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【陽の雫 64】 待宵

リフィアは官舎の裏庭に立って、暮れなずむ秋の空を見つめていた。
たくさんの青い花が風にそよいでいる。季節が変わってもいつでも青い花が咲くように、さまざまの種を蒔いてあった。

結婚後初めて、アルディアスが一週間の作戦に行って五日目。
彼が不在がちにならざるをえないのは最初からわかっていたから、それを責めたりする気持ちはないのだが、やはり生まれる寂しさはどうしようもない。

「ここは広いから。私がいない間は実家に行っていてもいいんだよ。無理して一人でいなくてもいいんだよ」

念を押すように何度も言う彼を、人がいて手をいれなければ家が荒れるからと、笑顔で押し切って送り出した。その気持ちはもちろん変わってはいないけれど。

昼間の仕事中は、忙しくしていられる。
夕方帰ってきて日が暮れはじめると、ひとりぼっちの寂しさが身にしみた。

昼から夜へ。澄んだ青から時に紅を混ぜて徐々に藍に染まりゆき、一瞬たりと同じ色を続けない空を見ているとあの瞳を思い出す。
夕暮れの青紫。 
残照がオレンジ味を帯びるまえの薄紅と昼空の青が重なった色。

(ここは広いから)

彼の言葉がぽっかりとあいた空間にこだまするようで。
一人暮らしのテラスハウスとは、ただ広さが違うだけではなかった。二人でいるための家に、たった一人でいることの空虚感。
まして彼の今いる場所は戦場で、もしかしたら……そのまま帰ってこられないことすら、あるかもしれなくて。

(いやだわ。縁起でもない)

リフィアは頭を振って、暮れきった空から目をそらし家の中に戻った。肩にかけたショールを冷たい秋風が吹き流して身震いする。
もてあまし気味の時間をなんとか過ごすと、寝る前に彼の書斎に行った。
紙とインクとなつかしい匂い。

隣の寝室に置いてあるベッドは結婚祝いに贈られたキングサイズで、やろうと思えばリフィアが前転できるほどの広さがある。
書斎と半続きになっているその部屋は、アルディアスがいなくてはあまりにも広くて落ち着かなくて、ここ数日彼女は二階の客間のひとつで寝起きしていた。

書棚に並ぶ背表紙を指先でなぞる。さまざまな本のうち半数近くは何が書いてあるかさえよくわからないが、そのうち古代語とおぼしき本を一冊抜き出して胸にかかえた。
玄関ホールの明かりがついていることを確認して階段をのぼる。

ベッドサイドの小さな灯りの中で、リフィアはその本を開いてみた。初めて一緒に出かけた、あの本屋めぐりの日のことが脳裏によみがえる。

美しい手書き文字はあのときと同じく、やっぱりミミズの寝言にしか見えない。けれどそう言ったときの彼の微笑が思い出され、彼女はふっと目元を和らげた。
意味のわからない手書きの文様が、それを言語として受け取れる人の存在を補強してくれるような気がする。

アルディアスが先に寝室に行っていても、彼はこうやって小さな灯りをつけて本を読んでいることが多かった。

(灯り、気になる?)
(ううん、大丈夫)

淡い橙色の灯に浮かぶ銀髪の横顔を、隣でぼんやりと眺めて答える。
ページをめくる紙のかさかさした音を聞きながら、結局先に寝ついていたこと。

そんなことを思い出しつつ、古ぼけた装丁に片手を乗せたまま、いつしかリフィアはうとうとと眠りの船を漕いでゆくのだった。



アルディアスはそっと玄関の鍵を開けた。
腕の時計を見ると午前三時を回り、すでに四時に近い。音を立てないように気をつけて寝室を覗くと、誰もいなかった。

奇襲作戦が成功し、予定よりも一日早く帰ってくることができたから、リフィアはまだ実家にでも行っているのだろうか。

いや、玄関に明かりがついていたのだから、出かけてはいないのだろう。
寝室だと広くて落ち着かないから二階の客間で寝ていると、短い通信の暇がとれたときに言っていたっけ。

ひかえめに探ると、たしかに二階ですやすやと眠っているらしい気配がある。
疲れた頭で、アルディアスは二階の間取り図を思い浮かべた。彼の友人は当然ながらほとんどが軍人で、体格がいいだろうからと客間には大きなベッドを入れたはずだ。

しかしさすがに、そこに自分が入っていったら狭いだろうか。せっかく眠っている彼女を起こしてしまうだろうか。
いや以前の新調する前のベッドでも窮屈と思われたことはないようだから、それは杞憂だと思いもする。

だとしても彼女のそばに行く前には、せめて血の匂いを洗い流してからにしたい。
シャワーを浴びなければ、そう思いながらも、彼の足は台所に向かった。冷たい水をコップに満たし、疲れた長身をソファに投げ出す。軍服の襟をゆるめて水を飲み干すと、思わずふうっと長い息をついた。

奇襲が成功したといっても、その後処理などやることは山積みだった。
寝室に彼女がいないなら、書斎の端末で先に仕事を終わらせてからシャワーを浴びたほうがいいかもしれない。

