のんびり、やさしく。

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【陽の雫 39】 母港

「……うん、ありがとう、リン」

反対側の手がのびてきて、金茶色の髪を優しくなでる。
しばらくして手を離し、彼は冷めてきた紅茶で口を湿らせた。
自分は悪くないのだと、彼女が言ってくれるなら信じられる気がする。
……けれど。

何度も口をひらきかけては、どうしても声にできなくてため息に変わる。いっそ雨音に紛らせてしまおうかとも思ったが、この胸の痛みは彼女にも感知されてしまっているだろう。

「……あれは、事故、天災、ということで処理された」

ぽつり、投げ出すように言葉をつむぐ。

「ええ。規模のわりに犠牲者は少なかったって聞いたわ。……不幸中の幸い、かしら」

慰めるつもりでリフィアは言ったが、彼の身体が固くなったのに気づいて頭を離した。
明るい黄緑の瞳で優しく見つめる。

「……あなたがそれを罪だと思いたいなら止めないわ。あなたの気が済むまで、わたしもずっとついてゆくだけ。でも、それは本当に天災のようなものではないの?」

彼女の心遣いにアルディアスはふと微笑んだ。

「ありがとう、だけど私は軍人だからね……殺人の罪なら、もう数え切れないくらい犯しているよ」

前線に立つ一兵士として、そして作戦司令官として。いったい何人の死に手を貸したか数えることもできない。

「そのくせにこんなことを言う権利はきっとないんだろう。
だけど……その少ない二人の犠牲者というのが、……私の母と、二歳になったばかりの妹だったんだ。この話は完全に伏せられたけどね」

息を呑むリフィアに、そしてそれまで反対していた父は、幼い息子を神殿に出すことを承諾したんだ、と彼は続けた。

父親はそして、二度と彼に会いにはこなかった。

「解放してごらん」

訓練所でそう言われたのだ。
一度測ってみるからね、大丈夫、何重にもカバーしてあるから。解放してごらん。 と。

皆が怖がるから、それまで意識的に全解放したことはなかった。
だから恐る恐る力を走らせた……しかしそれは急速にふくれあがり、途中で5歳児には手綱がとれなくなってしまった。訓練所の職員たちにも。
力は暴走し、文字通り爆発してから収束した。

そして気がついたら、世界をまるごと失っていた。
圧倒的な力を前にして、精神を明け渡したくなる誘惑はアルディアスにもある。それはおそらく、ほとんどの人にあるものではないだろうか。

けれど、それをすると大切なものを失ってしまう、そう深く刻み込まれてしまった。

……ありのままの自分ではいけない、自分をゆるめてはいけない。自分のすべてを解放してはいけない。
思えば、あの時そう縫い込まれたのだろう。

新しい傷ができたからといって、激しく呼び起こされたのは、そこに古傷があったからだ。
それはリフィアのせいではない。
抱え続けていたのは自分自身なのだから。

割れたカバーガラスを見たとき、そちらに気をとられているふりをしなければ……いや、意識的にそちらを見ていなければ、過去の亡霊に足をすくわれてしまいそうだった。

表情には出さずに済んでいたものの、身体の芯が震えてほんの少しの間でも彼女を直視することができなかったなどと、どうして言うことができただろう。

振り返ったらもういないのではないか、大切な人をまた喪ってしまったのではないか。
理由のない単なる不安だとわかっているのに、その恐ろしさを抑えることができなかった。

子供のころの傷は、自分で思っていたよりもずっとずっと深く刻まれていたものらしい。
だが、そのおかげで独りのときも「飛ばずに」自己を制御しきっていられたわけだから、ある意味手痛い授業料ともいえるのかもしれなかった、が。



パキン、という渇いた音とともに壊れた世界、喪われた人と日常。
それまで立っていた足場が一瞬にして崩れ、自分が誰かわからなくなった。はたして人なのかどうかさえ自信がない。

拠りどころを失ったまま、神殿ではさまざまな勉強や訓練が行われ、巫覡(ふげき)として鍛えられていった。
そして軍部に飛び込み、あげくに振り子のような生活が始まった。

生まれ持つ強いエネルギーは、神事なり戦いなりなにかしらで発散させていないと、自らを焼いてしまうと無意識に気づいていたのだろうか。

世界はあの日に壊れたまま、碇を下ろす場所のないまま。
忙しさだけが残る、寄るべなき危うい二重生活。

「……心が潰れそうになったとき、リフィアン、君に出会ったんだ」

あの冬の陽の中で、明るいペリドットの瞳をきらめかせ、いとも簡単にリフィアは言った。
私はあなたの正体を知っている、と。
それは私にとって衝撃だったんだよ、と言われて、彼女は誇らしげに微笑んだ。

