のんびり、やさしく。

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【銀月物語 89】 おむかえ

トールは世界樹の根元にいた。オークに似た懐かしい手触りの木肌。かつてあまりにも長く守人として共生していたため、もはや自分の一部と融合しているような感覚さえある。

巨大な根元にある小さなドアから、しわくちゃの小柄な老婆が顔を出した。

「あの子ならいっちまったよ」
「ええ、知っています。ありがとう」

トールは微笑む。先ほどまで、緑の少女はこの老婆の家にいたはずだった。

世界の流れが速くなり、大波小波が人々を襲っている。もちろんそれは少女たちも例外ではなく、色々なネガが出てきては、それをクリアするための状況が用意されていた。
気分が落ちたり上がったり、波間に浮き沈むようにして人々は光を目指している。そのスピードが昨今はあがっているのだ。

ネガをひとつ越えれば、ひとつ軽くなれる。
だから嫌悪すべきではないが、渦中にあれば沈んでしまうのは仕方のないことだった。
交互に助けのロープとなり、泳いでゆければいいのだと思う。

トールははるか高い枝を見上げた。姿は見えないが、少女がそこにいるだろうことが感じられる。
彼は登って追いかけようとはせず、視線を手元に戻した。

(久しいな。あの子が元気になってよかったことだ)

笑いをふくんだ世界樹の声が聞こえる。トールが守人としてルシオラの魂をずっと護っていた間、大樹は一緒に彼女をみていたのだ。

(おかげさまでね。ひさしぶりに音楽でも?)
(おお、よいな。ハープを頼むよ)

銀髪の錬金術師は軽く手を振って愛用のハープを呼び出した。太い木の根に腰かけ、幹によりかかって弦をはじく。
柔らかな音色がゆっくりと流れ出した。



上のほうの枝に座っていた緑の少女は、下でハープが鳴り出したのに気づいた。
彼が来るのに気づいてなんとなく逃げだしてしまったが、なぜ会いにくいのか、心がさまざま絡み合って自分でも説明がつかない。なんとも晴れないもやもやとした気持ちを振り払うように、彼女は歌いはじめた。

下でいうところの賛美歌に近いような曲を、透き通った高い声でゆっくりと少女は歌う。
彼女は歌うのが好きだった。よくステーションのタワーのてっぺんで一人で歌っている。そうしていると、そのうちに他の人が加わって合唱になったこともあった。

何曲か歌い終えると、聴こえてくる曲がスカボロー・フェアに変わった。少女はそれに乗って歌う。
あわせるように風が吹き、さわさわと枝が鳴った。

  
  亜麻の上着を作ってと伝えて
  パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
  縫い目も針あともないものを
  そうしたら彼は私の恋人

  一エーカーの土地を探すように伝えて
  パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
  海の水と砂浜の間にある土地を
  そうしたら彼は私の恋人

  皮の鎌で刈り入れてと伝えて
  パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
  そしてヒースの束にまとめて
  そうしたら彼は私の恋人……


きれいな声で歌いながら少女は思った。

(……トールだったら、きっと普通に解決しようとするんだろうな)

スカボローの市に行く人に伝言を頼んで、無理難題を押しつけてみたところで。魔除けのハーブの名前を唱えながら、じゃあ、これこれしてくれたらね、なんて逆に無理難題を言ってきて結局すれ違ってしまうわけでもなく、はいはいわかったよ、とただの軽口で終わるのでもなく。

あの彼ならば、彼女が提示した無理難題を、ひたすら真面目に解決しようとするのだろう。
  
そう思ったら可笑しくなり、笑って続きが歌えなくなってしまった。

なんだかもう、本当に自分がまだ一人でいたいのか、もうフリだけになってしまっているのか、自分自身でもよくわからない。
もうどうでもいいか、と馬鹿らしくなってきた少女は、彼のすぐ上の枝までそうっと降りていき、斜め上からじっとトールがハープを弾いている姿を見ていた。
かすかに青みがかった銀色の髪に、木漏れ日がきらきらと反射している。かつてどれほどの時を、彼はこうして大樹によりかかって過ごしたのだろうか。

しばらくして曲が途切れると、彼はふと上を見上げて微笑んだ。

「こんにちは、歌姫さん」

「……あのさ」

少女は太い枝に腹ばいになり、足をぶらぶらさせた。ハープをゆっくりと爪弾きながら、視線でトールが続きを促す。

「もしあたしが、縫い目も針跡もないシャツを作ってくれっていったら?」
「どうにかして作るだろうね」

予想したとおりにトールは答えた。
一エーカーの土地も皮の鎌も、問題が技術的なものに集約されるかぎり彼の答えは変わらないことに気づいて、うーんと悩む。

「じゃあさあ……たとえばさ。あたしが転生のとき、ものすっごい試練を設定したとして。その試練に悪魔みたいな役が必要だから、やってくれって言ったら?」

その時初めて、ハープの音色が途切れた。青灰色の瞳で少女を見つめ、一瞬の間をおいてトールが答える。

「……受けるよ、その役を」
「でもその時のあたしに嫌われちゃうかもよ? すごいひどい試練で、ひどい悪魔だもん」
「それでもその役が必要なんだろう?」

彼は微笑んだ。
なんにでもなれるよ、あなたが真に望むなら。
たとえその時は蛇蝎のごとく嫌われる役回りであったとしても、その試練の経験を彼女の魂が望むならば、なんの否やがあろう。
輪廻の輪は続き、そこで終わるわけではないのだ。

「……すごいな。後で申し訳なくなりそうだ」

言いようがなくなって彼女は呟いた。

「すごくはないさ。私という魂の中には、強大なエネルギーの坩堝があって、つねに流れる先を探しているんだよ」

それを愛として変換すれば、その質量の巨大さゆえに、絶対的な支え手といわれるようなものにもなれる。
なれるが、その流れ先として想われるほうにとっては、ある意味いきなり天災が降ってくるようなものだろうよ、と彼は笑った。

だからすごくはないし、どんなときでも少女が申し訳ないという気持ちを持つ必要はないのだと。

彼女はぽかんと口をあけた。
彼自身のこの莫大な愛を……天災だって?

