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【銀月外伝】 グラディウス - 怯える小さなもの

迎えに応じてグラディウスが一度戻った後。

滝にはしかし、いつまでも水に打たれている小さな人影が残っていた。
華奢な身体に白い服。
それはおそらく、うさぎのように怯える幼い心がかたちをとったもの。
グラディウスの、本体の中にあり、けれどそのままの姿では現れることのできなかったもの。


-----


水に打たれている。

彼は戻れたのに、いつまでも亡霊のように希薄な。


ううん、身体が戻ったんだ。きっと。
本来の持ち主のところに。

だからわたしはここに残ってるんだ。
滝に打たれて、けずれて、全部流れ出すために。

このまま全部なくなってしまったら、きもちいいかな。

きたないものぜんぶながして、すっきりするかな。

きれいなところなんかないから、ぜんぶきえてしまうかな。

それもいいな。

雪山で遭難して凍死するときって、あったかくてきもちいいんだって。
こんな感じかな。

もはや冷たさを感じない四肢を苦労して折り曲げて、滝の打ちつける岩の上に丸くなる。
顔の上に落ちてくる水の痛みも感じない。
小さくなってとろとろ眠ろうとしたら、もう一度誰かの声がした。

「今は戻るんだよ。 あなたも。 嫌ならそう言って」

声の主は希薄なわたしをぐいっと抱きあげたようだった。
感覚が遠くて、その姿はおぼろにしかわからない。
うっすら視界にうつる、きれいなペリドットの色。

嫌なわけない。
好きすぎて、隣にいていい自分だと思えないだけ。
わたしはきたないし、めいわくかけるばかりだし。

そこにいてもいいんだと、今でも心からは思えないけど

(今は戻って。ここに)

うん、いまは。
いいんだよね……いまは。


ちょっとだけ。

かみさま、ほんのちょっとだけ、ゆるしてください。

どうか。


じんわり伝わってくる暖かさに、刹那を抱きしめるように身をゆだねた。



-----



わたしは(俺は)きたない(そして危険だ)。
きたないから(そして危険だから)あなたのそばにはいられない。


キタナイ、は本体も小さい頃に何度も周囲から投げつけられた言葉だった。
その言葉はけしてギフトではなかったが、それでも幼い心に染みを作るには十分だった。
相手のそばにいる資格が自分にあるとは思えず避けていると、こう言われた。

