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【陽の雫 31】 陰陽

春先のある日、火急の用事があるから神殿に来てほしいと通達があった。
軍務を片付けて行ってみれば、大神官室に五人の若い巫女が並んでいて、ひとりを選べと古参が言った。

「……院長、火急の用事というのはこのことかい」

アルディアスの声が低くなる。
皺だらけの老巫女は、自分よりはるかに高い位置にある彼の顔をきっと見上げた。

「もちろんです。アルディアス様の星回り、この神殿の星回り。この夏の大祭には陰陽の神事をすべきです」

陰陽の神事は、大神官任命中に一度しか行われることのない、重要なものだ。
大神官本人と相手が二人でパートナーを組み、膨大なエネルギーを扱うことになる。
それは同時に神前での婚姻をも表すため、ツインがいれば最上とされるが、いない場合には神殿内で候補を見つけることもあった。

ちなみに神殿において、結婚はタブーではない。独り身でいることを強要されることはなく、敷地内には男性用、女性用の修道院、そして家族と小さな子供用の住居が併設されている。
幼いころから預けられる子や捨て子もいるから、子供を育てるのにも支障はないが、神殿を出て外に一家を構えたいというならばそれも可能だ。

そしてこの時、必ずしも男女のペアである必要はない。ヴェールでは同性同士の婚姻もそれほど珍しくはなく、数は男女ペアよりも少ないものの普通に受け入れられていた。

修行とは自らを磨くことであり、それは場所や境遇を選ぶものではない。
もちろん一生独身で過ごす修道士たちも珍しくはないが、それに優劣はなく、どちらも自分の人生を選んだという点で尊敬されるべきものと認識されていた。

「……」

アルディアスは無言でベールをかぶった老巫女を見やった。その背後でつつましく眼を伏せている五人のことを考えて声の調子を変える。彼女達とて、厳しい訓練と選考を経てここにいるのはわかるのだが。

神事において婚姻を誓えば、それが覆されることはない。
だからこそ一生に一度しかできないものなのであり、逆に一度結びつきが確定されれば、その大神官任命中には常に同じ強さでエネルギーが流れ続けると言われている。

だいたい彼には、リフィアという立派な婚約者がいるのだ。それほどの深い繋がりを、彼女以外の誰かと持ちたいとは思わなかった。

「しばらく院長と話をするから、君達は部屋に戻りなさい」

一瞬ざわついた空気を、気をつけてお帰り、と有無を言わせぬ微笑で送り出す。
修道院長を残して巫女たちが退出を始めると、彼は陽射しのふりそそぐ背後の大きな窓の方を向いた。そのままリフィアの気配をさぐる。今はデスクワークのようだから、少しなら心話をしても大丈夫そうだ。

(リン、リフィアン、ちょっといいかい)
(どうしたの、アルディ?)

普段仕事の邪魔をしてくることはめったにないから、リフィアは少し驚いて答えた。アルディアスは神殿に行ったはずだ。距離としてはかなりあるが、どんなに遠くても自分の声を彼が拾ってくれることを知っているから、応答に不安はない。

(この夏、神殿で仕事をしてみる気はない?)
(あら、お仕事の斡旋なの? じゃあデメリットから伺おうかしら)

ちょうどひと息入れようと思っていたところだから、ペンを持つ手をとめて、面白そうにリフィアは言った。

(その一。今のままではちょっと無理だから、これから夏まで、神殿の特別召集扱いで週1~2日の訓練と勉強が義務づけられることになる。
その二。メインの神事前から精進潔斎に入るから、祭りの賑わいを見ることはできない。
その三。君はたぶん、神殿の巫女達……というか古参とは話が合わないだろう)

(それはかなりのデメリットねえ。メリットは?)

