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【陽の雫 90】 冬の手前に

シンプルなジャケットに長い銀髪の長身が、なにやら考えるふうにゆっくりと歩いている。
珍しいのはそれが基地や神殿内ではなく、ショッピングモールのそれも大型書店とは反対側の区画という点だ。
そもそもここに彼がいるという時点で、かなり稀な確率であると言わねばならない。

時移りから二週間。晩秋の陽差しはまだ暖かいものの、日ごとに朝晩は冷えるようになってきて、ショーウインドウは冬物一色だ。
眺めつつ歩いている彼は、今日は半休だった。出勤のリフィアを車で送った後神殿に行き、午後になって一人モールにやってきた。

ヴェールでは本格的な冬に入る前に、恋人や新婚の夫婦同士で健康を願い、暖かな服や小物を贈る習慣がある。
リフィアとつきあい始めた去年は、白い手編みのマフラーをもらい、彼からは黒い手袋を贈った。手首まわりに細くファーがついていて、そのすぐ上の甲のところに小さな刺繍の入っているもの。
結婚した今年にも、彼女になにか贈りたいなと彼は考えているのだった。

セーター、マフラー、コート。
暖かそうな品揃えを眺めながら、どれがいいだろうと考える。
どんなものだとリフィアは嬉しいだろう? 何が欲しいだろう?

石畳の道に似たような案じ顔が多いのは、同じく冬の贈り物を悩んでいるのだろう。
時折足を止めてはちょっと考え込んだり、店に入って手触りを確かめてみたりしながら、これという決定打もなく広いモールを四分の三周くらいしようとしたころ。

ふと目に入ったのは、落ち着いた店のショーウィンドウに飾られた男女のコート。
女性用は黒地の襟に大きな毛皮をあしらった豪華なデザインだが、隣にいくつかの生地がかけてあり、「最高品質ヤシュミナ生地入荷」「イージーオーダー デザイン数種承ります」と謳い文句がある。

あの生地か、と呟いてアルディアスは店のドアを開けた。
ヤシュミナは、ヴェールの北部山地のヤシュミナ地方に生息する山羊の毛で作られた毛織物だ。肌触りがよくて暖かく、しかも軽い高級素材である。彼自身は持っていないが、北部に異動していたころに工場を視察したことがあった。

チリリンと扉の鈴が鳴って、眼鏡をかけた上品そうな初老の紳士が「いらっしゃいませ」とやってくる。
首に細いメジャーをかけ、左手首には針山。どうやらオーナー兼職人ということらしい。
小さな店内は落ち着いた色調に整えられ、布見本の並ぶ棚の反対側には、いくつかのマネキンがコートやスーツを着て立っていた。

「ウィンドウを見たのだけれど。ヤシュミナの生地を見せてもらえますか?」
「かしこまりました」

にこやかに店主が出してきたのは、黒、ブラウン、クロムグリーンの三種類だった。最高品質と銘打つだけはあって、軽くやわらかく、見た目も上品な艶があって美しい。

「お客様がお召しになるのでしたら… 黒がお似合いかと。贈り物でございますか?」
「妻にね。 …彼女はこの緑色がいいかな。デザインの種類はどんなものが?」

店主の出してきたカタログには、たくさんのデザインが載っていた。シングルタイプ、ダブルタイプ、ケープふうの短めのもの、ロングで裾がフレアーになっているもの、等々。

ざっと見たアルディアスは、その中から一番イメージの沸いた、いわゆるプリンセスコートと呼ばれる、上半身を絞り気味にして裾にフレアーの入ったデザインを選んだ。
ボタンやファーは自由に選べるということだったので、店主と相談しながらアクセントに見せるものを除いて前立てを二重にして隠しボタンにすることや、襟と袖口に品よく黒いファーをあしらうことなどを決めてゆく。これなら手袋とも合うだろう。

次の休みに採寸に連れてくることを約束して会計と予約をすませると、彼は上機嫌でモールを後にした。



「あっ……、あらら?」

昼下がりに陽当たりのいいサンルームでいっしんに編み棒を動かしていたリフィアは、はたと手を止めて目をしばたたいた。
太めの白い毛糸はマフラーとお揃いだ。今年は早めに準備を始めて、セーターの後ろ身頃はもう完成している。前身頃を編み終わって、とじる前に後ろとあわせてみたら… 合わない。どう考えても肩の幅が前後で数センチはあっていない。