「そうよ、アルディ、あなたの正体はわたしが知ってるわ」

それがどんなものかを説明しようとして、リフィアは口をつぐんだ。


……近いのか遠いのか掴めないところへ、透き通ったなにかが流れ落ちている。
全てに等しく注がれる色のない透明なものは、光も闇も等分に含んでいる。 

闇は穢れの全てではない。 
光は優しさばかりではない。

その白色の光を見つめて、光の滝の前にひとり佇む人影が見える。

霧越しに途切れ途切れでみえるような情景でも、そこに居るのは彼。
彼だとわかるのだけれど。


これをなんと伝えたら良いのか。リフィアは困ってしまった。

心話でと思っても、形に掴もうとするそばからそれは散じてしまう。
しかし意識しなければ自然とまとまって心に浮かぶ。
そこに確かにあると確信は持てるのに。

うまく言葉にできないものをしばらく追おうとしてから、あきらめて彼女は顔をあげた。
いつか透明な光が凝って雫になったなら、手のひらに包んで彼に贈ろう。

「私に見えるあなたは、そんな暗い眼になるようなものには見えないし、だからといって私が上っ面しか見てない訳じゃないと思うわ。迷子になっても私が見つけてあげるから、安心なさい」

「リフィアン……」

アルディアスは泣き笑いのような表情で、隣に座る細い身体を抱き寄せた。
温かな感触が腕に伝わる。

「アルディ、アル、言ってちょうだい、わたしに何をしてほしいか。一人で何でも背負うのはあなたの悪いクセよ」

身体をひねり、アルディアスの頬を両手で挟んで目を合わせる。
目を閉じこつんと額をあわせて、小さく彼は言った。

「……そばにいて……」

そばにいて、どうかここに。

君のぬくもりが私を支える。
私を人でいさせてくれる。


リフィア、私と世界とを繋いでくれる確かな碇。


















<Lifia - Fascinate … ->
http://blog.goo.ne.jp/hadaly2501/e/0fad23d8b79a40498f650fc12b07b673


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◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第二部【陽の雫】目次




とりあえず一段落をつけたい気分だったので。
でも次の話はまだ書けてないんですけどね^^;


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Re:【陽の雫 39】 母港 

今朝はめずらしく、 戦いのような、 爆弾・火薬のようなものが 
地上(といっても白い地上)に おちて
 何人かかまき添いになっていた 目覚めの悪い夢をみました。。
それも『敵』とかいうイメージでもなかったんですよね(;^_^A
チョット シンクロしているような内容で、、。
痛みました。。
一段落した次の展開が気になります(*^_^*)
  • posted by るちあ 
  • URL 
  • 2010.03/31 11:30分 
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Re:【陽の雫 39】 母港(03/31) 

連綿と魂をつないで幾星霜、アルディの慟哭を、今生のさつきのひかりさんは解決してらっしゃるのか心配してしまいます。勤務地でのお弁当中でしたが、心中の荒れ様(?!)たるや、それはもう。。。
このたび読み物として読ませていただいている私の立場や使命を、これからの私の生に生かさないといけなーい。 と思いました。ありがとうございました。
  • posted by いくら 
  • URL 
  • 2010.03/31 13:09分 
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Re:【陽の雫 39】 母港(03/31) 

「そばにいて」この一言を言う為にどれだけの勇気が必要だったのでしょう。そしてそれを言える相手で出会えたこの瞬間に出会うために、どれだけ待ったのでしょう。

今はまだ誰にも「そばにいて」が言えない自分に思わず重なり、泣いてしまいました。自分のことのように嬉しい。

ありがとう。
  • posted by 舞姫 
  • URL 
  • 2010.03/31 13:13分 
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やっぱり泣いちゃう 

38でも泣いちゃって、やはりここでも涙がぁぁ(ρ_;)
なぜか他人事じゃすまされないんですけど。。自分の中の何が反応してるんだろう。。
さつきさんの物語って、リアルなとこからおろして書いてるのか?
ちょっと、これは、のんびり優しくシリーズ最初から読まないとダメかも!(笑)
過去物語も気になるし!
魔法かかってます?(笑)
最近の人なので、あまりわかってないというw
自分は今、アトランティス時代を解放してるみたいです
あと、天使の戦い?の時と
何か繋がりがあるのかー!んーなんなんだーこの切なさは!(笑)
  • posted by りんりん 
  • URL 
  • 2010.03/31 13:31分 
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Re:【陽の雫 39】 母港 

