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【銀月外伝】 グラディウス - 名の無きもの

闇に沈む部屋で、ときおり短時間だけ目覚めるようになったデュークとぽつぽつと会話をしていると、さまざまなことが思い出される。

ろくでもないことばかりの、ろくでもない時空。
出てくる記憶もほとんどが唾棄するようなものばかりだが、それでも彼らが生き、かけがえのない仲間達と刹那の時を共有していた世界。

溝をさらうように出てくる記憶を流すことで、浄化しようとしているのかもしれない。



「G-4701」

呼ばれて、後手に拘束された少年は前を見る。
”飼い主”とその一団を殺し、ここに呼ばれた。
シャワーを浴び、血まみれの服は着替えさせられている。

「顔を上げさせろ」

重厚な机についた髭の男の命令で、隣に立っていた三十代と思われる部下が、少年の顎を持ち上げた。
顔を半分覆っていた銀髪が流れ、機械のように冷たい瞳が晒される。

「紅い瞳か。珍しいな」

髭男は資料を机に放り出し、嘗め回すように目の前の少年を見た。

データによれば9歳。
出生後すぐにこの施設の前に捨てられていた子供で、ちょうど始まっていた幼児教育の実験体になった。
人の急所、解剖知識、各種体術、武器の扱い、特殊命令の遂行に必要な各種言語能力、社会知識。
叩き込まれたそれらのほとんどが身についていることは、先ほどの惨殺事件が証明している。

そのうえ少女のような顔立ちに流れる銀髪、珍しい紅い瞳。
まだ男とも女ともつかない、華奢な身体。

「二年飼われていたって?」
「はい、そのようです」

少年の眉が無言でぴくりと上がる。男達はそれには頓着せず、会話を続けた。

「ふん、それならそっちも一通り仕込み済みか。都合がいいな」
「幼児実験の効果測定にもなるかと」
「死んだら惜しいような気もするがな。……とりあえず、味見もせねばなるまい」

髭男は舌なめずりするような目で少年を見た。
しかし内線の呼び出しがかかり、ちっと舌打ちをする。

「仕方がない。任務の説明をしておけ」

髭男が席を外している間に、教官から任務の説明が行われた。

娼館をポイントにして、そこからターゲットに向う暗殺者。
男とも女ともつかぬ子供の体型が、相手を油断させるのにちょうどいい。
基本的には薬で身体の発育を抑えたベテランがつくことの多い仕事だが、今回少年の動きを見て、試用が行われることになったのだった。

勿論ほとんど捨石に近い。
暗殺に失敗しても少年が始末されるだけで、組織には傷がつかないようになっている。

「二年も仕込まれてりゃ、今更手ほどきする必要はないな。色々覚えさせられただろ?
 ……まったく、女みたいな顔だな、お前」

教官が好色に唇の端を上げる。
頬に触れた手に噛みつこうとすると、髪を鷲掴まれた。

「長官殿はお忙しいからな、俺がテストしてやるよ。娼館に潜り込むのには下地がちゃんとしてないとな、そうだろ?」

また部隊の野郎共に飼われる生活を送りたくなかったら、せいぜい俺を満足させるんだな。
G-4701、お前は最下級の実験体。人間としての価値もないのだから。

教官は彼を見下して笑う。
なんのことはない、飼い主が組織に変わっただけの話だった。


世の中には、上中下の階級があるという。

下級の生活はひどい。娘や息子を売り飛ばすのは日常茶飯事だし、そういった子供がよくこの施設にもやってくる。
中流家庭の子は戦災孤児が多い。

上流は……生活棟が違うから滅多にお目にかかることはないが、幹部候補として士官学校にいるような連中がそうだ。

生まれてすぐにこの施設に捨てられた少年は、外の世界を知らない。階級があるというのも、教えられた社会知識と耳に挟んだ知識を繋ぎ合わせたものにすぎなかった。
勿論彼は最底辺に属していたが、それより上の世界など見たこともなく、想像のしようもなかった。