「あらら…」

呟いて首をかしげる。どこかで減らし目を間違えてしまったろうか。それとも編みなれない広大なサイズを編んでゆくうちに、ゲージがずれてしまったのだろうか。
なにしろ彼女の夫は195センチの長身なうえ、軍人であるから肩幅もあって筋肉もしっかりついている。着やせするたちのようで一見優男に見られるのだが、その身体をくるむセーターを編もうと思ったら、それはもう道のりは果てしない。

深いVネックのデザインにしようと思っていたから、途中までほどいて編み直すのも大変だ。といって増やし目でカバーするにも少し難しい。
まして仕事の合間に、夫にも見つからずに編もうというのだから時間もあまりなく、(どう辻褄を合わせようかしらね)と彼女は型紙と睨めっこをはじめた。

しばらくしてひと休みと、彼女はテーブルのお茶に手をのばす。冷めはじめたそれに口をつけてふっと微笑んだのは、先日の休みを思い出したからだった。
二人でのんびりとモールに映画など見に行った後、苦笑した夫が連れて行ってくれた服飾店。

「ほんとうは、ぎりぎりまで内緒でサプライズにしておきたかったんだけど。ちょっと仕方がないからね。生地はもう見立ててあるんだ」
「えっ? 生地?」

自分の服は支給品でほとんど足らせていた人が、いきなりなんて珍しいことを言うのかしらと、思わず聞き返してしまう。するとアルディアスはくすくすと笑いながら、「そう、生地」と言った。
「きっと君に似合うと思うんだ。好きな色だといいんだけど」と。

自分が所有することにはあまり興味がなくても、ものの良し悪しはちゃんと見分けるのだろう。出てきた高級生地にびっくりしたまま採寸されているリフィアを見つつ、にこにこと彼は言う。

「裾は少し長めがいいかな。そのほうが暖かいし、ヤシュミナならそんなに重くもないだろう」
「そうでございますね。膝下たっぷりめくらいですと、どこかへお座りになった際も余裕があって暖かいかと」

短めですと可愛らしい感じ、長めですと上品な感じになりますね、とひざまづいた店主がメジャーをあわせ、手でだいたいの位置を指してリフィアを見上げる。

「あ……ええと、じゃあ、長めで」
「かしこまりました」

初老の紳士は微笑むと、慣れた手つきで手元のクリップボードに数字を書き込んでいった。ひととおりの採寸を終え、カウンターに戻って予約票を作成する。

「当店はイージーオーダーといっても一品ずつの手作りでございますので、お届けには二か月ほどのお時間をいただきます。冬至には間に合うと思いますが」

そう付け足したのは、寒さの厳しくなる冬至までの間に贈るのが習わしだからだろう。

「ご主人のお見立て通り、きっとお似合いでございますよ」

きれいに折って小さな封筒に入れた予約票を手渡しながら、店主はにっこりとリフィアに笑いかけたのだった。

しっとりと暖かい手触りを思い出して、リフィアはうれしくなる。彼の選んでくれたクロムグリーンは大好きな色だったし、ちょうどコートももうひとつあってもいいなと思っていたところだ。
中身が何かはもう知っているけれど、それが届く日がとても楽しみだった。

「さて、それまでに私もがんばりましょう」

カップを置き肩をまわして、リフィアはまた編み物にとりかかる。せっかくだから贈り物が届く日にあわせたい。
セーターの襟元は、たっぷりとした立て襟にすることに決めた。元々がVネック用のデザインだから、胸元を重ねる感じにすれば着るのにも楽だろうし、きっと暖かいだろう。

問題は毛糸の量。
余裕をみて、その場に出ているぶんを買い占める勢いで買ってきたのだったが、増えた襟の分まではもちろん考慮していない。糸が足りますようにと祈りつつ編み針を動かしていると、外で門扉があいたことをインターホンのパネルが知らせた。
気がつけば晩秋の陽はもう落ちて、庭は暗くなっている。自動設定にしていた室内灯が部屋を照らしていた。

