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【ものがたり】 森のサーカス

夏の宵闇がせまり、あちこちの窓に明かりが灯る頃。
涼をよぶ風に誘われて夕闇に繰り出す人々のざわめきの中、街外れから音楽が聞こえてきた。徐々に大きく聞こえてくるどこか懐かしいそれは、顔を白く塗ったクラウン(ピエロ)のアコーディオンと赤いリボンのフィドルだ。

「サーカスだ!」
「サーカスが来た!」

さっそく手を振りながら駆け出すのは、外れの空き地に彼らがテントを張り始めた時から目ざとく見つけていた子供たちである。ゆっくり歩きながら曲を奏でるアコーディオンの長身は笑顔でおじぎをし、フィドル弾きの少女はひらひらした赤いスカートの裾をひるがえしてくるりと回転してみせた。

村を一周する彼らについて歩いてゆくと、森の手前の広場に設営された大きなテントと舞台が目に入った。
すでに準備していた楽団に二人が歩きながら加わると、音楽は生命を得たように集まった村人を取り囲み包みこんで、日常とは別の世界へのドアを開くようだ。

軽やかに踊るフィドルとアコーディオン、バグパイプのように特徴的な音は、機械仕掛けのヴァイオリンのようなハーディガーディだろう。枇杷の形の胴に弦を長く張り出し、金属的な懐かしい音を響かせるブズーキ、やわらかな音のつらなりで優しく誘うハープに、すべての底をがっちりと支えて安心感を醸し出すコントラバス。

集まった村人たちは知らずのうちに身体が揺れ、リズムを取り始める。
舞台には数人の道化師やジャグラーが現れて、いくつものボールやら何やらを器用に投げたり回したりしはじめた。

前座の拍手喝采がおさまったところで座長の挨拶が入る。集まってはちきれそうな客たちの期待のまなざしを受けて、満を持して現れたのは黄色と緑の小鳥のような華やかな衣装をまとった少女と、白いぴったりした服に少女にあわせた腰布を巻いた、細い身体にしっかりと筋肉のついた青年だ。
舞台の左右に設えられた高い塔の上で手を振る二人に、大きな拍手がわきおこった。

華の空中ブランコ。
目をきらきらした子供たちを先頭に、観客たちが食い入るように見つめる中、彼女たちは軽々と鳥のように舞う。

出し物にあわせてリズム良い演奏が続く中、突如音楽の主導権が中央のハープに渡された。大きな三角帽子に濃いグレーのローブ。魔法使いの指は軽やかに弦の上を踊り、とびだしたメロディはさながら呪文のように、すべての楽器と人間たちをサーカスの魔法にかけてゆく。

長い棒を手に目もくらむ高さを渡る高綱渡りに、百発百中のナイフ投げ。団員たちの渾身の演目が続き、魔法にかけられた時の流れは誰にも意識されなくなった。いつのまにかテントの外は雨が降っていたけれど、ハラハラドキドキのステージに目を奪われて、誰も外の雨音には気づかないようだ。

そんな中、森のほとりには大きなテントに隠れるように、もうひとつ小さなテントも設営されていた。入口出口は深く隠され、ゆったり広がる大テントの裾とほとんど見分けがつかないような造りだ。
入口ちかくには仮面で顔を隠した小姓が居て、客の入れ替わりを管理している。前の者が出口から完全に去ったのを確認してから、新しい客を入口専用の場所から入れる仕組みのようだった。
小姓がそっと垂れ幕を指先でひきあげると、濃い香のかおりとともにしわがれた声が客を迎えた。

