のんびり、やさしく。

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【銀月外伝】 思い出のかけら ~やさしいひとさらい~

そう広くもない集落に、夕餉の匂いが流れ始めるころ。
たそがれの光を斜めにうけて、銀髪の長身がひとり、町外れを歩いていた。

その背後から小さな足音が走り寄る。それは彼を追い抜くと、まるで通せんぼをするようにその前に立ちはだかった。

「おっ……おじさん! お願い、僕をさらって!」
「……え?」

銀髪の男は思わず足を止め、声の主を見下ろした。
年のころは八歳くらい、聡明そうな、意思の強そうな目に力をこめ、口をへの字に曲げてまっすぐに長身を見つめている。

小さな手に握りしめた鞄がひとつ。身に着けた衣服は多少小さくなりかけてはいるが清潔で、その素直な瞳の輝きとともに、愛されて育っていることがよくわかる。

男は苦笑を浮かべ、膝を折って少年と視線を合わせた。

「あのね、私は確かに、学校に行きたくても行けない子達を里親に紹介する仕事をしているけれど。君を連れて行ったら、大事にしてくれているお母さんが寂しがるよ?」
「でも……っ」

きりりと食いしばられた歯。身体の脇できつく握りしめられた拳。
その小さな胸の中で考えに考え、思いぬいた気持ちはあふれて言葉にできないようだ。

「お願いします。僕を、さらってくださいっ」

伝えきれない言葉以上に、単語以上に、少年の想いはその瞳に宿っていた。
……これは、曲げられない目だ。
たとえ小さな子供でも、その存在のすべてをかけて、何かを求め護ろうとしているときの目だ。

長身の男は軽くため息をつくと、やさしい瞳で尋ねた。

「行けば、何年も会えなくなるよ。……後悔はしないかい?」

まっすぐ男を見上げたまま、少年が大きくうなずく。
決心を秘めた大きな瞳にうなずき返すと、男は立ち上がり、その手で子供の髪をくしゃりと撫でた。


人さらい役を演じると決めたからには、その町をすぐに出なければならぬ。
元々仕事はほぼ終わっていたから支障はない。
学校や里親の元までは、その子の親が送っていくのが普通ではあったが、家の事情などでそうできない子もいたから、子供連れの旅も初めてではなかった。

互いにひとつずつの鞄に荷物をつめた、簡素な服装の二人の旅人。
遠回りし、ゆるやかに町々をたどりながら歩く間に、少年はぽつぽつと事情を話した。

質素ながら暖かい家庭の一番上の兄として、大事にしてもらいながら育ったこと。
だけど本当は、自分は子供ができなくて悩んでいた母が、物心つく前によそから誘拐してきた子だったこと。
それを先日知ってしまったこと。
周りの反対を押し切って自分を産んでくれたという生みの母。おぼろげながら愛された記憶があり、会ってみたいこと。

産みの母を探すため、育ての母を誘拐犯にしないため、どうしたらいいか考えに考えて、魔法学校に入ってたくさん勉強して、二人を護れるくらい強くなろうと決心したこと。
しかし一人では行く先もわからず、また自分の意思で家出をしたのでは、母を悲しませることになる。
そこで、ちょうど町に来ていた男に人さらいを頼んだこと。攫われたとなれば、いなくなる悲しみはあっても、母が自分を責める必要はない。


銀髪の男は、少年の話を黙って聞いていた。
その青灰色の瞳は突飛とも思える話をすこしも否定せず、急がせようともせず、また誰を批判しようともしなかった。


ある夜、少年が焚き火のむこうで寝入ってしまうと、男は長い指先でとんと膝をつついた。
燃えあがる青い炎のような鳥が一羽現れる。

(手紙を届けておくれ。この子の母親に)

ようやく事情のほとんどを聞き終えた彼は、悲しんでいるだろう育ての母に手紙を書いていたのだった。
子がいなくなることには変わりないから、母親は辛いだろう。
しかし留めておけばこの子の心が今度は重い枷を背負うことになる。少年が前へ歩く道を自分で見つけたからには、応援するのが自分の仕事だと、男はこころえていた。

