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【陽の雫111】 Trumps 4


「……軍に随行する神官もいるではないですか。彼らは武器に祝福してくれます。彼らがしていることを、新年式であなたが全軍の前でやってくださればいいだけでしょう」
「そうですね……確かに、神学校で学んだ後、望んで軍に随行する者もいるようです。しかし先程申しましたように、軍隊に武器に祝福することは我々の教えの範疇ではなく、彼らは神殿公式には神職にありません。彼らを軍属神官として認定しているのは、あなたがた軍であり、私どもではない」
「しかし神殿は攻撃もしていないではないですか。それは認めているも同じこと」

突破口を見つけたという顔で中将が攻めてくる。
アルディアスは穏やかな微笑を浮かべてそれをいなした。

「神殿の教えは教えとして、彼らは彼らの意志をもって命をかけて前線に赴き、兵士達の心とともにあろうとしています。その心映えはやさしきものであり、その心によって救われる者もまた、いるのです」
「異端でも気持ちがあれば許されると?」
「我らの神は寛容です。我々と違うことは個性であり、教えに従わないからといって、彼らを世界から排斥することもない」

自軍の兵士達の苦悩と命の重さ。
敵軍の兵士達の苦悩と命の重さ。

その二つが同じであるということに気づいている者も、いない者もいるでしょう。そしてそこにも苦悩がありましょう。

神は、待つのです。
人を殺めねばならない兵士達の心とともにあろうとする、その優しき心根と、軍に随行することの生々しい苦悩。それらさまざまな人の心の営みを嘉して、じっと見守り待ち続けてくださいます。

「……部下の命も、敵の命も、同じとおっしゃるか。神殿は」
「ええ、同じです。それこそ数百年数千年の昔から、その教えは変わっていません。それこそが、武器に祝福できない理由なのです」

アルディアスの脳裏に、奥院の上で見られる大きなクリスタルと、それに手を伸ばす歴代の大神官達が思い出される。彼らが守ろうとしてきたものはより多くの命であり、それは一歩も譲ることはできない。
銀髪の男と対峙した彫りの深い顔立ちに、嘲笑が刻まれた。

「はっ。では貴方はなぜ軍職にあられるのだ。准将である貴方こそ、多くの命を殺めているではないですか」
「……」
「あなたの手は味方を守り、敵を屠ってきたはずだ。敵味方を区別しないと言いながら。准将は二等兵からの志願と聞いております。戦場で、前線で何人斬られた? 祈りの手が血まみれていようとは、それは神への冒涜であり、信者への重大な裏切りではないのですかな」

やはりそれが最大のカードなのだろう。歴代の大神官が依頼を突っぱね続けているのだが、アルディアスが就任してからあからさまに圧力をかけられるようになった。銀髪の男は一瞬目を伏せて息をつき、もとから崩れてもいない姿勢をすっと正した。

「ええ、そうかもしれません」
「ならば」
「……我が剣に積もりし罪は、私自身が一生をかけて贖うもの」

まっすぐに顔をあげた彼の銀髪とゆったりした白い衣、厳然とした蒼い瞳を、怜悧な冬の月光が浮かび上がらせる。
たとえ激戦の野にあろうとも、敵味方の安寧を祈る毎夜の祈りを欠かしたことはない。それはアルディアスがきびしく自身に課した償いでもあったが、その内容は自らの許しを乞うものではなく、ただひたすらに世界と魂への安寧の願いにあふれるものだ。

その祈りのエネルギーそのものに、神職たちは日々直接触れることができる。
奥院で行われる神事の祈りであれば、その響きはヴェール全土に届けられ、敏感な者ならば神職でなくとも感じることができるだろう。
音楽と同じくおのおのが直接感じられるそれに、嘘や言い訳が混じる隙はない。

「神殿では、軍職との兼務は基本的に許されておりません。しかし」

大神官の唇の端が、わずかに自嘲的に上がる。

「罪深きことを生業とする軍人が大神官という職にあるのを見て、死後に希望を持ち、贖罪できるのだ……と、救われる方もおられるようなのです。現役はもちろん、退役軍人の方など特に……。救いは我々が垂れるものではなく、祈る者それぞれが自ら手にするものですからね」
「現在の兼職にも意味があると?」
「戦場で修羅と死神と呼ばれ、神殿では誕生の祝福を授けることの矛盾は、私自身がよくよく思い知っております。しかし、そんな私の背にこそ救いを見出す人がいるのならば、苦しむ誰かの心が掬いあげ慰められるのであれば……矛盾と苦悩を抱えこむ大神官が、歴史上にひとりくらい居ても良いのかもしれないと、思うのですよ」

