて言うと、少年は紅い瞳でにこっと笑った。屈託のないその笑顔は、やはり彼の主にもそっくりだ。

「打ち上げの準備くらい俺達しようと思ってたのに。さすがリチャード、抜かりないなあ。さんきゅ」

そのまま腕をひろげてハグしてくる。突然のことにさすがに無表情ではいられず、リチャードはあたふたと動揺した。

「えーなんで? 無表情でいる必要ないじゃん。俺たちリチャードのこと大好きだよ。ぎゅうー」
「ぎ、ぎう……でございますか…。や、その…、やはり分をわきまえませんと」

嬉しい半分でごにょごにょ言っていると、少年が腕を離してにやりと笑う。

「じゃあ、俺達から先にリチャードにハグする分にはいいんだよな。ルカが言ってたじゃん、ぼっちゃまは超冷や冷やキャラなんだろ? 大丈夫問題ない」
「あ、え、わたくし食器のチェックをいたしますので…」

確信犯の笑顔に、片眼鏡を直すふりして視線をそらしそそくさとその場を後にする。
いみじくもルカが笑いながら言ったように、この少年はときどきわかっていてかいなくてか、いたずらのようにひょいと何かを仕掛けるから気が抜けない。

「常に分をわきまえて、出過ぎないように、自分の感情を出さないように」と、がちがちに押さえて生きて来たのである。ハグは嬉しくても、そうすぐには手が出ないのだ。

かつての主に対してももちろん、使用人たる自分の立場を常に明確にしていようと自己を律してきた。
主はときどき哀しそうな瞳をしていたけれど、気づかないふりをした。
出過ぎないように、自分の感情を出さないように…、けれど、時々の小言だけはどうしても押さえきれなかった。

爵位など、自分がどれほどの財や権力を持っているのか、彼の主人はあまりにも頓着していなかったから。
お立場おわかりですかと言いたくなることもあるというのに、逆にその立場にともなう責任だけは、立場以上にすべてを背負おうとなさるから。

だから時々、リチャードの小言が爆発した。
主人はすまなそうに、小さな苦笑を浮かべて聞いていた。

今思えば、それもお互いわかりあってのコミュニケーションだったのだと思う。リチャードが感情を露わにするのはこの時だけであったし、だから主はわざとそう仕向けているようなときもあった。
どこまでが了解のもとだったのかはもう時の向こうだけれど、それは二人の心通うやりとりだったのだ。

リチャードは厨房から戻ると、タキシードで緊張した面持ちのシエルとルカに挨拶された。

「シエル様、ルカ様。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」

丁寧に腰を折ってにこにこと一礼する。シエルはオーディンの時代にとても可愛がっていた子であったから、まあこんなに大きくなってと、なんとなく孫を見る祖父のような心持ちがした。

庭のほうにしばらく歩き、レイヴンがタキシードを着崩して気晴らしとばかりに木の上に登っているのに目を留める。

レイヴンはとてもはしゃいで騒いでいるが、世話にはデオンがいるからリチャードはそのほとんどを任せ、デオンのほうにお疲れ様とお茶を出すくらいにしていた。
木の下まで来ると、空を見上げているレイヴンの声が聞こえる。

「息抜き~。木の上最高」
「レイヴン様。ついでに、木の上の枯れ葉を、お客様のティータイム中に落ちることがないように払ってくだされ」

にこやかに言うリチャードに視線を下げて、レイヴンは素直にはーいと答えた。デオンに箒を持ってきてもらい、ひょいひょいと掃き寄せてゆく。

「助かりますなあ~。 お若い人は身が軽くてうらやましゅうございますよ」

ふぉふぉと笑ったリチャードの、今度は上着のすそをつんつんとひっぱる人物がいる。
足元を見ると、大事そうにきりんのぬいぐるみを抱いた二歳ほどの女の子が彼を見上げていた。

「りちゃーど、きいんさん、あいがとー♪」

きりんは彼の本体が住む土地で手に入れ、主の本体にお土産にしたものだ。主に連なる幼子は普段はあまり姿を見せないしヒーリングに出てくることもないが、月の森は別格なのだろう。
にこぉっと破顔したリチャードは、膝を折ってちいさなリデルと視線を合わせた。

