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【銀月物語 17】 昏き闇の淵へ

トールが一日四戦をすることになった日のこと。
そのとき、デセルの本体は車に乗っていた。

「見つけた!」

誰かが車を覗きこむ。赤茶っぽい髪の女の子だ。緑の服を着ているらしい。
手合わせしようよ・・・・・・というより、相手しろ、という感じでデセルを追いかけてくる。

デセルの脳裏に、その朝トールに襲いかかった緑の少女のことがひらめいていた。彼女の相手をするのは、色々な意味で避けたいところだ。
ここは三十六計逃げるにしかず。デセルは断固拒否して逃げ回った。

「お断りします」
「やりません」
「シュリカンさーん、なんとかしてください」

身を隠しながら言ってみるも埒があかない。
困りはてた彼は、とうとう本体と入れ替わってその時は逃げ切ったのだった。



翌日。彼はひとりでトールの自宅敷地、ルキアの森を歩いていた。
昨日は結局、トールと力任せの応酬をしてストレスを発散し、飲みにいく気力もなく別れた。
追跡劇を思い出し、まったくひどい目にあった・・・・・・とため息をついていると、背筋にいきなり冷水を流し込まれたような気配がする。

はっと目をあげると、木伝いに森を移動してきた緑の影が、枝からぶらんと逆さまにぶらさがり、彼の行く手を阻んだ。

「いたいた~♪」

赤茶の髪の女の子が、ひっくり返ったまま、明るい声で手を振ってくる。デセルは思わず顔をひきつらせ、回れ右をした。

「なーんでよー! まだ何にも言ってないじゃないのー!」

ムッとしたらしい声が追いかけてくる。逃げながら、デセルは彼女が緑の少女ではないことに気がついた。少女よりも少し年上のようだ。
だがそうすると、よけい追いかけられる理由がわからない。

「もーやだ面倒臭い! あたしは頼まれ事に来ただけじゃないのー。文句ならミカエルに言いなさいよもーう!」
(ミカエルだって?)

森の中を走りつつデセルは内心呟いた。そういえばトールに派遣された戦闘教官は、ミカエルの紹介だと言っていなかったか。
少し落ち着いて考えようと、魔法陣を使って彼は姿を隠した。

「あ、逃げたな~。あたしから逃げられると思う?」

楽しそうに言うと、一瞬相手の気配が変わる。

「みーつけたー♪」

すぐ頭上で声がした。視覚を切り替えて特定されたらしい。驚愕したデセルは、慌ててまた走り出した。

「こらー。逃げるなー!」

どこまで行っても追いかけてくる。しかもだんだん、声が楽しそうな調子になってきた。
やってられるか、とデセルはいくつものダミーを作り出し、森の中に点在させて自分は目立たぬ道を選んで足を早めた。

「ふーん、きっと高度な追いかけっこなのね。たくさんダミーを置いたって無駄なんだから。それをするならもっと…そうね。本体の気配を消さなくちゃ」

声はダミーをものともせず、まっすぐにデセルに向かってくる。
進退きわまったデセルは、大きく息を吸うと目潰しの閃光とともに剣を抜いて飛び出した。
相手がさすがに手で受け止める。

「びっくりしちゃった。でも良い手だよね。さあ、授業を始めましょう。あたし、ミカエルに頼まれたのよ」

傷口をペロリと舐めて、彼女はにっこりと笑った。

「……よろしくお願いします」

観念して、デセルは頭を下げた。どっちみちミカエルの手配であれば、逃げ切れる気もしない。
突然のことに驚きはしたが、実際は強くなりたいと思っていたところだったのだ。一流の戦闘教官に稽古をつけてもらえるなら、願ってもない好機といえる。
戦闘教官が、こんなに明るい女性とは思わなかったが。

それから数日、デセルは剣の稽古に集中した。

元々が錬金術や技術系だから、魔法攻撃を多用したほうが効率がいい。
そのあたりの器用さには自信があった。

いくつもの魔法陣を繰り出しながら、同時に身体の制御も学んでいく。
基本をみっちり叩き込まれて、ほぼ独学に近かったデセルの剣技は見違えるほどに上達していった。



数日後、教官からひとまずの合格をもらった彼は、ある決意を胸に秘めてルキアを後にした。
それは自分の技量が上がってきたことに気づいてから、ずっと考えていたことだった。

