のんびり、やさしく。

ヒーリングと物語とものつくり。

Category [銀の月のものがたり ] 記事一覧

【陽の雫113】 Trumps 6

翌朝未明。 「どうだアウル、ハンス、バディには慣れたか?」 隣のセラフィトに問われて、アウレヒト・M・ヘムクラーケ准尉は向かいの席のハンス・テレマン准尉と思わず顔を見合わせた。 昨日はバディ訓練をするとかで、昼番夜番問わず若手はみな二人一組をつくり、どこへ行くにも何をするにも一緒、すべての情報も共有することになっていた。「小便にもついてけよ」とは彼らの班長たるケントゥリア大佐の命令だ。 当然、セラフィ...

【銀月外伝】 夏至の扉

ガキン、と鍔が鳴った。 よし、と小さく呟いてからの数合。互いに走り寄って激しく打ちあったが、鍔ぜり合いになれば筋力の強さでこちらが勝つ。本体にも昔していたような日常での基礎鍛錬を課して、毎日十キロ前後は歩かせているのだ。 しかし相手はほんの瞬間力を抜いたと思うと、猫のように細い身体をしならせて一気に間合いの向こうまで飛び退った。手元から流れ去る銀髪に、オーディンの唇が短い口笛を奏でる。相手にとって不...

【陽の雫112】 Trumps 5

招かれざる客人を帰すと、アルディアスは執務室に戻り上衣を脱いで肘掛つきの椅子に深々と腰かけた。 衣を受け取ったルカがハンガーにかけ、あたたかい薬草茶を淹れてくれる。開け放った窓から冬の冷気と森の香りが流れ込んで、ふかく吸い込めば肺の奥底まで沁みてゆくようだった。 「いくさがみ、か…」 椅子を回し、夜空を見上げて誰にともなく呟く。 現状ヴェールの国教とも言うべき星の女神の信仰は、だが唯一神による厳しい一...

【陽の雫 外伝】 Crocus vernus

お腹が痛いのかと思ったのだ。 道端に変な姿勢で蹲り、地面を見つめているようだったから。 大丈夫ですかと背後から声をかけて、近づいてそっと肩を叩こうとしてわかった。その人は、長い手足を窮屈そうに折りたたみ携帯機器のカメラを構えて、足元に咲きそめた紫色のちいさな花を撮ろうとしていた。 春の女神の爪先みたいなその花は、ぬるみはじめた土を割って地面すれすれに咲く。舗装された道路の脇は広い公園になっていて、春...

【陽の雫111】 Trumps 4

「……軍に随行する神官もいるではないですか。彼らは武器に祝福してくれます。彼らがしていることを、新年式であなたが全軍の前でやってくださればいいだけでしょう」 「そうですね……確かに、神学校で学んだ後、望んで軍に随行する者もいるようです。しかし先程申しましたように、軍隊に武器に祝福することは我々の教えの範疇ではなく、彼らは神殿公式には神職にありません。彼らを軍属神官として認定しているのは、あなたがた軍で...

【陽の雫110】 Trumps 3

ライキと母親を宿舎に帰しセラフィトと別れた後、銀髪の大神官と秘書は大股に廊下を歩いていた。 「どれくらい待たせてる?」 「半刻というところでしょうか。修道院長にお願いしてありますので問題はないかと。それより、ご衣裳を控室に用意してあります」 アルディアスは自分の身体を見下ろした。少年になるべく親しみやすくするため、軍服の上着だけを簡素な神官服に替えた状態である。スラックスは濃色の特徴ないものであると...

【銀月外伝】 星明りの音色

新月の夜。 目覚めた私はそっと部屋を抜け出し、壁際に飾られた小さなハープを抱えて外に出た。長い銀髪と白くゆったりしたワンピースをひるがえし、風が運んでくるのは木々の匂い。裸足に草原が柔らかくきもちいい。 眼を上げれば、音がしそうなほどの満天の星空。 広く澄んだ湖に星影が映りこんで、上にも下にもきれいな天の川が見える。空気はキンと澄んでいるけれど、まだ寒いというほどではない。 湖畔をしばらく歩いてから、...

【陽の雫 外伝】 水晶の鈴

リン、リィン、リィィ…ン。水に波紋をひろげるように澄んだ音が響いて、ざわついていた艦内がすうっと静かになる。壁際に立ったイェルド・ソールベリ中佐は己の判断の正しかったことを確信しつつ、音の先に視線をあてた。小さなラッパを伏せたような形の鈴は、ひとりの青年の手によって静かに奏でられている。上着を脱いだ軍支給の白シャツに、ゆったりした白いマント……に見えるシーツ。流れ落ちる長い銀髪のためなのか、とてもあ...