少年がどれだけ母を愛しているか、どうしてこの方法を選んだのか……育ての母を責めることなく、少しでも安心させるために、言葉を尽くして書いた手紙を託す。

あの町の近辺では、しばらく銀髪の人さらいの噂が流れ続けるだろう。
それもまた仕方のないことだ。
それくらいで少年と二人の母が未来に進めるのならば、むしろ安いくらいともいえる。

彼はもう一羽青い鳥を呼び出すと、学院のほうへ送った。
先に事情を説明し、また少年の産みの母を探しておくためだった。
学院のネットワークを使えば、少年がひとりで探すよりもはるかに早く見つかるだろう。

今はまだ幼い少年が一人前の魔法使いになったとき、自分の護りたい人を護れるように、必要な情報がもたらされるように。

それから銀髪の男は、ひそかに少年の育ての母との連絡を取りつづけた。



少年を送り届けた先の里親は、男の後輩夫婦にあたる。
事情のある子供達をもう何人も預かっている、信頼できる相手だ。

後輩は少年を見て、それから男を睨みつけた。
どこから連れてきたかさえ口を濁すのは普通ではない。しかもあの子は、どうみても愛されて育ってきた子だった。
この先輩が、無理に誰かを攫うなどということがあるはずもないから、なにか事情があるのだろうが……。

「親にはちゃんと話してきたんですよね?」

念のために聞いてみると、すまなそうな声が返ってきた。

「ごめん、今回それは省略した。その子がどうしても勉強したいって言うから、その熱意に負けてそのまま連れてきた」
「……………ふ~ん」
「…………あの、なにか怖いよ?」

思わず後輩の目が据わる。自分でも判ったが、さすがにつくろう気にもなれず畳みかけるように言葉を継ぐ。

「あのですね? それは一種の『誘拐』というものでは? 『人攫い』ですよ?分かってますよね?」
「でも、その子の意思に反して連れてきたわけじゃないから」
「子供の親に無断に連れてきたら、十分人攫いだと思いますよ?」

先輩に噛みついた後、ため息をつきながらその子のほうを見やると、不安そうながらも意思の強い視線で見返された。

「あの、駄目ですか? ここに来たら色々教えてもらえるって聞いたのです。だから来たんです」

必死に言い募ろうとする。

「そうだね、君の知りたいことはもちろん、そのほかにもたくさん勉強しないといけないけど、君が望むなら教えてもらえるよ」

その様子に思わず微笑み答えると、少年はほっとしたように笑った。
確かにこれでは、先輩が思わず連れてきたくなるわけだ。
少年をパートナーに預けると、彼は銀髪の男に向き直った。

「……とりあえず、預かります。ですから、一応、あの子のいた場所で親を探して、事情を説明してください。あの子を見ればわかる。親にすごく愛されて育ってきてる子です。
両親はきっと死ぬほど心配している。場所が分かればこちらから手紙を出すんですが……」
「ごめん、出来るだけそうする」

殊勝な答え。すでに育ての母と連絡を取り合っていることを、男はまだ黙っていた。
こんな庭先で話したのでは、先に家に入った少年にどんな拍子に聞かれるかわからない。母を思う少年の意思を大切にするためには、後でこっそり事情を説明したほうがいいだろう。
後輩は続けた。

「それといい加減ふらふらせずに、教鞭をとって後進の指導をしてください、と他の師匠から伝言が」
「それは無理だよ」

今度はきっぱりと答える。
ひとつところに留まらない、それが自分の使命だ。
学院に来たくても来られない才能ある子供がいる限り、それは続く。

「……でしょうね」

後輩はため息とともにそう同意した。
伝言されたから一応伝えました、というところなのだろう。
男は微笑み、足元に置いていた鞄を持ち上げると手を振った。

「じゃあ、頼んだよ」
「分かりました。それと定期連絡だけは忘れずに」

わかったよ、と答える声は風のように、すでに踵を返した男の背からきこえた。
















<ただの物語69 里親>  後輩さん
http://elfin285.blog68.fc2.com/blog-entry-256.html



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◆【第一部 目次】

◆【外伝 目次】


もう一つ出てきた、思い出のかけら。

たぶん世界樹に見せていた夢のひとつなのですが、これは時代と場所がぜんぜんわからなくて、ほんとの断片です。
「Dark Age」の時空と社会背景が似てるようですけど、違いそうですしね。