心が同調して痛いです。泣けてきます。
さつきのひかりさんの紡いでくれる物語は言葉にもヒーリングの力があるのでしょうか?
とても深い痛みが言葉とイメージにすくい上げられて、ここにあるよって…表面に浮き上がってきて語りかけてきます。
認識するだけなのですが…
読み進めていくと同時に優しく包み込んでくれるリフィアさんに癒やしてもらっているようです…
感謝です…
  • posted by 撫~風~羽~♪ 
  • URL 
  • 2010.03/31 16:13分 
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Re:【陽の雫 39】 母港(03/31) 

残酷で限りなくやさしい物語。胸が痛いです。涙が出てきました。
 さつきのさん、文章もうますぎです。ていねいに紡がれた感じがしました。凝っているけど、すんなり入ってくるんですよね。
  • posted by naja92 
  • URL 
  • 2010.03/31 16:20分 
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Re:【陽の雫 39】  

涙が出ました。
アルディアスさんがリフィアさんと出会えて、本当によかった…

いつもありがとうございます。
  • posted by あんず 
  • URL 
  • 2010.04/01 02:07分 
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Re:【陽の雫 39】 母港(03/31) 

今回はとても詩的な感じが素敵だなぁと思い、書き込んでみました。文章からイメージがはっきりとわいてきてすごいです!!
アルディとリンの物語、これからの続きがとても楽しみです。
  • posted by ayaana 
  • URL 
  • 2010.04/01 03:48分 
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Re:【陽の雫 39】 母港 

私はリディアさんのように夫や子供達の気持ちに寄り添えているのかな。
ただそばにいる、隣に居るだけで安心出来るような存在で居られてるのかしら。
色々考えさせられるお話でした。
  • posted by hanako 
  • URL 
  • 2010.04/01 07:57分 
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Re:【陽の雫 39】 母港(03/31) 

ただ生まれつき大きな力を持っていただけの5歳の少年には
あまりにも残酷すぎる出来事で、正直言葉も出てきません……
アルディアスさんがリフィアさんに出会えて本当に良かったです。

それにしても、物語が降りてくるのって時系列どおりじゃないんですね~
それでもちゃんとお話がつながっているなんて、
やっぱりさつきのひかりさんの文章力はすごいです♪
  • posted by たまねぎ 
  • URL 
  • 2010.04/01 23:53分 
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Re:【陽の雫 39】 母港(03/31) 

初めてコメントさせていただきます。
PCあけるときには欠かさずチェックしています♪
何度かヒーリングは受けているのですが、またHNを忘れました…

数年前、あるきっかけで爆発した力を解放したくなったのですが、肉体の壁に阻まれたと感じたのを思い出しました。その年の夏のうちに3度そのようなことがあり、そのたびに降りた駅で流血事件が起きていたのは…私のせいだったのか…いやそんな大っきな力はありませんて;

本当にすてきなお話です。心が潤います。私にとってそばにいて…欲しいのは やつじゃないか!って思う相手はいて、多分お互い意識してるのですが、お互い声をかけられません(><)笑

膨大なネットの情報の中で
さつきさんのブログにめぐり合えたことを感謝しています。
奈良は祝1300年みたいですね!お気をつけて、良い旅を☆
  • posted by モラン 
  • URL 
  • 2010.04/02 09:01分 
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Re:【陽の雫 39】 母港 

ラストのアルディアスさんのセリフ・・・
いま、再度『序文』を読んでみたのですが、もっとこのシーンが迫ってきて、ムショーに痛く切なくなり意識が若干さまよってました。。
舞姫さんのコメントも泣けてきます。

もう一度はじめから大切に読ませていただきますね。

さつきのひかりさん、ヒーリングも小説も、いつもたくさんの愛をありがとうございます。
すばらしい旅を~☆(^▽^)
  • posted by AOI 
  • URL 
  • 2010.04/03 00:08分 
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Re:【陽の雫 39】 母港 

ようやく、この物語までたどり着く事が出来ました(^_^)v
さつきのひかりさんの物語は、癒しと学びがリアルに自身の内側に染み渡って行って…とても心地好く拝読しております。
また最初から、改めて読ませて頂きたいと思います♪ ありがとうございます☆
  • posted by 凛里 
  • URL 
  • 2010.04/05 17:43分 
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Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

エンジェルリンクファシリテーター、
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ルシフェルの翼Calling You 開発者。
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