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【陽の雫 97】 囮捜査

「では、まず紹介しようか。今回手伝ってもらう、ルヴ・イース・ドロテェア少尉」
「よろしくお願いしマス」

西域訛りを残してルビィが軽く頭をさげる。
実際に間近で会ってみると、彼は女性よりももしかしたら小柄かもしれないという体格の持ち主だった。
耳の横だけ伸ばした赤い髪を三つ編みにし、顔立ちも幼げに見えるのは、大きめな朱色の瞳がいたずらっぽく輝いているからかもしれない。
所属の空戦隊、赤い翼が存続の危機にさらされているため、彼は今中央のフェロウ部隊にて、試験的登用というかたちで捜査にくわわっていた。

冬至に行われる冬祭りを二週間後にひかえた夜8時、神殿の大神官執務室。
大きな机に地図をひろげ、会議に参加しているのはアルディアス、ニールス、セラフィト、オーディン、ルビィ、デオン隊から借りたエルンスト、そして神殿側からルカ。
表向きには、混雑が予想される冬祭りの警備をフェロウ隊に手伝ってもらうための顔合わせ、という名目である。

「まず、神殿の衛士はこことこことここ… だいたいこのラインに沿って配置される。責任者はルカだ、頼むよ」
「かしこまりました」
「たいちょーさんは?」
「私は神事の最中だからね、さすがに抜けられないんだ」

隊長=大神官の構図がまだよく飲みこめていないルビィに微笑み、アルディアスは続ける。

「囮のルビィはこのあたり… オーディンとニールスは小隊を連れて目立たないようにその周囲にまぎれて。セリーは門外を。衛士は正門外では拘束力がないから」
「了解。まかしとけ」
「ルビィにも言ったけれど、私は神事の最中でどうしても抜けられない。心話はなるべく聞くようにしておくが、反応はまずできないと思ってくれ。かわりに、ルカに心話ネットワークの保持をしてもらう。彼なら神殿の敷地内でここにいる全員をサポートすることができるからね」

皆の視線が集まる中、ルカが目礼した。

(失礼いたします。テストとということで心話で話しかけさせて頂きます。はっきりと聞こえておられる方は心話でお返事とお名前を頂けますか?)
(問題なし)

ゆっくりとグリーンアメジストの視線を全員にあててゆく中、返ってくる6つの返事と名前。

(では、今のお返事が私の声を入れて7つ、正確に聞き取れた方?)

もう一度返ってくる6つの返事。
問題なさそうだねと笑う上司の肉声に、オーディンは肩をすくめた。上司殿の心話能力にも何度も驚いたものだが、やすやすと他人のサポートをする人間がもうひとり、こんなに近くにいるとは思わなかったのだ。
その声が聞こえたかのように、アルディアスは笑った。

「ルカが神殿に来てからは、私は『ヴェール中で一番声が大きい子供』の地位を何度も脅かされたんだよ。危なかった」
「何をおっしゃいます。結局敵いませんでしたよ」

ルカも笑う。あのころは、自らの声の大きさをこうして笑い話にできる日がくるとは思っていなかった。

「俺からすりゃあ二人ともすげえや。ニールスと組んで上司殿の受発信器になれるっての、あれの訓練だけは真面目にやったけど、未だによくわかってねえもん。なあニールス」
「俺はちゃんとわかってますよ、ガーフェル軍曹?」
「あ、ひでえ」
「面白い部隊デスね」

二人のやりとりに、ルビィがくすくすと笑う。
フェロウ隊はアイドル部隊やらピクニック部隊やらと陰口をたたかれることが多いが、ずいぶんと気楽な雰囲気なのらしい。
そして彼は、機械の声を聴くのは得意だったが人との心話は苦手だったから、先程ルカのサポートで皆の声がクリアに聞こえたことにも驚いていた。中央にはいろいろな人がいるものだ。