【陽の雫109】 Trumps 2

「…ってわけで、南部のメソラ湖の近くの坊主らしいんだけど。おふくろがえらい心配してっから、俺も遊びに連れ出すくらいはしてやろうかと思ってさ。あー、名前何てったかな」 年末進行の書類を書きあげて上司に届けつつ、セラフィトは首をひねった。人の名前を覚えるのは昔から苦手だ。 アルディアスは銀髪をかきあげて旧友を見上げた。 「訓練所に入ったのはいつ?」 「おふくろが聞いた時点で二日後とかだって言ってたからな。...

【陽の雫108】 Trumps

年の暮れも押し迫った頃。 休日出勤で面倒くさげに書類仕事をしていたセラフィトの携帯機器が、無機質な音で着信を知らせた。画面表示を見れば郷里の母親からで、彼は付属のイヤフォンを耳に入れて通話ボタンを押した。 「なんだよ。俺いま仕事中なんだけど」 「久しぶりの母親にご挨拶ねえ。あなた今日は休みじゃなかったの」 「休日出勤で書類やっつけてんの。おふくろは話長えんだから、どうでもいい電話なら切るぞ」 「書類な...

【銀月外伝】 Happy Valentine

「お誕生日おめでとう、ルナ。さ、どれでも食べてみて♪」 バレンタインの日、昼休みのステーション。 満面の笑顔でそう言うと、テーブルの向かいに座った少年が嬉しいような困ったような笑顔を浮かべた。 複雑な表情だけど、頬が赤いから嫌がってるわけではないと思う、たぶん。「ありがとうございます。マリエさん……」 テーブルの上には試作品のトリュフがたくさん。それだけじゃ可哀想だからカフェの紅茶と小さなプレゼントも並...

【陽の雫107】 白のぬくもり 3

一行が中央大神殿についたのは、昼をすこし過ぎた頃だった。 ライキにとってここは、年に一度農閑期に地域の子供会でバスをしたててきて、冬祭りの飴を貰い、出店を楽しむためにやってくる場所だ。今年はさらに夏の大祭にも、アルディアスの幼馴染である大人たちと一緒に礼拝堂に入れてもらっていた。それなりに遠い場所であるから、まさかもう一度今度は訓練所の生徒となって門をくぐろうとは思ってもみない。 物珍しそうにしてい...

【銀月外伝】 hummingbird - あなたのお部屋に歌う小鳥を

β-325。ぼくが造られたのは、機械仕掛けの時計がお茶の時間を告げた木曜日でした。材料が散らばった机にお気に入りの工具を置き、片目に填めた拡大鏡をはずして、その人は言いました。「さあ、これでお前は歌えるはずだ。歌ってごらん、hummingbird」長い器用な指がぼくの喉に細い釘で打ちつけられた金色の魔法陣を撫でると、ぼくは歌いはじめました。最初にプログラムされていたのは、その人の故郷の歌でした。歌い終わるとその人...

【陽の雫106】 白のぬくもり 2

ルカが呼び鈴を押すと、開けられた扉から楽しそうな家族の空気があふれ出てきた。金色の小さな明かりがいくつも灯された室内には、終わった食事のいい匂いと、家族のあたたかさが満ちている。 「はじめまして。中央大神殿の司祭をさせていただいております、ルカ・フィテオルと申します」 寒さが入り込まないようにドアを閉めてから一礼する。不安そうな顔で挨拶を返す両親の前に立って、その少年は白い神官服を見上げていた。 「...

【陽の雫105】 白のぬくもり 1

(すみません、ホットミルクをお願いできますか) 茶碗を豪快にひっくりかえして号泣している子供を抱き上げてゆすってやりながら、ルカは目と心話で巫女に話しかけた。心得た巫女が、微笑んで一礼しそっと部屋を後にする。 書類仕事をしていた椅子を回して腰かけ、しゃっくりが止まらないらしい小さい背中をさすってやった。ルカの神官服にぎゅっと掴ってぼろぼろと涙をこぼすから肩口はぐしゃぐしゃだが、全身で自分に頼りかかる...

