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【陽の雫108】 Trumps

年の暮れも押し迫った頃。
休日出勤で面倒くさげに書類仕事をしていたセラフィトの携帯機器が、無機質な音で着信を知らせた。画面表示を見れば郷里の母親からで、彼は付属のイヤフォンを耳に入れて通話ボタンを押した。

「なんだよ。俺いま仕事中なんだけど」
「久しぶりの母親にご挨拶ねえ。あなた今日は休みじゃなかったの」
「休日出勤で書類やっつけてんの。おふくろは話長えんだから、どうでもいい電話なら切るぞ」
「書類なら逃げないんだから、たまには少しくらい息子の顔見たっていいでしょう。それにどうでもよくないわよ。さっき、オルダス坊やから結婚の葉書がきてね。あの子結婚したのね! まあまあ、可愛らしい奥さんじゃないの」

画面のむこうで母親が葉書を手に嬉しそうに笑っている。
夏からこっち目まぐるしく忙しかったはずだが、親友兼上司は義理堅いことにセラフィトの実家にもきちんと挨拶状を出していたらしい。
冬に呼んだあと、何度かアルディアスを連れて帰郷した。それも士官学校を卒業してアルディアスが大神官を継いでからはなかなかできなくなってそのままだ。それでも北の地のことを覚えていてくれたことが嬉しい。

「今年は大神官さまのご結婚もあったし、おめでたいことだわねえ」
「あー…。そうだな。うん」

にこにこしている母親に、セラフィトも口角をあげて返す。そうしながら、セラフィトは画面から視線をはずして向かいの机にいる部下に手振りでコーヒー休憩を許可した。赤っぽい焦げ茶の髪の青年がうなずき、大きく伸びをしてからレストルームへ歩いてゆく。

信心篤い母は大神官婚儀の報道はもちろん見ているし、新聞などは切り取って保管していそうだと思うが、セラフィトがあまり多くを語らないようにしていたせいもあり、息子の同級生で孤児院育ちのオルダス・フェロウと大神官のアルディアス・シルバーアロウとは別人だと思っているようだった。

まして婚儀の報道写真は大神官としての正装で化粧もしているし、新婦はヴェールをかぶっていて顔の判別などほとんどつかない。自分のために権力を使うことのなかったアルディアスが遺憾なく全権をふるって差し止めたので、一般人ということもあり、花嫁の顔は大衆には知られていなかった。
ケントゥリア家に届いた葉書の写真は普通の披露宴のほうのものであり、母親は同一人物とはまったく気がつかず、単純にオルダス坊やの慶事を喜んでいるようだ。

アルディアスに「可愛い奥さん」ができたことはセラフィトにとってもとても喜ばしい出来事だったので、彼は笑顔で請け合った。

「おふくろがおめでとうって言ってたって、俺から伝えとくよ」
「そうしてちょうだい。お祝いも送りたいけど、何がいいかしらねえ」
「お祝い? ……何だろうなあ、ちょっとわかんねえ。落ち着いたら聞いてみる」
「できたら奥さんのほうにね。家で必要なものは、主婦のほうがよくわかるんだから」
「ん」

部下の背中を目で追っていたセラフィトが生返事を返すと、母親は話題を変えた。

「ああそれからね。湖畔の子が訓練所に入ったんだって。オルダス坊やも訓練所にいたことがあるって言っていたでしょう? もしかして知り合いいないかなと思って、それで連絡したのよ」
「ああ? 湖畔ってどこだよ?」
「南部のメソラ湖の近くよ」
「南部ぅ? そんなとこに親戚いたっけ……ああそういえば、どっかで聞いたような気もしなくもない……ような」

北部は血族の結束が比較的固い。冠婚葬祭のつきあいもそれなりにあり、多くは親戚たちを住んでいる地名や土地の特徴などで呼び分けていた。

「オルダスの… 私の弟のオルダスの奥さんが南部の出身だったでしょう。オルダスが死んだ後故郷に帰っていてね。再婚したんだけど、新しい旦那さんの一番下の妹の子供が、急にサイキックが発現して訓練所にゆくことになったって、こないだ貰った果物のお礼に電話したら聞いたのよ。まだ六歳ですって」