「さて、今日は何を占おうかね」

それは、旅のサーカス団とともに移動している占い師のテントだった。
夫が、妻が、子供たちが派手な興業に夢中になっているうちに、そっと訪れて人には言えぬ相談ができる場所。もしかすれば二度と会わぬかもしれない旅の占い師に対して、人々の心はやすく口はいつもより軽くなる。
普段は漏らせぬ姑への愚痴やら、子供の心配やら、配偶者の悩みやら、さまざまな相談事が途切れることなく持ち込まれる。
狭い村のこと、それも引越しなどもそうそうできぬとなれば、ちょっとしたことでも口を閉ざさねばならぬ案件は多い。
ただ吐き出すだけでも楽になるのだろう、出口を後に大テントに潜り込む人々の表情は明るかった。

気がつけば雨もあがり、北の地でサーカス団に加わったというパイプ吹きが、しきりに赤いドレスのフィドル少女に秋波を送りつつ演奏をしている。
その視線すらも演出であるのだろう、客席に座る人々は時に緊迫して手に汗握り、時に笑いあふれて左右の客と笑顔をかわしあった。


最後の出し物は猛獣使いの火の輪くぐり。
大きな火の輪が、テントから出た森のほとりの広場に準備されていた。

司会のアナウンスに従ってテントから出た人々が、しっとりした夜風にほっと息をつき、次の瞬間に燃え上がる輪を見つけて目を見開く。雨上がりの清冽な草のにおいが甘く立ちのぼっていた。

天上にはこれも大きな月。
さえざえと輝く月が、放浪の部族たるロマ達の命がけの技を見つめている。
定住者にはない自由をもち、風の吹くまま移動する根無し草の彼らを、土地に縛られる者たちは好奇と崇敬と羨望と嫉妬の混ざった目でみつめ、感心し拍手し、あるいは石を投げるのだ。
その石は動けぬ自らを呪っているに違いなく、「なれば天上高く投げ上げるがいい、そは汝の上にこそ返ろう。」ロマ達はただ人知れず呟いてその場をやりすごし、そっと離れてゆく。

命をかけて日々生きている。石もて追われる理由などない。

誇り高いロマの気概は、それこそがさらに定住者の嫉妬を呼ぶのだろうけれど。それゆえに磨かれ抜いた技はどれも満天の星のごとく煌めき、客たちの目を惹きつけてやまぬ。

燃え上がる地の火の輪、用意された舞台のように森の端にかかる大きな満月。
天の輪と地の輪、天の星々と地の星々。放つきらめきはどちらも強い。

楽団の演奏が場を盛り上げる中、猛獣使いの少女が自分の何倍もある肉食獣にまたがって火の輪を見据えた時、客席に用意された場所を占めた人々は息を呑んだ。
たいして防護になりそうもない、ひらひらした薄い布の衣装。くぐり損ねれば火傷や怪我をする。獣の統御が外れれば喰われる。ほんの一瞬のことに違いない。
それでも銀色の衣装をつけた少女はきりりと凛々しい眼差しで行く先を睨み、炎を反射して金色に輝く獣の頭をそっと撫でた。

揃えた音を強く押し出し、ぴたりと楽団の演奏が止まる。
急に満ちた静寂はかえって音楽の一部のように観客たちをとりこんで、彼らの目と耳を釘づけた。パチパチと炎が爆ぜる小さな音、周囲の誰かがゴクリと唾をのむ音まで聞こえるようだ。

行くわよ、彼女はそう呟いただろうか。
命令というのはあまりにも小さく穏やかなそれは、彼女の性質なのかもしれず、普段の信頼関係の現れであるのかもしれない。
金色の獣はうなずくように小さく唸って、ぐっと身体を低くした。
次の瞬間、しなやかに地を蹴って放たれた矢のように火の輪へと向かう。一片の迷いも怯えもない彼らの姿は、観客たちの視線を惹きつけたまま、その手を握りしめさせ、瞬きすらも許さない。

ターン! 