「ルビィとエルンストには一番重要な役をしてもらうからね。頼むよ」
「イエス・サー」

真面目な顔になり、二人がピッと敬礼する。隊長が頼むと言うらしいという噂も本当だったのだと思いながら。

小柄なルビィは、セラフィトが提案した通り囮捜査には適任と思われる。敬礼にうなずきながらアルディアスは考えた。
周囲から外堀を埋めるように捜査を進めてきて、後は決定的な証拠を掴むだけとなっている。しかし神殿の子供を危険にさらすわけにはいかないから、囮役に悩んでいたところだったのだ。

レモンイエローの金髪にクリソプレーズの瞳、エルンストの身長は175センチくらいだから、比較的細身で中性的な雰囲気とはいっても子供に化けるのは難しい。ゆえに、彼にはリフィアの変装をしてもらうことにしていた。
アルディアスに恨みを持つ敵方は当然、彼女のことも射程に入れているだろうからだ。神殿に来る子供達以上に、傷つけるだけでもアルディアスに確実にダメージを与えられる存在。
この緊迫した情勢では誘拐を経ずして殺害を計画されていてもおかしくはないため、通勤もほとんどアルディアスが送り迎えをしているのが現状である。

冬祭りでは、正門内に設えられた高舞台から特製の飴を撒く行事がある。締め切ることのできない、人ごみに開放された現場ゆえに、セキュリティチェックもどうしても甘くなる。
子供たちが目をきらきらさせて待っている行事だけに楽しませてやりたいし、かといって祭りの雰囲気を壊さないようにしようとすればするほど、厳戒態勢も難しい。

まして誘拐集団のことがまだ公にされていない現在では、狙われているかもしれないとは神殿側の他の神官たちに漏らすことはできなかった。
ゆえに、表向きでは混雑をきわめる祭りの警備を手伝ってもらうという程度にとどめ、衛士たちにも内緒でこっそりと囮や私服の隊員を紛れ込ませることになる。

一歩間違うと子供たちを危険にさらしかねない苦肉の策で、銀髪の男はこっそりとため息をついた。
子供でごったがえす当日は誘拐犯にとっても好機であろうし、大神官の膝元から攫おうという復讐の可能性も否定できない。
いや、アルディアスを憎む者たちの犯行であれば、あえて狙ってくるかもしれないのだ。

「子供たちは、できる限り危険にさらしたくない…。皆、頼むよ」

話し合いは隊長の祈るような言葉で幕を閉じた。


そして当日の早朝。
警備本部となった会議室にもう一度集まったメンバーの中、ルビィはなるべく幼く見えそうな私服を着ている。
エルンストは借り物のつばの広い帽子、身体のラインを隠す、ゆったりした太いニットのポンチョにストール、足首までの長いスカートに爪先が細めのブーツ。前髪で顔を隠し気味にして、化粧は口紅を薄くひいたくらいだが、挙措さえ気をつければ、普通にヒールを履いた女性に見える。
地図を広げて最終確認をしていると、儀式用の服をまとったアルディアスがドアをあけて入ってきた。

「あ、おはようござ……います」

囮役二人の挨拶がぎこちないのは、地方にいて免疫がないためだ。
もっとも中央で部隊に長くいるオーディンすら、久しぶりに眼前にした神官としてのアルディアスの姿に咄嗟に声が出ないでいたのだが。

「おはよう。今日はよろしく」

微笑んだ長身は、隊長殿というよりも大神官殿というほうがやはりふさわしい。
大祭のような化粧はしていないものの、長い銀髪に彩られた様子は透明感があって、人ならぬものに近づいている気がした。
座る時間はないようで会議机のわきに立ったアルディアスに、立ち上がったニールスがざっと流れを説明する。

「前夜のうちに、監視カメラ群の不備について神殿からアルディアス様の軍回線に緊急連絡が入っていたのは皆様ご存じと思います。打ち合わせ通り、緊急ゆえ極秘ながらも少しゆるい取扱いということで、傍受の可能性を高めました。それから囮役の二人には、超小型の発信機をつけてもらいます。二人には、ルカさんの心話サポートもずっとついている予定… でよろしいですか」
「もちろんです。私は今回神事には参加しませんので、こちらに全力を傾けさせて頂きます」

神殿内ならばかえって目立たないため、いつものように神官服を着ているルカが一礼する。

「アルディアス様、レディ・リフィアは打ち合わせの通りに」
「うん、病欠を理由にして家に居てもらっている。立ち歩かないように頼んであるから、官舎から出ないと思うよ」
「かしこまりました」

