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【陽の雫外伝】 Lavender's green


  ラベンダーは緑 ラベンダーは青い
  私を愛するあなた あなたを愛する私
 
  小鳥が歌い 仔羊が遊ぶ
  安らぎの地で歌い踊るの

  私が女王様なら あなたは王様ね

  誰がそう言ったの? 誰がそう言ったの? 
  そう言ってみただけよ 私のひとり言……



童謡を口ずさみながら、エリーデはベッドの上に座って器用に指先を動かした。

七、八本のラベンダーをまとめて花の際に細いピンクのリボンを結ぶ。それから銀色がかった茎を折り返し、籠を編むようにリボンで茎を編んでいった。
花の部分を越えたらきゅっとすぼめて、くるくると斜めにリボンを巻いてゆく。最後に可愛らしく結んで、ラベンダースティックの完成だった。

前に流れてきた落ち着いた色の長い金髪をかきあげ、ここちよい青い香りを吸い込んで、ほっと息をつく。
できあがったスティックは梁につるして乾燥させれば、箪笥に入れたり枕元に置いて使えるようになる。

体調がいいときには、彼女はこうしてハーブの小物を作っていることが多かった。
部屋に満ちる香りに支えられるように、ときにはもたれるようにして毎日を過ごしているが、あまりにも近く包まれていすぎると今度は息がつまったようになってしまう。
だからできあがった小物はいつも母親に頼んで近所に分けてしまい、自分のところには数個を残しておくだけだった。


ベッド脇の開け放した窓からは爽やかな初夏の風が流れて、白いレースのカーテンをふんわりとふくらませていた。

「ようっ。今日は起き上がってるのか」

カーテンの向こうから、聞きなれた声がする。そこには長めの黒い髪に濃い青の瞳をした青年が立っていた。

「よかったな」
 
そういって彼は、手に持っていたラベンダーの束を差し出した。摘んできたばかりの鮮やかな香りが新しく部屋に広がる。
時々香りを入れ替えるように、彼はこうして花を届けてくれるのだった。

「うん、顔色も悪くないな。けどあんまり無理すんなよ、エリィ」

ブルースピネルの瞳が、心配げにエリーデの顔を覗き込む。たくさんのラベンダーを膝の上に散らせて、彼女は微笑んだ。

「ありがとう、大丈夫よ。オーリィ、あなたこそ無茶はしないでね」

茶色の瞳に窓越しの陽射しが入り、やわらかなオリーブグリーンの光を重ねる。オーディンも思わず破顔した。

幼馴染の彼が軍人になることを選んだのは、去年の春だった。それから一年、オーディンはずいぶん日に焼けて、かなり体格もよくなったようだ。
危険ではあるけれど、彼が選んだ大事なお仕事。だから文句は言うまいと、エリーデは微笑みの裏に心配を押し隠していた。

幼馴染から始まった想いは、まだ若葉が萌えるように変化をきざしたばかりで、二人の間にはラベンダーのように青くほのかな空気が流れている。

中央基地の寮に入ったオーディンはしかし未だ不器用で、休みになると黙って帰ってきてはこうして窓を訪れるだけだ。
何を言うわけではなく、ただ彼女の体調を心配し、起き上がっていれば喜び、そして長居して彼女を疲れさせないように気を使って帰ってゆく。

エリーデのほうも、引き止めたいとは思うものの、そして想いの源泉にも気づいてはいるものの、未だ言い出せずにいるのだった。

彼女は、病弱な上に三歳年嵩の自分を引けめに思っていた。
いつかこの人は、健康で年相応のかわいい人を見つけて、そして結婚するのだろう。その邪魔をしてはいけない。

「じゃあ……俺、帰るな。また来るから」

ほんの数分もしないうちに、さっと片手をあげて、オーディンは去ってゆく。
無理すんなよ、と言い置いて。


かえらないで。


そのひと言を、伝えられたらどんなにいいだろう?
危険な戦場になんか帰らないで、どうかここにいて。

けれど言葉は音にすらなることなく、かすかな吐息に変わって消える。エリーデは微笑みを浮かべ、気をつけてねと手を振った。

部屋、それもベッドの上と、窓から眺める庭。
ほとんどそれだけの自分の狭い世界には、オーディンはとても大切な存在だ。
いつも窓際にやってくる彼の存在は力強い太陽のように、つねに彼女を明るい外の世界へと導いてくれた。
そのぶっきらぼうな、しかし繊細な優しさは、寂しいエリーデの心に暖かくブランケットをかけてくれるかのようだった。

しかし自分は年上で、身体も丈夫ではない。
彼と同じフィールドに出ることも、隣に立つことも望めない。
いくら心配しても、彼が広い世界へ出て行くのを止める事はできないのだ。
できないなら言ってはいけない。

