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【陽の雫106】 白のぬくもり 2

ルカが呼び鈴を押すと、開けられた扉から楽しそうな家族の空気があふれ出てきた。金色の小さな明かりがいくつも灯された室内には、終わった食事のいい匂いと、家族のあたたかさが満ちている。

「はじめまして。中央大神殿の司祭をさせていただいております、ルカ・フィテオルと申します」

寒さが入り込まないようにドアを閉めてから一礼する。不安そうな顔で挨拶を返す両親の前に立って、その少年は白い神官服を見上げていた。

「君がライキ君かな。僕はルカ、これからよろしくね」

膝を折って目線を合わせる。すでに言い含められているとみえて、明るい茶色の髪の少年は緊張した顔でうなずいた。差し出された手を見つめて躊躇している。ルカは自分の幼き日を胸の内に思い、いたずら心を出して少し強引にきゅっと握った。
少年の茶緑の瞳がびくっと揺れ、一瞬ののちに今度は驚きに見開かれる。身体接触に身構えたものの何も聞こえなくて驚くのは、これも昔の自分自身と同じだ。

(はじめまして。僕も君くらいのころ、要らないものが聴こえすぎてね。神殿でコントロールの仕方を教えてもらったんだよ)
「あ……」

大きな目がこぼれ落ちそうなほどまん丸になって、自分の小さな手を包むルカの手、腕から肩を通って顔へとゆっくり視線が移動する。口もきけずに青年を凝視している子供の背後で、両親も驚いた顔をしているのは、サイキックを知る神殿の者であれば当然身体接触は避けると思っていたのかもしれない。

「大丈夫。必ずコントロールできるようになるからね」

微笑み、優しく頭を撫でてから立ち上がる。父親が暖炉前の一人がけソファ二脚を示すのに会釈して向かうと、あらためて神殿からの資料を渡して説明を始めた。


その人の白いローブ姿を、ライキはぽかんと見つめ続けていた。
厚手のコートの下も白い神官服で、襟と胸元にきれいな刺繍が入っている。あれは司祭様のお洋服なのよと母親がささやくのに、少年は目を離さぬままにうなずいた。
緑がかった長い髪。首のうしろでまとめたそれが、ひとすじ肩先に垂れている。眼鏡の奥で微笑む淡いグリーンの瞳が近くなった時どきどきして、つい(まつげながいなぁ)なんて考えてしまった。

そして、なにより。
何より驚いたことに、その人が触れた瞬間から、ライキの脳髄に直接響くうるさい騒音が、まったく無くなってしまったのだ。

自分の心の声と、母や父やその人の声と、紙のこすれる音と、暖炉で火がはぜる音と。
数日前まで普通だった音の世界は、こんなだったっけ?と思わず首をかしげるほど。ライキの能力はまだまだ一定しなかったが、発現時の音の洪水はおそろしく、耳をふさいでも減らない騒音に気が狂いそうだったのだ。

それが、今は、きれいに無い。
あの人のせいであることは明白だった。だって触ったら治ったのだから。それに、ライキの手をとって頭を撫でて、すっと立ち上がって暖炉の前にゆく……そんなほんの少しの動きでさえも、少年の知っている近所の人々とはどこか違って、まるで流れるようにきれいだった。

(ゆきのひのかみさまだ……)

彼自身ではもうずっと昔と思っている幼い頃、読んでもらった絵本のお話を思い出す。雪の日に子どもの所にきてくれる、あれは神様だったっけ、えらい博士だったっけ?
幸せをくれる白いふくのひと。

「ねえおかーさん、ぼく、あのひとみたいになりたい」

振り返ると、母親はそうねえ、と笑った。

「そういうの、なんていうの?」
「うーん…、『先生』とか『師匠』とかかしら?」
「『ししょー』……」

呟いてみて、ライキはこっちにしようと決めた。幼稚園や学校と同じ先生より、師匠のほうがなんだか不思議な感じがして、ちょっとかっこいい気がしたのだ。

『ししょー』。
暖炉の前で、穏やかな声で父親と話しているあの人は、ライキの『ししょー』だ。
そしてライキは、いつかあの人のように、白い服をきれいにひるがえしながら困っている子供に魔法を使える人になるのだ。
ほんの少し前まで、音の洪水と家族と別れる寂しさにに泣きたい気分になっていたのも忘れて、ライキは青年の横顔を熱いまなざしで見つめた。