聞こえたのは猛獣が高く跳躍した足音か、奏でたのはどの楽器であったのか。
銀色の少女を乗せた金色の獣は、違うことなく一飛びで火の輪の中心を潜り抜けた。悠々と着地した彼らは、合図のようにまた始まった音楽とともに、誇らしげな表情で観客たちの前をゆっくりと周ってみせる。
ぎりぎりまで引き絞られた緊迫の一瞬と、そのすべてがゆるんだ成功の瞬間。

ほうぅっと長い息をついて次、子供たちは手が痛くなるほど打ち叩き、大人たちは少女の捧げ持つ帽子に銅貨や銀貨を投げ入れてやる。
悔しいが良い見世物だった… そう、自分達には手が届かない、あの空の月や星のような。


大団円は森のそばでのダンスパーティだ。
楽団の陽気な演奏にのって、老いも若きも男も女も、手に手をとって踊り明かす。

退屈な村の暮らしに、ロマのサーカス団は非日常を連れてくる。楽しい祭の報酬には、楽団の前に置かれた楽器の箱やテント前に立つ小姓たちの持つ帽子に、それぞれ思う額の小銭を入れるのが約束だった。
金貨など田舎では目にすることもないが、それでも銀貨はときどき混じる。

良い出し物を得たら、気持ちよく払うのが客の務め。
そうすることでより良い運を呼び込めると信じられており、そしてそれは事実なのだ。


激しい音にやさしく懐かしい響き、息を呑む出し物、普段にはない「特別」の時間、それに呼び込める運勢を連れて、夜のサーカス団は旅を続ける。
彼方に向かう風のように馬車を連ねて、東へ西へ。


彼らが今どこにいるのか、誰も知らない。
彼らが次にどこへ向かうのか、誰も知らない。


風の吹くまま、ロマの月の指し示すままに。







------

このものがたりは、ハンドリオンの新CD、「夜のサーカス夜奏会」にインスパイアされて書いたものです。
楽しく賑やかで、どこか懐かしい旋律。
BGMは、こちらに公式で大好きな曲「ジョングルール・ダンス」がアップされておりますので、ぜひ聴きながらお読みくださいませ♪
ものがたり内のあそこだ、ってわかると思いますww


http://youtu.be/J3hSVH8apy4

「ロマの月」というタイトルの曲もあるんですよ。
リンクをどっちにするかものすごーく悩んだのですが、、、でも「シシリアン・ワルツ」も捨てがたい…(悩

ちなみに、まだ外伝でしか出てきてなくて、いつかちゃんと書きたいと思っているロマの占い師、セスの物語のBGMは
脳内ではハンドリオンになっていることが多いです。だってぴったりなんだもんww
ノリが良くて好きなので今も脳内でリピートしておりますが、いやいや私の脳みそよ、眼前に迫ったハープ教室の前回録音音源をリピートして練習しないとまずいだろよ…(滝汗

CDはこちら。



ハンドリオンは6月からバンド活動を休止されるのですが、その直前ライブが予定されています。
お近くの方はチャンス!

★★★
5月25日(日)
18:30 Open 19:30 Start  チャージ料金 2700円 (+1オーダー要)

西荻窪 「音や金時」 http://www2.u-netsurf.ne.jp/~otokin/
杉並区西荻北2-2-14 喜志コーポB1 JR西荻窪駅北口 徒歩2分

・予約等は必要ありません  また開演後も入場出来ます

お問い合わせ TEL: 03-5382-2020 音や金時
★★★

その他ライブなど詳しいご案内はこちら→ http://blog.goo.ne.jp/e-bunting


■ものがたり作品 もくじ

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ロマのことが知りたくなりました。
彼らは自然と共存していてのびのびしつつも、仲間を敬いながら生活しているようなイメージです。
  • posted by ごちぃ 
  • URL 
  • 2014.05/18 14:17分 
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  • [Res]

 

定住する者にしかない安息もあれば、危険や守らなければならないもの、重圧がたくさんあって。ロマにしかない自由もあれば、明日寝る場所の確保やその地へ住む人達への細心の配慮もしなくてはいけない。どちらの生活も不安があればいいこともたくさんあるんだな、と思います。どちらがすごい、ではなく、どちらもすごいし覚悟が要るのだと感じました。
でもやはり、どんな生き方を選んだとしても違いを尊重して生活したいですね。