慌てて編み物一式を大きな紙袋にまとめ入れ、わからないようにクロゼットの夏物の奥に押し込む。
ただいまの声がして玄関の扉が開く頃には、リフィアは何事もなかったように夫を出迎えた。

「おかえりなさい、今日の会議は早く終わったのね」
「うん。残りは上官殿に押しつけてきた。暇そうにしていたから」

だって今日は家に君がいるからね。いたずらっぽく笑う人の、外気で冷えた頬にキスをする。
軍用コートの首元には贈ったマフラー。気に入ってくれていることに頬をほころばせた彼女の眼前に、ぱっといい香りの何かがさしだされた。

「きゃっ?」
「はい。もう冬になるから、この花では最後の花束なんだって」

アルディアスが持っているのは、あの青い花を使った、あのときと同じ花束だった。秋の花だから今年はもう終わりになるのだ。受けとった花束に顔をうめて、リフィアは上目使いに夫を見た。

「……だから?」
「それもあるけど……。結婚記念日が大祭では、私はいつも居られないから。だけどプロポーズした日ならだいたい居られるなって、花屋でこれを見た時思ったんだ」

だから、そっちでもいいかな?
少し申し訳なさそうに聞いてくる彼が、居てくれる日のほうが断然いいに決まっている。リフィアがうなずくと、アルディアスはほっとした顔になった。

「ありがとう。大祭から二日目の、普通の式をあげた日はどうにかして居るようにするよ。だけど長い潔斎の後だから、お祝いになにか食べに連れていったりはできないだろうから……。ごめんね」
「ううん。帰ってきてくれればいいの。……お花、ありがとう。嬉しい」
「どういたしまして」

影を重ねて、よかったと笑う。
プレゼントは贈るほうもわくわくする。喜んだり驚いたりする笑顔が見たくて。
知っていて楽しみな贈り物と、内緒の贈り物。

二人がお互いのそんな笑顔を見るのは、もう少しだけ先の未来。
























-------



◆【銀の月のものがたり】 道案内

◆第二部【陽の雫】目次


愛の日です! (どーん

読者さまから「最近寒いので、またアルディアスさんとリフィアさんのくらくらするほどうらやましくなるような話が読みたい」とのリクエストを頂きましたのでw
せっかくだからバレンタインにあわせてみました。

どうでしょう、くらくらして頂けたかな?←


そして人魚話のレイモンドも、らぶれたーのお返事を今日頂けたようです。

<Sirena - Amuleti del mare ->
http://blog.goo.ne.jp/hadaly2501/e/9ee6ea5a9f2f073c63ca02c90477120a

シシィさんからのお返事をじりじりとお待ちだった方はぜひ 笑


Happy Valentine ♪♪
今夜のヒーリングもお楽しみください♪



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Re: 【陽の雫 90】 冬の手前に 

バレンタインヒーリング(笑)に参加表明した後ページが切り替わる時、
ちょうどこちらの小説がUPされていたのでそのまま読んでしまいました。
そのタイミングの良さにびっくりしつつ、感想を書き込ませてくださいませv

バレンタインと言う愛の日に相応しい、
温かく愛情溢れるお話でこちらまで顔がにやけて(笑)しまいました。
二人のお互いへの深く温かな愛情がこちらにまでじんわりと伝わってくる感じで、
本当に心と体がほっこりと温かくなりました。
さっきまで足先冷たかったのに…!!(ホントですよ?)
もしかしてひかりさんは、小説に何か組み込んでいらっしゃるのでは???(笑)

それから、レイモンドさんもバレンタインの日にお返事を頂けたようで…。
本当に本当に良かったです!
ちゃんとどこかで絶対一緒になれるはず~!と拳を握りしめて思ってはいたのですが(笑)、
これでしっかり安心することが出来ましたv
ダブルで幸せな光景を本当にありがとうございました。

ひかりさんにも小説を読まれた皆様にも、素敵なバレンタインが訪れますように…。
心からお祈りしております!
  • posted by シトリン 
  • URL 
  • 2012.02/14 11:06分 
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Re: 【陽の雫 90】 冬の手前に 