彼は荒涼とした世界にそびえ立つ、クリスタルの突端のような場所にただひとり座りこんでいた。
凍りついた風が、まるで漂白するかのように彼の身体を吹きさらす。

広大な地平線の向こうに日が昇り、また沈んでゆく。
彼はただそれをじっと見つめ続けていた。

本体は反対していた。まだ時期が早過ぎると。
しかしすべての制止にNOと答えて、デセルは今ここにいた。

行かなければならないのだ。
たとえ、もう戻ってこられないかもしれなくとも。

一度決着をつけねばならない。
そうしなければ、彼はこれ以上ルキアに・・・・・・あの優しい場所に居続けることはできなかった。

トールも銀巫女も、笑って彼を迎えてくれる。
それは心が震えるような嬉しさであると同時に、彼の自責の念を蘇らせた。
彼らが赦してくれていることを知ってはいたが、デセル自身がまだ自分を赦せない。

自分は、己がもっとも愛し、もっともそばにいたいと希求したものを裏切り、傷つけた。
あの神殿の最期に。

すべてが失われると思った。
失われるくらいなら、と思ったのか。
文字通り悪魔の甘い囁きにのってしまった・・・・・・。

デセルは額に手を当てた。普段はなんともないが、そこに契約の証として、黒い紋章が浮かび上がることがある。
そのときには過去の虚無が彼を襲い、人格すらもスイッチして制御を失ってしまう。
その姿を、彼らの前にさらしたくはなかった。

悪魔のもとに出向き、契約を解消しなければならない。
それがどんなに難しいことか、彼は知っていた。
悪魔の契約は非常に暴利だが、心の隙間をえげつなく突いてくる。内容が無茶であり暴利であり・・・・・・最初に自分が望んだものとは違うということに、甘い囁きの中気づくのは難しい。
心も心の隙間も、誰にでもあるものだから。
そして悪魔たちは、そのことをよく知っているから。


明るいペリドットの瞳から涙が流れた。

帰ってこられるだろうか、あの優しい人たちの前に。
吹き抜ける風がふいに優しく、かの銀髪を思い出させた。

彼は立ち上がった。
剣を握りしめ、頭から崖下に飛び込んでゆく。

深く深く・・・・・・虚無の闇の底、奈落と呼ばれるところまで。



そこは、古く鈍色になった大きな石で組まれた広間だった。かびくさい匂いが漂い、誰もいた形跡がない。
奥のほうに三、四段、祭壇のように平たく石が積まれている。

デセルの姿は変わっていた。
手の先まで防護するような、額当てのある漆黒の鎧を着ている。黒いマントをひるがえし、彼は祭壇を見た。

そこには透明な棺がひとつ。

中には、背の高い金茶色の髪の男が眠っていた。
神剣で刺された胸の傷は、つい先ほどつけられたもののように血濡れている。

神の手が届く前に、神殿から持ち去られた身体。
それは誓約の証としてここに留められている。

神殿時代の、デセルの肉体。


棺を覗いたあと、デセルは祭壇に背を向けて踏み石に座り込んだ。
がたがたと震える手を鎮めようと、長いこときつく握りしめる。

かたく目を閉じ、そして開くと、彼は立ち上がった。
広間の隅にある下への階段へ向かい、足早に降りてゆく。

銀巫女にもらった袖がほつれたものだろうか。細い蜘蛛の糸のようなかすかなきらめきが、彼の後を追った。
















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◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第一部 目次


デセルさん、格好いいですよねえ…w

物語を書くほうが忙しくてお返事遠慮させていただいておりますが、
コメントにご感想をいただくとものすっごく嬉しいので、小躍りして喜びます♪♪
ありがとうございます♪


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悪魔の契約!? 

デセルさん
どーゆーこと!?
アトランティスの時?
なーんて コーフンしながら先に進みます(笑)
  • posted by りんりん 
  • URL 
  • 2010.04/03 01:47分 
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  • [Res]

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Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

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ルシフェルの翼Calling You 開発者。
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