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【陽の雫101】 祝杯

「よくやった、さあ好きなだけ喰え! おばちゃーん、とりあえず生ビール十一杯とピッチャーに水! 食券はこれから買うから!」

隊員たちがルビィを囲んで祝杯をあげたのは、おなじみ終夜営業の基地食堂である。
囮捜査のあれこれが終了し、すでにとっぷりと暮れた夜。

基地には、主に肉体労働者ご用達の食堂と、若い女性や内勤者がよく使うカフェテリアがある。それほど離れた場所にあるわけではないが、入ってみると中の雰囲気はだいぶ違った。
カフェテリアのほうは、コーヒーを頼むとソーサーに小さなクッキーが添えられていたりと、盛り付けが少し凝っていたりする。食事もできるが、メニューはパスタや軽食、スイーツが多めの構成だ。

食堂のほうは定食やどっしりしたメニューが多く、とにかく早い安い旨い多いが身上である。甘いものもあるにはあるが、「デザート」と言えるような洒落た盛りつけではなく、杏仁豆腐や饅頭のような手のかからないものが、申し訳程度に絵柄のついた皿に載って出てくる感じであった。

基地の勤務者はその時の気分によって使い分けていて、女性が食堂に来ても目立ち過ぎるというわけではないが、常連になるとなんとなく周囲に覚えられていたりする。
反対にオーディンなどは、カフェテリアに行くと何を頼んでいいかわからなくなるため、慣れた内勤者など見るとなんとなく負けた気がするとこぼしていた。

今夜は赤毛の青年が空腹のあまりぐったりし始めたので、何はともあれ近場で温かい飯をということになったのだ。夜更けの食堂は照明も落とされて薄暗いが、今回はとにかくルビィの腹を満たすのが第一だし男ばかりの祝杯ということで、気安い食堂が選択された。

基地内の施設ゆえ価格は安めに設定されているが、まだ仕事中の銀髪の隊長殿が「これで清算を」とニールスにカードを渡してくれたので、隊員たちの気は大きい。

何でも食いたいもの奢ってやるからな、という言葉に顔を輝かせたルビィが、食券発行機の前でメニューを舐めるように見て注文を決めてゆく。
ピッ、ピッ、ピッ、とその指がいくつものボタンを押し、5つめくらいから隊員たちの顔色が静かになってくる。それでももちろん彼らも腹を空かせているからそれぞれに注文し、最後にニールスが読み取り機に上司のカードをすべらせると、一呼吸おいてざらざらと食券があふれてきた。

「うわ、すげえ」

横から覗きこんでいた隊員がカウンターにそのプラスチック片の山を持って行くと、中にいた割烹着の中年女性が目を剥いた。夜のピークはもうとっくに過ぎた時間帯だから、厨房の人数も少ないのだ。
ちなみに人が多いときはセルフサービス、かなり空いていれば席まで運んでくれる方式になっているのだが、

「あんた山で食券渡されても困るんだよ! こっちだって手が余ってるわけじゃないんだからね! 当たり前だよ席なんかまで運んでられないよあんたがやんな!」

手近ないくつかの食券をカウンターの内側にざっと並べて、材料を取りに冷蔵庫に向かいながら隊員の若造をどやしつけ、次に厨房の中に向かって大声を張りあげる。

「ちょっと大量注文がきたよ! 明日の下ごしらえは後にしてこっち手伝って! オムライスとシチュー二種とパンとスープとサラダが三種、定食とりあえずABC、その後グラタン、フライにチキンソテー、白身魚の香草焼きにパスタがトマトとボンゴレ、ポークピカタにチリビーンズ、飲み物は生ビール十一丁その後甘いものつき追加注文未定!」

ピーク後には通常ありえない大量注文を見事なリズムで叫びきると、さっさといくつもの鍋をコンロにかける。驚いて駆け寄ってきたパート達によって大鍋で温められていたシチューやスープ、すぐ出せるように冷蔵庫に入っていた小鉢類があっという間にカウンターに並べられ、厨房からはいい匂いがただよい出した。

「ほれ、シチューにパンにサラダにドリンク! あと待ってる間に小鉢でも食べてて。さっさと持ってきな後がつかえてんだから!」

母親ほどの年齢のおばちゃんに叱り飛ばされた隊員が、慌てて両手に品物を持ってテーブルに向かう。他に何人も手伝いにいき、隊員たちの占める横長のテーブルにはビールと小鉢、サラダが均等に置かれ、ルビィの前にはほかほかと湯気のたつシチューとパンが供えられた。

「じゃ、作戦の成功を祝って。みんなお疲れ様、乾杯!」

ジョッキを触れあわせる間もあらばこそ。ルビィはハフハフとシチュー皿にかぶりつく勢いで食事を始め、合間にものほしげな熱いまなざしでクルトンの乗ったサラダを見つめて、あっけにとられた隊員が深皿をルビィの前に押しやると、それもものすごい勢いで食べ始めた。箸休めにとサービスされた青物の胡麻和えや胡麻豆腐も、次々と口の中に消えてゆく。

