2009.04/09 [Thu]
【銀月物語 20】 彼方のかけら 3
いつのまにか、肩にルシフェルの暖かい手が置かれていた。
「神よ、なぜ……」
泣きながら見上げた先に、苦渋に堪える黒い瞳があった。
「あの子の魂は自ら砕けることを選び、引き受けていたのだよ。止めていた時間が動き出すとき、肉体は最後の時を繰り返すのだ。おまえの傷が血を流したように」
「ですが……傷が」
銀巫女には肩と胸の傷はなかったはずだ。そう問いたかったが言葉にならない。
「おまえを刺したこと……それを自分の罪だと思い、ずっと責めているからだよ。その自責の念がまったく同じ傷を作ったのだ」
デセルはむなしく口を開閉した。
自分は彼女を責めたことは一度もない。
責められるべきは、未来永劫赦されぬ過ちを犯したのは、この自分だ。
最後に正気に戻ったとき、二度と自分を思い出してくれるなと願ったのに……。
それがどんなに自分勝手な願いであったことか。
絶望にうちひしがれるデセルの肩に手を置いたまま、ルシフェルは若者の前にまわった。
「巫女の魂を捜しに行くかね?」
デセルがぱっと顔を上げる。
ほんのわずかでも望みがあるなら、このまま永遠の別れにならないですむなら、何でもするつもりだった。
そんな彼の視線の先で、闇の花園よりもなお黒々とした次元の穴が口を開けた。
先日単身乗り込んで大怪我をした虚無の穴だ、と気づいてデセルは戦慄した。
「そう……おまえが行った場所、闇の最下層の虚無の奈落だ。巫女の魂、それも砕けた無防備な魂は、邪や魔の最高の餌となる。彼等に喰われてしまえば、もう二度と彼女は彼女であることができぬ」
ルシフェルの声は、哀しいほどに静かだった。
彼がどんなに神殿の者たちを愛していたか、デセルは知っていた。制約により助けることができず、ただ見守っているのはどんなに痛いことなのだろう。
「おまえは、剣もすべての武具装備も外し、丸腰でこの穴に降りねばならない。……できるかね?」
ごくり、デセルは唾を飲みこんだ。
先日は全身鎧を着込んでいった……何の役にも立ちはしなかったが。
痛めつけられた恐怖を身体が覚えており、知らずがくがくと震えた。
しかし自分が行かなければ、彼女はこのまま失われてしまうのだ。
デセルは二度、肩を上下させて大きく息をした。手を握りしめて震えを押さえ込むと、神剣を手放し、腰につけていた小刀もすべて外した。
小刀の脇につけていたすみれ色のシフォンだけは、ほどけないようにしっかりと結び直す。
そんな彼を、ルシフェルがまっすぐ見据えた。
「よろしい、我が巫女の命をおまえに預ける。……必ず、二人で生きて戻るように」
「……はい、必ず」
腰のシフォンを片手で握りしめ、デセルは穴に飛び込んだ。
----------
◆【銀の月のものがたり】 道案内
◆第一部 目次
物語を書くほうが忙しくてお返事遠慮させていただいておりますが、
コメントにご感想をいただくとものすっごく嬉しいので、小躍りして喜びます♪♪
ありがとうございます♪
応援してくださってありがとうございます♪→
「神よ、なぜ……」
泣きながら見上げた先に、苦渋に堪える黒い瞳があった。
「あの子の魂は自ら砕けることを選び、引き受けていたのだよ。止めていた時間が動き出すとき、肉体は最後の時を繰り返すのだ。おまえの傷が血を流したように」
「ですが……傷が」
銀巫女には肩と胸の傷はなかったはずだ。そう問いたかったが言葉にならない。
「おまえを刺したこと……それを自分の罪だと思い、ずっと責めているからだよ。その自責の念がまったく同じ傷を作ったのだ」
デセルはむなしく口を開閉した。
自分は彼女を責めたことは一度もない。
責められるべきは、未来永劫赦されぬ過ちを犯したのは、この自分だ。
最後に正気に戻ったとき、二度と自分を思い出してくれるなと願ったのに……。
それがどんなに自分勝手な願いであったことか。
絶望にうちひしがれるデセルの肩に手を置いたまま、ルシフェルは若者の前にまわった。
「巫女の魂を捜しに行くかね?」
デセルがぱっと顔を上げる。
ほんのわずかでも望みがあるなら、このまま永遠の別れにならないですむなら、何でもするつもりだった。
そんな彼の視線の先で、闇の花園よりもなお黒々とした次元の穴が口を開けた。
先日単身乗り込んで大怪我をした虚無の穴だ、と気づいてデセルは戦慄した。
「そう……おまえが行った場所、闇の最下層の虚無の奈落だ。巫女の魂、それも砕けた無防備な魂は、邪や魔の最高の餌となる。彼等に喰われてしまえば、もう二度と彼女は彼女であることができぬ」
ルシフェルの声は、哀しいほどに静かだった。
彼がどんなに神殿の者たちを愛していたか、デセルは知っていた。制約により助けることができず、ただ見守っているのはどんなに痛いことなのだろう。
「おまえは、剣もすべての武具装備も外し、丸腰でこの穴に降りねばならない。……できるかね?」
ごくり、デセルは唾を飲みこんだ。
先日は全身鎧を着込んでいった……何の役にも立ちはしなかったが。
痛めつけられた恐怖を身体が覚えており、知らずがくがくと震えた。
しかし自分が行かなければ、彼女はこのまま失われてしまうのだ。
デセルは二度、肩を上下させて大きく息をした。手を握りしめて震えを押さえ込むと、神剣を手放し、腰につけていた小刀もすべて外した。
小刀の脇につけていたすみれ色のシフォンだけは、ほどけないようにしっかりと結び直す。
そんな彼を、ルシフェルがまっすぐ見据えた。
「よろしい、我が巫女の命をおまえに預ける。……必ず、二人で生きて戻るように」
「……はい、必ず」
腰のシフォンを片手で握りしめ、デセルは穴に飛び込んだ。
----------
◆【銀の月のものがたり】 道案内
◆第一部 目次
物語を書くほうが忙しくてお返事遠慮させていただいておりますが、
コメントにご感想をいただくとものすっごく嬉しいので、小躍りして喜びます♪♪
ありがとうございます♪
応援してくださってありがとうございます♪→
Re:【銀月物語 20】 彼方のかけら 3(04/09)
切ないですねぇ・・・。この心が痛くなるほどの勇気が凄い。書いているさつきのひかりさんも切ないですよね・・・・。
これからも楽しみにしています。
P.S. 事後報告で申し訳ありませんが、自分のブログにブックマークさせていただきました~。
http://ameblo.jp/hauoli0124/" target="_blank">http://ameblo.jp/hauoli0124/