「どういたしまして。喜んで頂けて、わたくしもうれしゅうございますよ」

しみひとつない白手袋をはめた手で頭を撫でると、リデルはえへぇと嬉しそうに笑った。

「あいがとー。うぎゅぅ♪」
「皆様が準備をなさっているご様子を少しご覧になりますかな? わたくしがお供致しましょうな」

幼子ならば抱き上げるのにも抵抗はない。懐いてくれた子供を嬉しげに抱き上げて、リチャードは厨房に連れて行った。

陽の光のさんさんと入る室内には、リフィア、ニア、アリス、エリーデ、デオン達の手で、すでにいろいろなケーキ類が準備されている。
季節の枇杷のタルト、それから山盛りのサクランボを使って、フレッシュなフルーツパンチや生のまま食べられるように飾りつけしてあるもの、タルト、それにアリス作のとろりとした果物のジュレや、リフィアが作ったひんやりしたズコットなど。

カトラリーは銀製、食器も月の森のものは上質でいいものばかりだ。
彼の主が、こだわりがあるというほどではないが、古い良いものをそのまま大切に使いこなす人だったからだろう。

甘い香りに興味深々で、ズコットを食べたそうな幼子をテーブルにつかせる。子供用の持ちやすい小さなマグにぬるい紅茶を準備したところで、紅い目の少年が交代するとやってきた。
かつての職務上社交界のマナー一般は叩き込まれているとかで、あっさりとタキシードを着こなしている。着慣れた様子は問題もなさそうだったので、リチャードはありがたくその申し出を受けることにした。

足首までの紺地のロングスカートに白いエプロンを着て、他に何か手伝うことはないかしらという表情のニアに笑いかける。

「お嬢様、お手数ですがわたくしと一緒にナフキンをたたんでいただけますかな?」
「わあ、もちろんやります~。上手にたたむコツも教えてくださいね」
「助かりますなあ…。お嬢様は飲み込みがお早くていらっしゃるから、わたくしもほとんど何も申し上げることがございませんなあ」

少女の手できれいにたたまれてゆくナフキンを満足げに見つめ、リチャードは目元を和らげた。

毎日を丁寧に過ごしてゆくのが楽しくて、それで十分に幸せだった。どこかに行きたいとか、別の職業に就きたいとか、思ったこともない。最期には主に送ってもらい、置いてゆくことは心残りではあったが、満足した一生だった。
せいぜい、主の妖怪退治を見てみたかったと思うくらいだ。木の陰から見ているのが精いっぱいには違いないが、一度は拝見したいと思っている。

だから今日は、ティールームの手伝いができるのが本当に楽しみだった。主催は主の本体とはいえ、総監修を任されているからやりがいがある。
駆けつけてくれた助っ人の皆はしっかりしているし、実際はリチャードが心配することはほとんどないはずなのだが、気合の入り方に比例してわくわくした気持ちと静かな緊迫感がだんだんと増してきていた。











5928533815_d782e58060.jpg
 (c) Ciel photography 2011









----------
◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆【外伝 目次】


まだこれからコールインという方もいらっしゃるかとは思いますがw
昨日の月の森のティールーム、準備中のお話です~
リチャードさんかっこいいですww

お楽しみいただけたら幸いでございます♪




応援ぽちしてくださると幸せ♪→ ◆人気Blog Ranking◆

webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→


☆ゲリラ開催☆ 7/4~7/10 REF&天の川ヒーリング

関連記事

Comment_form

Comment

面白い記事拝見しました!! 

こんにちは。
記事読ませて頂きました。
大変興味深く、面白かったです。
また、遊びにきます!!
  • posted by 広島インディー 
  • URL 
  • 2011.07/07 20:24分 
  • [編集]
  • [Res]

うふふ 

とってもいい雰囲気ですね~♪
素敵なティールームをありがとうございました!
  • posted by 香織 
  • URL 
  • 2011.07/07 23:23分 
  • [編集]
  • [Res]

外伝、ありがとうございます 

こんな風に準備してくださってたんだ。。。
枯れ葉まで気にかけるなんて……、すごい!
私は寝おちだったので用意してくださったお菓子や食器なども
感想をお伝えできず申し訳ないけれど、
参加させてもらえたことも、
雰囲気を伝えていただけたことも、嬉しかったです^^
書いてくださって有難う・・・♪
  • posted by こまつ菜 
  • URL 
  • 2011.07/09 04:08分 
  • [編集]
  • [Res]

ご案内

Moonlight

Counter

Calendar & Archives

07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

MONTHLY

Profile

さつきのひかり

Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

エンジェルリンクファシリテーター、
レインボー・エナジー・フレイム(REF)
ルシフェルの翼Calling You 開発者。
プロフィール詳細

コメントレスはできたりできなかったりで、のんびりですみません^^;
お手紙はこちらのフォームから。
土日はPCに触れないことが多いので、メールのお返事は平日になります。

携帯(ガラケー)版スマホ版

New entry

ブログ内検索

Instagram

Twitter



Ranking

右サイドメニュー

QRコード

QR