亡くなった叔父の奥さんの再婚相手の妹の子供。
セラフィトからするともはや血縁はないが、ざっくり表現するならば叔母の甥っ子ということになるだろうか。
彼の母は可愛がった義理妹が弟と死別して再婚したからといって、変に遠慮するような人物ではない。普通に大事な人として交遊を続けているので、その甥っ子が幼い身で家族と離れると聞けば、子供好きの彼女らしく心配になるのだろう。

「ふうん、南部のメソラ湖の近くの子な。そうだな、オルダスは今でも訓練所と関係あるみたいだし、知ってる職員もいるだろうから、今度よろしく言っとく。その子の母さん、心配だろう。何か困ったことがあったら俺を頼れって伝えていいよ。オルダスに伝えるとか、気晴らしに遊びに連れ出すくらいならできるから」

知っている職員どころか訓練所は大神殿管轄であるわけだが、それは黙ってセラフィトは母親にうなずいた。ふっくらした頬は変わらないが、昔にくらべて皺の増えた目元と口元を緩ませて、安心したように母が笑う。
そういえばここ何年も実家に帰っていない。ふとそのことに思い至り、暇が出来たらそのうち帰るから、と伝えてセラフィトは電話を切った。



この春士官学校を卒業し、フェロウ隊に任官したばかりのハンス・テレマン准尉は、レストルームで砂糖なしのコーヒーを口にしながら、赤っぽい焦げ茶の髪をゆらして希望に胸をふくらませていた。
軍人としては少々小柄だが、士官学校の成績は上位十指に入る。磨いた軍略によってしつこい敵であるサライとアキュームを下し、救国の英雄になることをずっと夢見てきたのだ。卒業と任官は、いよいよその夢に近づく第一歩であった。

配属されたのは数々の武勲をあげて移籍希望者が殺到するという士官学校生には有名なフェロウ隊で、内示を受け取った時ハンスは内心で飛びあがったものだ。
これで大きな一歩になる、そう思った。

ところが。
銀髪の准将をトップにいただく隊の内情は、ハンスの期待といたく違っていた。
あともう少し敵を追い込めば全滅させられる、そういうときに隊長は矛をおさめるよう命じてくる。武器を捨てて投降するものすべてを許し、逃げる者は追わず、ましてや艦隊戦においては足と通信部さえ封じてしまえば撃墜しなくてもよいと思っているようにさえ見えた。

強い軍人になるためにハンスが鍛えてきた白兵戦においても、もし可能であれば相手の急所をわざと外せと言われる。
そのおかげで、この半年だけでも彼がどれだけの武勲を逃してきたことか。雑魚であっても鬼畜敵兵である。一兵卒では首級をあげても昇進はないかもしれないが、あそこで殺さなかったばかりに、あの敵兵は母国へ帰ってまた子供をつくるだろう。その子供はまた子供達をつくって、敵の人口を増やし国を富ませてゆく。

敵国人など、しょせんそのうち我らがヴェールに負ける運命にあるのだから、後顧の憂いをなくすために一人でも多く殺しておくべきなのだ。

それをするなと言うあの隊長は、神殿では大神官という職にあるという。
神官とは軟弱だ。ハンスはそう思ったし、公の状態を鑑みれば、軍人が大神官を務めるというのは国教への面汚しであると感じていた。まったく神を信じないわけではないが、ヴェールのために闘う軍を神殿は積極的に支えるべきだ。

弱い者は、神殿に閉じこもってひたすら祈っておればいい。
それを下手に軍隊などにでしゃばってくるから、隊の規律が乱れるし外交的にも恥ずかしいことになる。本人はそのサイキックによって敵から化け物やら魔物やらと怖がられているらしいが、何のことはない、ヴェールにとっても汚点のようなものではないか。

