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【ハロウィンナイト・黒川伯爵に捧ぐ】 夜の永遠

「言ったでしょう? 貴女だけが僕を殺せる……」

冷たく長い指が、つい、と巫女の頬を撫でた。細い肩が揺れる。白い手に握られた銀色の剣は、その切っ先を床にむけて細かく震えていた。

昏き闇は深く神殿内に沈み込んで、かすかな月の光だけが雲間からときどき互いの姿を浮かび上がらせる。
囁くように静かな声は風に散って、ただ巫女の耳にだけ届いた。

一年でもっとも闇深き夜。
封印された棺の楔はゆるみ、黒き伯爵が舞いいでる。その甘い囁きには多くの女性たちが魅了され、我先にと一夜のダンスを願うとも、彼の正体は闇に生きる吸血鬼。

紅く甘美なる血のワインを、あるいは何かを求めて……伯爵は、神聖なる光の大神殿の結界をくぐり抜け、巫女姫の前に立つ。

「ほら、殺して下さらないんですか? 僕はこうして、貴女の剣を受けるために待っているというのに」

首筋から肩へ、そして亜麻色の髪をそっと撫でてゆく優雅な手。
堂々と自分の前にその胸を晒している宿敵に、頭を振って手を払った巫女の声が噛みついた。

「こっ… この、近寄るな、闇の眷属めが! この私を愚弄するか?! お前など、この神殺しの君の御剣で一突きにしてくれる!!」
「そうでしたね… 忌まわしき輝ける神、その二つ名には神殺しもおありだった。呪われし我が身体も、さぞ良く切れましょう」
「当然だ! 我がフォイボス(輝ける君)の神の名に懸けて、貴様ごとき闇の眷属など、一突きで塵にしてくれる!」

威勢の良いその声は、しかしかそけくどこか震えていて。むしろ微笑みをうかべ、伯爵は自らの胸に払われた片手を当てた。

「ええ、だからそれを待っていると言ったでしょう? 僕の心臓はここですよ…。さあ、早くお突きなさい。貴女の心に残る永遠を、その栄誉を、僕に」
「このっ……戯言を…」
「輝く月が深き闇夜と踊る今宵ならば、この呪われし身が美しき淑女と踊ることも罪にはならぬはず。汚らわしき不死の身……なれど我が望むは、この白き腕(かいな)のみ」

す、と伯爵は膝を折ってひざまづき、流麗な動作で巫女の片手をとるとその甲にくちづけた。

「っ…、何をす……」

一瞬剣を取り落しかけた巫女が慌てて手を払う。その赤く染まった顔を、じっと男は見つめている。熱い視線から逃れるように、巫女は灰色に沈む壁へと目を逸らした。

「お前など…! 月の踊る夜、幾多もの女性をその甘言で惑わせていることなど、この私はとうに承知しておる。今更惑わせようとも、その手には乗らぬぞ…!」
「……おや。栄えある暁の巫女たる貴女が、僕ごとき穢れた吸血鬼の行状をお気になさり、他の淑女がたに嫉妬していらっしゃる…? これはなんと嬉しきこと」

くすり。
血のような唇の端が上がる。嫉妬などしていない、反射的に言い返した巫女の腕が勢いであがり、刃が黒い衣をかすめた。
銀色に研ぎ澄まされた神剣は、ほんの一触れで伯爵の黒衣を切り裂き、青白い腕から血をしたたらせている。ぎょっとした顔をしたのは、巫女姫のほうだった。

「あ……っ」

咄嗟に謝ろうと開き、無理に閉じたような唇の動き。かすかに苦笑してそれを眺め、伯爵は逆の手で腕の傷をゆっくりとあらためると、その血をぺろりと舐めた。

「さすが忌まわしきアポロンの剣、…よい切れ味です。麗しの貴女につけられたものならば、傷に流れる血すらも甘い……」
「貴様が軽々しく神の御名を呼ぶなっ!」

視線を傷に吸いつかせていた巫女が、はっとして距離を取り、神剣を構え直す。雲間から差し込む月の光をななめに受けて、伯爵は今度こそはっきりと微笑んだ。

「そう、それでいい…。陽の光のごとく明らけくあるのが、貴女にはお似合い。呪われし我が身のために傷つくことなどないのです。美しくも気高き巫女姫よ、消沈したお顔など僕に見せて下さるな」
「く……」

気遣われたのだと気がついて、巫女が唇を噛みしめる。その聡さ、真っ直ぐさ、やさしさが、まさに昏き伯爵を惹きつけてやまぬのだと知らずに。
男の長い指がゆるやかに舞って、とんとんと自らの胸を叩いた。

「さあ、その剣でここを突くのです。この呪われし不死身の身体、剣に流れし力が忌まわしき光の神たるはいささか癪にさわりますが、その御剣をふるうのが貴女の細腕であるならば……それもまた甘美。呪い断ち切られ死神に囚われる前のただ一瞬に、貴女の永遠を頂きましょう」

妖艶なる魅力をまとわせた吸血鬼が、深い闇のような瞳を細めて巫女を見つめる。
剣を構えたまま動けぬ巫女の長い髪を、夜露に濡れた風が嬲っていった。

「貴様……この私の血が目的ではなかったのか?!」
「もちろんそれも、頂けるものなら」

風が吹き抜ける一瞬に、伯爵の姿が闇に掻き消えた。緊張して周囲に視線を走らせる巫女の鼻を沈む甘い香りがよぎり、あげた目は間近に迫った黒い双眸に捉えられた。

「貴女の血は極上の美酒。どんなにかこの僕を心地よく酔わせるかと、思うだけで堪りません。ですが貴女の生血を頂くだけでは、その記憶はいっときの愉しみとして過ぎ去ってしまう……」