シチューとパンとサラダを平らげてやおら水のグラスを掴み一気に飲み干すまでに、ものの二、三分というところだろうか。

「ぷはぁ… オムライス、まダ?」

ルビィが呟いたのと、厨房から次できたよーという声が届くのと、ほとんど同時だった。
数人がそそくさと立って、手に手に皿を持って帰ってくる。自分達用の食事も届いたのでめいめいにフォークを使い始めたが、その視線はつい赤毛の青年の健啖ぶりにいってしまう。
結局全員と同じタイミングよりも早くオムライスも平らげたルビィは、きらきらした目で厨房のカウンターを見つめるのだった。

囮捜査で子供役を務めたくらいであるから、ルビィの体格は平均的な兵士よりかなり小さい。白兵戦ではかなり不利になるが、飛行機のコクピットは小さく軽くが重要であるから、乗り物の機械と親和性のある特殊な能力をもってパイロットを務めるのはまさに適材適所だろう。
その小柄な身体で数人分の料理をあっという間に胃袋に消してゆく食欲に、目を瞬かせた丸くした隊員達が呟く。

「…お前、けっこう食うのな…」
「どこに入ってるんだ……」
「中央、西域の基地よりご飯美味しいネ。嬉しイ」

幸せそうな笑顔で口の脇についたソースをぺろり。海藻サラダの大きなボールを抱え込み、両側にはすでに食べ終わった食器が山のように積み重なっている。
時間のかかる肉料理を待ちながらシチュー皿を眺めると、「おかわり、してイイ?」と訊いた。目を丸くしたニールスが半信半疑のような表情で立ち上がる。
もちろん一緒に券売機にいってさらに三人分ほども食券を追加してもらったルビィは、ほくほく顔で自分でカウンターに行った。

「おっ追加かい? いっぱい食べてんのはあんたなの? ちっちゃいのにね」
「うん。ここのご飯、とても美味シイ。おかわり、おねガイ」
「いい子だねー。たくさん食べて大きくなるんだよ!」

もちろんルビィはとっくに成人しているのだが、その体格と片言の喋り方から、おばちゃんにとっては子供のように見えたらしい。料理人にとって、食べっぷりのいい客は嬉しいものだ。褒められて気をよくした彼女は、さあ次はなんだとノリノリになって楽しそうに料理を続けた。

打ち上げに参加したフェロウ隊員、ルビィ含めて十二名。しかしその中にいた赤毛の青年の小柄な体躯に、少なくとも七~八人分は詰め込まれたことは、あっという間に厨房の伝説になったという。













-------

◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第二部【陽の雫】目次


ケルトの大晦日ということで、きりのいいところまでw
ルビィさんの大食いエピソードはこれからも出てくるのですが、ほんとにあの体格のどこに入ってたのかしらん。。
アルディアスより全然たくさん召し上がるのですよーw
こういうお話は楽しいからまた書きたいなあ♪


月翼DM【ものがたり】 中華茶館 ~ Alium mundum ―月のつばさ― より&展示案内
   展示第二弾のものがたりを、ひとつお先に♪ 池袋での展示にもぜひ。

 ☆ゲリラ開催☆ 10/29~11/3 星の海 ~一斉ヒーリング

 クリロズ・ハロウィン感想
 お手伝いいただいた銀月キャラの皆さまのご感想も、じわじわと出てまいりました。やっぱり皆で感想を言い合えると楽しいですね~♪ 
 まだの皆さまもぜひー^^ 今回おいでにならなかった方も、こんなイベントやってますってことでぜひw


応援ぽちありがとうございます♪→   
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Re: 【陽の雫101】 祝杯 

更新ありがとうございます。

ルビィさん食欲旺盛なんですね。
ご馳走想像しちゃいました。

私は確実に食堂向きです。
  • posted by ぽちょる 
  • URL 
  • 2013.10/31 17:12分 
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Re: 【陽の雫101】 祝杯 

ルビィさん、映画「ホビット」のホビット族と重なりましたww
空は寒いし、体力必要なんですね!きっと(笑)

また楽しいお話、期待してまーす^^
  • posted by まきどす 
  • URL 
  • 2013.11/01 14:15分 
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Re: 【陽の雫101】 祝杯 

記事upありがとうございます。
幸せなシーンをありがとうございました〜。
むーみん
  • posted by むーみん 
  • URL 
  • 2013.11/01 17:05分 
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感想 

あーお腹空いてきちゃったー!
ルビィさんの食べっぷりをみると、とくに。
  • posted by ごちぃ 
  • URL 
  • 2013.11/03 00:35分 
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  • [Res]

Re: Re: 【陽の雫101】 祝杯 

>ぽちょるさん
女子の食堂挑戦は、なかなかレアだった気がしますw
でも安くて美味しかったのです~^^


>まきどすさん
きっと機械同調とかにカロリーを消費してたのでしょうかね?w
いつもだいたい何か食べていらした印象ww


>むーみんさん
楽しいシーンは書いてても楽しくっていいです♪
シリアスシーンも書き甲斐がありますけど、またこういうの書きたいなー


>ごちぃさん
気持ちよく食べる人を見てると、お腹すきますよねw
健康なしるし♪ 笑

  • posted by さつきのひかり 
  • URL 
  • 2013.11/09 13:18分 
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Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

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ルシフェルの翼Calling You 開発者。
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