ヴェールはもっともっと美しく、毅然として強い国のはずだ。
あまり表情を浮かべない、おとなしく見える外見の下で、ハンスの愛国心は燃え上がっていた。

彼が配属されたのはセラフィト・ケントゥリアという焦げ茶のウルフヘアの中佐の下だ。隊長ほどではないが長身で体格がよく、剣の腕は隊で二番目。豪放磊落でなかなか良い上司と言えたが、惜しむらくは例の隊長と古馴染みで、すっかり感化されていることだった。
秋の初めにあった、蝕に乗じたサライの衛星奪取計画。あの時セラフィト班は別働隊として激戦を経験したのだが、あれほどの剣の腕を持ちながら、一撃で殺すことがほとんどない。それは隊長ゆずりの悪弊であるとハンスは考えていた。

そう、剣といえば。
フェロウ隊においては隊長直々の手合せがあるというのは周知の事実であるが、もちろんハンスもそれに参加していた。強い英雄になるために、文武両道を目指して鍛えてきたのだ。きつい行軍訓練の後の手合せだって、ふらつかずに剣を振れた自信がある。

ところがあの銀髪の大神官サマは、ハンスの剣を軽くいなしたあげく「なかなか良い腕だ… 急所に固執せず視野を広くとると、もっといいと思うよ」と言いくさった。

急所を一撃に狙わずして、何が剣か。実戦では一人でも多く敵を屠ることが目的なのだから、一撃必殺で何が悪い。
そんなことだから神官とやらは軟弱なのだ。そういえば隊長はそこそこ整った顔をしていて、その顔と身体で上官に取り入ったのではないかという噂も流れているが、さもありなんと思う。あんなに甘いやり方で普通に出世ができるわけがない。女子供に騒がれつつそれを流している様子も、お高く止まっているようで気に障った。

穢れた神官が祈ったのでは、星が穢れる。

銀髪の上官はこの星の発展のために邪魔である。この半年間フェロウ隊にいて、ハンスが得た結論はそれであった。
周囲に配属を伝えると羨ましがられることが多いが、ピクニック隊などと軽侮されるのには耐えられない。

戦争とは国同士の神聖な闘いなのだ。ピクニックなどと軽い気持ちでできるはずがない。強大な力をもって敵を屠り、個々のエゴを捨てて滅私奉公し、美しきヴェールのために闘いきって散華するのだ。

熱いコーヒーを飲み下す喉に闘志が生まれ、ハンスは注意深く息を吐いた。
かといって彼は、自分が死ぬとはまったく思っていない。ハンスの想像の中でいつも彼は死を恐れぬ勇猛果敢な将官であり、散華するのはつねに下位の兵士たちであった。ヴェールのために尽くす上官を、兵士が命をかけて守るのは当然のことだ。国のために見事に散っていった兵士どものために、ハンスはさらなる力で敵を屠ることを雄々しく天に誓うであろう。

任官して半年、戦いには出たが未だ敵を直接手にかけて殺したことはない。けして怖気づいたのではなく、上官が殺さずの命令を出していたからだ。命令違反は後々の出世にも響くから、そんなところで足を取られるわけにはいかなかった。

武勲の立てようもない状態に足踏みを強いられていたが、この冬に転機が訪れた。
北の暴動鎮圧に動いた際、ケントゥリア中佐が軍需物資を横流ししたのだ。軍人が消費すべき物資を無料で一般大衆に分け与えるなど、狂気の沙汰としか思えなかったが、そのおかげでハンスは新しい道を得た。
ハンスの忠心を神が嘉したもうたのだろう。

コーヒーの空容器をダストボックスに放り込み、赤っぽい焦げ茶の髪の青年は頬にかすかな笑みを浮かべて立ちあがった。姿勢を正し、大股に戻るデスクの向かいにはウルフヘアの上司ががしがしと髪を掻き回しながら書類を作成している。
かるく目礼し、ハンスは几帳面な字で書類仕事を再開した。












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◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第二部【陽の雫】目次



不穏な空気で更新です。

これの3話目が、ちっとも全然まったく進みませんで…orz  そこで半年間止まっていて、
一段落ついてからと思うといつになるかわからないので、もはや放流してしまおうとこうなりました。
流したら進むかもしれないと言う淡い期待を抱いた、まさに背水の陣…! ←