このときは、どうもわりに早く結婚したか好きな人がいたぽいのですが
その人が1~2年くらいで急逝してしまい、その後はずーっと独り身ですごしたような、そんな印象があります。

ひとところに定住せずずっと旅をしていたのは、使命ももちろんですが、碇をおろす場所がなかったのかもしれません。


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Re:【銀月外伝】 思い出のかけら ~やさしい人さらい~(06/17) 

やっとここに来れました。

さつきのひかりさん、こころと体は少しずつでも癒されていますでしょうか?


さつきのさんのブログで、トールさんが運ばれていると読んで衝撃を受けた直後に、トールさんのことを想うと、
(まるで森のような)大きな樹の根元に、両手を組んで横たわる人と、その周りをたくさんの白い存在が取り囲んでいるイメージが見えました。

そして、歌が---
聞こえる・・・と、思いました。

はっきりした歌ではなくて、たくさんの声が重なりあって、高く、低く--
トールさんを送っている・・・
と思いました。

涙が止まりませんでした。

12日の朝目覚めると、右肩が上がらなくなっており、
痛みはすぐに胸の後ろ全体に広がって、息をするのもつらいぐらいになりました。
その日の仕事を何とか終えて、夜戻ったときには、全身に力がなくなって疲れきっていました。

夜中、蒼のヒーリングを、トールさんに最後の祈りを--、
と目覚めては落ちるを繰り返していました。

目覚めたときに見たものは、今まで体験したことのないほどの、静かであたたかな新月の闇でした。


さつきのさんのブログを読まれたたくさんの皆さんと同じように、私もトールさんを愛していました。

トールさんの生を知り、彼が逝ってしまったことで、
私のなかの何かが、確実に変わってしまいました。

いま、このときに、トールさんが逝ってしまったということが、この為の大きな意図のもとにあったのだろうか?と、考えてしまいます。

さつきのさんとみなさんの悲しみが、いつか癒される日がきますように。
そして、トールさんが幸せでありますように。
  • posted by あもー 
  • URL 
  • 2010.06/18 01:33分 
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  • [Res]

Re:【銀月外伝】 思い出のかけら ~やさしい人さらい~(06/17) 

トールさんが還られてからとても長い時間が経っている
ような気がします。でも、すごく鮮明に覚えていて。
きっと、時間なんて概念のないところにあるできごと
なんでしょうか。

頭で考えていてもずっとわからなかったとこが、すうっと
体になじんてきているようです。そのきっかけがトールさん
のことからなんですよね・・・。

このふわふわした、とても愛おしいそしてちょっぴり寂しい
時間を大切に大切に過ごしたいと思います。
ありがとうって、何回でも言いたいです。
  • posted by あさおり 
  • URL 
  • 2010.06/18 14:13分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月外伝】 思い出のかけら ~やさしい人さらい~(06/17) 

>あの町の近辺では、しばらく銀髪の人さらいの噂が流れ続けるだろう。

>それくらいで少年と二人の母が未来に進めるのならば、むしろ安いくらいともいえる。

普通の人だったら、他人のために絶対にできないような大きな代償を
事もなげにあっさり支払うあたりが、いかにもトールさんらしいですね。

どんな世界でも、やっぱりトールさんはトールさんなんだな~と思うと、
なんだか懐かしいようなホッとするような気分になります。
  • posted by たまねぎ 
  • URL 
  • 2010.06/19 22:10分 
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さつきのひかり

Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

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ルシフェルの翼Calling You 開発者。
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