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【銀月物語 57】 空中散歩

「た・い・く・つ。あーきーた!」

ベッドの上で少女が叫ぶ。さもありなんとトールは苦笑した。
ステーションでの手術後にルキアに来てもう一週間以上。体力も徐々に回復し、そろそろ飽きてきても不思議はない。

ルキア内ならば危険はないから、散歩にでも連れ出そうかと彼は思った。
ちょうどデセルが外であることを練習中だ。

「じゃあ、外に行くかい?」

トールの問いに、少女は大きくうなずいた。しかしトールがバルコニーへの窓を大きく開け放ち、その背に真っ白な大きな翼をあらわすと、彼女の表情が固まった。
天使のエネルギーを多く持つ彼女だが、鳥も含めて羽が大の苦手なのだ。

もちろんトールはそれを知っている。けれどできればポータルを使わず、羽に慣れてほしいという理由もあったから、彼は穏やかな微笑を浮かべて手をさしだした。

「おいで。それとも、私でも怖い?」

少女は数瞬のあいだ逡巡し、ごくりと唾を飲み込んでぷるぷると首をふった。覚悟を決めた表情で銀髪の錬金術師に歩みよる。

「だいじょうぶ・・・・・・たぶん」

それでも恐る恐る、という感じで手を伸ばしてくる少女に笑って頭をなでる。華奢な体を腕に抱き、トールは軽く地を蹴った。純白の翼をはばたかせ、あっという間に上空に舞い上がる。

「どこへいくの?」
「空中散歩」
「なんだよそれ。ルキアの中じゃあ、外じゃないじゃん」

力強い腕の中で少女はふくれた。

「あなたはまだルキアからは出せないよ。回復しきってないからね。
それより、ほら。見てごらん」

ふくれっつらのままトールの視線を追って、少女はすっかり怒りを忘れてしまった。

そこには大きな灰色の翼を生やしたデセルが、ガーネット色をした大きなドラゴンと一緒に飛ぶ練習をしているところだったのだ。

「デセル!?」

少女の叫びに、空中のデセルは彼女のほうへ視線を走らせ、あやうくバランスを崩してドラゴンの大きな背に拾われた。

「サンキュー、サフィラ。・・・・・・こんにちは」

自分のドラゴンに礼を言い、二人を見て照れくさそうに笑う。
彼の周りにはトールの竜であるシルヴァンとユアン、それに小さなディアンもいた。ディアンは少女の本体の家から来た赤紫の鱗の幼竜で、先の二匹が年長であるためか、成長する気配なく子供のままで明るい波動をふりまいている。

「おまえ、天使だったのか?」

ぽかんと口を開けたまま少女は言った。いやでも、どうして? 問いに答えたのはトールだった。

「天使というより、古い過去世で有翼人種だったといったほうが正確かな。
彼もその過去世で痛覚遮断皮膜の実験をされていて・・・・・・このあいだその剥離手術をしたら出てきたんだ。術後すぐに出てきそうだったのが昨日生えたんだよ」

へえ、と少女は眼をぱちくりした。
霊的医療の専門家であった天使の過去世を統合してから、トールはずっと封印していたメスをふたたび執るようになった。
それは知っていたけれど、デセルもそんな実験をされていたとは。
はっとあることに気づいて、少女は自分を抱く人の顔を心配そうに見やった。その視線の意味をとらえて青灰色の瞳が微笑む。

(ちがうよ。過去世では私が施術したわけじゃない。ありがとう)

少女はほっと息をついた。もしそうならあまりにもひどすぎる、と思ったのだった。

(……同じ組織にはいたんだけれどね)

自嘲的なかすかな呟きは、少女には届かなかった。

彼らの横を、虹色に陽光を反射した大きなガーネットが風をおこしながら舞い上がっていく。
サフィラははるか上空に行って、そこからデセルが飛び降りた。まだ地上から自力で飛び上がるということができないらしい。

ペリドットの瞳を緊張させて、デセルは危なっかしいながらも滑空できるようになってきていた。
元が技術系であるだけに、翼の揚力やエネルギーの使い方の理論はすぐ頭に入ったようだ。あとは実践的にエネルギーをつかまえることに慣れさえすれば、すぐ上手に飛べるようになるだろう。

「そうそう、上手。・・・・・・もっと翼を丸める感じで。そう」

隣をゆったりと追いながらトールが言う。その腕の中から見ていた緑の少女であったが、だんだん我慢ができなくなってきた。

「あたしもやる!」と叫んで、トールの腕を振りほどく。

そして勢いつけてルキアの大空に飛び出した・・・・・・が、背中の羽は完全には出ず、滑空できずに下へと落ちてゆく。

「わああっ」

叫び声。ドラゴンたちも集まってきたが、即座にトールが翼をすぼめて真下に回り込み、無事に少女を抱きとめた。
そのままその空域で姿勢をまっすぐに立て直す。
やってきたデセルが、斜めになって横に滑りながら言った。

「・・・・・・ホバリングできないんですけど。羽動かしてないよね?
それともハチドリみたいに、見えない速度で羽ばたいてます?」

その例えにトールは少しふき出した。

「羽ばたいてないよ。羽の前面に位置エネルギーを溜めるんだ。それでバランスをとる」

「・・・・・こうかな? お、なるほど」

コツをつかんだデセルが笑う。彼がそこから自力で上昇してゆくのを見やって、トールは一度戻るよ、と声をかけた。わかった、と上空から返事が降ってくる。

腕の中の少女がかすかに震えていることに、トールは気づいていた。

部屋に戻ると、彼は少女をそっとベッドに降ろした。

「背中を見せてごらん」
「やだっ」

羽の生え際を確認しようとすると、少女はぱっと逃げ出した。

「痛いことはしないよ。癒着していないか見るだけだ」
「でもやだっ」

エメラルド色の目には涙がたまっている。重ねてトールは言った。

「さっき咄嗟に羽が出なかっただろう。物理的に癒着しているのだとしたら大変だよ。見せてごらん、すぐだから」
「やだー!」

少女は泣き叫んでベッド脇の柱に抱きついた。なんでこんなに嫌なのか、ルシオラなのか他のトラウマなのか、彼女にもわからない。
ともかく羽全体、その中でも根元の可動部分については考えるのも嫌だった。

「いやぁだああああー!!」

トールは医療職らしく冷静に彼女の背を確認していたが、部屋には彼女の絶叫が響いていた。
















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◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第一部 目次

お待たせしました! 本編再開ですっ。
・・・とはいえ、またいつ外伝がぽっこり出てくるかわかりませんが^^;
もーいつも勢いだけでつっぱしってますので・・・
構成は上のどっか(にいるはず)のプロデューサーにお聞きくださいませ(爆

さてさて、緑ちゃんに羽が生えた(いや元々あったんだけど)のは皆様ご存知のはず。
それを出すまでも・・・やっぱり一騒ぎあったわけで 笑
この後2話にわたりますが、どうぞお楽しみくださいませw



コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!
おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。
どれも大切に嬉しく拝見しております♪
続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪


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さつきのひかり

Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

エンジェルリンクファシリテーター、
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ルシフェルの翼Calling You 開発者。
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