「……では、行きましょうか」

説明を終え、一礼してルカがソファから立ち上がる。まっすぐにライキのところまで歩いて微笑みつつ手を差し出すと、少年ははにかみながら、自分から手を握ってきた。破顔して両親にうなずくと、母親が慌てて用意してあった荷物を持ってついてくる。

扉の前でライキは父親のがっしりした腕に抱きしめられ、それからまたルカのそばに戻った。
玄関から車までの短い間にも、雪がちらちらと降りかかる。子どもの髪についた結晶をはらってやりながら後部座席に並ぶ頃には、ライキはもうルカのことを完全に信用してしまったようだった。
父親に手を振り、車が走り出すなり大あくびをして青年に凭れてしまったライキ。不思議そうな顔で振り返っている助手席の母親に、ルカは笑ってみせた。

「私もテレパスとして訓練を積みましたので、こうして一緒にいれば二人分の遮蔽を下ろすことができるんです。だから、ライキ君は今、耳に聴こえる音以外は完全に静かな環境にいるはず。冬至に発現したのだとすれば、数日ぶりの静寂なのかもしれません」

遮蔽領域を広げられるのは、訓練というよりもルカの元々の強度の影響が大きいが、そこまで今言う必要もない。安心した顔で眠りはじめた息子に、同じ髪色の母親はわずかに涙ぐんでうなずいた。

「この旅の間は私がこうして調整しますし、神殿につけば遮蔽システムのある部屋に入れますから、夜眠れないということはないはずです。子どもにはたっぷりの眠りと夢が必要ですからね」

膝枕にした髪を撫でてやる。
結局数日ぶりの熟睡を手にしたライキは地方神殿についても起きることはなく、母親に恐縮されながらそのままルカが抱きあげて宿泊の部屋まで連れてゆくことになった。部屋はもちろん遮蔽システムが使われており、ぐっすりと眠った少年は、食堂は遮蔽されていないからと翌朝朝食を届けたルカにとてもいい笑顔を見せたのだった。

「おはよう、ライキ君。朝ごはんを持ってきたよ」
「おはようございます、ししょー!」
「……え?」

スープと丸パンを乗せたトレイを持ったまま、一瞬ルカが固まる。目を輝かせたライキの背後から、申し訳なさそうに母親が頭をさげた。

「すみません、この子…。司祭様のようになりたいと言って、そういう目指す人のことを何と言うのかって聞かれたものですから、先生か師匠かしらと答えたらこんなことに」
「えーと…。ライキ君、あのね、師匠っていうのは技術を継承するために教える人のことで」

サイドテーブルにトレイを置いて言うと、もちろんというように少年は大きく頭ごとうなずいた。

「ししょーは、コントロールのしかたをおしえてくれるから、ししょーです! ぼく、ししょーみたいになりたいです!!」

手を握りしめ目をキラキラさせての主張に、ルカは思わず瞬きしてしまう。内心苦笑しなくもないのだが、これから訓練の日々が始まるという時に、せっかくのやる気を削いでしまうのも勿体ない。苦笑とともに、『ししょー』の呼び方が受け入れられた瞬間だった。

「あの森のむこうが領主様のお館です。……奥様はとてもお優しくて、おきれいな方でした」

人混みを避けて早朝の駅のホームから、朝陽をあびる森を母親が指さす。ルカがわずかに驚いた顔をすると、彼女は微笑んだ。

「奥様は、お館の敷地の一部を領地の子供達に開放してくださっていたんです。農繁期には、まだ小さかった私も歳の離れた姉に連れられて何度も遊びに行きました。……事故があってからは、それもなくなってしまったのですけれど」

だからこのあたりの同年代の者たちは、皆あの館のことを覚えていると思います。
お坊ちゃまも、小さなお嬢様も。皆一緒になってお庭でにぎやかに遊んだのです。まだ赤ちゃんのお嬢様は笑顔の奥様に抱っこされていて、お坊ちゃまがお花を摘んでお二人に届けて……思い出が美化されているにすぎなくても、それはそれは温かな光景でした。
お三人とも綺麗な銀髪でしたから、そのご家族は陽に映えてとても明るくて、眼を惹いて……。