だいぶクラクラと温まりました~♪(笑)
何ていうのでしょうか、一瞬一瞬に愛が満たされている感じ♪

シシィさんの返事も待ちわびていたので(まさかのゴメンナサイ!?とか・笑)よかったです(^^)
  • posted by ももんが 
  • URL 
  • 2012.02/14 11:20分 
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  • [Res]

素敵です~♪ 

お二人の幸せな様子に、ほっこり&クラクラ(笑)させていただきました。

きっとコートもセーターも素敵な仕上がりになるんでしょうね~!
着た姿を見てみたいです(´▽`*)

心がぽっかぽかになるお話、ありがとうございました!
  • posted by あさみ 
  • URL 
  • 2012.02/14 12:13分 
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Re: 【陽の雫 90】 冬の手前に 

もうニマニマしっぱなしですよ////
 
とても暖かな気持ちになりました♪
  • posted by tugumi 
  • URL 
  • 2012.02/14 12:29分 
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Re: 【陽の雫 90】 冬の手前に 

きゃあきゃあ♪相変わらずかわいい二人w
編みものにハマっている私なので、描写の細かさも嬉しかったです。
前見頃と後見頃でゲージがあわないとか、糸が足りるかなとかw
いいなぁいいなぁ。
  • posted by no-trump 
  • URL 
  • 2012.02/14 13:07分 
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Re: 【陽の雫 90】 冬の手前に 

バレンタインに、クラクラするお話をたっぷり楽しませていただき、ありがとうございました。
外は、生憎の天気ですが、とても暖まりました。

ヒーリングも楽しみにしています!
  • posted by nana 
  • URL 
  • 2012.02/14 14:03分 
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  • [Res]

Re: 【陽の雫 90】 冬の手前に 

ヒーリングの参加表明をしなきゃ☆と参りましたら、物語りがアップされてるでは!!
バレンタイン当日に、こんなラブラブなお話…ご馳走様です♪
充分、『くらくら』させて頂きました☆幸せな気分になりました、有難うございます!
そして、らぶれたーのお返事もあるとか!それはもう、じりじりとお待ちしておりましたよ(^0^)
なるほど“この日”に合わせてらっしゃったんですね?!
早速、行って参りま~す!と、その前に参加表明を。。。
  • posted by ゆ・あ 
  • URL 
  • 2012.02/14 14:48分 
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  • [Res]

素敵な☆ 

幸せなお話ありがとうございました☆
いいな☆☆素敵です☆☆
  • posted by RU☆ 
  • URL 
  • 2012.02/14 16:10分 
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Re: 【陽の雫 90】 冬の手前に 

ひゃ~、アチチですね!!!うらやましい!!!

この寒い季節になごみのお話をありがとうございます^^

最近、過去から一気読みでやっと追いつきました。
二人にはずっと幸せでいてほしいなあ。。と思ってます。

これからも楽しみにしていますね。
  • posted by zucacchi 
  • URL 
  • 2012.02/14 20:47分 
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Re: 【陽の雫 90】 冬の手前に 

はぅっ・・・。温まりますねぇ。ほんとに。
とてもうれしいです。ありがとうございます。

愛の日はカゼで寝込んでおりorz
それが関係あるのかないのかなんだかどーんと落ちていました。
昨日の一斉ヒーリングもなんだか申し込む気になれず、
今になってすごく後悔しています。うわーん!

さー、がんばるぞーーーーっ!
  • posted by なみち 
  • URL 
  • 2012.02/15 16:59分 
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  • [Res]

Re: 【陽の雫 90】 冬の手前に 

こんばんは!

むふふ。
らぶらぶ~♪

そして、リフィアさんへの贈り物のコート!
すっごく似合いそうですよね♪
プリンセスラインのコート♪
お色もなんていうか、エレガントな緑色でとても上品ですし。
どうしよう、ホンモノが見たいですww

リフィアさん、セーター編み、がんばってくださいね!!(ここでいう 笑)
  • posted by 月の娘 
  • URL 
  • 2012.02/17 20:08分 
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物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
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