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【陽の雫 91】 水と宿と緑

中央大神殿の大神官執務室の窓からは、中庭の緑がよく見える。
ななめに射す秋の木漏れ日が落ち着いた色のカーペットにちらちらと踊る中、アルディアスは大きめのプロジェクタに画像を出してじっと見つめていた。

一面の星の大海。
中央やや下、緑の丸印で囲まれている惑星が、彼の住むヴェールだ。

右上の黄色の丸印はサライ。
左上の水色の丸印はアキュームという。

現在、この三星の勢力で星間争いをしているところだった。
サライはもっとも大きな惑星で国力もあるが、あまり手を出してこない。
片方を叩いている間にもう片方に乗っ取られたら身も蓋もないため、表向き沈黙を守って勢力のほぼ拮抗したヴェールとアキュームの争いを傍観し、あわよくば漁夫の利を手に入れようと牙を研いでいる、というのが妥当なところだろう。

アキュームは、はるか昔はゆたかな水の星であったという。
けれども度重なる戦争で水は汚染され、今は無機質な機械類がその土地を埋めていると聞く。
人々は使い尽くされた星からの脱出を試み、そのために、一度大きく荒廃したとはいえまだ色濃く残っているヴェールの緑を狙っている。
星の名も、今は「無機質な」を意味する他の単語が一般的に使われているはずだ。

(アキューム…)

しかしアルディアスは、昔の面影を残す名のほうが好きだった。
執務机に両肘をつき、顎の前で指を組んでじっと見つめる先には、一見して灰色に見える衛星画像が映っている。

かつての水の星には、ヴェール星と似た大神官の制度があるはずだった。
アルディアス自身も書物で知っているだけの、遠い昔にまだ国交があったころの記録だから、今はどうなっているかわからない。

しかし生命としての星の要とリンクする大神官がいるのなら、宇宙からも煤けた灰色に埋もれて見えてしまう現状をどう見ているのだろう?
国政に口を挟むことはないにしても、さぞ胸が痛むだろうとアルディアスは思う。
鉄とコンクリートに埋もれた大地の嘆きを、星と繋がる大神官はじかに感じていることだろうから。

しばらく灰色の惑星を注視した後、アルディアスは上着のポケットから小さなチップを出して机上の端末にセットした。
少し前の出張でデオンから直接貰ったものだ。軍の執務室では誰が回線を覗いているかわからないため、こちらで見ることにした。
何重にも守られた中央大神殿の大神官室にハッキングを仕掛けられる者はいない。

出てきた報告書を読み進むうちに、表情がだんだんと険しくなる。軍で内容を見なかったのはやはり正解だった。
眉根を寄せて溜息をついたところへ、軽くノックがあって薬草茶の盆を手にしたルカが姿を現した。

「お疲れ様です」
「ありがとう。……君も見ていって、ルカ」
「僕が?」

驚いた顔の親友にうなずき、手元のパネルを操作する。
すると執務机の上に立体ホログラムが展開し、軍名簿から人物相関図がざっと立ち上がった。

「これは……」

顔写真と簡単な略歴のついたそれを目で追う青年の眉がしかめられる。淹れてくれた爽やかな香りの茶を飲んで一息つき、空間に投げるようにアルディアスは呟いた。

「見ての通り、軍部とサライの癒着表」
「こんなものを、誰が……。作成主は無事なんですか?」

思わずそう訊いたのは、表の中心にあるのが、おそらくヴェールでは知らぬ者とてない大将の位にある顔だからだった。
荒削りとはいえそこから蔓のように伸びる相関表を作り上げた人物の手腕もものすごいが、嗅ぎつけられたら狙われるに違いない。

「デオン・グラッシェアンス大尉、リフィアの従兄でね。先日の誘拐事件の表だった指揮を執った人物だよ。もちろん軍には関係のない犯罪者達の事件として報告書はあげているけれども、その流れで出てきたものが多かったんだろうね」
「レディのご親戚なのですか」
「うん。もともと人脈も広いから、うまく紛れさせたのだろう」
「ははあ…」