「G-4701、何やってる。とっととご主人様にご奉仕したらどうだ?」

幹部候補としてやってきたらしい教官が、ベッドに座ってにやにやと笑っている。
髭面のデブよりはまだましだろうか。

「いいか、お前達に拒否権などないんだ。チップで制御しているから自殺もできん。あるのは任務を遂行するか、失敗して死ぬよりひどい目に遭うか、どちらかだ。
名前も持たない、動物以下の実験体がどうなろうが、俺は知ったこっちゃないがな」

尊大な口調。無表情のまま少年がベッドの脇にひざまづくと、男は満足げな顔をした。

「しかし、任務上名前がないのではやり辛いな、さすがに。G……ふむ、グラディウスでいいだろう」

適当に部屋を見回し、目に付いたもので決める。
この施設にはありふれた、剣。
番号で呼んだのでは、すぐに出自がばれてしまうから。


G-4701
身体特徴 銀髪紅眼
コードネーム グラディウス


それから資料にはそう記載された。



どちらを選んでも地獄。

しかし。
生きたいと思ったことなどなかったのに、
選択肢がないから、自殺を禁じられていたから、子供だったから。

だからといって「よりましな地獄」を選ぶことは、自分自身への言い訳ではなかったか?
捨てる覚悟があったのなら、もっと違う選択肢を探すことはできなかったのか?


男娼として招かれた先で寝首を掻く暗殺者。

自分自身で堕ちた煉獄。


狭い二本道でも自分で選んだ地獄に、責任を転嫁する先はない。
弱音や甘えを言うことは許されない。
それが組織の罠であったとしても。

……ただ淡々と日々が過ぎ、心が喪われてゆくだけ。


その生活は、12歳をすぎて身長が急激に伸びだし、声変わりとともに戦闘能力を買われて
通常戦闘部隊へと異動になるまで続いた。



-----



暗殺者の過去を思い出しても、グラディウスはそれほど揺らがなかった。
まっすぐな望みによって支えられた心は、強い。
彼はそのまま、眠れるデュークの傍らで目覚めを待ち続けた。

揺らいだのは、それに納まりきれなかった部分。
おそらくは抱え込んだ恐怖と怯えを表現するために、それらをもう一度感じてそしていつかは解放するために現れた、甘えることを知らないちいさな部分。


その様子から<うさぎ>と呼ばれているその子は、デセルの部屋の片隅に小さくなり、かたかたと震えていた。


















-----

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◆【外伝 目次】


さすがに私はこんな壮絶な体験はしておりません。
リアルでは性的虐待にあったことはないです。
だからなぞるのは感情で…いや、彼の体感もなぞるので吐きそうになったりはしますけども
これがフツー、っていったいどういう世界なんでしょうねえ…。

去年の春、グラディウスが出てきた最初の頃は、トールが彼の罪を体感し贖うために選んだ生なのかと思っていたんですが
それだけにしちゃ輪をかけてひどすぎる世界で。
天使の子の世界にはまだあったような倫理観とか、カケラもないですからねえ。。 orz

他のトラウマっぽい転生いろいろありますが、その集大成がここのような気がします。
たいがいの悪事とトラウマ体験はだいたいここと重なる。 ←
だから今、重点的に出てきているのかな。


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Comment

なんと・・・ 

「グラディウス」という名前は加害者から付けられたものでしたか・・・
って、「親を加害者に持つ子供」もいるのだから、それに近いお話ですね。
彼は色々な十字架を背負ってきたのですね。
  • posted by とくめい 
  • URL 
  • 2010.07/15 17:44分 
  • [編集]
  • [Res]

おへんじ 

>とくめいさん

そうですねえ。
彼が一番最初に出てきたとき、自分の名前をひどく嫌っていて
それは仕事に直結しているからかと思っていたのですが
本当はこちらの理由かもしれないですね。。
  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2010.07/16 09:01分 
  • [編集]
  • [Res]

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Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

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ルシフェルの翼Calling You 開発者。
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