ふ、と溜息をついて。

「……中将殿も軍人でおられますゆえ、人を殺める辛さもその断末魔もよくご存じとは思いますが」

客人の耳元の制御ピアスに目をとめて、アルディアスは言った。強度の差こそあれ、この星ではサイキックは半数を超える割合で生まれてくるため、まったく珍しくはない。そしてそれが、ヴェールにおいてどうしても神殿が必要とされる理由のひとつでもあった。

目立たず気軽に装着できるピアスは、神官職の者達のように大いなる意志との繋がりを願う他にも、サイキック制御用の品も作られ広く使用されている。
中将のピアスは後者のようであり、ならば今この部屋に寄ってきたものは見えていなかろう。その小さな石にわずかに干渉し、アルディアスは言った。

「あれを見たことがおありでしょう。中将殿」

ななめに降りそそいでいた月光が雲に隠れ、室内は急に暗さを増した。
視線を部屋の隅に動かす。つられて見上げた中将は、思わずがたりと音を立てて中腰でソファから立ち上がった。声を上げなかったのはさすがというところか。

部屋の隅には、どろどろとした暗い念がうずまき、自分達を殺した軍や敵への怨嗟をひたすらにぶちまけていた。

(憎い……憎いぃぃぃぃ)
(おれ達を殺したやつら。殺してやる…ころしてやる…)
(なぜ死ななければならなかったんだ。俺はこれから、これから)
(どうして。恨む。悔しい。どうして)
(痛い。痛い。痛い。痛い。痛い)

血まみれで表情の消えた顔、怨嗟に満ちた表情で伸びあがり、中将の軍服に顎のはずれた大口を開けて喰らいつこうとする顔、くずれて虫の湧いた顔、顔、顔。青ざめて腕をひいた男の指が、不安げにピアスに触れている。

「ひっ……」
「なぜお逃げになる。見えないようにして、彼らがいつもそこに居ることを忘れてしまいましたか? 彼らはあなたがたの命令に従い戦った、そして命を落とした、お国の英霊ではありませんか。あなたが守りたい、救いたいとおっしゃった兵士達の苦悩、そのものです。抱きしめてあげるのが筋というものでしょう」

アルディアスの声はいたって静かに、怨恨の声満ちる室内に響く。暗くどす黒い塊は、戦乱の世どこにでも溜まっているものだった。人々は祈ったり、神官を呼んだり、サイキック制御力のある装身具を身に着けて一時的に見えなくしたりして毎日を過ごしている。清浄な神殿には救いをもとめて、そういったものが集ってくるのだ。

「例え制御ピアスで見えなくしたとしても、彼らが居なくなるわけでは無いのですよ」
「しっ…しかし、こいつらは私を喰おうと」
「それはそうでしょう。彼らの中には敵軍の者も混ざっていますし、自軍も敵軍も、同じく自らの命の敵(かたき)なのです。私も中将も、人を殺めてきたのですから……どちらにせよ恨まれて当然です」

アルディアスの声音はいつも通り平静だが、客の視線は部屋の隅に固定され、椅子からも尻を浮かせたままだった。

「我々は、お国のために」
「ええ。何かのために戦うのが悪いとは言いません……しかし、すべての人間にとって命はひとつしかなく、喪えば辛いものであり、そのたったひとつを何に賭けるかは、本人だけが決められます。ただそれだけのことなのです」

雲が流れ、ひとひらの月光が長い銀髪をすべり降りてゆく。ゆるやかに流れるように、アルディアスはソファから立ち上がった。

「死した彼らの魂が区別なくすべて救われること……またそれは、生きる兵士達の苦悩を和らげることにもなりましょう」

ゆったりとした白い袖をひるがえしてアルディアスは部屋の隅に歩み寄り、黒い濁流のような念の奔流に両手をさしのべた。頭を垂れ唇で小さく祈りの言葉を唱えれば、やがて塊がうすくなり、光に包まれて消えてゆく。
最後の光が消えると、銀髪の大神官は静かに振り向いた。