一応見張りも立ててあるし、念入りに守護の結界を張ってある官舎から一歩も出なければ、たとえアルディアスが神事から抜けられなくても彼女のことは安心である。
代わりにリフィア役のエルンストが、医師免許も持っているアルディアスに会うために、神事の終わり近くを見計らって官舎から神殿まで運転手つきの車でやってくる手筈であった。

「では、以上で流れの説明を終わります」
「よし。皆、頼りにしているよ」
「イエス・サー」

祭祀用の衣をまとった大神官に、私服の軍人達が真面目な顔で一斉に敬礼する。
うなずいたアルディアスは、心話のしるしに片手を耳に当てながらエルンストに向き直った。

(リン、いいかな?)
(もちろん。いつでも大丈夫よ。エルンストさんが、玄関へ。ね?)
(そう。彼はデオン隊だから、時間まで従兄殿の話でもしているといいよ。では、送るからよろしく)

妻に見えないキスを送り、片手をエルンストの肩にあてる。神殿から官舎まで。どちらもよく見知った場所であるし、受け取り手にリフィアが居るから、成人男性ひとりと言えどテレポートさせられない距離ではない。

「それではエルンスト、頼んだよ」
「かしこまりました」

金髪の美女が艶麗に微笑んだのち、その姿は忽然と掻き消えた。


























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◆第二部【陽の雫】目次


夏至の翌々日に冬至あたりの話ってどうなのと思いつつ、半年待つのはもっとどうなの、ということで
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Re: 【陽の雫 97】 囮捜査 

ものがたりの更新ありがとうございます。

なぜかきれいに冬至とか冬ってところをスルーして読み終わってました。最後のさつきのひかりさんの一言のところで、気づいて読み直しました。

スーパームーンさんありがとうございます。
  • posted by ぽちょる 
  • URL 
  • 2013.06/23 20:58分 
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Re: 【陽の雫 97】 囮捜査 

待ってました(^o^)

なんだか面白そうな展開☆
  • posted by ユキ印 
  • URL 
  • 2013.06/23 22:00分 
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Re: 【陽の雫 97】 囮捜査 

やっぱり物語がアップされるのは、ひっじょ~にうれしいです(〃▽〃)
つ、続きを早くお願いします(>人<)
  • posted by ももんが 
  • URL 
  • 2013.06/23 23:31分 
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Re: 【陽の雫 97】 囮捜査 

更新ありがとうございます。

どうなるんだろう。。。ドキドキです!
  • posted by あんず 
  • URL 
  • 2013.06/24 01:30分 
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Re: 【陽の雫 97】 囮捜査 

ルビィさんフェロウ部隊で本格的に始動ですね♪
『囮』とは怖いですが、ご活躍のお話を楽しみにしてます☆
物語り、アップされるのを楽しみにお待ちしておりますので、季節関係なくアップされてくださいませ~(^0^)
  • posted by あゆこ 
  • URL 
  • 2013.06/24 11:54分 
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Re: 【陽の雫 97】 囮捜査 

さつきのひかりさん、物語UPありがとうごいます。
この間安心した所なのに、またまたドキドキの
展開。も〜続きが気になって気になって(笑)。
楽しみにしています。
  • posted by むーみん 
  • URL 
  • 2013.06/24 12:12分 
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わーい!
スーパームーン様々!!

やっぱり読んでて楽しいです。
リアルさもたまりません♪
そしていつもこれがフィクションじゃなかったらたまらんわい(´д`|||)
こんな体験絶対無理!!!
と思ってしまいます。

ハッピーエンドでありますように。
あとやなヤツが自分の欠片でありませんようにっていつも思っちゃいます。
物語の空気と華麗な日本語が大好きです。

頑張らないで下さい。御自愛下さい!
でも続きよみたいでーす♪うふ~♪
  • posted by ゆえつん 
  • URL 
  • 2013.06/27 23:52分 
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さつきのひかり

Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

エンジェルリンクファシリテーター、
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ルシフェルの翼Calling You 開発者。
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