優しいあのひとを縛りつけてしまうだけなのなら、この想いはずっと言わずに墓場の向こうまで持ってゆく。

あのひとの自由を奪いたくはない。


一年でずいぶん逞しくなった背中が見えなくなると、彼女はふっと息をついた。膝の上のラベンダーやリボン、小さな鋏を集めて手近な籠に入れ、倒れこむようにベッドに横になる。
頭がくらくらとして、芯がベッドに沈み込むように痛かった。

(あのひとから貰ったラベンダー……乾く前に早く編まなくちゃ)

ハーブの加工は茎がやわらかいうちにしておかなくては、乾燥すると曲げたときにぽきりと折れてしまう。
けれども今は起きられそうもなくて、ひと眠りしてからにしようとエリーデは目蓋を閉じた。


置いていかないで。
置いていかないで。

眼を閉じて横になっているはずなのに、くらくらと視界が揺れる。
むなしく手を伸ばす暗闇の中、浅い夢の国で夢魔が囁く。

あのひととは道が別れてしまったの。
こんな身体ではあのひとの隣には立てないのよ。

エリーデの想いに呼応するように、暗がりの視界で誰かが背を向けて去ってゆく。
小さな頃は三歳下の可愛い弟と思っていたのに、いつのまにかあんなにも背が高く、腕も逞しくなって。

彼の背は、あんなに広かったろうか?
彼の肩は、あんなに鍛えられて厚かったろうか?

向けてくれる太陽のような明るい笑顔だけは、ずっと変わらない彼。
けれど暗がりの中で遠くに行ってしまう。

その背に伸ばした自分の手は、ひどく細く青白くて、太陽の下には不釣合いだとエリーデは思った。
彼には不釣合いだと。


置いていかないで。
置いていかないで。

……諦めたんじゃなかったの?

氷が背筋をすべり落ちるような悪寒が走る。
立ち上がって追いかけたいと思うのに、身体が言うことをきかない。
力の入らない足、起き上がっただけでくらくらと目が回る。

追いかけられない。


神様、彼に幸せでいてほしいのです。
神様、彼の自由を縛りたくはないのです。

彼が私を求めているのでないなら、私はこの想いを伝えてはならないのです。
いつからか、道はすでに別れてしまったのですから。

だから神様、私に諦め続けるための力をください。
彼の幸せを邪魔せずに、笑顔で祝福できるだけの力をください。

私なんかよりずっとずっとふさわしい人が、彼にはきっといるのです。


夢うつつのベッドの中で、エリーデは祈るように両手を組み合わせた。
その手で胸にあふれる想いを堰き止めようとするかのように。

置いていかれるのは恐ろしい。一人になるのは怖い。
不安に苛まれながら、けれど追いかけることもできない自分。

ほんのわずかな窓辺への訪いを、心待ちにしている自身にエリーデは気がついていた。
休みのたびに帰郷してくれる彼に、期待と申し訳なさが入り混じる。

オーディンの家でも彼を待っているだろう。思ったより頻繁に帰省する度に、こちらにまで顔を出してくれるのは大変だろうに。
そう思っても口に出せないのは、そのわずかな時間を宝石のように楽しみにしているからだ。
ハーブの香りにもたれるように生きながら、諦めを友として生きながらえながら、彼の訪れを心の底のどこかで待ち続けているからだ。

矛盾した気持ちだとわかっているが、それでもハーブがわずかの水を欲するように、その時間を待つ自分がいる。

ほんのわずかでいいのだ。
幼馴染の姉としてでも会える時間が、ポプリのように優しい手ざわりで後の寂しさを支えてくれるから。





  ……ラベンダーは緑 ラベンダーは青い
    私を愛するあなた あなたを愛する私……

















-------

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◆第二部【陽の雫】目次




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Re:【陽の雫外伝】 Lavender's green 

エリーデさんの想いに涙が出ます(;_;)お互い想い合ってるのにすれ違うなんて哀しいな…
  • posted by あいちん☆ 
  • URL 
  • 2010.10/31 22:34分 
  • [編集]
  • [Res]

うーん切ない・・・ 

今、私も似た状況にいるかもしれない?!ので、身につまされます(笑)
  • posted by ひのもと桜 
  • URL 
  • 2010.11/01 13:10分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【陽の雫外伝】 Lavender's green  

…切なくて、胸が痛いです。
あんまりにも大切に思い過ぎて、言い出せない、思い…
とても大切で、文字通り、その人のすべてが大事で。
自分のすべてを尽くしても、相手の幸せを守りたかったんですね。
本当は、自分の存在こそが、彼にとっての『幸せ』だったのに…
あまりにも近くに居て、あまりにも大切に思いすぎ、却って見えなかったのかもしれないですね。
こんなにも、思いあっている、ということに…
オーディンさんの思い、エリーデさんの思い
時の輪を超えて、必ず結ばれますように。
  • posted by 月の娘 
  • URL 
  • 2010.11/01 20:18分 
  • [編集]
  • [Res]

冒頭の 

童謡も素敵ですv
  • posted by 香織 
  • URL 
  • 2010.11/03 13:53分 
  • [編集]
  • [Res]

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物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
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