(その一。その仕事は私とペアでやるものだから、祭りの間ずっと一緒にいる。
その二。訓練と勉強は私が直接責任を持つ。だからその間もつきっきり)

(乗ったわ)

リフィアは笑って、手元の小さなスプーンでマグの中身をくるりとかき回した。好奇心もあるし、アルディアスと一緒にいられるなら文句はない。
彼の笑いの波動が届いた。

(早いね。で、その三。君と私がツインだと、周知することになるだろうね)
(望むところよ。下世話な噂話にはもう飽き飽き。いいタイミングじゃない?)
(了解。じゃあそのように院長と話をつけるよ)
(あの怖い古参巫女さまね? 頑張って)

心話を切ると、アルディアスは修道院長に向き直った。五人の巫女が退出して十秒ほど後のことだ。
老巫女は、絶対に折れないぞという決意をもった顔で彼を見つめていた。

「神殿のためにも、どうしても神事はやっていただかねばなりませんぞ」
「……わかった。だが相手は私が連れてくるよ」

皺だらけの顔の中で、薄くなった眉毛が跳ね上がった。

「なんですと、なぜ巫女からお選びにならないのです。大事な神事を失敗させるわけには参りませぬ。深い信仰を持ち、修練を積んだ巫女から選ぶのが筋というもの。容姿も能力も生え抜きばかりを候補にしましたぞ」

「院長、そんなものは何も関係がないよ。いくら能力も信仰心もあろうとも、気持ちの向かない相手と夫婦役はやりたくない。
彼女は私のツインだから共振には問題ないし、能力もある。訓練と勉強は私が責任を持つ」
「アルディアス様、とはいえ……」
「嫌ならば他の巫覡を探すのだね。私は喜んで職を降りるよ」

藍色の瞳で老巫女をじっと見つめて、アルディアスは言い切った。各地にある修道院では、たくさんの男女が日夜修行に励んでいる。慣例どおり、その中から次の大神官を選べばいい。

そもそもが自分で望んでついた地位ではないのだ。
ましてリフィアのためであれば、捨てるのに何の未練もなかった。
口調は穏やかだったが、巌のような強い意思がその瞳には宿っていた。

アルディアスが本気であることを察したのだろう、修道院長がかすかなため息とともにうなずく。

「……かしこまりました。その方を祭りの巫女としてお迎えいたします」
「ああ、よろしく。候補の巫女たちにはよく言っておいてくれ。彼女達のせいではないと」

内心ほっとした声音で続ける。
春の陽をあびて、アルディアスの銀髪がきらきらと光っていた。

















-------

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◆第二部【陽の雫】目次




今日はバレンタインで新月で旧暦の新年なのだそうで。
せっかくなのでおめでたい?話をアップしときますw
そしてまた新展開に入るのです 笑


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Re:【陽の雫 31】 陰陽(02/14) 

なんとなく、このコメントにはjizoh153で書かせてください。
アルディアス様素敵~
そーだそーだ!アルディアス様にはリフィアという素敵なツインがいるのよ~

誰にも文句は言わさないわよ~
二人とも応援しるから、負けないで~!!
と、またまた暑くなりました。

この気持ち、時間と空間を越えられるか分かりませんが
遠いヴェールまでもどうか届きますように!
  • posted by jizoh153 
  • URL 
  • 2010.02/14 19:34分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【陽の雫 31】 陰陽 

お忙しい中、お話しのアップをありがとうございます♪
春は忙しいですよね~♪
リフィアさん即決ですね(笑)肝が座ってる!
さすがアルディアスさんのツインですわ~♪
古参の巫女さんはきっと最終的には納得してくれるだろうな~♪
新しい展開…これからの2人っきりの修行はすごく深そうで楽しみです♪むふふふ…♪
  • posted by 撫~風~羽~♪ 
  • URL 
  • 2010.02/14 21:24分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【陽の雫 31】 陰陽(02/14) 

お忙しい中、バレンタイン&新月&新年@旧暦におめでたいお話を、
っていうお心遣いがとっても嬉しいです♪

こんな時のアルディアスさんって見た目は穏やかでも
きっと有無を言わせぬ迫力があるんでしょうね~
とっても男らしくて素敵です☆

アルディアスさん&リフィアさんだったらすっごくいいエネルギーが流れそうなので
このお祭りに参加できるヴェール人が羨ましい。。
  • posted by たまねぎ 
  • URL 
  • 2010.02/14 23:45分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【陽の雫 31】 陰陽 

修行とは自らを磨くものであって場所や境遇を選ぶものでない……本当にそうですね
ついアルディアスさんのような人が傍にいれば幸せだろうなぁと思ってしまう(笑)
毎日更新を楽しみにしています(^-^)
いつもありがとうございます☆
  • posted by 瑠璃のるい 
  • URL 
  • 2010.02/15 03:58分 
  • [編集]
  • [Res]

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さつきのひかり

Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

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ルシフェルの翼Calling You 開発者。
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