【陽の雫104】 セピアの仕事部屋

ちいさな卓上のランプだけが灯り、その光もうずたかく積まれた資料や書類に阻まれてドアまで届かない、うす暗い部屋。 質素だが頑丈で大きい机に向かって、ルカは背を丸めるようにして仕事を続けていた。 大神官室の隣にある、通称仕事部屋。 使い込まれた机と椅子、それに壁を埋める書棚、ガラス戸のついた腰高のキャビネット。奥には大きな窓もあるが、今は厚手のカーテンで外界からさえぎられている。 華美な装飾はないが、神殿...

【銀月外伝】 春ノ足音

春の足音を、聴いているのが好きだ。白い雪に埋もれていた透明な氷が、ぴん、とはりつめて割れてゆく。張りつめたならば割れるのだ。冬を閉ざした氷雪はやがて、春の陽のまえに溶けてゆく。陽だまりに芳しい花が咲き始める。春は花の季節だ。競い合うように甘い香りが満ちて、凍えた冬を忘れさせてゆく。翼をひろげ、氷雪を従えて翔けていた空。眼下にやわらかな緑が萌えはじめると、我は飛翔の速度をゆるめる。春というやさしき世...

【陽の雫103】 Winter songs 2

ケントゥリア家への滞在は、アルディアスにとってすばらしく魅力的な日々だった。 大神殿のホームが殺風景だというわけではない。子供たちの絵がそこかしこに飾ってあったり、壊れたおもちゃが棚の上に「入院」していたり壁に落書きが残っていたり、ホームもできるかぎりの配慮と温かさがあふれている。 それでもやはり、子だくさんの普通の家庭における雑然としたぬくもりは、その空間が完全なプライベートであるぶん濃縮している...

【陽の雫 外伝】 旅の祈り

 今日の恵み、愛情のこもった幸福… ルカは静かに筆をすべらせ、神殿の紋章を入れたカードに次々と美麗な飾り文字を書きつけてゆく。 大神殿謹製の御守をつくる作業はとても地味なものだが、緑がかった髪の青年はこの静かな時間がわりと好きであった。 盆にのせてインクを乾かした指先ほどの小さな厚紙は、そのまま大神官執務室に届けられる。そこでこの星のすべての神殿を総べる大神官その人から、きちんとエネルギーを封入される...

【陽の雫102】 Winter songs 1

「セリー、北部司教との久々の対面はどうだった?」 隊員たちを打ち上げに送り出した夜更け。報告書のチェックをしていたアルディアスは、手伝ってくれた旧友の前に、濃いコーヒーの紙コップを置いた。 礼を言って一口すすったセラフィトが、思いきり顔をしかめる。 「どうもこうも。あのじいさん、歳喰っても変わんねえなあ。いつぞやの冬祭りの仕返ししてきやがった」 「それはそれは…」 「笑いごとじゃねえぞ。夜討ち朝駆けで事...

【銀月外伝】 THE SIX ISLES - Party Party, Twin cats. -

アイレイの心は浮き立っていた。 なにしろ今日はとてもいい日だ。 オフと言ってもしがない戦闘員のことだ。普段はトレーニングと寝るくらいしかすることがないのだが、昨日のうちに琥珀の髪の司令官殿から声がかかり、まず双子の兄弟と一緒に豪華なランチをごちそうになった。 戦闘員の宿舎では想像もつかないような、華やかで繊細な見た目と味付け。食べ盛りの少年達にあわせたアラカルトで、にこにこしながら腹いっぱい食べて、...

【陽の雫101】 祝杯

「よくやった、さあ好きなだけ喰え! おばちゃーん、とりあえず生ビール十一杯とピッチャーに水! 食券はこれから買うから!」 隊員たちがルビィを囲んで祝杯をあげたのは、おなじみ終夜営業の基地食堂である。 囮捜査のあれこれが終了し、すでにとっぷりと暮れた夜。 基地には、主に肉体労働者ご用達の食堂と、若い女性や内勤者がよく使うカフェテリアがある。それほど離れた場所にあるわけではないが、入ってみると中の雰囲気...

【陽の雫100】 囮捜査4

倉庫の出入り口付近には見張りが三、四人。それに少し離れた場所に二人ほど影が見える。誘拐実行係に、連絡係や子供輸送車の運転係を兼任というところだろうか。 実行犯とおぼしき若い男がつけ髭とサングラスをむしって海に投げ捨てようとして思いとどまり、ズボンのポケットにねじ込む。波間に浮いてしまった場合を警戒してのことだろう。 男は子供たちを放り込んだ後、運転手とともに出入り口の見張りに参加していたが、最初から...