「受けた告白だったらどうする? デセルが、アスタロトがそう言ったのだったら?」

私はきたないからあなたのそばにはいられない。
それが、悪魔と呼ばれて長く汚泥の中を歩いてきたアスタロトから受けた告白だったとしたら。

答えは決まっていた。


「ちっともきたなくなんかないし、他の人がどう思ってようと
 その辛い経験を逃げずに積んできた分
 今のあなたはむしろ、私には人よりずっとずっと綺麗に見える。

 珠を磨くために酸をくぐり抜けたようなもので、
 とても頑張ってきたのだし偉いと思う。
 なんにも恥じる必要ない。
 誇ってもいいくらい。

 だからそばにいて。
 いてくれなきゃ嫌だ。

 ……とワガママ風味に熱弁をふるう 笑」


するとあの人は笑って言った。

「そっくりお返しするよ。そういうものでしょう。
 磨く為の経験だったなら、その言葉は単なる研磨材だから
 それだけ滝で流したんならもう残ってないよ。」



  ああ、わかっている。
  理屈ではそうだし、相手がお前なら、なんの躊躇もありはしない。

  ……けれど、どうしても自分だと駄目なんだ。
  頭でわかっているようには、心がついてこないんだ。


今度は逡巡するグラディウスを見透かしたように、デュークが言う。
上と下とが入り混じり、さまざまな言葉と状況を色糸に、けれど同じ方向へむけて織られゆく綾模様。


「お前が帰ってこられないなら、迎えにいく。
 それでも帰ってこられないなら、何度でもまた行く。それだけのことだ。

 納得するには、満たされることが必要。
 私にとってもそれは必要なことだから。

 拒否されないか? 何度でも確認するために手を伸べてるんだ」



だから幾々度でも試せばいい。
頭ではなく心の底から、納得して安心できるまで。


彼はそう言っていた。



黄緑色の温かい瞳は、しかし今は暗闇の底に閉じられている。
本体もまた酷い目にあったらしい。
悪魔の管理のもとに対価を支払中なのだ。

俺のために罪を犯すなとグラディウスは言ったのに。
止めようとしたのに……間に合わなかった。


デュークが戻ってからは押し問答だった。

半分は自分のせいなのだから、一緒に払わせてくれ。
できなかったことをやってくれたのだから。

いいや。勝手に憂さ晴らしに行っただけだから駄目。
アラン達の面倒を先に見ろよ、と彼は言う。


同じチームにいた若い奴ら。
彼らとのコンタクトが取れ始め、彼らもまた苦しんでいることがわかったばかりだった。

あちらも見るが、お前も先だというと
アスタロトと直接交渉しろと言ってきた。いい返事はしないぞと。

アスタロトはデセルのもうひとつの姿であり役職名だ。
つまりデュークとも同じ魂の違う側面。
こちらが支払わせてくれと言ったところで、よしんば支払い分を先に渡したところで、受け取るはずがない。

それでも行ってはみたものの、グラディウスも本体も何を言ってもはぐらかされて、案の定対価は受け取ってもらえなかった。

「まあ、そのへんは見越しての策だろうから諦めるように。笑」

デュークの本体は言った。

いつもそうだ。
いつだって、自分で全部を背負おうとする。

こちらの痛みは、黙っていたって気づかないうちに半分持ってゆくくせに。
隠しておくことすらできないのに。


ならばヒーリングなら良かろうかと、そちらを続けることにする。
それもしかし、どこかに横流ししているかもしれないということだった。

トールが倒れたときもそうだったのだ。
こちらの本体がデセルに送ったヒーリングはすべて、くるりと回してトールに流されていた。
デセル自身によって、彼を素通りさせて。

今回もまただろうか。流れる先はよくわからないと本体は言っていたけれど。


……いらないならそう言って欲しい。
他に流したい場所があるならそう言って欲しい。
横流しされるのは、さしのべた手を無言で払われているようで悲しいから。

最初はそう言った、が。

その人が辛いと知れば、放っておくことはできないのだ。
何もしないではいられないのだ。

だから横流しされてもいい。好きに使ってくれてかまわない。
自分にできることといえば、ヒーリングを流すことくらいなのだから。

ただひとつ、先に自分自身の分を確保してくれさえすれば。
そう思うことにした。



デュークの昏睡を知って、グラディウスは一足先に溶けていた光の滝から戻った。

逃げたい自分と、役に立ちたい相手と。

天秤にかけるまでもなく、どちらが大事かはわかりきっていた。

自分がぐちゃぐちゃと悩むことが相手を追い詰めてしまうのなら、もうやめて腹をくくろうと思った。













-----


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よそんちの上の人話なんて、わけわからんのではと思うのですが
意外にもけっこう続きを待ってくださる方がいらっしゃるようでびっくりです。
どうもありがとうございます。


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Re:【銀月外伝】 グラディウス - 怯える小さなもの 

こんにちは。お辛そうですが大丈夫ですか。
自分も今辛いです。
汚れた自分を許せない自分と、許せない自分をまた責めて。批判は何も生まないのに。
許したいのに許したらいけないような気がして。
  • posted by hanako 
  • URL 
  • 2010.07/12 16:39分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月外伝】 グラディウス - 怯える小さなもの 

こんばんは
銀月ストーリー、毎回楽しみに拝見しています。
ここ数日のお話はかなりシビアですね・・・
これ、実際さつきのひかりさんにも関わっているおはなしですよね??
だとすると、お話しを書いているとき、キツくないですか?
私はまだ過去世とかぜんぜん体験したことないのでよくわからないんですが・・・
この話しを書けることが、とても芯の強さを感じました
  • posted by ゆーちん 
  • URL 
  • 2010.07/12 22:30分 
  • [編集]
  • [Res]

傷ついたインナーチャイルド・・・ 

身につまされます。
  • posted by ひのもと桜 
  • URL 
  • 2010.07/13 02:09分 
  • [編集]
  • [Res]

おへんじ 

>hanakoさん
許せない自分をまた責める。お気持ちわかります。。
そう、許したいんですよね。楽になれることがわかっているし、そうなりたいのに
許したらいけないような気がしてしまうのは、なんででしょうね。


>ゆーちんさん
関わっているというか… 実写です。爆
だからそうですね、話を書いているときだったり、その前だったりがけっこうキツイですかね。
でもそれがまた、癒しのプロセスだったりもするようなので。


>ひのもと桜さん
傷ついたインチャって、何人いるんだーって感じになってますけど^^;
まあ、出てきたら出てきただけ、相手してゆこうかと思っています。
大切な自分のカケラ、ですものね。
  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2010.07/13 12:00分 
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  • [Res]

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Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

エンジェルリンクファシリテーター、
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ルシフェルの翼Calling You 開発者。
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