頭の中で、必要な書類のあて先と内容をリストアップしていく。
寝ずに活躍した彼の隊員たちのために、丸二日の休暇を申請したがそれが通っているだろうか。それから、もぎとった陣地を確保している別隊への申し送りをもう少し。
彼が狙った構造上の弱点は、敵も同じように狙える部分であったから、そこをまず強化しておかねばならない。味方に交代して戦場を離脱する際に当然伝えてはあったが、もう一度言っておいたほうがいいだろう。

また陣地が増えれば補給線が伸びる。かねて気になっていた途中の支援ポイントについても、今回実際通った際に詳細なレポートを作成してあった。その改善点についても早急に進言しておかなければ……。

自分自身も寝ていない頭でそんなことを考えているうち、いつのまにかそのまま寝入っていたらしい。

「アルディアス!?」

朝起きてきたリフィアのびっくりした声で、彼は目を覚ました。

「いつ帰ってきたの? どうしてソファなんかに?」
「あ……その、もう明け方だったし、二階のベッドは狭いかな、と……」

せっかく眠っているところを起こしたくなくて、何よりその前に血の匂いを落としてからと思っているうちに。
大事なところを伝えきれないまま、彼の声は尻すぼみになった。一瞬彼を睨んだリフィアが、くるりと背を向ける。

「……リン?」
「広々と寝たいなら、ずっとそうしてたらいいじゃない」

ソファなんかで寝た挙句そんなこと言われたら、普段からアルディがそう感じてて、それを私を気遣う体裁で言われたようじゃない。
そんなつもりないがないことも知っているけれど、だけどばつが悪かったなら、そんな言い方しなくても。

「リフィアン……怒った?」
「怒ってない」

遠慮がちに触れようとしてきた大きな手をかわして、白い壁を見つめたままリフィアは言った。
ずっと会いたかったのに。
無事に帰ってきてくれて嬉しいのに。
こんなふうにしたいわけじゃないのに。
どうして涙が出てくるんだろう。

作戦中、ほとんど寝ていなかったに違いない疲れた瞳。部屋着に着替えてすらいない、皺の寄った軍服。
彼だっておそらくはリフィアのために、必死に早く帰ってきてくれたのだ。
文字通りの強行軍で、着替えもせずに座ったソファで眠り込んでしまうほど疲れていたのだ。

わかっているのに、抱きしめて休ませてやりたいと思う一方で、堪えてきた寂しさの波が決壊してしまったようで。

狭くなんかない、窮屈だなんて思ったことない、ソファなんかで寝ないで一分一秒でも早く隣に来てくれたほうが、ずっとずっと良かったのに。
ずっとさびしかったのに。
叫びたい思いは声にならず、ただぽろぽろとリフィアの頬をこぼれてゆく。

涙をぬぐう彼女の細い背を、大きな腕が後ろから抱きしめた。とっさに逃げようともがいたが、強靭な腕はそれを許さず、かわりにそっと身体の向きを変えさせた。
夕空の瞳がまっすぐに彼女を見ている。

「ごめん……リフィア、私が悪かったよ」
「しらないもん」

しゃくりあげながら目をそらして彼女は言った。我ながら子供のようだと思うけれど、どうしても止められない。

「ごめんなさい。今度から、必ず君の隣まで帰るから」

真摯な声に、リフィアは少しだけ目を上げた。
切れ切れになりながら言葉を紡ぐ。

「絶対……よ? どんなに遅くても……どんなに狭くても……よ?」
「ああ、絶対。どんなに遅くても、どんなに狭くても、君の隣まで。約束する」

泣き濡れたペリドットを見つめて、指先で小さな頬の涙をぬぐう。
朝陽がさすように、その約束に彼女は微笑んだ。

















-------

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◆第二部【陽の雫】目次



裏タイトル:「新婚さんいらっさい」 ←

皆様、今日は朝からあちこちでおめでとうをありがとうございます♪♪
たくさんのメッセやコメントをいただいたり、リアルにプレゼントをいただいたりして
おかげさまで今年も幸せな誕生日を過ごさせていただいております。

こうしてヒーリングをしたり物語を書き綴っていられるのも、ブログを読みに来てくださる皆様のおかげ。
御礼の気持ちをこめまして、新婚さん話でも…。 え、いらない? ←
ちなみに本体はくすぐったくてたまりませんがwww


そして、先日はもう一組の新婚さん、オーディンさんとエリーデさんにたくさんのお祝いメッセージをどうもありがとうございました。
お二人から御礼のメッセージをお預かりしております。

ただ今日出すとちょっと騒がしいですので 笑
せっかくのお手紙ですから、また稿を改めてご紹介させていただけたらと思っています♪



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Re:【陽の雫 64】 待宵(11/09) 

いつもヒーリングでお世話になっています☆
え!お誕生日だったんですか!