ルカは細縁の眼鏡をはずし、目を揉むようにしてからまた眼鏡を戻して表を見やった。溜息とともに一巡してから、グリーンアメジストの瞳を友に戻す。

「で、なぜ僕にこれを?」
「親友だから」

答えたアルディアスの蒼い瞳は、まっすぐにルカを見ている。冗談で即答したわけではないようだった。

「軍部には見せておける者がいない。ニールスやオーディン……セラフィトですら、今はまだ駄目だな。ここの」

長い指が中央の人物と、そこから繋がる一党を指し示す。

「彼らはヴェールの情報をサライに売って、ヴェールとアキュームが相討ちになった後、サライに官職を得ようとしている。彼らにとって、最も邪魔な相手はどんな人間だと思う」
「……相討ちを回避して講和したり、どちらかが勝ち過ぎたら目論見が潰れてしまいますからね。だから目障りだとすれば、力があってヴェール思いの人物でしょう。それも最悪なのは、軍才とカリスマ性があり、民衆の信頼を勝ち得て、彼らを支え導くことができるような英雄……」

そこまで言って、はっとして銀髪の友を見やる。アルディアスは苦い笑みをうかべた。

「大神官という地位にある私は、民衆を導くシステムとパイプもすでに持っているというわけだ。自分に軍才やカリスマ性があると自惚れているわけではないけれど、神官で軍人である私は、彼らにとって常に潜在的な敵なんだよ」
「そんな……」

ルカが絶句する。
この国の中枢を巻き込んだ癒着の大きさと、彼らに愛国心はないのかという思い、それに、そんな規模で親友は命を狙われてしまうのかという、ある種の絶望のようなものが彼の心を急速に冷やしていた。
翳るグリーンアメジストの瞳を申し訳なさそうに覗き込んだ後、アルディアスは声を改めた。

「……このチップは、封印のかかるこの引き出しに入れておくから。ルカ、君だけに解けるようにしておくから、もしも私が死んだらセラフィトに渡しておくれ。極秘だと言えば了解するだろう」

リフィアにも見せられないからね。落ち着いた声に、かえってルカの瞳は凍りつく。

「……。嫌、だ」
「うん」
「次代の話も……、いやだ」
「うん…」
「僕より年上と言ったって、たった2歳じゃないか。アルがよぼよぼのお爺さんになったら、聞いてあげる」

昔日を想わせる顔つきで言い募る朋友に、銀髪の男がふふっと微笑んだ。

「そうしたら君も立派なお爺さんだよ?」
「いいよ。その時までアルが元気でいたら、その後なら、次代を継いであげてもいい」
「期待してるよ」

やわらかく言いながらホログラムを消して、小さなチップを大神官執務机の引き出しにしまう。元の明るさになった部屋でひとつ大きな伸びをすると、その背後にルカが歩み寄って肩に手を置いた。秘書の声になって言う。

「やっぱり。すごく凝ってます。治療院へどうぞ」
「や、あの…」
「書類決裁は終わってますね? こんなにがちがちではろくな考えが浮かばないですよ。アルディアス様がミスをなさると、後で私やニールスさんが大変なんですから。ほら、さっさと支度してください。今は空きのはずですが、ガードルームの予約を確認します」

上司に荷物の整理を始めさせて、ルカは携帯用の端末を操作した。神殿ではあまり電子機器は使われないが、忙しいアルディアスの秘書には必携である。
彼は手早く神殿治療院の受付を呼び出すと、強力サイキック用のガードルームを押さえた。

兼職しているアルディアスは基本的にいつも忙しいのだが、軍側の認識では、神殿に行っているときは「休み」ととられているようなのがルカとしては面白くない。
軍側秘書のニールスの責任ではないとわかっているが、時々噛みつきたくなることさえある。
軍仕事の公休日に神殿に来て仕事をこなしているのだから、暇がとれる時にはせめて少しでも疲労回復して帰ってもらわなければ、レディ・リフィアに申し訳がたたないとルカは思うのだった。