す… 進むといいなあ… 進みたい… すすむときすすめばすすめ…ッ (動揺


何はともあれアップして、家族で実家に行って参ります。
メールのお返事は月曜以降になりますので、すみませんがお待ちくださいませm(_ _)m



 3/17 Healing of Harmony♪

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Re: 【陽の雫108】 Trumps 

こんにちは。物語への直接の感想、はじめてかもしれません。どうも、軍とか国家とか、王家みたいなお話が苦手でして^^;敵だけが敵だけじゃなく、内部にもそれぞれ自分の信念に従って行動を起こす人がいて。そんなことを考えていると、頭が沸騰しそうです。続きを楽しみにしています。
  • posted by 天鳥そら 
  • URL 
  • 2015.03/14 13:40分 
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Re: 【陽の雫108】 Trumps 

>>血族の結束が比較的固い
 流れがまさにこれですね、親戚繋がりで(今よりは)幅広い繋がりがあるんだなあというところがツボでした。

>>赤っぽい焦げ茶の髪の青年
 新しいキャラきましたね。
死ぬまでにブレイクスルーできるのかどうか。
丁の良い尻尾で終わりそうで、切ないです。
  • posted by 千住 
  • URL 
  • 2015.03/14 14:16分 
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Re: 【陽の雫108】 Trumps 

久しぶりの物語でうれしいです♪
次の更新はお彼岸のころかと思っていたので。
ありがとうございます。

セラフィトさんさんのお母さんが、あったかくていいですね。
私もお彼岸には帰って、今年こそお墓参りしたいですね。

ハンスも気になります。色んな意味で若いですね~。

続きが気になります!

  • posted by haru 
  • URL 
  • 2015.03/14 15:31分 
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Re: 【陽の雫108】 Trumps 

怖いです。ブルブル
色んな意味で
今までアルディアスさんの視点で書かれていたから読めるんだと納得しました!
戦争というものが浮かび上がってきましたね。
どうぞやさしい結末になりますように
祈らずにはいられません。
  • posted by こはく 
  • URL 
  • 2015.03/14 18:09分 
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Re: 【陽の雫108】 Trumps 

物語りの更新有難うございます!
108話…煩悩の数だ…と読んでいると、何やら不穏な動きが。
実社会では、新入社員さん達がヤル気満々で4月からの新生活を夢見ている頃ですね。俺(私)が変えてやる!と意気込んで、潰されてしまったり、理想と現実の差に嫌気がさして辞めてしまったり。。。
今は特に、簡単に退職する方が多い感じがします。
「こんなハズじゃなかった」と言う事も多々あると思いますが、1年2年で一気に芽が伸びるわけでは無いので、踏ん張って乗り越えて欲しいですね。…と、物語りから脱線してしまって済みません。
物語りを読みつつ、今年の新入社員頑張れ~!と思ってしまいました(^^;;;
  • posted by あゆこ 
  • URL 
  • 2015.03/16 15:25分 
  • [編集]
  • [Res]

Re: 【陽の雫108】 Trumps 

物語の放流ありがとうございます。

セラフィトさんのお母さんのところで、マフラーとかの回を見たくなり、セラフィトさんの物資横流しのとこでその回にもどり(ピクニック隊のほかの人たちのご両親もセラフィトさんのご両親みたいな感じの人達なのかな、とか思いつつ)、
下位の兵士~のところで、そんな上官達いたよねー、どこだっけ…、で、結局最初から復習しました。
続きがどうなるか楽しみです。
  • posted by ぽちょる 
  • URL 
  • 2015.03/21 13:55分 
  • [編集]
  • [Res]

 

前半ほっこりさせて頂きつつ、後半が
〜…こはくさんのコメントに同意。「鬼畜」という言葉は、今期の朝ドラでヒロインにも使われていましたね。。
続きを心より楽しみにしています。
  • posted by シキ 
  • URL 
  • 2015.03/21 18:28分 
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物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
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