【銀月外伝】 水面(みなも)のむこう

ピリピリ、イライラ、ソワソワ。のべつまくなしに落ち着かない自分自身に落ち着かなくて苛ついて、どうしてこうなんだろうと色々考えて。満月など自分じゃどうしようもない理由もいくつか見つかったけれど、もしかして陽の気がオーバーロードしているのかもしれない、と思いついた。活動的に動き回る陽の力は、過剰になると落ち着かないことになる。炎と水、陰と陽。身の裡に内在する、相反するもののバランスをとるのが私はまだ上...

【陽の雫 99】 囮捜査 3

シエルが誘拐されそうになり、背筋を凍らせたのは黒髪の男だけではない。 冬祭りゆえに神事にかかりきりのアルディアスに代わって、神殿側の責任者を務めるルカもだった。 警備員は皆目立たぬようにインカムを装備しているが、彼はその大きな心話到達域を生かし、テレパスを開放して両用で連絡を図っている。 警備本部の部屋に残って、広げた地図を前に、遠目に見れば頭痛持ちか居眠りかとも思えるような姿勢で座っていたり(しか...

【陽の雫 98】 囮捜査 2

ざわ。 ざわ… ざわ。 精神統一をする心の隅に、かさかさと耳触りな雑音が感じられる。 広い中央神殿の敷地内はもちろん、遠くあふれてあまねく流れゆこうとする神気。その導管たる銀髪の大神官はその流れに心をひらき、中庸の眼で物事を把握している。 奥院にて祈りのささげられている黄金色の飴。これの散供を今か今かと待っている子供たちの浮き立つ心は、花咲き若木の萌え立つようでとても気持ちがいい。 雑音は、彼らを狙う毒...

【陽の雫 97】 囮捜査

「では、まず紹介しようか。今回手伝ってもらう、ルヴ・イース・ドロテェア少尉」 「よろしくお願いしマス」 西域訛りを残してルビィが軽く頭をさげる。 実際に間近で会ってみると、彼は女性よりももしかしたら小柄かもしれないという体格の持ち主だった。 耳の横だけ伸ばした赤い髪を三つ編みにし、顔立ちも幼げに見えるのは、大きめな朱色の瞳がいたずらっぽく輝いているからかもしれない。 所属の空戦隊、赤い翼が存続の危機に...

【陽の雫 96】 山麓の翳り 3

拘留されている北部基地の一室で、セラフィト・ケントゥリアはのんびりと目を覚ました。 目の前には蜂蜜色の髪をした若者。すこし呆れた顔をしているのは、セラフィトに焦りの色がまったく見えないからだろう。 「よう、ニールス。おはよう」 にやりと笑って伸びをする。 どうせこのところ激務で睡眠時間が減っていたから、ちょうどいい機会とばかりに睡眠薬と知りながら出された飲み物を飲んで、気持ちよく爆睡していた彼であった...

★桜祭り★ 【銀月外伝】 play the clown, like a clown.

さくら、さくら。桜散り敷く月の森。 一重に八重にほんのりと緑がかったもの、さまざまな群落が艶を競う。中天には大きな満月がかかり、森はしずかに桜の唄をうたっている。 ひとりででも、多くとでも。誰もが望むように過ごせるというその森は、彗星の視点からはたくさんのレイヤが芍薬の花弁のように重なって見える。 時に無邪気な、時に悲しい、それぞれの忘れられない大切ななにか。ひとつひとつの花びらに、ひとりずつの想い...

【陽の雫 95】 山麓の翳り 2

「儂は、軍を信用しておらぬ」 神殿の重鎮、老体を理由に現大神官の結婚式の取り仕切りは断ったものの事実上のNo2たる北部司教の言葉に、すでに零下となっているであろう外気のように部屋の中が凍りつく。 背筋をのばして自分よりよほど大神官らしい威厳を備える老神官をまっすぐに見つめ、ひとり静かに答えたのはアルディアスだった。 「……よく存じております」 「神官と軍職の兼務に反対なのも変わらぬ。その儂に何ぞ御用かな」...

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さつきのひかり

Author:さつきのひかり
物語を書くこと、一斉ヒーリングをすること、それに太極拳とケルトハープが趣味♪
最近はワイヤーワークにもはまり中。

エンジェルリンクファシリテーター、
レインボー・エナジー・フレイム(REF)
ルシフェルの翼開発者。
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