ちょっと個人的にタイムリー……と言いますか、たくさん考えさせられました。ありがとうございます!
  • posted by 木箸 
  • URL 
  • 2014.05/19 09:43分 
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  • [Res]

Re: 【ものがたり】 森のサーカス 

風のふくまま、、そんな生活に憧れます。
一期一会の切なさと深い想いが伝わります。

猛獣使いの少女は、きっとその指先から金色の獣と気持ちを伝える事が出来るんでしょうね。
かけがえのないパートナーなんだろうなぁ。。
  • posted by れおぱんち 
  • URL 
  • 2014.05/19 11:25分 
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Re: 【ものがたり】 森のサーカス 

さつきのひかりさん、いつもありがとうございます。
自分も物語の中にトリップした気分で読ませて頂きました。
ロマの生き方って私にはかなり勇気がいりそうです。
ロマのようになりたいような、なりたくないような(笑)。
猛獣使いの少女、素敵です〜。

違う生き方の村人とロマが最後にダンスパーティーで一つに
なり、村人が良い出し物を得たら気持ちよく払う(=良い運も呼び込む)
ところも好きです。
  • posted by むーみん 
  • URL 
  • 2014.05/19 14:12分 
  • [編集]
  • [Res]

 

普段はピエロ(≒クラウン、で良いのかな?)やサーカスってなんだか血の気を感じないと言うか何処かへ連れていかれそうで背筋が寒くなるくらい怖いんですけど、このお話のサーカス団は何故か怖くなかったです。
汗や埃の匂いまでむわっとくるんじゃないかってくらい肉感的でした。
異なるもの・ことが嫌なわけじゃないのに、今まで何が怖かったんだろう?


  • posted by りりか 
  • URL 
  • 2014.05/20 10:20分 
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  • [Res]

横レスですが 

わたしもクラウンが苦手です。
某ファストフード店のキャラクターも怖くて背筋がゾクゾクいたします。
  • posted by ごちぃ 
  • URL 
  • 2014.05/20 10:27分 
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  • [Res]

Re: Re: 【ものがたり】 森のサーカス 

>ごちぃさん
ロマってなにか気になりますよねw
研究書籍もいろいろ出版されていますので、よかったら探してみてください^^
クラウンの怖さわかります。顔を真っ白に塗っているからでしょうかねえ…



>木箸さん
そうですよね。どちらに歩こうとも、自由と責任は自分の足にあるのだと
それさえ忘れずにいれば大丈夫な気もしますw
可能性はいつもそばに。^^



>れおぱんちさん
ほんの一瞬輝くからこそ、人の出会いとはこんなにも愛おしい。
それをよく知っている人々なのだろうなあと思うのです。
猛獣使いの少女は、一緒に寝てそうだなあって書いてて思いました。
もふもふの毛皮…w いいなあ…♪



>むーみんさん
いつもありがとうございます♪♪ お菓子もたいへん美味しゅうございました!!
ロマって、覚悟がないとなれないのでしょうけれども
その分の輝きはきちんとあって、憧れる星の光のようなものでもあるのだろうなあ、と。
どちらがいいというものではないですし、最後の大団円は私も書いてて楽しかったです♪



>りりかさん
冷たい感じは、クラウンが顔を真っ白に塗るからでしょうかねえ?
通常の人間ではない「道化」という役割(王様をも辛口にからかうことができる存在)からきているらしいですが。
出し物に関しては、人間たちが修練を積み重ねてこそだと思いますが
やってることだけ見ていると、ものすごく人間離れはしてますもんね…w
「異世界」の感覚はわかる気がいたします。

  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2014.05/21 08:23分 
  • [編集]
  • [Res]

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