指先で巫女の顎をとらえ、余裕たっぷりに見下ろして伯爵は囁いた。空いた手で剣を握る巫女の小さな手のひらを上から握り、切っ先を自らの胸に向ける。ひやりとした冷たさとその内にくすぶる熱が、細かく震える巫女の手に伝わった。

「僕は、貴女の永遠が欲しいのです」

見つめあったまま、握りこんだ手の剣を我が胸へと突き立ててゆく。ぷつりと肌が切れ、染み込む愉悦。
やさしい彼女は、自分が殺した者のことを永遠に忘れるまい。そのことが伯爵にはよくわかっている。
朗らかなるその精神に、明るく清らかなるその笑顔に、一抹残るであろう昏き陰。我が身はここで果てようとも、黒真珠のごとき染みが永久に残るならば、それは。

「気高くも美しき光の巫女姫よ。貴女は誰かの命を奪った事などありますまい…。この僕の心の臓を突いた後、貴女はどうなるのでしょうか? 永遠に僕を想って下さいますか、それとも後悔のあまりご自分の命をも絶たれるのでしょうか…。
であれば僕は冥界にて甦りその王となりて、神話の如く貴女を迎え入れましょう」
「……、そん、な」

魅入られたように、巫女は動けずにいた。その間にも握られた手が彼の胸へと押し込まれ、その心の臓を突かんとする。光の力によって青白い肌が燃えるのか、シュウシュウと音を立てて薄い煙が剣先からのぼりだしていた。

こふっ、と男の唇から血があふれ、見つめ合っていた視線がほどける。
その瞬間、巫女の後方にあたる扉がどんどんと叩かれ、荒々しく開け放たれた。

「巫女様! 巫女様! 黒き伯爵がこの神殿に入り込んだとの報せにございます!! 大事ござりませぬか、巫女様!!」
「シシン、大丈夫か?!」

同時に飛び込んでくる、武装した神殿の衛士たち、そして勇ましくも鎧を身に着け、剣を佩いた星の姫。神殿の危険を察知し衛士たちを集めたのは、どうやら巫女の親友である星の姫であったようだ。 神聖な光の神の神殿、浄福なるその場所に魔が入り込んでいようとは、そうそう気づけるものではない。
光の巫女姫がはじかれたように飛びのくと、伯爵は残念そうにいまだ煙たつ胸に手をあてた。

手負いと見て衛士たちが男を半円に取り囲み、剣を構えてじりじりと距離を詰める。彼らを睥睨し、彫刻を見るように黙殺して、黒き伯爵はひたと巫女に視線をあてた。

「おや、これは無粋な邪魔者が……。貴女以外の手にかかるのは、僕の望みではありません、輝ける光の巫女姫よ。月の踊る夜のみしか逢瀬の許されぬ、呪われしこの身…。口惜しけれど、次なる年にまた参上いたしましょう」

林立する衛士の剣を、こともなげにするりと避けて。
気がつけば細身の長身はまた巫女のそばにあり、その手は亜麻色の髪を撫でおろして一房を指先に捉えている。

「我が麗しの巫女姫よ。……しばしのお暇を頂きます」

優雅な礼とともに腰をかがめ、うやうやしく髪にキスを落とす。
それから彼は背を伸ばし、悠々とかたわらの女性を振り返った。

「星の姫。我が不在の間、友なる巫女姫をよく護りなさい。傷一つつけてはなりません」

重々しく命じ、星の姫が言い返そうとする間にばさりとマントを翻す。
その場にいた人間たちが我に返った時、黒き伯爵はもはや影すら見せずにその場から消えていた。









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いきなり何、と思われた方すみません 爆

この物語は、いつもツイッターなどで古代ギリシャ関連の話題を楽しく提供してくださる「藤村一味」のうちおひとり、黒川さんが
ハロウィンの夜にかぎって吸血鬼黒川伯爵として棺桶から甦る…!というイベントをしていらっしゃって
その設定に萌えすぎて勢いで書かせていただいたものです。
キャラ違ったらすみません。黒川さんが「たまには伯爵が勝って高笑いしている話が読みたい(大意)」とおっしゃっていたのを拝見し、思いっきり理想を詰め込み伯爵無双で書かせて頂きました。悔いはない…!

去年の様子や詳しい解説などはこちらのまとめをご覧ください。ひっそり私も入れていただいていたり←

<黒川伯爵のハロウィンナイト~血と愛に飢えし吸血鬼~>

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短い話を集めた外伝がとっつきやすいかと思われます(宣伝


ああああ、すっごく楽しかったです!!!
書かせて頂いて、どうもありがとうございましたーーー!!!!






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こういうお話、すごーく好きです♡禁断の愛って感じで~(*≧∀≦*)
さつきのひかりさんの弾ける楽しさも、読んでいて伝わってきました。
密かに続編をお待ち申し上げております♪
  • posted by いよん 
  • URL 
  • 2015.11/02 23:05分 
  • [編集]
  • [Res]

Re: タイトルなし 

>いよんさん

ありがとうございます~~~~~!!!
ご本体様のいらっしゃる小説で、勝手に描かせて頂いたのでもう小心者は死にそうです (ならやるな←
一応、正統的なのは去年書いていらっしゃる方がいらしたし、黒川さんリクエストそのままも先にお聞きになった方が書かれるだろうし、
なるべくそれと被らないものを…と思ったらこんなことに。
なぜそこで趣味全開になった私。。
でもすごく楽しく書かせて頂いたので、快く許容してくださったシシンさんと黒川さんはじめ、
楽しく読んでくださる皆様には感謝ばかりです。
重ね重ね、どうもありがとうございます!!!!


  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2015.11/05 11:48分 
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