事故のあと旦那様の苦境を伺って、お坊ちゃまのお世話を少しの間だけでも、とたくさんの領民が名乗り出たのです。みんな奥様に子供をみていただいた経験がありましたから、同じように子供達と一緒にいられたほうがいいのではないかと。
でも旦那様にはお会いできず、困り顔のご親戚に丁寧に辞退されてしまいました。その後すぐにお坊ちゃまは神殿に行かれてしまいましたから、私達はとても残念で。

「そうでしたか……」

緑がかった髪の青年が、呟くように言った。
列車で移動しながら、車窓を眺めて楽しんだり、これから行く所はどんな所なのか、どんな人達がいるのか等と元気に質問するライキの話題にまぎれて、切れ切れに聞いた話。今のルカならば、なぜ親戚たちが他の子供達に接触させなかったのかがわかる。

危険、だったのだ。
もしも幼いアルディアスのサイキックが暴走した時、抑えられる者がいなかったのだろう。今ライキの遠耳をルカが遮蔽しているようには。

「……」

触れていると治る、そう信じているライキのために、ルカはなるべく身体接触を密にするようにしている。数日分の睡眠を取り返すかのようにまた膝枕で眠ってしまった栗毛を撫でながら、ルカは考えずにはいられなかった。
もしその時、大人の自分がそばにいたなら、アルディアスを子供達の輪に戻すことができただろうか、と。
答えはすぐに出た。

(……否、だ。アルの能力はテレパスだけじゃない。遮蔽だけならどうにか下ろせても、その他のフォローはできない)

訓練所を半壊させたのが力の暴走であったという秘密を、ルカは本人から聞いて知っている。それほど巨大で不安定な力、大神官か高位の神官数人がかりで押さえ込むしか方法はないだろう。事実、その後のアルディアスの訓練には、しばらくの間当時の大神官その人が付き添ったと言われている。

強い力には、相応の対価が発生する。
一度すべてを喪ったアルディアスのように、口で喋ることも捨てかけていたルカのように。まるで、そうして血を吐く思いでコントロールを身に着けねば、人が羨む能力を使いこなすことはできないのだと言わんばかりに。

今自分の膝で寝息をたてているこの少年も、この数日だけでも嫌な思いをしただろう。そしてこれからも、家族と離れて訓練を受けなくてはならないし、聞こえなくていい声が聞こえて苦しむこともあるだろう。
それでも、「強い力を持った自分」を、ありのままに認められる日がくるといい。負い目にするのでもなく、拠り所にするのでもなく。走るのが早い子がいるように、勉強の得意な子がいるように、それは花の色や形が違うと同じ、大事な個性のひとつなのだと。









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◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第二部【陽の雫】目次


おおお、更新に一か月かかってない!(マテ
と自分で喜んでしまうくらいには更新頻度が…なので、ががががんばりたいと思いますすすす (泳ぎ目

ご感想ありがとうございます!
頂けると嬉しくなって踊りながら一生懸命書きますw


 ☆ゲリラ開催☆ 7/28~8/3 REF & water of love 一斉ヒーリング

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Comment

大きな力には 

大きな力には大きな責任(対価)が伴う。
なんか前にもそういうコメントをしたことがある気がしますが、やはり、そこは、それが真理なのでしょうね…。
ああでもすごくほっこりしました。
がんばれライキ君。
  • posted by evah 
  • URL 
  • 2014.08/01 18:39分 
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Re: 【陽の雫106】 白のぬくもり 2 

ものがたりの更新ありがとうございます。
ライキ君、すてきな「ししょー」に出逢えてよかったですね!

