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【銀月物語 53】 教官は金の歌姫

ギィン、と音なき衝撃波が空を走った。光の乱舞が網膜を焼く。

「こないだはごめんね~。ここ、わざとこう作ってあるんだ」

緑色のミニスカートにブーツという戦闘服を着た女性教官が、高く飛び上がって身体ごと撃ちかかりながらにっこり笑った。赤かった髪は薄金になり、言葉遣いも中和されて、どうやら彼女も統合したようだ。

「そうなんですよ。でもお気になさらず」

右手の剣でいなしつつ左手で稲妻をしかけ、こちらもにこやかにトールが答える。雷撃が空気をふるわせた。

「そうとわかったら思いっきりできるからいいよねぇ~」

教官は着地と同時に身体を半回転させて何本もの稲妻を避け、間髪入れず腰に構えて突きこんだ。振袖に似た袖の先についた小さな鈴が、チリリンと澄んだ音を立てる。
彼女の統合後の、というかそもそもの存在は、薄金の髪の歌姫であるらしかった。しかしその攻撃ぶりは、華奢な外見からは想像もつかないほど的確で容赦がない。

「まったくですね。遠慮するとつまらないでしょう」

鋭い突きをななめに叩き落し、返す刀で首筋を狙う。一撃ごとに、過去世で積んだ知識と経験が今の身に戻って落ち着いてゆくのがわかる。

「そうなの~。学校でもさ、リミッターつけてその上武器なし、攻撃不可よ? ひどいと思わない?」

細身の剣でからめるようにトールの剛剣を受け、そのままねじって鎖骨を目指した。互いに無駄のない動きは計算された舞踊のようだ。

「ああ、そうでしたね。私もです。攻撃できないっていうのはねえ」

飛びすさった瞬間に発火魔法陣を発動させる。同時に地を蹴って振りかぶった。

「攻撃でなくてさ~、棒とか素手とかでちょいとつつくだけだって殺しかけちゃうじゃん。もーストレスなのよねぇ、あれ」

だから今思いっきりできるって気持ちいいわぁ、と電撃を解放しながら突っ込んでゆく。

会話だけ聞くとのんびりした、しかし繰り出される攻撃は結界がなければステーションのひとつやふたつは消し飛んでいるかもしれない、という、非常に危険な手合わせを二人はしていた。

トールが専門戦闘員であったグラディウスを統合した、と聞いた教官が、ハンデなしの戦いを申し込んできたのだ。
グラディウスの能力を完全に落とし込むために、一度全力で戦いたいと思っていたトールには願ってもないことだった。以前稽古をつけてもらったときも教官はリミッターなしだったが、今回は指導もなく、完全に対等に戦っている。

互いの闘気と衝撃波がぶつかりあって大気の渦を生み、巻き上がる風が彼らの髪をなびかせる。
混じっていた真空の刃が、二人の頬を薄く切った。

「えへっ」

血をぬぐった指先をぺろりと舐めて教官が笑う。ふ、とトールも笑った。

なぜ楽しいのだろう、と考えてみる。
剣は武器だ。しかし人を傷つけたいわけではなかった。傷つけたいだけなら、弱いものを狙うのが最も簡単だが、お互いそれはまったく考えにない。

そうではなく、「自分の力を制限せずに解放する」ことが楽しいのかもしれない。
だから教官も自分も、大怪我させる気遣いのない、対等に戦える相手を探していた。
ではスポーツとしてやりたいか、というとそれも違うのだ。
剣は剣であるとわかっている。使ってきた過去も、その重さも変わらずにこの背に負うている。

好戦的な気質というのは、多分自分の中にあるのだろう。
それは消しようもなく、自分の一部であるならば消す必要もおそらくなく。
ただそれとどうつきあってゆくかが問われている、そんな気がした。

もうほっとこ、とあきれる本体たちの声を聞きながら、二人の対戦は日が暮れるまで続いた。



その後は教官の持つ別館に行き、その場を稼動させるための勉強の時間。
歌姫の顔をもつ教官は誇らしげに、先日トールが教えて、それを実地に書いてみた魔法陣を見せた。

「これこれ。どう?」

トールは光る線で描かれた大きな魔法陣を見てうなずく。

「ああ、よく描けてます……が、ここのスペルが違います。ここはほら、起動陣を組み込む場所なので、通常とはつづりが違うんですよ」

「えー…」

「……また絵として覚えましたね?」

ベニトアイトの目をすがめてトールは言った。教官が舌を出して頭をかく。
彼女は呪文をアルファベットのスペルとして覚えるのではなく、丸ごとそのまま絵として覚えてしまう癖があるのだ。記憶力としてはたいしたものだが、それでは応用がきかない。

「あれだけ攻撃魔法が使いこなせるのに、なぜ維持系の魔法が使えないんですかねえ」

トールにとっては心底不思議なのであるが、やー兄さまに教えてもらわなかったからぁ、と彼女は言った。
維持系を教えられていないとしても、基本アルファベットは誰でもやると思うのだが、という呟きを飲み込む。

別館を人の使える建物として起動させるだけなら、決まった魔法陣をいくつか教えればすむ。しかしメンテナンスなどの管理も自分でやろうと思うならそうはいかない。
先日結婚した彼女の夫が知っているからサポートはするだろうが、一度基礎から教えたほうがいいだろう。

それも資料を小出しにしないと、この生徒は最後だけ丸覚えして終わろうとするに違いない。エネルギーを扱う才能はあるのだからそれではもったいないし、三次元の言葉で降ろすことはなくても、彼女の本体にとっても必要な知識だろうと思われた。

初めて家庭教師にきたときはほんの十分で教官には逃げられ、同じく分身である紫の少女が生徒になったが、統合してひとりになっている今日は逃がさない。
逃げ道を結界でふさぎ、さて、では基本のつづり確認からいきましょうか、とにこやかにトールは言った。

















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◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第一部 目次

・・・いやもう、ほんっとに楽しそうでした、あの人たち(笑)


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さつきのひかり

Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
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ルシフェルの翼Calling You 開発者。
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