サイキック能力の強い者は、概してその力をコントロールするためのエネルギーも必要になる。だから慢性的に疲れている場合が多いのだが、特にテレパスはリラックス状態で接触すると相手の思考が読みやすくなってしまうこともあり、なかなかマッサージ等を受けるのが難しい。
サイキック訓練施設を併設している神殿の治療院では、そういった「癒されるべきであるのになかなかその機会がない者」を対象にした特別な部屋がいくつかあった。

壁面、床、天井のすべてを強固な結界で覆ったその部屋は、インテリアは普通のゆったりした雰囲気になっているが壁内部の構造は軍の水晶の間と似て、誰の思考も漏れないように設計されている。
セラピストも、自身がテレパスで「耳を閉ざす・聞き取らせない」訓練をしっかりしていたり、天然の心理遮蔽を備えている、クライアントがサイキック・エマージェンシーに陥った場合にもある程度対応できるなど、それぞれ得意とする治療の技術はもちろん、いくつかの条件を満たして試験に合格した者が有資格者として登録されていた。

強力なテレパスであり、第一級のセラピストであるルカも、数年ごとの更新をクリアして資格を保持している。時間がある時には治療師としても活躍している彼は、そちらの研鑽もきっちりと続けていた。

「ああ… 可哀想ですねえ…。内臓が」

リクライニングチェアに座った人の足裏を押しながら、お決まりの台詞をルカが呟く。可哀想なのは内臓であって、けして本人に向けられていないところがミソだ。つまり痛い。
絶妙の力加減できつい時とリラックス用と使い分けるルカだが、溜まっている老廃物を流すにはそれなりの力を入れるから、痛気持ちいいか本格的に痛いかの違いで、基本的に痛みがないわけではない。

「すまないねえ」

だからアルディアスの苦笑はポーカーフェイスの上に載っている。元々あまり顔に出ないタイプだが、人によってはじたばたしているのも知っていた。

「ほら、ここです。腎臓。可哀想に…」

眼鏡を光らせたルカに反射区をぐりっと指の関節で押されると、額にじわりと汗が浮いてくる。

「…まったく、何だってあんな裏切り者たちの標的にされちゃってるんですか。危ないったらないでしょう。 …ここ、膀胱です」

ぐりっ。

「心配する方の身にもなってくださいよ。ここは神経叢… ストレス、溜まってますね」

ぐりぐりっ。
いたって冷静な顔つきでピンポイントに押してくる彼は、完全にセラピストモードである。おそらくオーディンとニールスは賛同してくれるだろうから、手前に”鬼”をつけてもいいかもしれない。

「親指は、頭です。睡眠をちゃんととってくださいね?」

ぐりぐりぐりっ。

「すいません……」

溜息と一緒に呟いて銀髪が天井を仰ぐのは、長年のつきあいで逆らっても無駄とよくわかっているからだ。それに上手なのは間違いないから、アルディアスはいつもルカの技術を手放しで絶賛している。
足裏が終わって背中のオイルマッサージに移行したときには、おかげさまで力が抜けていた。

きれいに筋肉のついた背中に施術しながら、この人が癒される日がきたらいいのにとルカは願う。

「……古語では、アキュームが水、サライは宿、でしたっけ」
「うん。ヴェールは緑、あるいは器…。違う星だけれど、同じ古語で意味が通るから、ずっと昔は仲が良かったのかもしれないね」

神話の頃のものがたりのように。

緑も器も水も宿も、どれも旅人にはなくてはならないものだ。
人がみな時の旅人であるのなら、歩くその足元をやすらぎの場所にできたら、いいのに。

幼馴染の同じ神職同士、考えていることは同じ。
言葉にする必要もなく、なんとなく沈黙の降りた部屋を、精油の香りとおだやかなせせらぎとハープ音楽のBGMが流れてゆく。