「寛容なる我らの神は、敵味方の命を区別することはありません。今までも、これからもずっと」











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◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第二部【陽の雫】目次


明けましておめでとうございます。(ぎりぎり松の内w
年賀状記事にもたくさんのコメントをどうもありがとうございます~♪
こちらこそ、今年もどうぞよろしくお願いいたします(^^)

さて、松の内に物語本編更新! しかも111話とか、なんか幸先良さそうじゃないです? 笑
本当はトランプの3に入る場面でしたが長すぎたので4にしまして、そのぶん早めにお届けできました。
お正月休みも終わってお仕事の息抜きにでも、お楽しみいただけたら幸いです。
…話はちょっと重たいですけど。

そろそろこう、部隊の皆様のほっこり話とからぶらぶ話とかを書きたいという希望を胸に秘めつつ、
もうちょっと頑張ってトランプを切りだしてゆく所存。くわぁ。
これが!終わったら!打ち上げ!!!(たぶん





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Re: 【陽の雫111】 Trumps 4 

アルディアスさま 圧巻・・・。(脳裏に浮かぶ情景がすごくて、しばし沈黙。。)
  • posted by うめたろう 
  • URL 
  • 2016.01/07 20:35分 
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  • [Res]

 

自分のせいで亡くなった人のことを思い出すことは大切ですね。
そして争いがどうして起こったのか考えることも重要だなと思いました。
亡くなった人の顔を見たくなくてサイキックブロックする気持ちもわかります。自分の罪だったとしても向き合うのが怖いこともありますよね。ゆっくり少しづつ自分の罪と向き合えたらいいな。

すてきな小説どうもありがとうございました。
  • posted by ごちぃ 
  • URL 
  • 2016.01/07 21:58分 
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Re: 【陽の雫111】 Trumps 4 

あけまして、おめでとうございます。

年末年始とこんなに早くお話の続きを読ませて頂けるなんて思っていなかったので感激です。
すてきなお年玉になりました。
ありがとうございます。(^^)
  • posted by nana  
  • URL 
  • 2016.01/08 11:52分 
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Re: 【陽の雫111】 Trumps 4 

神官やっている時のアルディアスさん、冷たくて新鮮な緑多い所に似た空気がこちらにも流れてくるようで、読んでいてイイです。
ハッとするような、憧れもあるような、立ち止まって瞬きするような、振り返って居住まいを正したくなるような、そんな気持ちになります。
  • posted by 千住 
  • URL 
  • 2016.01/08 17:16分 
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Re: Re: 【陽の雫111】 Trumps 4 

>うめたろうさん
ふぉぅ…ありがとうございます!!
そういって頂けて嬉しいです~~~!!(≧▽≦)



>ごちぃさん
ああいうものたちと四六時中向き合っているわけなので、そりゃ神官は疲弊しますよね…
辞めていく人もいた記憶があるのですが、さもありなんと思います。
嘘の通じない世界ですから、うわべだけ繕っても駄目なんですものね。



>nanaさん
お年玉をさしあげられてよかった…!
本編の更新が詰まりに詰まっていたので、これでだいぶ気が楽になりましたw
続きもがんばりまーす!



>千住さん
いつも素敵なお言葉をどうもありがとうございます…!
千住さんのご感想、すごく嬉しいです^^
検閲通った!w ←
  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2016.01/18 15:36分 
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  • [Res]

Re: 【陽の雫111】 Trumps 4 

ちょとお久しぶりです~ おじゃましますぅ

アルディーさんの肩からかけるってやつ、
なんだかちょっと虹色スカーフのイメージがありましたわぁ
色ってのでなくてグラデーション的な。
虹色スカーフ恐るべしww
どなたか描いてくださいww

あてくしも沢山の命を奪った過去があるものとして
色々考えさせられますわ ほんと・・・
どーやって償うかってばかり思ってましたけれど
転生する度にこんな事してるってのが
心の奥底にあるんだなぁとしみじみ・・・

何十億年たったって、これは消えない思いなんですね。
他にも沢山いらっしゃるだろうし
さつきのひかりさんとアルディーさんが
癒してくださるのがほんとありがたいです。

あてくしもそうなれればいいんですが(^◇^;)
  • posted by くうちゃん 
  • URL 
  • 2016.01/22 19:46分 
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物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

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ルシフェルの翼Calling You 開発者。
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