うわ、遅まきながら☆☆おめでとうございます☆☆☆
新たな一年がより素敵な日々でありますように…

裏タイトル見て、吹き出してしまいました。
新婚さん、いいですねぇ~。
  • posted by ton-tan 
  • URL 
  • 2010.11/09 17:20分 
  • [編集]
  • [Res]

お誕生おめでとうございます! 

いつも、ヒーリング、とても助かっています!
う、裏タイトルが…笑

お誕生日おめでとうございます☆
新しい年が 幸せで、喜びと笑いが満ちた素敵な年でありますように。
  • posted by 華小町 
  • URL 
  • 2010.11/09 19:32分 
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Re:【陽の雫 64】 待宵(11/09) 

さつきのひかりさん、こんばんは~♪

あちこちに出現してすみません 汗

お誕生日、おめでとうございます♪
おめでとう、の言葉は何度口にしても、言ってるこちらも嬉しくなりますね♪
本当に、おめでとうございます。

うわ~、新婚さん☆ラブラブですね!!
お二人は美男美女で、とっても絵になるので、見ている(読んでいる)こちらも微笑ましくなってしまいます♪

が!
読んでいて、内容こそ違いますけど、相方とケンカした自分たちがダブってしまいまいた 汗
そう…
リフィアさんのお気持ち、よ~~っくわかります。

ずっとずっと、さびしくても耐えて、疲れて帰ってくる彼を労ってあげたくて…
彼も彼で、はやく相手の喜ぶ顔を見たくて、少し無理をしたのだけど、あげく詰めが甘くなってしまって(アルディアスさん、ごめんなさい 汗)…
そうして、出てきた言葉が受け取りようによっては、ちょっぴりこちらが傷つくようにもとれてしまったりとかして…

うちの相方はかなりひどいですけどね 爆
ぐっさり傷つきましたもん。
わたしも、わたしで泣きじゃくっていて、支えようとした相方の手を振り払ってますし(笑)

とても、お二人には髪の先ほども近づけませんが(笑)
まぁ、それでも、相手を思う気持ちからの誤解やケンカは恋人(夫婦)ならではですよね。

あ~、わたしもリフィアさんみたいに可愛げのある女になりたい!!!(切実)
とっても可愛らしい方ですよね♪
大好きです。
  • posted by 月の娘 
  • URL 
  • 2010.11/09 22:42分 
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  • [Res]

お誕生日おめでとうございます。 

一日遅れですが、お誕生日おめでとうございます。いつもヒーリングありがとうございます。愛と感謝をこめて。
  • posted by のんのん 
  • URL 
  • 2010.11/10 17:04分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【陽の雫 64】 待宵(11/09) 

遅ればせながら、お誕生日おめでとうございます☆

今回は読みながら脳内で桂三枝が……w
なんだかんだ言ってもとっても仲のいいお二人に、ほのぼのした気分にさせていただきました。
  • posted by たまねぎ 
  • URL 
  • 2010.11/10 19:14分 
  • [編集]
  • [Res]

遅まきながら、お誕生日おめでとうございますー。 

しかしお2人さん、熱々ですね♪
  • posted by ひのもと桜 
  • URL 
  • 2010.11/11 01:35分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【陽の雫 64】 待宵 

さつきのひかりさん遅まきながら、ハッピーバースデー♪
これからの時間が光で満ち溢れますように♪
うふふ~新婚さんですね~読んでるだけで、た、楽しい…♪くすぐったいでしょうが、もっといちゃ×2希望(笑)
若返ります♪
  • posted by 撫~風~羽~♪ 
  • URL 
  • 2010.11/11 15:44分 
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  • [Res]

Re:【陽の雫 64】 待宵(11/09)  

くぅぅぅ~~~ と、くすぐったくって悶絶してしまいますが、
お二人の仲良しで幸せな様子が何よりも、自分のこと以上に
すっごくすっごく嬉しいです(*^▽^*)
幸せのお裾分けをありがとうございます。。。
  • posted by ieneko 
  • URL 
  • 2010.11/14 11:30分 
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  • [Res]

おへんじ 

>ton-tanさん
おめでとうをありがとうございます♪
裏タイトル吹き出してくださいましたかww


>華小町さん
裏タイトル、でもこれ以上につけようがありませんでしょ? ←
あめでとうをありがとうございます♪


>月の娘さん
あちこちでありがとうございます~♪
そうそう、アルディアスの詰めが甘かったです 爆
この後は約束を破ったことはないので、許してください~。


>のんのんさん
おめでとうをありがとうございます~♪
ヒーリング楽しんでくださって嬉しいです♪


>たまねぎさん
おめでとうをありがとうございます~♪
桂三枝www 新婚さんは悶絶しますやね… ←


>ひのもと桜さん
おめでとうをありがとうございます♪
熱々ですよねえ… (遠い目


>撫~風~羽~♪さん
おめでとうをありがとうございます♪
え、もっといちゃいちゃ希望ですか 爆
どうしよう~ ←


>ienekoさん
くすぐったくて悶絶、します~~~~
読み直すたびになんかこうきゅ~~っと 爆



  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2010.11/14 19:46分 
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