それが降ってきたら、毎回世界一幸せな気分になれるのに。
こんなにも深く自分は愛されていたんだと、いつでもしっかりと支えられているんだと確信できるのに。
だからこそ申し訳ないような気分にもなるのに、それは嵐と同じだから気にするな、応える必要もないと彼は言うのか。

「……しあわせな天災だね」
「ありがとう。よかったよ、逃げられてしまうのでなくて」

トールは笑って立ち上がり、伸ばされた手をとって少女を枝から下ろした。

そして二人は、手をつないでルキアへと帰った。










--------

◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第一部 目次

緑ちゃん&黒さん&じぇいど♪さん、はっぴーばーすでぃ
……黒さんって今日でいいのかな? とりあえずおめでとうはいいのかw


コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!
おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。
どれも大切に嬉しく拝見しております♪
続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪


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 8/25 世界樹のヒーリング 


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Re:【銀月物語 89】 おむかえ 

あら。じぇいど♪さん、
本日がお誕生日なのですね!おめでとうございます!
なにみえブログから繋がって感謝デス(*^_^*)
そっかぁ。。
輪廻転生はずっと、続くのかー。。
天にかえれる日はあるのかな。。なんて思います。。
  • posted by あるてみす 
  • URL 
  • 2009.08/24 00:35分 
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  • [Res]

深い愛ですねー。 

そして私からも、ハッピーバースデーです♪
  • posted by Indigo 
  • URL 
  • 2009.08/24 01:36分 
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Re:【銀月物語 89】 おむかえ 

なぜに、いつもスカボロー・フェアなのか、気になります。
弦の音だからなのでしょうか…。

私からもおめでとうございます。
  • posted by なが 
  • URL 
  • 2009.08/24 06:47分 
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ふたりともお幸せに 

お誕生日おめでとうございます^^
トールさんの優しさにきゅんっときました。
ぜひ握手を←←


これからも連載楽しみにしています。
  • posted by 彼方 
  • URL 
  • 2009.08/24 10:37分 
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Re:【銀月物語 89】 おむかえ(08/24) 

今日のお話、癒されました。

知識としては知っていても、スピのエッセンスが
詰まった物語(実際、上で起きたことですが)で
語られると、もっと深い所を
突いてくる感じがします。

トールさんが緑たんへ向けた言葉は、
ある人が、私へ向けて発した言葉の様に
感じられました。

どうしてでしょう?
さつきのさんが書いたからなのは
わかりますが、それ以上のことを
説明出来る言葉が、すぐ降りてきません。

何はともあれ、どうもありがとうございました☆
  • posted by おんぽたんぽ 
  • URL 
  • 2009.08/24 13:20分 
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Re:【銀月物語 89】 おむかえ(08/24) 

じぇいど♪さん、お誕生日おめでとうございます☆
なんだかとっても素敵なエピソードですね~。

スカボロー・フェア、wikipediaで調べてみたら
そこに載ってる楽譜が、私がよく知ってる(たぶんサイモン&ガーファンクルの)
メロディーとビミョーに違うんで、ちょっと「へぇ~」な感じでした。
今、なにかのCMでも流れてますが(何のCMかは知らないのですが)、
これも上からのメッセージ!?
  • posted by たまねぎ 
  • URL 
  • 2009.08/24 14:21分 
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  • [Res]

おむかえ 

さつきのひかりさん いつもありがとうです。
そしてじぇいどさんのお誕生日おめでとうございます

ルシオラという戦闘系天使をつくる時に、トールさん
をツインと定めてくださった上の愛を、今日のお話で
強く感じました。
トールさんの愛は、とーるさんだけでなく、もっと上の想いが重なっているのではと・・。
嬉しくて、感謝です。
これからも連載楽しみにしています。
  • posted by うお 
  • URL 
  • 2009.08/24 16:51分 
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  • [Res]

Re:【銀月物語 89】 おむかえ 

おめでとうございます(*^▽^)/
お二人がいつまでも幸せでありますように祈っていますo(^-^)o
  • posted by にこにこ◎^∇^◎みかん 
  • URL 
  • 2009.08/24 21:04分 
  • [編集]
  • [Res]

Re:【銀月物語 89】 おむかえ 

毎回トールさんの愛の深さ、でっかさには言葉もありません…☆
  • posted by とも 
  • URL 
  • 2009.08/25 00:01分 
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  • [Res]

目からウロコがポロポロポロッと・・・ 

このところ「無条件の愛」というお題が出ていて、体感させられても、なかなか納得まではいかない状態だったのですが・・・

このお話を読んだ後に、友人の悩みを聞いていたら
あああああ、まさにコレだ!!この話まんまだわと
いうリンクがありました。

文章が実体化して、目の前で展開されて、しかも客観的に見る立場だったので、妙に納得してしまいました。

また、うまい事やられちゃったな~という気分です。
トールさん・緑ちゃん・さつきさんありがとうございます。
  • posted by れれれのれ 
  • URL 
  • 2009.08/28 11:43分 
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ジェイどさんハッピーバースデイ 

黒じぇいどさんにあいたいなり
  • posted by ごちぃFumitaka Yamaguchi 
  • URL 
  • 2014.04/23 17:40分 
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Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
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