最後の所、なんだか心にじんわりとしみ込んできました。
  • posted by あんず 
  • URL 
  • 2014.08/01 23:20分 
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わー!!楽しみにしていた続きのお話が読めて嬉しいです!!
  • posted by ゆに 
  • URL 
  • 2014.08/02 08:52分 
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Re: 【陽の雫106】 白のぬくもり  

おはようございます。

物語の更新を、有り難うございます。

第二部の1話めからを、少しずつ、少しずつ…、結果、夢中になって引き込まれてまとめて読ませていただいております。
とても楽しく拝読しております。
これからも更新、楽しみにしています^^
  • posted by 高橋 
  • URL 
  • 2014.08/02 10:28分 
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Re: 【陽の雫106】 白のぬくもり 2 

会って間もなくライキ君の憧れの人となった、ルカさんのたたずまいを想像しました。
白い刺繍の入った神官服、かっこいいですね。
アルディアスさんとはまた違った、ルカさんの魅力を感じました。
物語の更新、のんびりと楽しみにしています。1話のボリュームが毎回たっぷりで、ほくほくしながら読んでおります。
  • posted by あおいそら 
  • URL 
  • 2014.08/04 06:45分 
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Re: 【陽の雫106】 白のぬくもり 2 

切なくて苦しくて、でも希望と優しさに包まれるストーリーですね。
じんわり、心に沁みてきます。
続きを楽しみにしております^^☆

まきどす
  • posted by unknown 
  • URL 
  • 2014.08/04 13:48分 
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Re: 【陽の雫106】 白のぬくもり 2 

こんにちは。ブログ引っ越してハンドルネーム変えました。

力が強すぎて爆走してしまうのを止められなくて、自分の力を封印してしまったような、妄想がありましたので、
何だか泣けました。

というか、さつきのひかりさんの物語は、心をわしずかみにされます。

これからもずっと楽しみにしています^^



  • posted by Aiona 
  • URL 
  • 2014.08/07 17:55分 
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おへんじ 

>evahさん
そうなんです。たぶんそれが、「等価交換」なのだろうと思うのですが
その支払について「努力を努力と思わないで続けられる」という才能がある人を、天才、と呼ぶのかもしれないなぁと思ったりします。



>あんずさん
お気に召してよかったです~♪
ライキ君かわいいですよ~w なんていうか小動物なかわいさですよねww



>ゆにさん
わー!! 楽しんでくださってありがとうございます!!^^



>高橋さん
1話目からどうもありがとうございます!!
楽しんでいただけて、本当にうれしいです。更新が遅くて恐縮ですが、これからもじわじわと書き進めてゆく所存ですので
どうぞ末永くよろしくお願いいたします♪



>あおいそらさん
うふふ、実は1話ごとのボリュームが、ほぼ400字詰め原稿用紙で10枚以上の区切りになっておりましてw
更新が遅くて申し訳ないのですが、ほんの数行とかで1話終わって毎日更新とかっていうのが私が耐えられないタイプなので 爆
ある程度まとまったボリュームでお届けしたいなあと思っております♪



>まきどすさん
ありがとうございます~♪
ちょっとお話の構造が入り組んでしまったかなと心配していたのですが、受け取っていただけて安心しました^^



>Aionaさん
ありがとうございます♪
「自分自身を乗りこなす」ことは、きっと誰ものテーマなのでしょうね。。
楽しく波に乗ってゆけたらいいですね^^

  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2014.08/11 13:52分 
  • [編集]
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Re: 【陽の雫106】 白のぬくもり 2 

おはようございます。

あまり眠れない日、落ち着きたい日、気づくとこの頃はさつきのさんのお話ばかりを読んで こころを温められています。
リフィアさんとアルディさんのやりとりもとてもいとおしいのですが、その周りの皆さんのお話しにも引き込まれて読んでいます。

美しい、温かい言葉の世界だと感じています。
これからも楽しみにしております。


岩手県盛岡市
高橋より。
  • posted by 高橋 
  • URL 
  • 2014.08/28 05:02分 
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Re: 【陽の雫106】 白のぬくもり 2 

小さい子供を持つ親として
ライキ君がすんなりルカさんの手をつなぐことに
巣立ちの喜びと切なさを感じてしまいました〜
この物語の出会いのお話はいつもいい出会いばかりで癒されます
現実もこうあればいいなぁ
  • posted by ゆえつん 
  • URL 
  • 2014.12/24 05:34分 
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