親友の労わりはてのひらの温かさを通って伝わり、いつしかアルディアスはうとうとと眠っていた。

















-------

◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第二部【陽の雫】目次


おおおお待たせいたしましたっっ。
ひっさしぶりの本編でございます (滝汗

再開編はほんのりダークルカさんの巻←
本体さんいわく、脱さわやか好青年ってことだそうですが、そうするとどえsなことn…(ry
げふんごふんw

次はもうちょっと早くお披露目できるといいなぁ。



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待ってました~(^O^) 

アルディ、お疲れさまですね…前半緊迫した感じでドキドキでした…アルディをケアできる手が周りにあってほっとしました。

更新いつも楽しみにしています♪
  • posted by 透子 
  • URL 
  • 2012.08/05 19:54分 
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お疲れ様でした。ありがとうございました。
描きたいものがあって、何回となく復習してたところの更新で、とても面白く読ませていただきました( ´ ▽ ` )

ルカさんのあしもみ(!)是非受けてみたいです。
  • posted by リュウ 
  • URL 
  • 2012.08/05 20:26分 
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Re: 【陽の雫 91】 水と宿と緑 

読んでいるだけで、イタ気持ち…イタッみたいな気持ちになりました(笑)

アルディアス様が、そんなに緊迫した状況に取り囲まれていたとは…。リフィアさんやルカさんたちがそばにいてくれて、本当によかったです。
  • posted by ももんが 
  • URL 
  • 2012.08/05 22:05分 
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Re: 【陽の雫 91】 水と宿と緑 

待っておりました!毎更新楽しく読ませていただいております。
時節柄ということもあり、谷村新司さんと加山雄三さんの声が頭の中でリピートしておりますv-8

まぶた~とじ~れば~
  • posted by unknown 
  • URL 
  • 2012.08/06 00:14分 
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Re: 【陽の雫 91】 水と宿と緑 

おおっ、銀月が更新されてるっ!
物語もいつも楽しみにしています☆
この話を読んでたら、私もリフレクソロジー受けたくなっちゃいました・・・。
アルディアスさんが真の意味で癒される日が来ますように・・・。
  • posted by evah 
  • URL 
  • 2012.08/06 10:19分 
  • [編集]
  • [Res]

Re: 【陽の雫 91】 水と宿と緑 

平和であれと願うのは、いつの時代でもどこでも同じなのですね。
平和なんて思い浮かばない時と場所があったとして、それが一番平和なのかもしれないけれど、過ちを犯した後に取り戻した平和はもっと深く何ものにも代えがたい大事なものに思えますよね。
灯ろう流しを見ながらつらつらと思いました。
アルディアス様に再会できてうれしいです。
  • posted by あおいそら 
  • URL 
  • 2012.08/06 23:16分 
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Re: 【陽の雫 91】 水と宿と緑 

お久しぶりです。

本当に読んでて思うのは毎回、毎回 壮絶な人生ですね><、
悲しく切なくなってしまいました。

大神官、軍事・・・両方 司るって事はこういう事なのか・・・な・・・?
  • posted by うずまき 
  • URL 
  • 2012.08/07 13:34分 
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  • [Res]

待ってました~♪ 

楽しみにしてたから嬉しいです
チップの中身、私も見たい!
さつきさんの文章読んでてとて
も心地良いです、早く続きみたいです。
  • posted by 藍☆ 
  • URL 
  • 2012.08/07 17:51分 
  • [編集]
  • [Res]

待ってました~o(^-^)o 

壮大なお話で読み手はとっても面白いです。が
これを思い出す作業はさらに壮絶なんだろうなぁとゾワゾワしてしまいます。
物語としては
綺麗な言葉で紡がれた優しくて強い登場人物達がいろんな思いを抱えて活躍してくれるハラハラドキドキ胸キュンなエピソードがたまらないですが
皆幸せでありますように!
楽しみに待ってまーす。
いつでも待ってます。
のんびりできた時にまたアップして下さい。
  • posted by ゆえつん 
  • URL 
  • 2012.08/11 20:10分 
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Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
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